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怪盗の思惑①


「おう、助かったぜウィル! 全部やっつけてくれてよぉ!」



 数日後の昼すぎ。俺が宿屋の支度をせっせとしている時にトドロキ区長が上機嫌でおとずれた。


 カウンターで作業をしている俺の前に座ると区長は何やら封筒を差し出してきた。そして外に漏れないよう声を抑えて話しかける。



「偵察だけって言っといて山賊を全部退治してくれるなんてニクイぜ、コイツは報酬だ」



 スッと手紙を出すかのように封筒を渡そうとする区長、中にはおそらくそれなりの金額が書かれている小切手でも入っているのだろう。


 俺はそれを丁重に突き返した。



「なんでぇ、いらねえのかよ」


「あぁ、降りかかった火の粉を払っただけだ。俺のスローライフを邪魔するって火の粉をな」


「仕事にしたくねえってか。硬いねぇ相変わらず」



 区長は「じゃあ売り上げに貢献するぜ」といつものレモネードを注文する。


 そしてそれを美味そうに飲み干すと満面の笑みで腹をポンと叩いた。



「五臓六腑に染みるぜ、ガハハ」



 自分の体型もネタにできるのが慕われる理由なんだろうな。憎めない性格だホント。



「のどじゃなくて腹かよ……それより区長」



 いつもだったらそのまま雑談とでも洒落込みたいけど今日は真剣な顔をせざるをえない。


 カウンターに身を乗り出しいっそう注意を払って区長に質問をする。



「で、何かわかりました? 山賊のスポンサーってやつ」



 区長は申し訳なさそうに首を振った。



「それが全然知らないみたいだな、元傭兵で言われるがまま支援を受け取って山賊ライフを満喫していたらしいぜ」


「はた迷惑な……」



 まぁ元傭兵なら雇い主が天使であろうと悪魔であろうと些細なものか。



「今、連中の頭の中をリグリーちゃんが魔法で取り調べをしているみたいだからな。嘘ついていたら多分すぐわかるぜ」



 リグリーの名前を聞いて俺は少し憂鬱になる。



「山賊の記憶操作してもらったからな、また数日はアイツのワガママを聞いてやらないといけない」



 パウムや俺が関わった痕跡を消してもらうためとはいえ……頼みごとをしたときのアイツのドヤ顔、当分忘れられないな……



「その辺あの子はプロだ、連中の記憶じゃ州警にとっ捕まったことになっているから、そっちは安心してくれていい」


「問題はスポンサーの件なんだよな。そこでだ」



 俺は区長にあることを尋ねる。



「一つ教えて欲しいことがある……盗まれた物品の中に高価な武器やらマジックアイテムやらあったかどうかだ」


「俺の記憶じゃなかったはずだが……どういうことだ?」


「最近怪盗ロブスってやつが悪徳貴族や商人から盗みを働いているんだよな」


「おう、それのせいで山賊とか野放し、こっちにしわ寄せがきちまったんだ」



 俺は区長に自分の見解を示す。



「山賊の持っていた分不相応な武器やマジックアイテム、その貴族や商人の物かもしれないって事だよ」


「おいおいウィル、マジックアイテムだぞ。だとしたら自警団に被害届を真っ先に出す………事も無いか」



 俺の気付きを察してくれたようで区長はポンとヒザを叩いた。さすがナーガ区の区長、悪事には鼻がきくようだ。


 「読めてきたぜ」と区長は唸る。



「そうさ、もしその武器やマジックアイテムが公に言えない手段で手に入れたり税金のがれで申告していない物だとしたら?」


「やましい代物は自警団には言えないだろうしな、ロブスはそういった武器やマジックアイテムを狙って盗んで山賊連中に横流しした……」



 俺は静かに頷いた。



「怪盗ロブスが山賊連中の言う「スポンサー」かもしれない、山賊の所持していた高価な武器類からその可能性が高い」


「でもよウィル、そもそもロブスになんの得があるんだ。仮にも義賊様が山賊の肩入れする理由が検討つかないぜ」



 さすがトドロキ区長、俺が目下悩んでいるところを的確に指摘してくる。



 「そこなんだよな」と俺は頭を掻いた。



「だからこそ妙に引っかかってね。裏で何か大きなことが動いている気がしてさ……杞憂だったらいいんだけど少し気に掛けておいてくれるかい」


「わかったよ、自警団の上役にも話を伝えておくぜ……しっかし宿屋の店主にしておくにゃもったいねぇな。俺が引退する時までに宿屋の後継者、育てておくんだぜ」



 さりげなく次期区長の椅子を押し付けようとしてくるトドロキ区長に俺は半眼を向ける。



「のんびりスローライフを送るため頑張っただけだっての……ん?」



 そんな会話をしているとリグリーが宿屋に顔を出してきた。山賊の記憶を操作したり色々やってくれたんだろう、露骨に疲れた顔をしていた。



「男同士で内緒話? ほら、頑張ったレディにねぎらいの言葉くらいないの」



 相変わらずの高圧的な態度にいっそ清々しさすら感じるぜ。



「ありがとうなリグリー、いつも助かるよ。ドライジンジャーエールでいいか?」


「ふ、ふん。分かっているなら、まぁいいんだけど……」



 そしてドライジンジャーエールを口にしながらリグリーは捕まった山賊らの様子を語り出した。

 ※次回は3/20の17時頃投稿します


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