「不殺の契」
初めまして、彼岸 花男です。前書き後書きの欄に何を書いていいか解らず(初投稿なもので)ひとまず、この作品について軽く紹介しておこうと思います。
この作品はかなり重めです。(少なくとも自分は書いててつらかったです。)でも、僕はハッピーエンド主義者なのでしっかりハッピーエンドにはなっています。
短編小説で文字数も多くないので、通勤通学中や、お風呂やトイレの中など隙間時間にでも読んで欲しいです。
そして、読み終わってくださったなら是非誤字報告お願いします。
それでは、「不殺の契」始まります!
「正直に話すねあの日のことを」
○前夜
~16年前~
月華暦3378年
「探せ、城内をくまなく!ネズミ1匹見逃すな!」
騎士隊長の声が激しくこだまする。世界でも随一の発展を遂げたサクリア王国の王が何者かに殺されたのだ。
「たっ、隊長これを見てくださいっ」
現場検証を担当していた兵士の一人が慌てた様子で差し出すそれは、赤い鱗の様なものだった。
「これは、竜の鱗か?」
騎士隊長が問うと、
「はっ、はい。犯人は竜人族かと…」
兵士が回答と補足をする。
「なら、簡単だな」
騎士隊長が高らかに笑う。
竜人族とは、古代よりこの世界に存在している種族で竜の翼や角、尻尾などが人間の体から生えている、といえば想像しやすいだろう。しかし、鱗や角が高く取引されるため竜人売買が横行、その殆どが殺されている。そのため今は竜人族は極めて少なく、サクリアの遥か南西に位置する小さな村だけに生活している。
竜人族の特定は2~3週間もあれば、容易に可能だ。しかし、若い兵士が後先考えずこう言った。
「特定に、3週間も待っていたら、騎士団に対する不信感を抱く国民が増えるんじゃ?」
その言葉を待っていたと言わんばかりに、騎士隊長がこう続ける。
「心配するな、策はある。」
「策、ですか?」
「ああ、竜人族を絶滅させる。」
騎士隊長が冷酷に言い放つ。
その場にいた一同が驚愕し、黙り込む中ただ一人正義感の強い兵士が言葉を漏らした。
「しかし、それは、あまりにも…」
「貴様らに拒否権は無い、国王亡き今私の命令は絶対だ。」
正義感の強い兵士の言葉が無慈悲な罵倒にかき消された。そして、この罵声はこう続けた。
「明日の早朝、王国騎士精鋭部隊で竜人どもの村に出発する。」
王国騎士精鋭部隊とは、凶悪犯罪やジェノサイド等に対抗するため王国騎士内の投票によって選抜された二十名で構成された舞台である。彼らが出撃するとほぼ必ず血飛沫が上がるため、彼らのパーソナルマークである百合の花に絡めて「ブラッドリリィズ」と呼称される。
ちなみに、隊長を務めるのは皆さんご存知この罵声の主である。
そして、悲劇の幕が上がる…
○開演
「お休みガーベラ。」
耳心地の良い声がする。ガーベラと呼ばれた少女はサファイアを溶かして垂らしたような綺麗な蒼い瞳を瞼に隠した。声の主は母のものらしい。
まだ1歳にもなっていない小さな体を柔らかな月明かりが照らしていた。
ここは、竜人族が住む村で、現状世界にいる竜人はすべてこの村にいる(とされている)ここで全ての村人が助け合い、笑い合い平和に暮らして「いた」
すべての村人が当たり前に明日が来ると信じて疑わず布団に入り目を閉じようとしていた。
そのときだった。
「村が、村が燃えてる。」
家の外から恐怖と混乱を帯びる声が響いた。その声に驚き泣き叫ぶガーベラを安心させるために母はただひたすらに娘を抱きしめていた。
深い緑に覆われた平和な村が無数の火の矢と竜のように渦巻く業火に包まれ地獄と化した。逃げようにも村の外周を隙間なく騎士団が覆っているため不可能だ。
そして、戦慄の大量虐殺ショーが開演した。
戦意も武器も無い、何より予期せぬ出来事だったため反応が遅れて抵抗もできず次々に殺されていった。ある者は目の前で弟を殺された後に喉を裂かれ、またある者は腹に宿した小さな命もろとも串刺しにされた。中には、自ら火の海に身を投げる者もいた。
