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棄民の園  作者: 霧継はいいろ
黎明編
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第七話 獣の知らせ

前回 テイマーのソーンとの戦闘が終わりソーンの同行が決まりました。

予定してたタイトルから変更しました。すみません。

「静かになったね。」「ね。静かになったね。」

図書館の外縁部にある庭、その中でもソーンの研究室に近い部分に植わった広葉樹の枝に二羽の鳥が留まっている。この二羽はソーンにこのあたりの警備を任せられている。二羽はソーンの部屋に聞き耳を立てる人物がいたら、窓に飛んで行って知らせるのが二匹の仕事だ。彼らは自分たちの鳴き声が人間に聞こえぬように声を抑え、彼らの言葉で会話を続ける。

「何かあったらジーナがソーンを守るって言ってけどあの子だけで平気かな。」

しきりに部屋の窓を見つめる一羽はそわそわと脚を動かしどうにも落ち着かない様子だ。

先ほどソーンの部屋に動物たちが入った後、我先にと彼らが出ていくのを彼らは見たので中で穏やかでないのは間違いがない。しかし、外の人間の注意を引くほどの音や光がでることもなく、元々敷地が厚い壁で覆われていることもあって、アーデンとソーンの戦闘に気づいた人々がここに来ることもなかった。

不安そうな一羽の毛づくろいをしながら、もう一羽はリラックスした様子で答える。

「元々ソーンの目的は戦うことじゃないでしょ。二人が本気なら、こんなに静かにことが済んだりしないわ。それに、ジーナは私たちの中で一番硬いんだから、しっかりとソーンを守り通してくれてると思うわよ。」

二羽が窓を眺めていると、窓からソーンが顔を出し二羽に手を振る。それを見た二羽はすぐさま窓に向かって飛びこみソーンは窓を閉めた。



「話もまとまったことだし、この子達の紹介をしておきますね。」

俺がソーンが旅に同行することを承知すると窓から新しく二羽の鳥を連れてきた。一羽はインコでもう一羽はフクロウだ。ジーナと呼ばれた文鳥同様ソーンになついているらしく、二羽ともソーンの肩に乗っている。

「こっちのフクロウがヴィゾル、こっちのインコがピーターです。よろしくお願いしますね。」

紹介を受けた二羽が鳴き声を上げながらこちらを直視する。ソーンには何か聞こえているのかもしれないが、こちらからではただ鳴いているだけなのか、喋っているのか判別がつかない。普通なら動物の鳴き声の意味など深く考えないのだが、人間と意思疎通を図っているとなると話が変わってくる。

「おいソーン、こいつら今も何かいっていたりするのか。」

「ええ、ヴィゾルはよろしくと、ピーターは…まあ挨拶をしているということでいいでしょう。」

ソーンはなぜか歯切れが悪そうに話す。まさかこのインコ、口が悪かったりするのだろうか。

「確かに、彼らとあなた達が互いに意思疎通はできるようにしておいた方が何かと便利でしょうね。」

そういうと、ソーンはインコの頭と俺の額を同時に触ると、力を込める。その瞬間、頭の中に様々な話声が響き渡り、耳鳴りを起こす。俺は立っていることが出来ず、咄嗟にその場にしゃがみこむ。頭の中の喧騒が止み呼吸を整えていくと、ソーンの方から聞いたことのない少年の声が聞こえ俺は顔を上げた。するとそこには翼を羽ばたかせて得意げにしているインコの姿があった。

「ソーンに喧嘩を売ったって割には、ずいぶん無様だね、君!」

予想通りに口の悪いインコだったらしい。

「ピーター、君も初めてこれを使ったときは机の上でジタバタしていたでしょう?一時的に脳に直接音が伝わる感触なんて初めてなんですからみんなこうなるんですよ。アーデン、気分はどうですか?」

