第53話 アンノウン・コロニー
コロニーには艦船が出入りする為のメインゲートの他に、資材搬入や要人入港、政府関係者用のゲートなどが存在する。
そして、それらは用途が特殊故に一般人が出入りするメインゲートよりも厳重な警備体制が敷かれている。
「っ? 未登録の機体反応?」
その中で、全ての入港予定が終ったばかりの要人入港ゲート。防犯や機密の関係で出港ゲートは別の場所にあるのだが、第3コロニーの中から入港ゲートへ向かってくる反応をセンサーがキャッチしたのだ。
「しかも凄い速さだな……DCDなのか? GG1、こちらGG2。コロニーからゲートへ向かう反応を感知。警告信号で様子を見る」
『こちらGG2了解。変な迷子だな。念の為、本部にも報告を送っておく』
滅多にあることではないが、ありえないことではない。大方、政府軍の新兵あたりが迷い込んだのだろう。
そう思っていた時だった。先程まで通信をしていたGG1の《ナチュラリー》の反応が消失したのは。
「なっ!? おいどうしたGG1──」
GG2の言葉の先も、突如曲がり角から現れた影によって斬り伏せられ、呑み込まれた。
入港用ゲートを切断し、外へ脱出する《オルドレイザー》。付近を警備するDCD達もそれに気づいただろうが、最大推力で加速した《オルドレイザー》に追いつくことも、捉えることも出来ない。
「……!」
不安定な姿勢と専用スーツ無しで《オルドレイザー》の加速の洗礼を受けながらも、シェイクはローズと呼ばれた少女を見る。ノーマルスーツであるにも関わらず平然とした表情を浮かべていた。ソーンですら、シェイクと同様に専用スーツが必要だというのに。
その表情の裏に、何の躊躇いもなく殺人を行う冷酷さを潜ませているのだろうか。
「あ、見つけた」
突然ローズは呟き、《オルドレイザー》を急停止させる。投げ出されそうになるシェイクの身体はシートにぶつかることで事なきを得た。
隙間から見えるモニターには、小さな輸送機が映っていた。
『……どういうことだ。輸送機で合流する手筈じゃなかったのか?』
「少し抵抗されたから予定を変えた。それだけ」
それがまったくの嘘であり、ローズ自身が襲撃者達を始末していたことをシェイクは知っている。口を塞がれているが故に叫ぶ事は出来ないが。
『……目標を確保したのなら構わん。こちらも目標は確保している』
「こっちに渡して。あとは私がやる。報酬はすぐに入るから」
『HERIのネズミが……』
言葉とは裏腹に、輸送機から小さなポッドが放流される。《オルドレイザー》はそれを掴み、腰部のラックへ半ば強引に接続する。
『依頼は完了した。通信ログはこの場で』
刹那、《オルドレイザー》のビームクローが輸送機を引き裂き、爆炎へ変えてしまった。
「依頼完了、だね」
「……っ」
まるで道端の石ころを蹴るように、無邪気とも言える様な仕草と殺気の無さ。言葉にし難い恐怖をシェイクは抱いていた。
周りの景色が変わらない移動というものは想像を絶する苦痛を要する。
シェイクも普段は《アスカロン》で家族や船員との会話、趣味の機械弄りに興じていたからこそ感じづらかった感覚だ。
(地球にいた時よりはマシ……でもないな)
地球にいた時は過酷な気候の中を生き抜くので精一杯で、砂の海を眺めて苦痛を感じている余裕はなかった。今感じている感覚とは違うものだ。
(他のみんなは無事なのか……狙いが《オルドレイザー》ならソーンも……)
しかしソーンが必要なのは、その《オルドレイザー》を動かすためなのだ。ローズが起動し操縦している現状、自分やソーンを拉致する理由に見当がつかない。
「理由は考えなくて良い」
と、それまで無言だったローズが突如口を開いた。まるで心の内を見透かされた様な気がしたシェイクは反射的に思考を停止する。
「私はレセプター因子が弱いからなんとなくしか分からないけど。やっぱり色々考えてたんだね」
「……」
構わず話すローズの表情は相変わらず無のまま。顔がソーンと瓜二つなことが逆に異様な印象をシェイクへ与える。
「向こうに着いたら、姉さんが色々と教えてくれる。あなたが敵になるか味方になるか、そこできっと決まる」
彼女が話す事はまるで意味が分からない。だが今のシェイクはそれを問う為の口が封じられている。
加えて、
「そう言ってたら見えてきた」
その機会はすぐそこまで迫っていたのだから。
「あとはこちらで」
「お願い」
《オルドレイザー》が降り立ち、コクピットから出された瞬間にシェイクの視界が塞がれる。更には耳に栓を押し込まれて聴覚も封じられた。
(徹底的に場所を隠匿する気か……)
《オルドレイザー》から見えた限りでは、よく見る小さな作業用コロニーだった。余程外部へ漏らしたくない何かをしている場所、としか考察は出来ない。
(じゃあ私、あの子に会いに行ってくる)
耳を塞がれている状態で響くローズの声。ソーンやネクトからも同じ様なものを受けた記憶があるが、ローズのそれはより鮮明に聞こえた気がした。
連れて行かれるシェイクを見送り、ローズはポッドの方へ向かう。そこでは既に数名の研究員が取り囲み、ポッドの中を引っ張り出していた。
「ん〜!! んん!!」
「あ、暴れるな! 麻酔ガスが薄かったか!?」
「押さえろ! 目と耳を塞げ、早く!」
「どいて」
ローズは慌てる研究員達を押しのけ、暴れ回る対象へと近づく。自らを見た対象は、その動きを止めた。
「……っ!?」
「やっぱり覚えてないんだ。えっと……今は、ソーンって呼ばれてるんだっけ」
ソーンはローズの言葉に返答する事が出来ない。ミニマムモニターを紛失したことだけが原因ではない。自らと瓜二つの容姿をした少女を前にして、理解が追いついていないのだ。
「私と来て」
「っ、っ……!」
「それもそうか」
首を横に振るソーンを見たローズは、まるで聞き分けのない妹に呆れるような素振りを見せる。そして、
「じゃあこうする」
「ぃっ!?」
ローズの目が青く輝く。刹那、ソーンの頭が何かで殴られた様に大きく揺れ、仰向けに倒れてしまう。
「意識をコントロールするつもりだったけど……お互い脳波が強すぎてぶつかり合っちゃったのかな」
ソーンを抱き、ローズは再び歩み出して行く。その姿だけ見れば、仲睦まじい双子の姉妹だった。
「2人とも、私と家族になってくれるといいな」
続く