そんな凄惨な状況が続く中で母が動いた。
「あなただけは、死なせないからね。」
その声は、恐怖も確かにあったがそれが霞み見えなくなるほどの覚悟に満ちた声だった。そして母は机で何か作業をした後、家のすぐ後ろの氷室に娘を隠し逆方向に走っていった。
そして、殺された。目を潰され、四肢をもがれ、耳を断たれても尚、覚悟に満ちた声が終えることは無かった
虐殺ショーは10分ほどで終了し、15分ほどでガーベラが見つかった。
しかし、ガーベラを見つけたその声は、抱き上げて頭を撫でるその声は他の騎士とは違い優しい、とても優しい声だった。
「こんなに小さい子供まで、私もう限界だよ。」
「リン、君は隊長なんだ。僕たちは君の意見を尊重するよ。」
「そーだよ、リンはこの子を守ってあげたいんでしょ。」
「このことは、私たち『鬼将隊』の秘密にしましょう。あのイカレ騎士隊長には私がうまく言っておきます。」
優しい3人の声に励まされたリンと呼ばれた女性は、ガーベラを抱きしめながら言った。
「みんなありがとう。この子は私が責任を持って育てることにする。」
○契約
~16年後~
16歳になったガーベラは、紅茶を嗜んでいた。汚れを知らぬ紺碧の瞳、肩まで伸びた晴天の如き青髪をなびかせるその姿は平和に暮らす普通の女子そのものだった。
そこへ、リンが1通のボロボロの手紙を持って2階から降りてきた。
リンは16年という時の流れの中で鬼と恐れられた当時の面影は消え失せ、橙赤色の短髪で深紅の瞳を隠していた。
笑顔とは言い難い表情で降りてきたのでガーベラは心配して、
「リンさん、どうしたんですか?」
と聞くとリンは苦しそうな声で言った。
「正直に話すね、あの日のことを。」
「あの日のこと?」
ガーベラが聞き返す。リンはさらに苦しそうな顔をして彼女にそのボロボロの手紙を差し出した。
【もしも優し 心を持っている騎士様が たならお願いです。娘を、ガ ラを助けてくだ い。】
所々焼け焦げた汚い手紙はまだ続く。
【 ーベラへ、大きくなったあなたを られなくてごめんね。でも母さんは居なくなる訳ではないの。少しの間お別れするだけ。最後に一つお願い〈不殺の契〉を 。さ うなら 】
殴り書きでかろうじて読めるほどの汚い字だったが、母の思いは、娘にはすぐに伝わった。
「これって、どういう。だって、母さんはリンさんで、だって、だって。」
戸惑いを隠せないガーベラを彼女は優しく抱きしめた。
落ち着いてきたガーベラに彼女3つの子音を説明した三つのことを説明した。
一つ目は、ガーベラは竜人族最後の生き残りで他の竜人は全てリンたち王国騎士精鋭部隊が手にかけた事。
二つ目は、十六年前の王の犯行ではないと言うことの犯行ではないということと、その情報を開示させるために、王城に乗り込むということ。この事は虐殺ショーから数日後、現場に落ちていた鱗を鬼将隊が独自に分析した結果、偽物であることが判明したが、その情報を開示すれば騎士団は無意味な虐殺を行ったことになるため、現在まで騎士隊長の権限で隠され続けている。
「なっ、なら私も行きます。」
ガーベラが言うとリンはそれを拒否する。
「王城に乗り込むということは争いが起きるのは必然なの。」
「それなら私も戦います。」
ガーベラが少し食い気味で言うと、リンはまた首を横に振った。
「三つ目をまだ話してないでしょ。」
三つ目は手紙にもあった〈不殺の契〉についてだ。
遙か昔、人間族と竜人族の間で三十年間に渡る大きな戦争があった。結果的には竜人族の勝利に終わったが、両陣営とも多大な戦死者を生んだ。人間族は二度と敗北を喫さないように武力をつけていったのに対し、竜人族はこの争いを過ち年武力を捨てた。それ以降竜人族は十六歳の成竜式の時に龍神様に一切の殺生を行わない事を誓う。これが〈不殺の契〉である。
