第44話 無情な侵食
高速で飛来する敵に気づいたデヴァウル達はその方向を一斉に睨む。だが迎撃に移るより早く、光が閃いた。
メデオバスターブレイドの実体刃が展開、隙間から白色のエネルギー刃が噴き出し、一薙でデヴァウル3匹を両断。返す刃が更に3匹を斬り伏せた。
『今からそのウツボ野郎どもを《モーレイング》って呼ぶぞ! 《オルドレイザー》と《ブラストハンド》は《モーレイング》の掃討に注力しろ!』
ダイゾウからの通信にシェイクとペイルは頷く。《オルドレイザー》は肩のビームガンを放つと同時に再び急加速。《モーレイング》を撃ち抜くと、その背後から這い出てきたもう1体の《モーレイング》を斬り捨てる。
しかし空いた無数の穴から無限に《モーレイング》は湧いて出る。《オルドレイザー》を撃ち抜かんと大口を開け、エネルギーを溜める。
それでも振り向こうとしない《オルドレイザー》。何故なら、
『モギュゥッ』
彼方から放たれた光が《モーレイング》の頭部を撃ち抜くと知っていたから。
『ナイスショット!!』
「流石、特注品のコンタクトだな」
『謙虚〜』
《ブラストハンド》は手にしたライフルのハンドルを引き、強制排熱。もう一度《モーレイング》を狙撃した。
「アルル、ポイント変更頼む」
『了解〜』
《ブラストハンド》と接続した《ストーク》は飛翔。変形するよりも早く《ブラストハンド》をポイントへと移送する。
「……ソーン、念の為に聞くが、彼奴は」
「赤いのはいない。でも……」
「何だ?」
《モーレイング》へメデオバスターブレイドを叩きつけ、振り向きざまにビームクローで別の個体を貫きながらシェイクは問う。
「遠くから、来てる。《オルドレイザー》と同じ子が」
『レイ、リース、あくまで今回は最終調整の為の機動試験だ。戦果を上げるよりも、《カーズィスト》を傷つけない立ち回りを心がけろ』
「はーい」
クディアからの命令に意気揚々と手を挙げるレイ。面を上げた《カーズィスト》のツインアイが怪しく輝き、クディアの駆る《ナチュラリー》から離れていく。
「チッ、来ちまったか新型……格納庫、《ジェネレビオ》は出せるか!?」
『待ってろ、すぐに出すから!』
格納庫では既に《ジェネレビオ》がカタパルトへ接続され、後は出撃するのみ。それでも先のダイゾウの指示で出なかったのは理由があった。
「おい、ネクト」
「っ」
コクピットの中、不安に身体を震わせながら2つのペンダントを握りしめていたネクトは、外からのパストゥの声に息を呑んだ。
その表情は怒っているような、心配しているような、とにかく険しいものだった。
「行っちまう前に、どーしてもお前に言わなきゃならねぇ事がある」
「……」
パストゥは装甲越しに自分の拳をネクトへ向けた。
「絶対負けるんじゃねぇぞ」
「え……?」
彼女の口から出た言葉に、思わずネクトは真意を問おうとした。だが既にパストゥはおらず、発進のサイレンが鳴り響く。
《ジェネレビオ》のメインシステムが起動、周囲の様子が映し出された。
カタパルトデッキの通路。祈るように胸の前で手を合わせるメロウの姿が目に入る。
(メロウ、姉さん……)
不思議なもので、ネクトが見つけた時と全く同じタイミングでメロウの顔が上がる。装甲とコクピットという分厚い金属の壁で隔たれている中、きっとメロウはネクトが見ていることを知らないだろう。
だがまるでネクトが見ている事を分かっている様に、メロウは微笑みかけた。涙を溢さないように堪えながら。
『発進準備完了! コールお願いします!』
「了、解……」
操縦桿を握った瞬間、ネクトはメロウの口が紡いだ言葉を受け取る。
「いってらっしゃい、ネクト」
「……ネクト・ストラングス、《ジェネレビオ》、カタパルトアウト!!」
《ジェネレビオ》が宇宙へ飛び立つ。やがて《カーズィスト》へ並ぶと、HERIの回線から通信が届く。
『それではこれより、《カーズィスト》及び大型無線誘導兵器の実地試験を開始します。各員、配置について下さい』
HERIの艦からの指示に従い、《カーズィスト》は前へ、《ジェネレビオ》はその少し後ろへ移動。
(大型無線誘導兵器はマニュアルからオートに切り替えた……あとはHERIの指示通りに)
── 独断か、指示かは知らないけど、ズルはダメだよお姉さん ──
「ぅくっ!?」
その時、ネクトの全身に悪寒が走る。血液を別の冷たい液体に全て入れ替えられたような不快感に加え、瞬く間に思考が鈍っていく。
(みんなが頑張ったのに……また、私の所為で……!)
