深夜の山賊偵察(デート)③
「ウィル!?」
パウムの声と同時に放たれる矢。いい腕をしているのかマジックアイテムの性能なのか俺の額を的確に狙ってきていた。矢は俺の額に見事命中して……
――カツン
刺さることなくポトリと地面に落ちるのだった。
「ふぅ、ビックリしたぜ」
「は、はぁ!?」
動揺する山賊の隙をついてパウムが斬り伏せる。
俺はパウムに笑ってみせた。
「まぁ一番役に立つのはグレンが教えてくれたコレだけどな」
「剛体かぁ……まぁ何度も死にそうになるウィルには一番役立つかもね」
何故かむすっとするパウムは言葉を続ける。
「でも冒険者になって体捌きが安定したら絶対私の居合いが一番だって気が付くよ! 冒険者になれば分かるって!」
「なんねえっての。俺の夢は宿屋でスローライフ、冒険者じゃねえんだよ……ん? お前が饒舌になっているって事は」
「もう片づいたんじゃないかな? 誰もいないし」
「いや、あの山賊の頭がいない……あ、アイツあんなところに」
俺の指さす方、先ほど偉そうに講釈を垂れていた男がスタコラサッサと背を向けて逃げ出している姿が見えた。
「あの男、部下けしかけて一番に逃げ出したんだね」
このままじゃ山賊連中が逃げ出しちまう。
「聞きたいことが山ほどあるんだ。逃がすわけにはいかない……ぜ!」
肉眼で確認できる距離で逃亡している山賊の頭。
俺はそいつに手のひらを向け意識を集中する。
「お、例の魔法だね」
「静かにしてくれ、一般人の俺には扱いがムズいんだ」
次の瞬間、山賊の男は宙に浮きこちらに引き寄せられた。何がなんだか分からない顔の男は動揺を越えて思考を制止していた。
「よぉ」
「え? ぬがぁ!?」
すぐさまパウムが峰打ちで山賊の頭を寝かせる。
「リグリー直伝の武装刻印「サイコキネシスだっけ」? 私も教えてもらおうかな?」
「やめとけ、俺の知る限り最悪の教師だ。それに教えちゃ……っと」
慣れない魔法を使いよろめく俺をパウムが支えてくれた。
「ん~やっぱウィル君には魔法使いは向いていないようだね、ん?」
なんで上司口調なんだよ。
「そもそも戦いが向いていないんだっての。一回死んでたぞ俺」
「私が教えた門外不出の居合い剣術をもっと極めればあんな弓矢、ハエをはたくようなものだよ」
「俺は宿屋だ、ハエはたく以前に出てこないように水回りに気をつけるもんだ」
「え~せっかく教えたんだしちゃんと極めてよ~門外不出の技なんだよ」
「それを最初に言ってくれりゃ習わなかったっての……天啓も金剛もサイコキネシスもさ」
「便利だしいいじゃない」
「便利だけじゃないんだよ問題は」
俺は頭を掻いて嘆息する。
門外不出の剣術。一門にしか教えてはいけない「居合い術」
アスカ教の秘術。聖者にのみ代々受け継がれた未来を予知する力「天啓」
バルマンテ公護衛部隊にのみ伝えられる身体強化術「金剛」
そして魔術一門の貴族レッドウット家が身内にしか刻まない「武装刻印」
四英雄との旅で教わった自衛の手段。
ちょっとでも「足手まといにならなきゃいいな」なんて思って戯れ感覚で旅の合間に触りだけ修得したスキル……それが今の俺の足かせになっていた。
正直、一つ一つは彼らに遠く及ばないスキルや装備なのだが……
(修得や所持していることそのものが大問題の代物ばかりなんだよなぁ)
門外不出の居合いを俺が修得したとバレたら即パウムの剣術一門に入らなければならない。
アスカ教の秘術を俺が体得したとバレたら、最悪宗派対立の引き金になるから幽閉されるだろう。
金剛を体得しているとバレたら……バルマンテ公の使者がすっ飛んで来て監視下に置かれるはずだ。
武装刻印はなぁ、体に家宝を埋め込まれたもんだしバレたら婿養子とか言われているんだよなぁ。
「ホントにもう……俺のスローライフは薄氷の上に成り立っているのかよ」
独り言ちる俺の気など知らないでパウムはウッキウキで話しかける。
「ウィル、どーすんの? せっかくだし山賊ぶっ潰す?」
旅先で名物を追加注文するようなノリで山賊壊滅を提案するパウム。
「このままじゃ戻ってこない山賊を不審がって他の連中もくるだろうな……んもう」
こんな事になると思わなかった俺は面倒くささに思わずお母さんみたいな声を漏らした。
「リグリーにも頭下げなきゃな、山賊の記憶を消してもらわないと」
「便利だよね~あの能力」
「頼み込む代償がデカすぎるけどな、当分あいつのワガママを聞いてやらなきゃならない」
※次回は3/6の17時頃投稿します
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