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第41話 君の領域へ

 

 後日、ストームとドリアーズは再び顔を合わせる場を設けた。あの時と変わらず、2人以外には誰もいない。サラと呼ばれた少年も同席させるようストームは伝えていたのだが、

「《アスカロン》へは来ていますよ。ですが、わざわざこの場に居合わせる必要はないでしょう」

と言われてしまった。だがダメ元だった為それには言及しなかった。


「合同作戦……か」

「どちらにとっても、いや、あなた達にとっては特にメリットがある提案かと」


 浮かび上がったモニターへ刻まれた文章。それはコロニー建設予定宙域に棲み着いたデヴァウルの掃討作戦の内容だった。

「政府軍の方で対応する任務に見えるが?」

「あまり外部に話すべき内容ではありませんが、隠し事は不要な疑いをもたらします。情報を開示しましょう」

 ストームは以前の様にドリアーズの物言いへケチをつける真似はしない。とにかく情報が欲しいためだ。

「そのコロニーがHERIの管轄に置かれるものであることもありますが……直属部隊に新型のDCDが配備されましてね、ほんの少し前に」

「性能テストを兼ねての任務って訳か」

「パイロットにとっても良い経験となるでしょう。……して、この任務には条件がございます」

「《ジェネレビオ》の参加、だろ? あのバグ兵器を付けてな」

 作戦内容を話の間に全て読み進め、ストームは躊躇いなく承諾書の同意パネルを押す。

「承諾いただき光栄です。内容の確認くらいはして欲しかったものですが……今度こそ、お互い良い結果を得られるよう尽力いたしましょう」

 その態度を訝しむような表情は浮かべたものの、ドリアーズは話を終え、席を立とうとする。

「なぁ、こっからは仕事の話じゃねぇんだけど」

 しかしストームはそれを止めるように1枚の画像をモニターへ映し出した。

「懐かしいだろ、訓練生時代の卒業写真。俺とお前、ゾルワルト、レイツと……こいつはクディアだったな。こっから先はみんな違う場所行っちまったが……ってかこれもう18年前だってよ」

「……何の話をしたいのか、申し訳ないが理解出来ません」

 モニターを閉じ、呆れたような溜息で返す。

「前から嫌味な奴だったが、なんか変わったよなって話だよ。昔は冷めてたが……今は何かを追い求めてる面になった」

「……」

 部屋を出ようとしたドリアーズの足が止まり、僅かに振り返る。

「俺達にこんな真似してまで何をしたいのかは知らないが、熱意を持って何かに臨んでいるのは羨ましいなって思ったのさ」

「……何を言うかと思えば」

 普段の作ったものとは違う低い声色。だがそれとは対照的に、ドリアーズの口元は小さく上がっていた。

「君の方こそ、何かに取り憑かれでもしたんじゃないのか。″人喰い″なんて呼ばれた君が、こんな血の臭いもしない場所でぬくぬくと生きているなんて」

「それが今の仕事、だからな」

 ストームもまた小さく笑い、返事をした。



── この艦にあなたの能力を勘づいている者がいます。くれぐれも注意するように ──


 そう忠告されたサラは、《アスカロン》の格納庫の目立たない位置である機体を観察していた。

(あれが《オルドレイザー》……僕達の手に渡るはずだったDCD)

 一見すると、HERIにて管理されている隕石から発掘されたDCDと雰囲気は似通っている。しかしこうして相対すると、奇妙な胸の高鳴りを覚える。

(これを何に使う気かは分からないけど……)

 《オルドレイザー》へ手を伸ばす。その機体にサラが触れようとした時だった。

『触らないで!!』

 ミニマムモニターがそれを遮る。飛来した方向を見ると、そこには少女の姿があった。

(この女……そっか。あの時、僕の意識を弾いたのはこいつか)


『《オルドレイザー》に何しようとしてたの!?』

 ソーンはサラへ向けて厳しい視線を向ける。サラと同様、ソーンもまた気づいていた。

(この嫌な雰囲気……この男の子だ……ネクトの中にいたのは!)

