第50話 波動を断つ殺意
《ガルドミナス》のレーダーは前方の新型DCD達、そしてその背後で監視するHERIの艦を捉える。
「なんでHERIが……」
「腐れ縁って奴? グライが乱暴な抜け方したの根に持ってるんじゃない?」
「誰のおかげか忘れたのか? かなり前だからな」
「じゃ、斬り込むのは任せたよ」
同時に《ライナルディン》の姿が宇宙へ溶ける。グライは一々返答しなかったが、巡航形態のまま加速する事で意思を伝えた。
『後衛のDCDの反応が消失。レーダーでは確認出来ない。ソナー1よりスナイプ1、目視での確認は可能か?』
『スナイプ1、目視での確認は出来ない。《ヒドゥンブレイグ》およびミッド1、2、要警戒』
周りから飛び交う情報へサラは静かに耳を傾ける。
「ブレード1、2は前方から来るDCDを迎撃。スナイプ1はその援護。ソナー1はミッド1、2と合流、3機で周囲を警戒」
『《ヒドゥンブレイグ》は』
「気にしなくていい。命令通り動いて」
『了解』
サラの指示通り、《エクスラスター》は各々行動を開始する。
「俺の相手はそいつらで十分ってことか」
《ガルドミナス》は人型へ変形。手にしたロングライフルで2機の《エクスラスター》の間を狙い撃つ。
しかし牽制射撃と見抜いたのか、微動だにせずそれをやり過ごして見せる。
(少しくらい回避したらどうなんだ)
「ブレード1、2、迎撃に移る。スナイプ1、援護を」
『了解』
《ブレイド1》は両腕からビームブレイドを、《ブレイド2》は湾曲した光刃、ビームシミターを2本抜く。
(近接戦……まともに付き合ってられるか)
対する《ガルドミナス》は急停止と共に肩の機関砲とロングライフルを同時発射。近づかせず、かつ2機を視界に収められるように。
しかし、彼方で閃いた光がロングライフルを貫く。
「っ、スナイパーがいるか!」
《スナイプ》は右腕のビームスナイパーキャノンを排熱させ、母艦からエネルギーを充填する。左腕のガトリングユニットの出番はないと判断し、甲板についている。
バルカンの弾幕は緩めず、《ガルドミナス》は右腕のビームブレイドユニットを発振。
「そんなに近接戦が好きなら付き合ってやる!」
《ブレイド2》が横へ急旋回。同時に《ブレイド1》の刃と《ガルドミナス》の刃がぶつかり合った。
「ちっ、やっぱりダメだ!」
拮抗すらしないことを瞬時に悟ったグライは刃を納め、すれ違うように回避。《ブレイド1》は振り返りざまに切り払おうとするが、機関砲の嵐が視界を僅かに遮り、軌道を逸らした。
しかし息つく間もなく《ガルドミナス》が敵の接近を告げる。ビームシミターを振り上げた《ブレイド2》だ。
「良いチームワークだな、アイツに教えてやれ!!」
グライは一気にペダルを踏み込み、《ガルドミナス》は一気に前方へ加速。ビームブレイドを振り抜いた直後の《ブレイド1》を蹴りつけながらビームシミターを躱した。
「フェン……俺が死ぬ前に本丸を仕留めろよ」
(なに……あれ)
姿を消した《ライナルディン》は既に《ヒドゥンブレイグ》の背後へ回っていた。ステルスの持続時間は残り少ない。しかしフェンが奇襲を仕掛けないのには理由があった。
(護衛を向こうにやるなんて、明らかに誘ってるよね……)
フェンの全身は《ヒドゥンブレイグ》から放たれる気配を敏感に感じ取っていた。
(あなたも《ライナルディン》のお友達よね……なんか、《ライナルディン》がそわそわしてるもの)
心なしか、佇む《ヒドゥンブレイグ》の視線がこちらへ向いた気がした。ステルスは残り数秒。フェンは小さく笑い、選択する。
「見っけ!! オールキルライン!!」