ソーンは少し心配そうに顔色をうかがう、先ほどは頭を割るような音圧と耳鳴りのせいで、病気にでもなったかのようだったが、今は大分落ち着いた。

「さすがに驚いたが、大丈夫だ。お前の能力、他人にも効果があるんだな。」

「他人同士は二人ずつ繋いでいかないといけないので効率が悪いんですがね。人間相手は初めてだったので、少し不安だったのですが、あなたの様子を見る限り大丈夫そうですね。平気ならこのままヴィゾルとジーナとも繋いでしまいますが、どうしますか?」

俺は少し考えた。正直言ってつながる際の耳鳴りは最悪だ。できれば二度と味わいたくないのだが、このままだとソーンとつながっているすべての生物と同じことをされるに違いない。

「いや、今はやめておくよ、必要になったらまた言ってくれ。」

「へっ、人間の癖に随分とチキンだね!」

引き気味の俺にインコはまたも嫌味を飛ばす。俺は人生で初めて動物に向かって話しかける。はたから見たら中々に珍妙な風景だろう。

「いいから少し黙っててくれ。」

「ダマッテテクレ( ゜д゜)!」

どうやら話すインコも声真似はするらしい。


アーデンがソーンを連れて商会に戻ると、すでにほかのメンツは集まっており、食事の準備もすでにできていた。ジャックは二人が店内に入ってくるとすでに空になったグラスを持ち上げる。

「お帰りアーデン、それと、その人、図書館司書の方じゃないか。君に友達ができたのはうれしいけど、今は貸し切りだから、またの機会にしてくれないか?」

「こいつも関係者だ。聖都まで同行することになった。ソーン、君の口から説明してもらえるか?」

アーデンはソーンの方を見るとソーンは緩やかに口角を上げ、了承する。

「もちろんです。初めまして、私はソーン・マンジュ、このフュリスで司書と研究員をやっている者です。―――。」

ソーンは身の上や同行する理由、能力について説明を行うと、改めて同行の意思を示した。

「なるほどね。今の教会のやり方には迫害以外にも高圧的な面が多いからね。彼の能力は索敵や情報伝達に向いているし、私は賛成かな。」

「二人が賛成なら私から申し上げることはありません。」

ジャックとエルンはソーンの同行に賛成の様子だ。それを聞いていたガラティアがカウンターで肘をつきながらソーンに尋ねる。

「まあ、実際に旅する連中がいいっていうなら私から言うことはないんだが、本当にいいのかい?ここでは司書は人気の役職だ。旅が長引けば司書の立場は危ういだろう。それに彼の戦闘方法、実際に戦ったアーデンはともかく、魔物のコントロールができてるかできていないかなんて、傍目から見てもわからないだろう?万が一騎士に見つかったら大変なことになるぞ。ここ最近はティージの騎士達が南下してきてるしね。」

ガラティアの最後の言葉にソーンも相槌を打つ。

「レーシン周辺の闇が強まっているという話ですね。加護の領域が狭まっていることもあって魔物の討伐に向けてティージの騎士が派遣されたという話を聞きました。」

「ああ、三日前、部下に資材をレーシンの支店に運搬させたんだが、昼でも境界面の闇が晴れないってことで引き返してきたんだ。普通、どんなに闇が濃くても、昼にはある程度晴れるんだが、外から町の様子がわからないくらいの闇に覆われてたらしくてな。そんな様子じゃ、巫女が抑えるにも限界があるってもんだ。状況が好転してないならそのままどんどん押し込まれていくだろうな。」

巫女の加護の力と闇は、例えれば膨らませた風船と気圧のような関係にある。風船内の内圧が外圧と一緒になるまで膨らみ、気圧が低いところではさらに膨らむように、加護の力と闇が釣り合った場所に境界面ができ、昼夜や巫女の調子によってその境界面が前後するのだ。しかし、風船にはもう一つの特徴がある。