 会話も無く見つめ合う2人。だがその間には異様な気配が漂っていた。

 サラのヘルメットに走るラインが発光する。瞬間、ソーンの脳内に言葉が響き渡る。

『そんなものに頼らなくても、こうやって意思を伝えれば良いのに』

(な、に、これ……声……!?)

『ん、君はレセプターだったのかな。いや、だったらあんな真似は出来ないか。単に脳波の送り方を知らないんだね』

 サラはヘルメットを外し、その素顔を露わにする。

 薄紫の髪は肩まで伸び、青い瞳が怪しい輝きを放っている。そしてそれを知覚した時、

「ぅ……っ、ぁ、ぅぅ!?」

 全身を何かに絡め取られるような感覚に支配され、身動きの一切が取れなくなる。そんなソーンを、サラは誰の目にも届かない壁際へ優しく押しやる。

『お姉さん。君もドナーなら、自分の力くらいいつでも扱えなきゃ』

(ドナー……? レセプター……? なんの、こと……!?)

 するとサラの手がソーンの胸元へ置かれる。

(ひぃぃぃ!? 何してるのこの子!?)

(……おかしいな。このレベルの完成度であんな事が出来る筈……)

 サラはソーンの服の上から、彼女に刻まれた荊棘の模様を探る。だが彼にはどうしても理解出来なかった。

 自身を弾き出すほどの能力の秘密がどうしても探れない。

(何か特殊なデバイスで補強していた? いや、別の波長は混じっていなかった。ならどうして……)

「ぅ、ぅぅぅ……!」

 思考するサラの意識を遮ったのは、絞り出すようなソーンの呻き声だった。

『このスケベ!! あっち行きなさい!!』

 続くように頭の中へソーンの叫びが響き、サラを突き飛ばしたのだ。先程までは身動き一つ取れなかったにもかかわらず、ソーンはそのまま格納庫を脱兎の勢いで去って行く。

(早くシェイク達に伝えなきゃ……ネクトを乗っ取ったあの子のことを!)


 サラはヘルメットを被り直す。自分の力に勘付いている者の正体は掴んだ。だがドナーとレセプターの詳細はおろか、その名称すらHERI以外には発表されていないもの。証拠として扱うにはかなりの時間と補足要素が要するだろう。

 それ以上にサラが気にしていたのは、突如ソーンが脳波を送り込み、同時に拘束を解いたこと。

(僕のヘルメットは脳波の照射を誘導して有効範囲を広くするものだけど……彼女にも似たような補助装置が……?)

 その時、サラはあるものを見た。

(……なるほど)


 《オルドレイザー》のツインアイにいつの間にか灯っていた光が、消える瞬間だった。



 ネクトの部屋の前に立って、もう1時間が経つ。メロウの手には食事ではなく、1枚のカードキーだった。

 《アスカロン》の重要設備を含めた全ての部屋へ出入り可能なマスターキーである。グリム、ダイゾウ、そしてメロウの指紋を認証することで起動する為、他の人間が使うことは出来ない。

「……」

 部屋は防音な為、中の様子を伺うことは叶わない。変わらず食事をしている気配もない。それでもいつかは、と信じていたメロウの頭には、いつしか最悪の事態が脳裏を過るようになった。

(そんなわけない、そんなわけないのは分かってる……)

 だが扉の先で、彼女が物言わぬ身体に成り果てていたら。メロウの手は認証部へカードをかざせずにいたのだ。

(でも、もしも……!)

 手が下がり、扉から後ずさろうとした時、

「っ、ひっ!?」

 背後から何者かがメロウの手を握り、カードキーを認証部へと押し当てたのだ。

「ありがとう」

「シェイク……!?」

 声でようやくその正体に気づく。だが真意を聞くよりも早く、シェイクはネクトの部屋へと入ろうとする。

「待って!」

 メロウはその手を掴み返す。

「私が、私が行かなきゃいけないから……」

「……メロウ姉さん」

 それに対し、シェイクはメロウの手を握り返した。


「姉さんは、ネクトの最後の逃げ道になってくれ。拒絶されるのは俺だけで良い」


 手を離し、シェイクは扉の向こうへ消えていった。


 立ち尽くしたメロウの手から、マスターキーが零れ落ちた。



続く

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