ステルスが切れ、宇宙に姿を曝け出す。瞬間、大盾から迫り出した砲門から戦艦の主砲級のビームが放たれた。
その射線は《ヒドゥンブレイグ》、《ミッド1》、《ミッド2》、《ソナー》、《スナイプ》を同時に焼き払うものだった。
「よく見つけたね」
《ヒドゥンブレイグ》は腰部の大型無線誘導兵器を解き放ち、連結させてビームバリアを展開。その光を受け止めた。
長くは保たないことをサラは理解している。その僅かな瞬間に《ヒドゥンブレイグ》は射線から逃れ、
「ミッド1、2、防御兵装」
『既に展開済みです』
大型無線誘導兵器を散開、ビームバリアを解除した。
再び宇宙を走るビームを、《ミッド1》、《ミッド2》が両腕に展開したビームバリアが受け止めた。
ビームは弾かれるのではなく、受け流されるように進路を変える。二方向へ分かれた光は漂うデブリを焼き払いながら消失した。
「2機は例の兵装を展開。それまでは僕が相手する」
『『了解』』
「へぇ、結構やるぅ」
ライフルブレードを構えながらフェンは唇を舐める。
「しかも一対一。カッコいい〜」
彼女の感情に同調するように《ライナルディン》の眼が輝き、ライフルブレードからビームを放ちながら突進する。
「使ってるってことは……あれが実験No.9か」
《ヒドゥンブレイグ》は大型無線誘導兵器で《ライナルディン》を囲み、両腕の装備から二連装のビームキャノンを展開。迫り来る《ライナルディン》を迎え撃つ。
「この武器って」
大型無線誘導兵器のビームを回避し、ビームキャノンの砲撃を大盾で防ぎながらも、フェンは距離を詰めることを選ぶ。
「なぁんかM・Sの子が似たもの使ってなかった? パクリは良くないよ」
「重装甲でその動き、か」
サラは大型無線誘導兵器を呼び戻し、補助推力の役目へ戻す。そして右腕の装備が二連装ビームキャノンを格納し、肉厚な光の刃、ビームカリバーを解き放つ。
《ライナルディン》はライフルブレードの形態を切り替え、実体刃を振りかざす。通常ならばビーム兵器を迎え撃つ選択肢とはならない。
「でもそれを選んだってことは」
ライフルブレードとビームカリバーが衝突。しかしビームカリバーの光はライフルブレードを切断できず、
「まずは右!」
逆に実体刃はビームを通過し、《ヒドゥンブレイグ》の右腕を打ち据えた。衝撃でビームカリバーが一瞬だけ光を失う。
「耐ビームコーティング」
「そのまま頭!」
《ライナルディン》は腰部からサブアームを展開、ビームブレイドで刺突しようとする。
対して《ヒドゥンブレイグ》は肩の銃口からビームバルカンを斉射。装甲を貫くことは叶わなかったものの、《ライナルディン》を押しのけることでビームブレイドの軌道を逸らした。
「もう! ビームコーティングの塗料なくなりそうなのに!」
「ビームバリアが出来るまでは使われてたらしいけど」
残る左腕のビームキャノンを発射。《ライナルディン》は大盾で防ぐが、更に押し込まれて距離を離される。
《ヒドゥンブレイグ》は更に大型無線誘導兵器を再展開。四方からビームを《ライナルディン》へ吐きつける。
「フラれた!」
だが深紅の装甲は焼け跡こそ刻まれるが、ビームを通す事は許さない。大盾の砲門を開き、回転しながらビームを発射。大型無線誘導兵器の内3機を中破させ、機能を停止させる。
「壊れたらごめん!」
放熱を待たず、立て続けにビームキャノンを《ヒドゥンブレイグ》へ放った。
『ミッド1、2、捕獲兵装の起動準備を完了しました』
「了解」
サラは両腕の兵装からビームバリアを展開させ、《ライナルディン》のビームキャノンを防御。電光が迸り、コクピットの中でアラームが鳴り響く。