不殺といっても、某大罪の某十○の不殺とは違い、あくまでも口約束のため破ることはできる。しかし、忠誠心の強い竜人族は例外なく契を結び、それを守り続けた。
ガーベラの母は娘との竜人族としての繋がりが欲しく、不殺の契を手紙に記したのだ。
ガーベラの中は、顔も声も知らない母と少しでも繋がるために不殺の契を結びたい自分と、リンの力になるために不殺の契を結びたくない自分とで苦しく激しい葛藤が起きていた。
「一晩考えさせて。」
というガーベラに対してリンは無言でうなずいた。ガーベラはそのまま二階に上がっていった。
彼女の部屋は時計の音だけが無感情に鳴いていた。
どれほど時間がたっただろう。あたりはすっかり日が沈み恐ろしいほどの暗闇が広がっていた。ひどく疲れた彼女はすっかり夢の中にいた。
悪夢の中に。
深い森の中にガーベラは立っていた。
「ここは?」
彼女の問いに答えるものこそ居なかったが、その答えはすぐに解った。すぐ先の小さな村で大量の竜人族の死体が散乱していた。表情はおろか判別できない判別できないほどに焼け焦げたそれは形容し難い悪臭を放っていた。
次の瞬間、一斉にその死体たちが立ち上がり彼女に迫ってくる。
「嫌っ、来ないで。」
彼女の悲鳴を聞いてか聞かずか、死体たちはさらに距離を詰めて来る。そして、彼女に向かって何かを語りかけた。もはや言葉ではない何かを。
「ご飯できてるよー。」
一回からリンの声がする。いつも通りの心地のよい声だ。
ガーベラが一階に降りていく、そして昨日の夢の話をする。
「昨日夢を見たんです。殺されていった竜人族の人たちが私を励ましてくれる夢なんです。私たちのことは忘れて人間として生きて欲しい、とか、君の人生は君が決めるんだ、とかいっぱい励ましてくれたんです。だから決めました。私は私のやりたいことをします、全部やってやります。契りも結んでリンさんにも付いていきます。」
思いがけない発言にリンは戸惑いながらも、
「戦いは避けられないんだよ。」
「だから、殺さなければいいんです。策はあります。」
女子二人の会話とは思えない物騒な内容だが、ガーベラの目は真剣だった。その目に心を突き動かされたリンはガーベラの頼みを承諾する。
「わかった、付いてきてもいいよ。ただ一つ約束、絶対死んじゃだめだよ。」
「約束する。」
「よし、いい子だ。」
こうして奇妙な成り行きではあるが王城の討ち入りパーティが結成されたのであった。
○休息
けれども、女子二人ではあまりに現実的じゃない話であり、ガーベラがリンに聞く。
「何か作戦はあるの?」
「あぁもちろん、もうすぐ来る頃じゃないのかな?」
リンが余裕綽々として答えた。
「来るって、なにが?」
もう一度ガーベラがリンに聞くと、その返答を待たずにその答えは現れた。
「もしもーし、リンさん?来てやりましたよ。」
「あぁどうぞ、入って。」
聞き覚えがない声とリンが会話を済ませると扉が開いた。
入ってきたのは入ってきたのはすらりとした長身で、黒髪短髪の精悍な顔立ちの男だった。その男は落ち着いた低い声で言った。
「君からすれば初めましてかな、僕は鬼将隊のシュウ。リンさんに助けを求められ参上いたしました。」
鬼将隊のシュウ。リンから話は聞いていたが物心ついてから会うのはこれが初めてだった。
「は、初めましてガーベラです。」
ガーベラがやや緊張した声で答える。それにシュウは軽く会釈をすると、部屋を一通り見渡して
「あの若者姉弟はまた遅刻か。」
「もう若者じゃないけどね。」
「ああ、そうだなもう16年だもんな。」
ガーベラを置き去りにして話は進んでいく。
それから程なくして、また誰かが扉を叩く。そして、返事を待たずに扉が開く。
「やっと来た。」
「遅すぎたお前ら。」
ガーベラはこの話の流れで誰が来るかだいたい分かっていた。ヒサメとムラサメだ。 姉のヒサメと弟のムラサメは鬼将隊最年少で(今はもう三十超えているが)卓越した見事な連携で数々の功績を挙げたまさに天才姉弟だ。
