深夜の山賊偵察(デート)④
俺が数々の秘伝を体得していることがバレるわけにはいかない。スローライフどころかせっかく手に入れた自分の店も手放すことになるかもしれないからだ。
「宿屋経営維持のための必要経費だとおもえばワガママの一つや二つ……」
「三つや四つは?」
「意地悪言わないでくれ」
嘆息しながら山賊を適当な縄で縛りあげている俺の背中にパウムはピタッとくっついてくる。
そしてウキウキしながら変な提案を始めてきやがった。
「門外不出だからね~もうウチの一門に入っちゃいなよ、優しく指導してあげるから。免許皆伝したら師範代として指導しながら宿屋を経営すればいいじゃない」
「師範代なんて途方もない修練積まなきゃならねーじゃねーか、俺は老後じゃなくて今のんびりしたいの」
そもそも普通の人間は師範代にもなれないんだぞ。
小一時間問い詰めたいが何もわかってなさそうな能天気なパウムに俺は嘆息するしかない。
「だいたいな、それを言ったらバルマンテ公の直属部隊に所属しなきゃならないし、レッドウット家の養子になんなきゃいけないし、極めつけはアスカ教の聖者にならなきゃいけねーんだぞ……」
「婿養子はいかんなぁ」
なぜかむくれるパウム。リグリーだぞ婿はないだろ、さすがにさ。
「まぁ、節操のない浮気者のウィルの人生はともかく」
「浮気ってなんだよまったく」
パウムはトテトテと遠くでのびている山賊の頭を引きずってくると彼の懐からマジックアイテムを引っ張り出した。
「私さ、マジックアイテムの相場はからっきしなんだけど……結構な値打ち物だよね」
俺はパウムの手の中にある「生命探索の鏡」を見て頭を掻いた。
「あぁ、一個売れば二、三年は遊んで暮らせるだろうよ」
「ひぇ~、なんで山賊がコレを?」
「スポンサーとかい言っていたよな、きな臭い。それに――」
俺は辺りで倒れている連中の手から武器を拾い上げた。
良質な武器……そこらの武器屋じゃ簡単に手に入らないような細工にもこだわった代物。マジックアイテムもいくつかあり、明らかに山賊が手にするような武器ではない。
「どちらかというと山賊より貴族が身につけるような――ッ!?」
――貴族の屋敷から色んな物が盗まれてさ、怪盗ロブスって知ってる?
トドロキ区長の言葉がふと俺の脳裏によぎった。
「ウィル、どしたの?」
「いや、何でもない。パウムは残りの山賊を倒してきてくれ。俺はコイツらを拘束した後、州警とリグリーに連絡を入れる」
「ん、わかった」
お使いに行くように剣を手にして山賊のネグラに向かうパウム……荒事だけなら何の心配もいらないからな……さて。
貴族や商人から盗みを働く義賊「怪盗ロブス」。
そして分不相応なマジックアイテムを手に悪さを働いていた山賊一味。
「連中の言うスポンサーとは……ったく」
妙な思惑が渦巻いているようで気持ち悪いったらありゃしない。俺は嘆息すると遠い目で空を仰いだ。
満天の星空がやけに輝いて見える、手の届かない星と自分の夢を重ね合わせまたまた嘆息してしまう。
「まったく、俺にスローライフをさせちゃくれないのかね」
このままじゃ流れ星に「スローライフしたい」とお願いするできるまで、ずーっと空を見ていてしまいそうだ。
そう思った俺は気持ちを切り替え山賊退治の事後処理にあたるのだった。
※次回は3/13の17時頃投稿します
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