「オルトロスチェーン、起動」
「起動」
「っ、しまっ……!!」
接近する影に気づき、照射を止めた時には手遅れだった。《ライナルディン》を挟み込むように現れた《ミッド1》と《ミッド2》は両腕を射出。各兵装が展開すると同時に糸のように細いビームを《ライナルディン》へ照射する。
そのビームは装甲を焼き切る為のものではない。
「ぁっ、がっ……!?」
フェンの頭の中に響く不協和音。脳をミキサーで掻き回されるような激痛と不快感が襲い、シートベルトで拘束された中で悶え苦しむ。
《ライナルディン》のメインシステムが全てダウン。メインカメラから光が消える。
『フェン!? 何が起きてる!?』
「ぐ、ラ……が、ぉ、うぐぅぅぅ!!」
遂には目や鼻、耳から流血し始める。伸ばした指が虚空を掴む。
「痛ぃ……グライ……た……す……」
そのままフェンは意識を失った。
「フェン!? フェン!!!」
《ガルドミナス》は2機を振り切り、《ヒドゥンブレイグ》の元へ突進。
『《ヒドゥンブレイグ》、申し訳ございません、抜けられました。すぐに追撃します』
「別にいいよ」
《ヒドゥンブレイグ》は両腕をビームキャノンへ変更、肩のバルカンと残る大型無線誘導兵器を斉射する。
「どうせ辿り着けな ──」
「こいつかぁぁぁぁぁぁ!!!」
グライは叫ぶ。ビームの雨を掻い潜り、ビームバルカンを受けながらその勢いは止まらない。
だがサラが言葉を止めたのはそれだけではない。
『ひっ……』
《ソナー》からの小さな悲鳴。自分からの脳波を上回る殺意を傍受した証拠だ。
(僕の脳波に一瞬でも割り込むなんて)
『狙撃援護、開始します』
《スナイプ》からの狙撃すら回避し、《ヒドゥンブレイグ》へ肉薄する《ガルドミナス》。
「生意気だよ」
ビームブレイドを突き出す動きに合わせ、《ヒドゥンブレイグ》はビームバリアを押し付ける。だが《ガルドミナス》はそれに突き当たる瞬間に消し、その腕を蹴り上げた。
ガラ空きとなったコクピットへ、再び発振させたビームブレイドを突き出した。
「旧式の機体に乗った旧人類が」
それを、残った1基の大型無線誘導兵器が放った光が貫いた。切断された右腕を見ていた時間は刹那だったのだろう。
だがそれを認識するより早く、《ヒドゥンブレイグ》が振るったビームカリバーが《ガルドミナス》の残る手足を切断していた。
「っ……!」
最後の足掻きで乱射した機関砲も焼きつき、止まる。スラスターも完全に焼きつき、凡ゆる抵抗の術を失ってしまった。
「僕に敵う筈ない」
海賊とはいえ、下された命令は捕縛。無力化した時点でこの作戦は終わりだ。
(まだ抵抗するなら話は別だけど)
やがて《クロウブースター》から信号弾が放たれる。その色は降伏を示すもの。
(まぁ、それなりに楽しかったかな)
《ブレイド1》と《ブレイド2》が《クロウブースター》の確保へ向かう背を見送りながら、サラは沈黙した2機を見ていた。
(No.9は、まぁ想定の範囲内って性能だったけど)
《ソナー》に確保される《ガルドミナス》を見るサラの眼は、彼自身も知らぬ間に厳しいものとなっていた。
(なんなんだ……ドナーでも、レセプターでもない只の人間が……)
「船長……!」
不安げにレイツの裾を引く操舵手の少女。
「俺達、どうなるの……!?」
他の子供達も駆け寄る中、レイツはあるものを起動した。
ストームから託された通信端末。それにあるメッセージを打ち込み、そして端末を踏み砕いた。
(さて……後はこっちでやるだけやるしかない)
レイツの目の光は未だ、消えていない。
続く
 