「すみません、姉上が服選びに時間かかって。」
なんとも緊張感のない声でムラサメが言う。
「バカ、そんな時間かかってないし。大体あんたがお土産買うからって商店街に寄り道したから遅刻したんだろうが。」
鉄も切れそうな鋭い口調で反論するヒサメだが、やはり仲の良さが終始滲み出ていた。
「これで全員揃ったね、よし作戦会議だ!」
リンが隊長らしく手を叩きながら言うと、全員お仕事モードに切り替わったようで、一気に空気が変わった。
そして、5時間程作戦会議をしていた。王城に乗り込む作戦自体は至極単純だったのだが、なぜこんなに時間がかかったかと言うと、〈お昼ご飯何にする論争〉が激化したためだ。(詳しくは想像に任せるが)最終的にはガーベラの「みんなでシチュー作ろー」作戦が採用された。
さて、話が逸れたが王城に乗り込む作戦は以下のようになった。
・決行は次の満月の日(何となく縁起が良さそうだから)
・ガーベラを護衛しつつ一気に 王座の間(国王のいる場所)に駆け上がる(戦闘になった場合を考え極力消耗を抑える為)
・目的は、竜人族に対する謝罪の声明 真犯人は竜人族の犯行に偽装したという情報の開示 真犯人の捜査 の3点
箇条書きにする必要もないくらい単純な作戦だが、元鬼将隊の面々が言うだけで現実味を帯びていた。
そして作戦決行までは、チームワークを深めるとして買い物やらボードゲームやら料理やらを楽しんでいた。
そして、満月が昇った。
○決行
~王城前~
「いい月だな。」
「そうですねぇ、絶好の作戦日和って感じっすね姉上。」
「もっと緊張感を持てバカ。」
「へいへい。」
国が動く規模の作戦の決行日だと言うのに元鬼将隊の余裕は健在であった。もっともその余裕がガーベラを緊張させない気遣いである事はガーベラ以外言わずとも知れていた。
リンはガーベラの手を握り
「緊張する?」
と優しく問いかける。
ガーベラは明らかに緊張している様子で
「全く。」
と答える。それを見たリンは
「可愛い。」
小さくつぶやいた。
そして、いつものお仕事モードに切り替わる。
「皆聞いてくれ、私の我儘に付き合わせてすまないがここまで来た以上皆生きて帰ろう。」
リンが力強く宣言すると全員が「当たり前だろ」と言わんばかりに頷く。
「よし、行こう!」
隊長の宣言を聞いた隊員達はいっせいに王城に乗り込むが、王城内は異様な光景が広がっていた。
「なんだ、この警備の薄さ?」
シュウが言うと
「皆さんお月見ですかね。」
ムラサメが茶化す。
「そんな訳ないだろバカ。」
ヒサメがツッコミを入れる。
「居ないのなら好都合。」
リンが念の為、剣に手を掛けつつ走って行った。
そして、その手は王座の間に着くまで剣を抜くことは無かった。
「失礼しますよ!」
男性陣が豪快に扉を蹴破る。分厚く荘厳な扉はいとも簡単に開いた。
「この国も財政難?」
ムラサメがそんなジョークを言いたそうにしていたが、出てきたのは全く違う言葉であった。
「嘘、でしょ。ありえないっしょこんな数」
大量の兵士が王座の間にて待ち構えていた。やがて、背後にも続々と並びその数は凄まじく、国内全ての騎士に一般人も混ざっていると見紛うのも仕方ないほどだった。
「私が道を開けるからガーベラは逃げて。」
静寂を裂き隊長が言う。ガーベラが静かに頷く。
「行くよっ、鬼将隊交戦を許可する!」
再び隊長らしく宣言し、それを待ち侘びていたかのように、
「了解!」
3人の声が重なる。4人が剣を抜き戦いが始まった。
引退した身であり、尚且つ圧倒的な人数差を前にしても4人の強さは凄まじく、ある兵士は姉弟に喉を裂かれまた、ある兵士は背の高い男に腹を抉られた。少し豪華な鎧の兵士は、鋭い目をした隊長に怯み腰が抜け全く抵抗できず心臓を突かれた。
どれほど時間が経っただろうか、王座の間に趣味の悪い赤い絨毯が敷かれた、所々黒く変色しているところもあった。
