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棄民の園  作者: 霧継はいいろ
闘争都市編
33/44

第二十九話 凍結の英雄

訓練場に金属音が鳴り響く。勢いよく真剣を振り下ろされる真剣をアーデンは数度剣で受ける。最後の一振りを受け流すと、相手の首元で剣をピタリと止める。


ガブリエルは降参して両手を上げるとアーデンは剣を下ろす。




「…もう一回だ」




ガブリエルが剣を鞘に戻し、居合の構えを取ると、アーデンは重心を落として足に熱を込める。アーデンはガブリエルの居合切りを足からの放熱とジャンプで避けると空中で反転して落下しながら剣を振り下ろす。ガブリエルが剣の腹で落下攻撃を受けり、体勢が固定されたところで剣を押し返す。しかし、アーデンはガブリエルに攻撃に逆らわずに、剣を自分の後ろに持ってくると、開いた左手と両足から放熱して、バク転の要領で切り上げを放つ。ガブリエルの剣は内側から攻撃を受けて宙を舞う。地面と衝突した剣は軽い金属音を立てて地面へと転がった。




アーデンは自分の剣を鞘に戻しながら転がった剣をただ眺めるガブリエルを見る。




「やる気がないなら、俺は先に失礼するが」




返事のないガブリエルを他所にアーデンはその場を去ろうとする。




「なあ、お前の仲間も行方不明なんだろ?なんでそんなに平気にしてられる」




ガブリエルの声にアーデンは足を止めて振り返る。




「そりゃあ、あいつとはそんなに長い付き合いでもないからな。心配じゃないと言えば噓になるが居なくなっただけで目の前真っ暗になるような関係じゃない」


「…あいつ一人のために騎士隊を敵に回すから、大親友かなんかだと思ってたが…。こっちと違って軽傷で済んでよかったな。こちとら、どうすりゃいいのかわかんないっていうのに」





後半部分はアーデンには聞き取れなかった。しかし、落ちた剣の前でかがむガブリエルの姿はいつもよりも小さく見える。




「隊長とは、付き合いが長かったのか?」


「俺が隊に入ったときの分隊長があの人だったんだ。俺に剣と弓を教えてくれたのもあの人だ」




ガブリエルはようやく剣を持ち上げると、軽く払って砂を落とす。左手を刀身に添えながらアーデンの方に振り向いた。




「それに、隊長が大切だったのは俺だけじゃない。”力を持って己の価値を証明しろ”、隊長の座右の銘だったこれは騎士隊全体のスローガンみたいなもので、これに答えるために隊のみんなは自分の腕を日々磨いてたし、異端だろうと優秀な奴なら隊に入れてきた」




そのガブリエルの言葉に一つの違和感を覚える。




「でもお前、闘技場で俺に対して「牢屋の中がお似合いの」とか言ってなかったか?お前も異端排斥派だと思ってたんだが」


「それで間違ってないよ。強かろうと同じ騎士隊だろうと俺は異端が嫌いだ。だが、隊長のいうことは絶対だ。逆らうなんて考える必要すらないんだよ」




「それにしては、カミリア様相手にえらく感情的になっていたように見えたが?」





二人は声の方向へ振り向く。水色と青の髪に前髪の所々に金のワンポイントが入った青年はその垂れ目を細めながらアーデンの方へと近づいてくる。ガブリエルは剣の柄に手をかざすと敵意を隠さずに青年を睨みつける。





「なんのようだフロスタリア」


「別に君には用がないんだがね。君のところの新人君、名前は、、、ア―――。…なんだったか。植物型の魔物を討伐して、あの悪魔のとどめを君からかっさらった子を探しているんだが、どこにいるか知らないかい?」




フロスタリアはアーデンの隣でガブリエルに向かって語り掛ける。ガブリエルは眼だけをアーデンに向けそれに気づいたフロスタリアがアーデンと顔を合わせる。





「成るほど!君がアーデンか!さっきの稽古を少し離れたところで見ていたが、どちらが先輩かわからないような内容だと思っていたがなるほど!今度剣の修練がしたいときは私を呼ぶといい!あのクリプトメリア隊長に師事してもらいながら、新人にぼこぼこにされるどこぞの分隊長よりも、よっぽど練習になるだろうからね!」





フロスタリアはすでに記憶していたかのようにアーデンの名を呼ぶ。つまり彼はただガブリエルを挑発するためだけにさっきから言葉を発していることになる。アーデンは饒舌にガブリエルをこき下ろすフロスタリアに、「はぁ…」とだけ返事をした。しかし、こき下ろされた本人はそうもいかなかったようですでに彼の刀身にはエネルギーの蓄積を示す光が発せられている。




