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第47話 目醒める意志

 

 大型無線誘導兵器達が一切の動きを止めたかと思うと、一斉にある場所へと飛翔する。主たる《ジェネレビオ》の元へ戻り、その役目を移動火砲から補助ブースターへと変える。

 《カーズィスト》へ背を向けた刹那、《オルドレイザー》達が交戦する場所へと飛び立った。

「あぁ! 逃げるなー!!」

 レイは戦いを放棄されたと思い、追い討ちをかけるようにロングライフルからビームを照射しようとする。しかし、

「あっ、ぐぅっ!?」

 トリガーを引こうとした瞬間、レイの頭を電流が走る様な激痛が襲う。それをもたらしているのは、姉であるリースだ。

「隊長が、危ない……!? 嘘だよぉ、隊長は負けないからぁ……やだぁやだぁ! 今は僕の身体、貸したく、な、い……!」

 レイは理解している。自分にリースの要求を拒む力などないことを。彼女が望めば、自分は彼女の人形になるしかないことを。

 リースは今、恩人であるクディアの身を案じ、そこへ向かおうとしている。《ジェネレビオ》を撃墜したいというレイの願いなど聞き入れる気はない。

「う、うぅ……! リース……隊長のこと、好きすぎるよぉ……!」

 その言葉を最後に、レイの意識は闇へ消える。


 そして、宿主が変わった《カーズィスト》の姿も大きく変容する。


 頭部が格納され、両腕は折り畳まれると同時にマニピュレーターが肩へ接続、装甲がスライドし、スラスターが出現する。脚部は腰部と共に回転、背面へ回り込む。

 同時にサブアームからマニピュレーターが出現、サブレッグは腰部の冷却装置と接続されることでブースターへ変形。

 そしてもうひとつの頭部が姿を現す。赤いモノアイと前方へ大きく伸びた、異形のもの。


「大人しくしろストーム!」

「うるせぇお前こそ引っ込んでろ!!」

 接近戦、一撃離脱を得意とする《ナチュラリー・ハイマニューバ》に対し、後方支援と長期戦を主軸とした《ヴァレットボックス》。ビームブレイドにおける戦いにおいてどちらが有利なのかは明らかだ。

 《ナチュラリー・ハイマニューバ》が振るうビームブレイドを回避しようとするも、掠った右腕の装甲の一部が燃える破片となって飛ぶ。

「これじゃただの《ナチュラリー》に逆戻りじゃねえか!」

 全ての武装プラットフォームをパージ。《ヴァレットボックス》は少しばかり装甲が厚い《ナチュラリー》へ変わり、身軽になる

 もう1本のビームブレイドを発振、再び《ヴァレットボックス》は突進。

 《ナチュラリー・ハイマニューバ》は僅かにスラスターを吹かせて後方へ躱すが、《ヴァレットボックス》は振り抜いた勢いのままもう1本のビームブレイドを突き出す。

「Ⅲ型ベースで、よくやる!」

「ⅢとⅣに大した違いなんてねぇよ!」

 ビームブレイドの鋒は《ナチュラリー・ハイマニューバ》のブレードアンテナを溶かす。更に再び振るわれるビームブレイドに対し、クディアはビームブレイドでの迎撃を選択する。