「ガーベラ怪我はない?」涙目のガーベラにリンがいつもの笑顔で話しかけると、ガーベラは何も言わずに首輪を縦に振る。それを見た リンは一安心して、3人の元に戻る。
長時間の戦闘で疲労こそしていた鬼将隊だが、大きな外傷は全く受けていなかった。
「こんなこともあろうかと、毎日剣を振っていた甲斐があったすねぇ、姉上。」
「そうだな。」
いつもの調子でムラサメとヒサメが会話する。
「あとは話をつけるだけだな。」
シュウが一時の休息に胸を撫で下ろし言うと、リンは
「どうして、私たちの計画がバレたんだろう?」
と言う。その言葉はどうやら王に聞こえていたらしく初めて口を開いた。
「説明してやったらどうだ裏切り者のシュウ君。」
「どういうこと?」
シュウ以外の3人があっけに取られた様子で聞いた。するとシュウは今までに見たことがない悲壮な顔で事の経緯を説明した。
○驟雨
~満月が昇る2週間前~
「あなた、ご飯よ。」
心地の良い声が暖かな家庭に響く。
「あぁ、今行く。」
30代半ばほどの真っ青な男性が返事をする。どうやら夫婦のようだ。
「パパ、一緒食べよ。」
娘だろうか、長い髪をひとつに括り、綺麗な装飾が施されたワンピースを身にまとった可愛い少女がその男に抱きつく。
「分かった、一緒に食べようコハル。」
男は眠たい目を擦りながら返事をする。
平和な朝食をとったあと、男は軍服に着替え王城に赴く。王座の間に通された男は国王と話をする。
「ご招待に与り光栄です。それで、2人でしかできない話とは?」
深深と頭を下げたあと、ここに来た目的を告げた。
「シュウ、君に頼みたいことがある。」
国王が不敵な笑みを浮かべる。
国王の言う頼みたいこととは、お使いや、お料理などでは当然なかった。
「実は、元鬼将隊のリンとかいう奴が、16年前の情報を国民に開示するために近く王城に乗り込んでくるという噂がたっている。まぁ、たかが噂なのだか万が一ということも有り得る。だからシュウ、君にはリンの側にいて常にこちらに状況を報告して欲しいんだ」
一通り聞いたシュウと呼ばれた男は、
「なんだ、そんなことか」と心の中で呟き。
「リンがそんなことを企てているはずがありません。」
と強く言った。
すると国王が一枚の写真を見せた。
「これは…」
シュウがひどく動揺したそれは、愛する妻と娘、その背後には剣を構えた兵士がいる写真だった。
「まったく、いい妻をもらったな。それでやるのか?」
国王の不愉快極まりない笑い声を前にシュウは頷くことしか出来なかった。
○背信
~現在・王座の間~
「そういう理由だったんだね。」
「あぁ、すまない本当にすまない。」
「ううん、大丈夫シュウは悪くないよ」
一通り理由を聞いた皆は誰もシュウを責めなかった。
そして、端っこで丸くなっていたガーベラが起き上がって、
「要するに、悪いのは国王さんなんですよね。」
リンが頷く。そしてシュウを除く4人の剣(ガーベラは拳)が国王にむく。ほんの少し遅れて、
「ありがとう皆」
とシュウの剣も国王に向いた。
これがアニメになったらまず間違いなくこの場面で主題歌が流れるような、そんな状況にも関わらず。国王の態度は依然として変わらない。
「ハッハッハ、見事な友情劇だな。もう『家族は殺されている』というのに。」
汚い口から放たれる衝撃の一言にシュウは愕然とした
「どういうことだ!」
シュウの代わりにムラサメが聞き返す。
「そのままの意味さ、シュウ君に見せたあの写真を撮った直後に殺したんだ。あの二人の顔といったら、今でも忘れられないほど滑稽だったよ。」
「クソ野郎。」
ムラサメが言う。もちろんリンやヒサメも思うところは同じだ。
次の瞬間
「てめぇが、てめぇがあああああああああああああああ。」
シュウの悲痛な叫びが王座の間だけでなく王国中に響き渡った。
「てめぇが、コハルを、ハナビを。」
娘と妻の名前を口に出し王を睨む。その表情はまさに『鬼』そのものであった。