以前とは異なり、自分の意識を離すまいと抵抗するネクト。握りしめる操縦桿へ折れんばかりの力が篭る。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……!!」
だが覚醒ガスを吸おうと、太腿に爪を突き立てようと、薄れていく意識を繋ぎ止める事は出来ない。ネクト自身は気づいていないものの、彼女の銀色の瞳は青色に明滅を繰り返していた。
「こうなっ……たら……」
ネクトが手を伸ばしたのは、《ジェネレビオ》の緊急脱出装置。いくらパイロットを洗脳しようと、それを失えばDCDは何も出来ない。
── なるほど、この状態でそこまで頭が回るんだ ──
だが、遅かった。
── 傀儡にするには少し勿体無いかも ──
レバーを握る手が止まり、やがて操縦桿へと戻る。
虚な瞳が青色に染まっていた。
《ジェネレビオ》の大型無線誘導兵器が展開。2基は前方へ、残りの2基は後方へ飛翔すると、
「あれ? うわぁっ!?」
《カーズィスト》とHERIの艦へビームを照射。《カーズィスト》は瞬時に身を翻し回避したが、HERIの艦は避け切れずに艦底を焼かれた。
「隊長、隊長! 何で味方が撃ってきたの〜!?」
『どういうことだ……ドリアーズ、状況は把握しているのか!?』
『こちらも先程通信を飛ばしたが、応答しない。《アスカロン》からの返答待ちだ』
「隊長、どうすればいいの〜!? わぁっ!?」
クディアとドリアーズが話す間にも、《カーズィスト》と艦への攻撃が止まない。
『ドリアーズ、《カーズィスト》はともかく艦が避けられない! 試験を中止しろ!』
『中止したとて、あのDCDが止まる訳ではない。最悪の場合は……』
「うぅあぁぁ、邪魔〜!!」
ドリアーズの言葉の先を、レイが行動で示す。振り返りざまに《ジェネレビオ》へロングバレルライフルからビームを発射し、交戦を開始したのだ。
「やっつけてやる〜! リース、バックアップして!」
『よせ、レイ! そんな事は許可していないぞ!』
クディアの制止には耳を貸さず、レイは《ジェネレビオ》を討つべく迫る。
そして彼の姉であるリースも同じ意思だった。バックパックユニット内部で黙していた彼女の青い瞳が輝きを増すと、それに呼応する様にレイの瞳も輝く。
《カーズィスト》のツインアイもまた碧色から青色へ光を変え、バックパック側部のブースター、もう一対の腕が展開して肩へ接続。小型のビームキャノンへ変形し、ロングバレルライフルと併せて《ジェネレビオ》を襲い始めた。
『まずいな……ドリアーズ、そのままM・Sへの連絡を続けろ! 俺達は《ジェネレビオ》を押さえる!』
「了解、進展があり次第連絡する」
ドリアーズは通信を切ると、《モーレイング》を討伐していく《オルドレイザー》達と、交戦する《ジェネレビオ》と《カーズィスト》が映るモニターへ目を映す。
「理屈が分かろうとも、対処する術がなければな」
そして彼の隣で《ジェネレビオ》を操作するサラは、ヘルメットの中で溜め息を吐いた。
「欠陥品との戦闘データって、どれくらいの価値があるんだろう……」
続く




