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第54話 黙秘

 

「こうして会うのは……いつ以来でしょうか」


 シェイクとソーンが連れて来られたコロニー。その中のある一室では、ある2人が再会していた。

「こんな形で再会を遂げることになるとは残念です」

「思い出話をする為に呼びつけたのか」

「いえ」

 両手足を拘束されたレイツへ、ドリアーズは手元の端末に目をやりながら語りかける。

「あの機体……《ライナルディン》の運用データを確認しました。HERIが以前に採掘、復元した状態とは異なっていましたが、あれは貴方達が自力で?」

「……」

 レイツは口を閉ざす。

「黙秘、ですか。艦を調べさせて貰いましたが、とてもあの資材と人員では出来ない改修でした」

 構わずドリアーズは続ける。まるで黙秘する事を分かっていた様に。

「何処か外部の組織と協力した、と考えているのですが」

「はいそうですと言わせたいんだろうが、俺達海賊が外部組織の協力なんか得られると思っているのか?」

「政府が定期的に海賊狩りを行なっているのは、海賊の貴方ならよくご存知でしょう? それでも襲撃の報告は後を断ちません」

「それは政府が無能なだけだ。いや、デヴァウルやらの対処もある所為で有能な人員が割けないのもあるか」

「海賊には独自のコミュニティがある。事実、海賊相手にDCDの提供や整備を行っていた一般企業を摘発したこともあります。海賊だから外部と協力できない、という理屈は通用しない」

 ドリアーズの言葉を聞いたレイツは小さく笑った。

「そこまで予想がついていて、今更何を聞きたいんだ?」

「貴方達に協力した外部組織について、確信を得たい。そう……検討だけならついてはいる」

 端末から宙にモニターが映し出される。そこに映っていたのは、《ライナルディン》と《オルドレイザー》。


「同じく隕石から発掘されたDCDを所有している、M・S。彼等が貴方達に協力した組織ではないか、と、私達は考えています」


「M・S、か……」

 だがドリアーズの言葉に対し、レイツは眉を顰めるだけ。

「噂だけは聞いている。色々と曰く付きの組織だってことしか知らないが」

「……そうですか。いいでしょう、では他の乗員にも話を聞く事にします。艦の長が多くを話さない以上、証言を得るには仕方がない」

 ドリアーズが立ち上がると、そばにいた兵士達がレイツの元へ駆け寄る。

「ガキを尋問するか。で、それを証拠に動くほどHERIは余裕がない。インテリの集まりとは思えん浅はかさだ」

「尋問? 海賊に協力させられていた子供達を保護し、何をさせられていたのかを記録するだけです」

 取り押さえられ、引きずられていくレイツを見もせず、ドリアーズは淡々と返す。

「保護か……物は言いようだな。証言を取ったら実験材料にするつもりだろうが」

「貴方はHERIを何だと思っているのですか。ですが貴方の言う通り、今の私達には余裕が無い。早期に解明しなければならないことがある。その為には障害を減らさなければならない」

「……っ、そういうことか」

 部屋から連れ出される時、レイツは吐き捨てた。

「喋りすぎだなドリアーズ……熱が入ると余計な事を言うのは相変わらずだ」

「そうですか。なら直さなければなりませんね。ご忠告ありがとうございました」


 扉が閉ざされ、1人残されたドリアーズ。レイツが言っていた事はほぼ全て事実だ。回収、収容した子供達はファーステットからの要望により、証言を得た後に実験体として扱われることとなっている。


(《ライナルディン》のパイロットも同様……いや、彼女は確か……次のステージを試したいと言っていたか……)




 収容室に閉じ込められたグライの元へ足音が迫る。連れて来られてからここを訪れる足音は、食事か尋問を運んで来るもののみ。そのどれかだろうと、壁の向こうの足音を聞いていた。

「お前がここを抜け出してから何年経ったか」

「……クディア、隊長」

 だがそのどれとも違った。

「よく俺の事を覚えていましたね……っていうのは、無理があるか」

「忘れる訳がない。初めて出来た部下の1人に、あんな形で脱走されたらな」


 グライは元々、HERIの護衛部隊の一員だった。当時隊長となったばかりのクディアの部隊へ配属され、海賊やデヴァウルから艦を守っていた。

 撃墜数は部隊の中でも群を抜き、ベテランからエースだと持て囃された時期もあった。


 あの日までは。


「何故、海賊に与して実験体と《ライナルディン》を持ち去った? あの日、お前に何があったんだ、グライ」

「わざわざそんなことを聞きに来たんですか」

 クディアからの問いに対し、グライは呆れた様に溜め息を吐く。

 座っていたベッドから立ち上がると、扉へ寄りかかる。

「隊長は、いや、あんたはとっくに気づいていたんじゃないのか……HERIが何をしていたのか」

「……」

「昔からそうだ。何を聞いても、俺が知りたい事は何も教えてくれない。都合の悪い事には目を向けない」

 扉を殴りつける。向こうにいるクディアを殴る代わりに。

「確かにあんたは優しかった。あんたは良い人だった。それは嘘偽りない真実だ」

 グライは更に強く扉を殴る。金属の扉がへこみ、代償に拳から血が滴る。

「だからあんたは目を逸らした!! 優しいからあの現実を見ていない事にした!! 知っていたのに誰にも教えなかった!!!」

 続けて額を叩きつける。割れた傷から流れた血が目に入り、赤い涙の様に跡を刻む。


 光を失った作り物の目を向け、多数の管が突き刺さった手を伸ばし、身体に刻まれた呪いの刻印に悶える少女の姿は、それでも記憶から消えはしない。


「俺は自分で考えた上で、選んだだけだ」

「……グライ」

 クディアは呻くように呟くと、返すように拳を扉へ叩きつけた。

「お前の言う通りだ。だがな、俺ごときがどうこう出来る次元の話じゃない……HERIの計画は……!」

 そこから先の言葉を呑み込み、クディアは扉の前から去って行く。

「検挙された海賊は法の下に裁かれる決まりになっている。子供達は保護されるだろうが……お前は覚悟しておいた方がいい」

「……フェンは」

「フェン……? そうか、《ライナルディン》の……HERIの研究所に引き渡されるだろう。《ライナルディン》と一緒に」

「本当に優しい人だな。海賊なんか相手する必要もないのに」

「理由を聞かせてもらった個人的な礼だ。……もう会う事はない」


 完全に足音が消える。グライはベッドへうつ伏せに倒れ込んだ。

「あんたは間違ってばかりだ……また会うさ……敵として」

 シーツに広がる赤い染みは、しばらくの間止まらなかった。


「痛え……」



続く

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