理性が完全に崩壊したシュウは国王に突っ込んだ。『側近の騎士隊長がいることも忘れて』
「おっと、ダメだよ通っちゃ。」
ようやく戦えると浮かれ調子で騎士隊長が言う。
「どげっ、どけぇぇぇ!」
騎士隊長と殺り合うシュウだが、その太刀筋はあまりに大きく、容易に避けられ
そして、腹部に致命傷を負った。
普通の人なら即死だろうが、シュウは何とか最後の一言を言えるくらいまで耐えたのだ。
そして、絞り出した最後の一言
「ごめん皆、一足先に逝かせてもらう。家族と楽しく暮ら..す..よ..」
突然の仲間の仲間の死に皆呆然と立ち尽くす。それを煽るように騎士隊長が
「弱いなァ、まったく。全然楽しめなかったじゃないか。ハーッハッハ。」
それを聞いて黙っていられるはずのないリンは、
「黙れっ、シュウは最後まで勇敢に戦ったんだ!」
「勇敢さと強さは全く別の場所にある。卑怯でも汚くても勝ったやつが強いやつなんだよォ!」
予想はしていたがリンの声は全く響いていない。腹を括ったリンは、一度深く深呼吸して言った。
「無駄にするな!シュウの家族をシュウの苦しみを!無駄にするんじゃねぇ!!」
リンが人生最大声量で叫び、その叫びは確固たる意思へと姿を変えた。
「絶対許さない。」
「えぇ、こいつの首とってせめてもの手向けにしましょう。」
「初めて弟と思いが重なった。やろう。」
リンとムラサメ、ヒサメの3人は剣を重ね円陣を組み思いを揃えた。
しかし、ガーベラを巻きみたくはないリンは
「ガーベラはシュウを涼しくて安全な場所へ。苦しいと思うけどお願いね。」
と、ガーベラにいつもの笑顔で言った。ガーベラは大きく頷きすぐにシュウを担ぎ走り去って言った。
「さすがお母様ですね。」
ムラサメが言う。
「あれが、最後の言葉かな?」
リンが悲しそうに呟く。
「んなわけないでしょ、バカ」
ヒサメがツッコミを入れる。
○不殺
鬼将隊と騎士隊長の剣が激しく火花を散らし交差する。
「引退した身でここまでやるかよ。」
「伊達に毎日剣振ってないんでね。」
「フッ、ならば本気で行くのが礼儀かな?」
「てめぇに、礼儀は求めてねぇよ。」
ムラサメが先行するも、力の差は相手が上回っていた。その力の差は3人になった時僅かに逆転した。
「3人とはフェアじゃないねェ。」
「今更何言ってんのバカ。」
「おぉ、刺さるねェ。」
とその時、
「姉上っ、危ない!」
国王が隠し持っていた銃をヒサメに向け、引き金を引いた。その弾丸は騎士隊長の眉間を貫通し、ヒサメの右肩に着弾した。
「国王っ何を?」
「遅すぎだよ隊長君。時間切れだ」
「このクソ野‥ろっ…」
思わぬ形で勝負は決した。
リンがヒサメを抱き抱え応急処置をする。ムラサメが国王に問う。
「てめぇ、どうして裏切ったァ!仲間じゃねェのかよっ!」
「仲間?何かの間違いだろう。私は隊長君を『捨て駒』以上に感じたことは無いんだよ。」
国王の返答に、ムラサメは何も言えなかった。もちろん、言いくるめられた訳では無い。失望したのだ、自分を慕った人間さえ人間と見られない事に。
ヒサメの応急処置を終えたリンがムラサメに合流する。
「騎士隊長無しでどうやって勝つつもり?」
「逆に、君たちはどう勝つつもりなんだい?」
国王はリンの質問に答えると、銃口を自らの顬に向けた。
「君たちの目的は何も達成されない。どうせ生きて帰れないのならそれくらいの抵抗はいいだろう?」
と言い残し引き金を引こうとした時、入り口からものすごい速さで何かが迫ってくる。ガーベラだ。シュウを移動させたガーベラが全速力で戻ってきたのだ。ガーベラはそのままの勢いで跳ね上がり、国王の米神に当たった銃を弾き飛ばした。華麗な着地を決めた後、振り返りこう言った。
「不吉な予感的中です。許しませんよ、死ぬなんて。貴方には聞きたいことが山程あります。」
意外な展開に国王は動揺しながらも答えた。
「きっ、貴様らに答えることなど、何も無いわ。」
国王の言葉を無視してガーベラは言う。。