「本当に押し込まれるだけで済むのか、それ。」

「まあ、割れる方が早いだろうね。それだけ闇が強ければ、それだけ強力な魔物も生まれてるだろ。」

アーデンの質問にガラティアはあっさりと答えた。強力な魔物によって境界面が割れれば街中に魔物がなだれ込むことになる。そうなればたいした防衛機構を持っていないレーシンは陥落する。

「それだけの魔物がいるなら、なおさら私の力は必要になりますよ。この旅のメンバーで、今戦えるのはアーデンとラフレシアの妹さんだけでしょう。それも多くの魔物の相手をするのに向いていない。」

ジャックとエルンは彼がエルンの能力を把握していることに目を見開いている。ジャックは何かを言おうしたが、ガラティアがそれを静止し、代わりにソーンに話しかける。

「全く、たいした情報網だな。この町で警戒しないといけないやつが一人増えたよ。ただ、さっきも言ったがこの件はティージの騎士が解決する。お前たちが首を突っ込むことでもないし、ソーンを連れて行けば遅かれ早かれ厄介事に巻き込まれるぞ。」

「厄介事に関してはないとは言い切れませんが、少なくともティージの騎士達は間に合いません。」

「ソーンさん、間に合わないってどういうことですか?」

ずっと黙っていたエルンが焦りを見せながらソーンに尋ねる。

「レーシンの巫女は私の友達なのです。彼女が危険なら私にとっては他人事じゃありません!」

「それについてはもうすぐ私の友人が報告に来てくれるはずなのですが。」

ソーンがそう答えると同時に店内にドアを叩く音が聞える。ソーンはドアに向かうと、

「私が出ます。おそらく私の友人ですから。」

といいドアを開けた。すると、一匹の白い大型犬が店内に入ってくる。大型犬はソーンに耳打ちすると、ドアの入口のところに行儀良く座った。ソーンは元の席に戻ると顎に手を当て考え込みながら席に座る。

「やはり私の思った通りでした。ティージの騎士団はレーシンの手前で魔物達による足止めを食らっています。その間に境界面がかなり押されているので、この子の目算ではあと二日と保たないそうです。」

それを聞いたノルンは息を呑んだが、ガラティアは依然懐疑的な表情を向けている。

「犬の目算にどれほどの信憑性がわからないが、騎士団が足止めを食らってるってのが妙だな。魔物を統率してるやつがいるとでも?だとしたら、そいつは魔物じゃなくて悪魔が出現してるってことだぞ。」

「あの、ガラティアさん、悪魔とはいったい…?」

「悪魔って言うのは悪意の因子の混ざった魔物の俗称だよ。一般的には認知されていないけれど、人間のような思考能力を持っていて、魔物の統率ができる。私も知識でしか知らないが、悪魔がいるってんなら事態はより深刻だ。レーシンに行くことすら了解できないぞ。」

「けど、それじゃ…。」

エルンは拳を握り閉めたままうつむいている。皆から顔は見えないがその身は小さく震えていた。アーデンはエルンの頭を軽くなでると、

「何言ってるんだ、行くに決まってるだろ。」

と当然のように言い放った。

「騎士団の連中が町に入れないなら俺達の戦いを見られることもないし、魔物の注意が北に向いてるなら、南から町に入る俺らにとっては好都合だろ。ソーンとエルンの実力はこの目で確認したし、このメンバーなら万が一のことがあってもここまで戻ってこれる。」

「アーデン、僕戦えないんだけど…」

ジャックはオロオロしながら手を上げる。弱々しいジャックの様子に、アーデンはきっぱりと告げる。

「ジャック、お前はここに残れ。」

「やっぱりかい!」

「どうせお前は増強剤の効果の確認のためにカンナスに帰るだろ。今から準備しとけ。」

アーデンはエルンに向き直ると、エルンはアーデンを見上げる。その目じりには未だ涙がたまっており、頬は微かに赤かった。アーデンはエルンの頭に添えたままの手で優しく頭をなでる。

「友達は、助けないとな。」


次回 陥落都市レーシン 


レーシンの住民を救いだすことはできるのか!?次回水曜更新!

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