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5話 まさかのカメレオン


今日も無事にスーパーウルトラジムでの習い事が終わった。


ジム内にある飲食スペースで帰りの車を待っていると、私の携帯電話から無機質な着信音が鳴り出した。



『セレス様、誠に申し訳ございません!!』



携帯電話越しから讃良の切迫した声が聞こえてくる。


『ジムへのショートカットを見つけようと少し冒険をしたら物凄い渋滞に巻き込まれてしまって……!あっ!今ようやく畑しかない景色の中にコンビニを発見しました!きっとジムは近い筈です!』


ジムがある場所は街中の筈なのに何故畑だらけの場所に……?


(そもそも畑だらけの土地で渋滞は発生するのかしら?)


「讃良、大丈夫よ。落ち着いて運転して」


『はい!すぐにジムに迎えに参りますので今暫くお待ち下さい!!では!!』



ブツン!



「あ、切れた……讃良が来るまでにもう少し時間が掛かりそうね」



真里模さんと西斗さんは既に帰宅。周りには特に誰も居ないし……



(折角だし本を読みながら待機しましょう)



私は手に持っていた携帯電話を鞄の中にしまいつつ、鞄から一冊の推理小説を取り出した。



「あら?」



本を机の上に出した時、飲食スペースの隅で座っている緑髪の男の子が私を見つめているのが見えた。


あっ!あの子って……『バスダム』に出てくる中ボスの『真坂まさかのカメレオン』!?


(折角だし確認してみよう……)



「こんばんは、貴方も1人?」


私は男の子のいる方に顔を向け、軽く会釈をしながら優しく声を掛けた。


「……まあ、そうだけど……お前誰?」


「私の名前は紫苑セレスですわ。貴方は?」


「……真坂まさか真坂力まさかりょく


やっぱりそうだ!



真坂力まさかりょくは『バスタータムダム!』の登場人物。他者に化ける能力を有しており、主に他人の技を真似して戦う特殊なファイターだ。


天才肌で何でもこなすが飽き性で、もう上からは何も教わる事は無いと思った彼は小学校の上級生に上がる前にジムを退会。


だが、大会ではあまり良い結果は残せないばかりか、努力を積み重ねて来た同級生に実力を追い抜かれてしまう。


更に碌に勉強をしてこなかった彼は次第に学校もサボりだして完全に腐りきり、やがて不良児になってしまうのだ。



(確か彼はあまり強くないチンピラの中ボスとして登場するんだよね……)



「……それ、何読ンでンの?」


「この本ですか?これは推理小説ですわ。分からない言葉は隅に説明が載っているので、物凄く読みやすいの」


「へぇ……」


(この反応……もしかして、彼はこの本に興味があるのかしら……?)


「そうですわ、折角ですしこの本を貴方にお貸ししますわ」


「えっ?何で?」


「この本は本当に面白いので他の方にも読んで頂きたいのです」


「いや、別に……そもそもアンタとは初対面……まあ、どうしても……って言うなら読むけど」


「どうしても、ですわ。お願いします」


「……しょうがないな。分かった、読ンであげる」


「! ありがとうございます!」


よし!布教完了!!


これで少しは本を読む楽しさを知ってくれたらいいんだけど……



ピリリリリ……ピリリリリ……



「あ、父さんから着信だ。やっと迎えに来たみたい……じゃあね」


「はい、ごきげんよう」


かれはぶっきらぼうに別れの挨拶を述べると、そのまま飲食スペースから立ち去った。





「セレス、まだ居たのか」


真坂さんが去った後、入れ違いで西斗さんが飲食スペースに入って来た。


「あら、西斗さん。まだいらっしゃったの?」


「それはこっちのセリフだ。まあ、俺の方は車を出している使用人が少しばかり冒険?をしてしまったようでな……結果、渋滞に捕まり到着が遅れている状態なんだ」


同じトラブルが起こる事ってあるんだ……



「所で……セレス、先程彼に何の本を貸していたんだ?」


「ああ、あれは『フクザツカイキシリーズ』の推理小説ですわ」


難しい言葉が載っているとは言え、どちらかと言うと子ども向けの本だし(私達はまだ子どもだけど)……


普段から難しい本を読んでいる西斗さんは流石にこの本は読まないだろうなぁ……


「ほう……では、帰りに本屋に寄って買ってみるとしよう」


「西斗さんのお眼鏡にかなうといいのだけれど……」


もしあの言葉が社交辞令で無く本当なら、少なくとも一冊は読んでくれるみたいだ。優しい人だ。


それにしても、帰りがけに西斗さんに会えるなんてラッキーだなぁ……


(あっ、そうだ!折角だし、迎えが来るまで2人きりでお話しでも……!)


「西斗さん、もし宜しければ……」




ズドドドドドドドドドドド…………!!




「セレス様!!お待たせいたしましたぁ!!!!」




「讃良!」


何と、先程まで畑で渋滞にはまっていた筈の讃良が、豪快に足音を鳴らしながら私を迎えに来た。


(何故あの状況から此処まで数分で来れたの!?もっと遅くても良かったのに!)


「さあ、お家に帰りましょう!」


「讃良、そんなに急かさなくても大丈夫よ。西斗さん、ごきげんよう。また明日」


(ああ、折角2人きりで会話出来ると思ったのに……残念……)


「ああ、またな」




次の日……




「えーっと、紫苑……だっけ?」


私がジムに入った途端、真坂さんが私に声を掛けてきた。


「ごきげんよう。真坂さん、如何なさいましたか?」


「昨日借りた本を返しに来た。……本、面白かった」


「それは何よりですわ、お勧めして良かったです」


この反応から察するに、本はしっかり読んでくれたようだ。良かった〜!


「あの……何て言うかさ、世の中にはまだ俺が知らない事が色々あるンだなって……そう思ったンだよね」


「その通りです、世の中にはまだ面白いものが沢山転がっているのですわ!難しい言葉を知ればもっと沢山の本を読めて、更に世界が広がるのよ!


そして、これはきっとスポーツにも当てはまる事だと思うの!」


「スポーツ?」


「はい!スポーツも基礎をしっかり学んでいけばいつかは難しい技が出来るようになって、更に難しい技に挑戦出来るようになっていくと思うの。

だから私は時間があれば時折基礎を復習しているの」


「復習……ね、そっか。あ、これ……昨日借りた本。返すね」


「ありがとうございます……あら?栞の位置からしてまだ読み終えてないようですが、もう宜しいのかしら?」


「大丈夫、帰りに自分用の本買う予定だから。貸してくれてありがと、じゃあね」


「どういたしまして。それではまた」


「うン、また」


そう言うと彼は踵を返してジムの奥へと姿を消した。今日の彼は昨日見た彼より少し楽しそうに見えた。





「セレス」


「あら、西斗さんこんにちは」


「ああ、今日もセレスが元気そうで何よりだ。そうだ、昨日セレスから教えてもらった本、今日の朝全巻読み終えた。物凄く面白かった」


「あれ全部読んだの!?」


あの本全巻だと全部で10冊近くはある筈だけど!?まさか徹夜したの!?

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