怪盗の思惑②
そんな話をしていると、実にやかましい声が宿屋内に響きわたった。
「たのもーッス!!!」
ババンと登場したのはリングラント貿易都市自警団、見習いのリネット。
「何コイツ」
空気の読めなさでは俺史上一、二を争うリネットの大声での登場にリグリーは眉根を寄せた。
ちなみに一位はパウム、殿堂入りはグレンだ……アイツは読めないを超越したアホだからな。
彼女や俺たちのことなどお構いなし、リネットはヅカヅカカウンターまで近寄ると俺のことを睨んできた。なんだってんだよ。
「ご宿泊の予約ですか?」
わざとらしく聞いてみせる俺に彼女は憤慨して答えた。
「寮住まいなので間に合っているっす! あと、いざとなったら牢屋もあるので雨露はしのげます!」
「発想が突飛すぎるだろ」
「それよりも! コレは何なんスか!?」
リネットが差し出したのは新聞や各種タブロイド紙だった。
「どうしたんでぇお嬢さん。占いが最下位でカッカしてんのか?」
「今日の運勢は下から二番目ッス……じゃなくて! 私が言いたいのはこの記事ッスよ!」
「何だ? 俺も全部の記事に目を通している訳じゃねぇからよ……ぬぉ!?」
「なによ、なんて書いてあるのよ」
驚愕する区長。俺とリグリーは彼の肩越しに新聞を覗いてみる。そこには――
「悪徳山賊団、壊滅させたのは怪盗ロブス!?」
まさかの記事内容に当事者である俺たちは絶句。
よくある飛ばし記事かと目を通してみると根城の規模や山賊の人数に至るまで細かい部分が合っていることにビックリする。
まるで俺とパウムの活躍部分だけがそっくりロブスに入れ替わっているような、そんな記事だった。
「どういうこった、細かい情報は伏せてたはずなのに……しかもロブスが捕まえただって?」
驚く区長。しかし一番驚いているのはリグリーだ。
「どういうことよ、記憶はしっかり改竄して州警が捕まえたって事にしたのに」
性格こそ悪いがリグリーの仕事はいつも完璧だ。
旅先でもめ事が起きたとき、この記憶改竄の魔法に何度助けられたことか……まぁそのもめ事の原因がリグリーだったりするので手放しで誉められないが。
そしてリネットはこの新聞や雑誌を握りしめて憤慨している。
「貿易都市に迷惑をかけていた山賊、本来なら州警と自警団が手を組んで壊滅させるべきだったッス! それを泥棒風情の手柄にされて……」
どうやら彼女は自分や自警団のふがいなさに怒っているようだ。
「泥棒ねぇ」
神妙にリネットは頷いた。
「義賊だろうとやっていることは盗み。悪を正すなら正々堂々、自警団に入ってやるべきッス!」
「まだ本当にロブスかどうかわからないだろ? 奇特な誰かが退治してくれたとかな」
こっちを見やる区長。勘弁してくれ
「じゃあなんスか? もしかしてパウムさんこっそり退治してくれたんですか!?」
こっそりだったらどれだけよかったか……所々真実をかする彼女の言動に俺も区長も困り顔だ。
「もしそうだとても、そうでないとしても! やっぱパウムさんに自警団に入って欲しいッス! 三食住居付き! 特別サービスで身の回りの世話は自分がやるッス!」
(洗濯物とか破きそうだよなこの子)
今までの言動を見るに洗い物系や掃除はさせない方が良いタイプだ、宿屋としての俺の直感がそう告げている。
「……そうすれば父さんも少しは楽になるッスよ」
自警団の団長である父の力になりたい、そして認められたい……気持ちは分かるけどね。
一方、リグリーはほくそ笑んだ顔で二階の方を見ていた。
「ふーん、行けばいいじゃないパウム。三食住居付きでお世話係りもセットだなんて今と変わらないでしょ」
ドアの隙間からこっちを睨むパウム。絶対出て行かん、金がある内は働かないという確固たる目つきだった。
そこでようやくリグリーに気がついたリネット。四英雄の一人がここにいて目をひんむいて驚く。
※次回は3/27の17時頃投稿します
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