「黙っていれば、ペラペラと…」




ガブリエルは剣を振りぬくとフロスタリアに向かって切りかかる。




「―抜刀」




フロスタリアは自身の剣を引き抜く。




「―エネルギー、凍結Gel énergétique」




フロスタリアの一閃で、彼の周辺の地面に灰色がかった円形のフィールドとヒビが入った歯車のシルエットが現れる。


ガブリエルが領域内に踏み込むと、急激にスピードが落ちていき1mほど進んだところでピタリと止まった。


フロスタリアが剣を納めると地面の模様が消えてガブリエルの拘束が解除される。




「じゃあアーデン君は借りていくから、そういうことで」




フロスタリアはアーデンの肩を叩きながら訓練場を出ていく。ガブリエルは「ふん」とため息をつくと、剣を鞘にしまった。






***





「いや~。ガブリエルをいじるのは楽しいなぁ、いつもやり過ぎて怒られてしまう」




訓練場を出るとフロスタリアは歩きながら腕で伸びをする。


アーデンは彼のあとをついて歩いた。




「あんたとウチの分隊長は随分と仲が悪いんだな」




アーデンの言葉に、フロスタリアは目を細めて笑う。




「僕は彼のことは嫌いじゃないけどね?乱暴だけど真面目だし、忠誠心も強い。


彼は最初っからあんな感じだから、彼が僕のことを嫌いなのは、この髪色が一番の理由じゃないかな」




そう言うと、フロスタリアは青と水色の髪を右手で指差す。彼の前髪にはアクセントのように金髪が混じっているが、ガブリエルの彼への対応が、彼が"純粋な英雄"ではないことを示している。




「彼は信仰心が強いから、聖教会が定めたルールを絶対視してるんだよね。だから、悪魔や異端はもちろん、僕みたいな"背信者"の存在も気に食わないんじゃないかな」




背信者という聞き慣れない聞き慣れない単語にアーデンが眉をひそめると、フロスタリアはすかさず説明を付け加える。




「背信者っていうのは、僕やモルガナ嬢みたいに金髪と他の髪色が混ざった人のことを言うんだ。神話に曰く、悪魔に拐かされた愚かな神はその悪魔と不義の子を産んだ。


欲望に負けて神々を裏切った者と、神を弄んだ大罪人。それが僕ら背信者の祖先なんだってさ。




そんな訳ででガブリエルは僕に会うたびにガン飛ばしてくるし、僕も我慢できずにからかい過ぎちゃうし、会ったときより印象悪くなってるんだろうな〜。あーハッハッハ!」




今のどこに、高笑いする要素があったのだろうかと、アーデンは高笑いを続けるフロスタリアを訝しげに見る。




「…とりあえず。互いに仲良くする気がないのはわかった。でもそれなら、亡くなった隊長は何でわざわざモルガナをガブリエルの部下に置いたんだ?さっきの話を聞いた限り、ただの嫌がらせにしか見えないんだが」




アーデンの言葉にフロスタリアは後ろ髪をかきあげて中庭の方を見る。




「う〜ん。流石に違うと思うな。モルガナ嬢はティージの領主様、つまりイーセリット公爵の娘さんでそんな雑な扱いを出来る人じゃないし、騎士隊に入るまでは、というか入ってからも暫くの間緑髪の部分を剃って、自分が背信者なのを隠してたんだ。だから、ユーリサス隊長がガブリエルの嫌がらせにモルガナ嬢をくっつけたっていうのは考えづらい。まあ、あの人には未来が見えてたから他の理由があったんだと思うよ?」




名家に産まれた背信者、それを異端嫌いの部下に任せる理由。


アーデンはガブリエルとのここ数日の記憶を呼び覚ます。ほんの数日の付き合いとはいえアーデンには彼の性格が、一悶着ありそうな令嬢を任せるにはあまりにも荒々しく思えた。





「あいつ、乱暴過ぎないか?ガブリエルがアンタに斬りかかったあれ、騎士隊的にもアウトだろ」




「いやいや!全然有りだよ?僕はガブリエルより格付けが上だからね。訓練場で帯剣して入ってきた時点でいつ斬りかかられても文句は言えない。南騎士隊は実力至上主義で強さがほぼ絶対的な指針だから、そこらへんは緩いというか荒いんだよね」




「そうそう」とフロスタリアは話を続ける。




「以前、中央の文官が防衛計画の改訂書類を持って視察に来たことがあったんだけど、ヒョロヒョロのが来たせいで隊舎の門番が文官の立ち入りを拒否しちゃって、中央と緊張状態になったこともあったんだよなーーはっはっは!」




フロスタリアは隊員の問題行動を笑い話にして爆笑している。




「ふー。でその次から、文官じゃなくて武官が来るようになったんだよ。毎回、教皇の親衛隊とか、中央騎士隊でも教皇派の人が来てたんだけど、今回は珍しく聖女派の人が来たんだよね。


君を呼んでこいて命令してきたのもその人だよ」


「?そんな偉いやつが俺に何のようだよ」


「知らない。というかその人について僕はあんまり知らない。でもその人の前では口の聞き方に気を付けなよ?少なくとも偉いんだから」





雑談を挟みながら二人は隊舎の中を進んでいく。


ある個室の前に着くと、フロスタリアはドアの前で立ち止まり、軽くノックをした。




「カミリア様!アーデン・クロイツをお連れしました!」




すると中から、アーデンの聞き覚えのある声が返ってきた。

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