「まず、十六年前のあれはまったくの無意味だったと国民に謝罪してください。もちろん、犯人が竜人族の犯行に見せかけたことも。次に、騎士団たちに真犯人の捜査をさせてください。」
至極冷静に、冷ややかな目で言った。
その目に怯えた国王だったが、その意志は固く決して口を割ろうとはしなかった。
それを見たガーベラは、
「あぁ、そうですか。じゃあいいです自分で考えます。眠ってください。」
そういって国王に近寄る。
「来るな、来るなぁ!」
国王の叫びを無視して
「竜血開ッ放!」
ガーベラが叫ぶ。すると、彼女の青藍色の美しい髪が白百合色に染まり、身体中にびっしりと鋭い竜鱗が生え揃った。
それを見てリンが
「だめ、不殺の契りがあるんだよ。」
リンが危惧したとおりその風貌は「不殺」とは程遠いものだった。
しかしリガーベラは笑顔で答える。
「大丈夫ですリンさん、忘れてないですよ。」
そして、竜鱗で覆われた腕を大きく振りかぶり国王の胸辺りを殴打した。鉄をも砕きそうなその一撃は国王を昏倒にとどめた。
「1年も眠れば反省するでしょう。」
そういうとガーベラは深呼吸する。すると白百合色の髪がいつも通りの青藍に戻り、身体中に生え揃った鱗も収縮し柔らかな皮膚を形成した。
「ガーベラ、今の姿って?」
ガーベラはリンの質問には答えるようで、
「竜血解放は万が一の戦闘に備えて、竜人さんが子供の頃に教えてもらうっていうことを前図書館で読んだの思い出して。」
「えっ、じゃあ一発成功したの?」
「はいっ!」
ガーベラの元気いっぱいの返事を聞いて
「さすがだね。」
リンが言った。
「っしゃあ、帰りますかぁ!」
ムラサメが大きく伸びをして笑顔で言った。
○転生
~国王死没から3日後~
「国王に暴行を働き騎士隊長の命を奪った元鬼将隊、リン・ランベール容疑者、ヒサメ・ルーセル容疑者、ムラサメ・ルーセル容疑者と詳細不明のガーベラ容疑者は依然として逃走を続けています。」
ニュースキャスターが感情のない機械のような声で原稿を読み上げる。反逆者とされた4人を捕まえるべく国内では大規模な捜査が行われていた。当の本人達はというと、シュウの墓の前にいた。人目につかぬ場所にひっそりと立てられたその墓には、騎士団達に掘り返されないように名前は無く、簡素なものだった。
「こんな墓でいいんすかね?」
「まぁ、捕まったら死刑だろうからすぐに会えるだろう。」
「縁起でもないこと言うなバカ。」
「そういう演技だよっバカ。」
いつもと変わらぬ会話をしていたが変わったことが一つだけ。
「つーか、金髪似合ってないですね姉上」
「お前もな」
「まぁまぁ、もう別人なんだからさ。」
そう、ガーベラを除く3人の容姿が全く異なっていたのだ。
「しっかし、ほんとに用意周到ですね。リンさんは」
遡ること3日前
~作戦終了直後~
「っしゃあ、帰りますか!」
ムラサメが大きく伸びをして笑顔で言うと、
「その前に、しなきゃいけない事があるだろ。」
ヒサメがリンを見て言うと、リンはムラサメに言った。
「そうだね。ムラサメお願い。」
「うぃ、任せてください。」
ムラサメはシュウを担いで、リンはガーベラを抱き上げ5人は王城を後にした。
しばらく歩いた後、小高い丘の上に腰を下ろした。
「ここなら、涼しくて気持ちいいだろう。」
シュウを埋葬したあとリンが呟く。
それから四人は、月が役目を終え隠れるまで手を合わせていた。
辺りは薄く群青に光り始めていた。
手を合わせ終わった後「これからどうする?」とムラサメがリンに目配せすると。
「心配ご無用。」
と言わんばかりに親指を立てる。
リンに連れられて訪れた先は、蔦が生い茂り、所々硝子にヒビの走っている見るからに怪しい建物だった。看板には「Boutique Faux 」(要約すると偽物の服屋)の文字が刻まれていた。
「うぁぁ、怪しいっすね姉上。」
ムラサメが怪訝そうに愚痴を零す。
「まぁまぁ、心配ご無用よ。」