 電磁波の鍔迫り合いは、《ヴァレットボックス》がもう1本のビームブレイドを加えた事で勢力が傾く。

「……人殺しの腕は、鈍ってないか」

「いい加減にしろよ」

 ストームの声色が明らかに変わる。


「殺すぞ」


 クディアは知っている。彼がこの言葉を使う時は脅しではなく本気だということを。

 だからこそ、本物の殺意に充てられた彼女を呼び寄せてしまった。

「この反応……《カーズィスト》!?」

「ちっ!」

 《ヴァレットボックス》は《ナチュラリー・ハイマニューバ》を蹴り飛ばし、背後に現れた《カーズィスト》へ向き直った。

 だが、

「ドナーの私でも分かる」

 《カーズィスト》が掌から発振したビームダガーは《ヴァレットボックス》の両腕を半ばから切断。

「っ、やべぇやらかした!!」

 更に《カーズィスト》のバックパックが変形。マニピュレーターに似た小さな砲門から小さな光弾、ビームショットシェルを発射。

 《ヴァレットボックス》の下半身は吹き飛ばされ、引き裂かれた箇所から爆発が連鎖する。

「あなたから危険な波長を感じる」


「……脱出!!」


 愛機の末路に後ろ髪を引かれながら、ストームは脱出装置を起動。

 《ヴァレットボックス》の背部から飛び出した脱出艇へ、《カーズィスト》はロングライフルの銃口を向ける。しかし、

「よせ、リース」

 それをクディアが止めた。

「隊長……私だって分かってくれた……嬉しい」

「あぁ。目的は達成だ。あとはM・S次第だな」



 両目を失った《モーレイング・ギガンテ》が咆哮。すると巣穴へ引っ込んでいた《モーレイング》達が続々と現れ始める。

「ペイルやばい! あの数はやばいって!」

「少しでもこっちに注意を引くぞ!!」

 《ブラストハンド》はビームを、《ストーク》はミサイルを斉射。ビームは《モーレイング》を焼き穿ち、ミサイルは突き刺さった後に内部へ金属片をばら撒きながら爆発。

 仲間の死を目の当たりにした《モーレイング》の何匹かが一斉に攻撃が来た方向を見る。2機の影に気づいた瞬間、エネルギー弾を放ちながら突進。

「食いついた!」

「頑張って逃げるから狙撃よろ!!」

 アルルは《ストーク》の推力を活かし、一定の距離を保ちながら逃走。ペイルはその状態から《ブラストハンド》のビームスナイパーライフルをショートレンジモードで発射。数匹を撃墜したものの、放たれるエネルギーの弾幕は2機を追い立てて行く。

「まずい……! アルル、一度分離し ──」

「っ、無理!!」

 アルルは捉えた。こちらへ殺到するビームの群れ。加えてこちらを囲んで狙い撃とうとする別の群体。包囲された状態では回避は出来ない。

 《ストーク》を盾に、《ブラストハンド》を守ろうとした時だった。


 飛来した2つのビームバリアが立ち塞がると、熱線の雨を防いだ。それと同時に《ストーク》達を包囲していた《モーレイング》の群れが2本の光条に貫かれ、四散する。


「え……」

「あれは、《ジェネレビオ》の……」

 ペイルの目は、《モーレイング》を焼き払い、戻って行く大型無線誘導兵器の姿を見逃さない。その先にいた機体もまた、同様に。

「ネクト……そうか、っ、そうか!」

「ぃやったぁぁぁ!! さすがネクトちゃん!!」


 2人の無事を確認したネクトは、《ジェネレビオ》から再び大型無線誘導兵器を射出。

 ビームバルカンとメデオライフルで《モーレイング》を迎え撃っていた《オルドレイザー》に助力する様に、4基の砲口からビームを斉射。格子状に張り巡らされた光の網に、ある個体は貫かれ、ある個体は止まりきれずにその身を焼き切られる。

 大型無線誘導兵器は絶えず位置を変え、格子の目を複雑に変化させ続ける。しかしその中心にいる《オルドレイザー》だけはその網に囚われない。


(ネクトが狙っている位置が……考えが……)


 網の隙間を掻い潜ろうとした《モーレイング》を、メデオライフルが貫く。


(分かる)


 そして背後からビームを放とうとする《モーレイング》にも、振り向かずにメデオライフルを発射。ネクトが感じ取った気配は全て、シェイクの意識へ届けられる。


 メデオライフルを格納し、メデオバスターブレイドを抜剣。狙い据えるは《モーレイング・ギガンテ》。

 自らの手下を全て焼かれた《モーレイング・ギガンテ》の身が大きく震え上がる。異形の怪物は自らより遥かに矮小な存在達に恐怖し、その身を穴の中へ投じようと背を向けた。


「逃がさない」


 だが《オルドレイザー》の追撃がそれを上回る。瞬時に真正面へと回り込み、メデオバスターブレイドをその鼻先へと突き立てた。

 苦悶に身体をくねらせる《モーレイング・ギガンテ》。末期の足掻きで無様にヒレを振り回し、下顎を何度も上下させるが、そのどれもが《オルドレイザー》には届かない。


「《オルドレイザー》!! いっけぇ!!!」


 ソーンが叫ぶ。メデオバスターブレイドの実体刃が展開し、内部のメデオブレイドが光の白刃を解放。その長さはいつか、《オルドレイザー》が真の力を解き放ったあの時に劣らないものへ伸び、そのまま全ての推進力を解放。《モーレイング・ギガンテ》を両断しながら自身を弾丸の様に撃ち出した。


 長大な身体を真っ二つに斬り裂かれ、宙に浮かぶ。更にそれを大型無線誘導兵器が焼き切り、その身を爆炎と灰燼へ変えた。



「《モーレイング・ギガンテ》、反応消失しました!!」

「おいおいおい、建設予定地ごと吹き飛ばすのは可哀想だろ! ハッハッハッ!!!」

 コムニからの報告を受けたダイゾウは、言葉とは裏腹に大きな笑いを上げた。

 そして僅かに振り返ると、閉まった扉の向こう側にいる人物へ言葉を掛けた。

「てなわけだ、お前も早く休め! みんなを出迎えてやるまでな!」


「はは……その通り、だな」

 つい先程、目を覚ましたばかりのグリムは車椅子に腰掛けながら苦笑する。

 それを押すメロウも、つられた様に笑った。



続く

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