リンが胸を叩いてその店に入っていく。ムラサメ達も仕方なくリンの後に続く。薄暗く長い階段が続き、何やら開けた場所に出た。
「いらっしゃあ~い。」
誰かの声がした。
「でっ、出たァァァ。」
ムラサメが悲鳴をあげるとヒサメが蹴りを入れた。
「うっさいわ、お前にビビるだろうがバカ。」
部屋の燭台が灯り謎の声の主が姿を表した。黒い修道服に身を包んだ老婆であった。腰が曲がっていてその 背丈はガーベラの肩あたりくらいだった。
老婆とリンが会話する。
「また、随分と暴れたらしいじゃないかリン。」
「まぁね。それで頼んでたアレ出来てる?」
「私を見縊るんじゃないよ、昨日の朝には準備出来たさ。」
「流石ソウさん。」
この老婆はソウと言うらしい。話し出す機会を伺っていたヒサメがここだと言わんばかりに話を切り出す。
「リン、ここは?今から何するの?」
それを聞いたリンは説明を始めた。
「あんな騒ぎを起こした以上これからこの街で生活するのは厳しくなるよね。」
一同が頷く。
「そこで彼女、ソウさんが新しい戸籍を作ってくれる。という訳。」
何とも型破りな解決策に動揺が隠しきれないヒサメに対してムラサメは乗り気だった。
「転生するっていう訳っすね。これで万事解決ッスね」
リンが頷く。
しかし、ヒサメは納得していない様子で、
「申し訳ないが、彼女に戸籍を偽装するほどの力があるのか?」
老婆の方を見て言うと。
「小娘、私を見くびるなよ。」
老婆が下を向いたまま口角を上げて言った。
「ちょっと失礼だよヒサメ、ソウさんは国民籍管理局の局長なんだよ。」
「は?」
「まじっすか?!」
姉弟が同時に反応するが、ガーベラはピンときていないようなので説明しておこう。
サクリア王国の国民には、生まれたと同時に国民籍というものが与えられる。国民籍には名前や住所,職業などが記載されており、結婚や転居などでその内容は書き換えられる。
つまり、国民籍さえ手に入れれば別人として生きていくことは容易に可能になる。
聞けばリンは、ソウ局長と古くからの付き合いであり、国民籍の偽造については二つ返事で承諾を得たのだという。
こうして、リンたちは新たな国民籍を手に入れ別人として暮らしていくのであった。
○訣別
~現在~
新たな国民籍を手に入れたリンたちは新たな人生を歩み始める。ヒサメとムラサメは双子姉弟に。リンとガーベラは姉妹になった。
しかし、ガーベラは思わぬことを口にした。
「リンさん私、私旅に出たいんです。もっと広い世界を知りたい、もっといろんな人に会ってみたい。だから、行かせてください!」
どうやら彼女は本気のようだ。それに心打たれたリンは、
「妹の願いを聞き入れない姉はいないよ。行っておいで、もっと広い世界を知ってくるんだぞ。」
最初こそ笑顔を保っていたものの、だんだんと声が震えていき最後には泣き崩れてしまった。
ガーベラはリンを抱きしめ、「ありがとう。」と耳元で囁いた。
その晩は、祝勝会やら送迎会やらで大騒ぎだった。
~翌日~
姉妹と、姉弟は城門の前に立っていた。
「いってらっしゃい。」
その一言だけで十分だった。
「行ってきます!」
ガーベラが大きく頷き大きな旅荷物を馬に積みサクリアの城壁を後にした。
ガーベラの背中が地平線に消えた後、姉弟と姉は新たな人生を歩むため、それぞれの帰路についた。
「さよなら、ガーベラ。」
姉の頬に一筋の朝露が輝いていた。
最後までご覧いただきありがとうございました。
当初は暇つぶしの予定で昼休みにプロット作りをしていましたが、どんどん楽しくなってテスト週間中はほぼこの小説を執筆していました。(勉強をしなさい)
何分、本を読まず文法も知らない低学歴高校生なので読みにくい点が多々会ったと思いますが楽しんでいただけたのなら幸いです。
最後になりましたが、何十万とある名作の中で自分の作品を見つけてくれたこと、それを最後まで読んでいだだいて本当にありがとうございました。