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第40話 微かな証を

 

「さーて、進捗いかがっすかー?」

 無人の格納庫にストームの独り言が吸い込まれる。決して遊びに来たのではなく、あるものを確認するために訪れたのだ。

 それは空間の隅に設置された管理端末。そこではDCDや《アスカロン》の整備結果、開発中物資の進捗など、あらゆるM・S製品の情報が管理されている。

 HERIで開発され、現在M・Sによって調査されている大型無線誘導兵器も例外ではない。

「どれどれ……ふーん」

 端末を起動し、宙に浮かび上がるモニターへ目を通す。しかしその内容はストームが望んだ結果ではなく、予想していた結果通りだった。

「現状、内外問わず不審な部品、痕跡は無し。全て政府の検閲を受けたもので組み立てられており……やっぱそうか」

 大型無線誘導兵器に細工は施されていない。それは確定かもしれないストームは考えていた。そうでなければ《ジェネレビオ》が《オルドレイザー》達に反撃をした説明がつかない。

(となると、原因は違う場所に……)

 ストームの中であることが引っかかっていた。それはドリアーズが連れていた、サラという少年。初めて《アスカロン》へ訪れた時には片時も離れずドリアーズの側にいたというのに、ここ最近は全く姿を現していない。

(……いや、こじつける事すら出来ねぇ。今はとにかく考証材料を)

 その時、何かがぶつかる音がした。部品ではない。人間がぶつかった音。

 ストームは声を上げず、音の発生源を即座に目指した。そこにいたのは、

「……パストゥちゃん?」

 工具を握ったまま動かないパストゥだった。側には内部機器が露出した大型無線誘導兵器。それらを見たストームはすぐに音の正体に気づいた。

(さては1人で徹夜してたな。それもあの日から一睡もしないで)

 閉じられた瞼の下に浮かんだ隈、油と埃で黒ずんだ作業服とタンクトップ。彼女が無茶なことをしているのは明らかだった。

 心強くはあるものの、気絶するまで身体を張られては床に臥せる者が増えてしまう。ストームはパストゥを抱き上げ、仮眠室へ連れて行こうとする。

「ん……」

「あ、やべ、起きちゃったか。ごめんなパストゥちゃん」

「……ぉ、さん……っ、おっさん!!?」

「おっさんじゃなくてお兄ざぁっ!?」

 目覚めた直後、パストゥに頬をスパナで殴られストームは吹っ飛ばされてしまった。

「いってぇぇぇ!!! ほっぺ取れてない!? 取れたよなこれな!? 感覚がねぇもん!!」

「寝込みに何しようとしてんだ変態野郎!!」

「こんな場所で寝落ちしてる不用心な人を仮眠室に送ろうとしただけですー!!」

「うるせぇ! 言い訳なんざ……ふぁぁ、み、見苦し……」

 と、口数が急に減り、またしても瞼が降り始めるパストゥ。ストームは小さく溜息を吐いた。

「ま、話は少し寝てからにしようや」



「何処を探しても見つからねえんだ……怪しいものなんて……」

 仮眠を終えて目覚めた矢先、パストゥは沈んだ声で話し始めた。普段は強気な彼女の弱々しい声。それがM・Sの現状を物語っていた。

「でもここで止めたらネクトと《ジェネレビオ》がやった事になる……」

「ネクトの独断って事にされるだろうな。加えて《ジェネレビオ》にもケチをつけるかもしれない。そういう奴等だ」

「そんなのありえねぇ!」

 パストゥは声を荒げる。

「ネクトがやるわけないだろ……生意気な奴だけど、絶対に……」

「もちろん分かってる。だけど時間稼ぎもそろそろ限界に近くてな」

 ストームは彼女の肩に優しく手を置くと、いつになく真剣な眼差しを向ける。

「何でもいい。パストゥちゃんが気になった事を教えてくれ。それがこの状況を変えるきっかけになるかもしれない」

「何でも……ったって……」

 肩をすくめるパストゥ。彼女は若いが、整備してきた年数と機体の種類はベテランと呼ぶに相応しい。そんな彼女だからこそ何かに気づく筈だと、ストームは信じていた。

「……あのファイアスケイルのパクリ兵器」

 パストゥは自信がない様子で口を開く。


「脳波を受信して動くって設計らしいけど、パイロットスーツとヘルメットにも似たもんがくっついてんのは妙だったな……脳波を増長させる素材とは言ってたけど……」


「……なるほど」

 それを聞いたストームの頭の中に、新たな仮説が浮かぶ。

「ありがとなパストゥちゃん。ゆっくり休んでてくれ」

「はぁ? 何言っもふ」

 ストームはパストゥへタオルケットを投げ渡すと、仮眠室を後にした。

「……んだよ。自分だって寝てねー癖に……」

 だがタオルケットへ顔を埋めているうちに、パストゥは再び眠りについてしまった。


 仮眠室をでた直後、ストームの端末にある人物から連絡が届く。

「何の用だドリアーズ……っ、おい、勝手に話を……いや」

 ストームは電話の主、ドリアーズからの要件を耳にし、小さく笑った。

「詳しく聞かせろ」



「……」

 格納庫にはもう1人いた。

(《バインドホーク》……)

 ソーンは《バインドホーク》の前で立ち尽くしていた。身体を両断され、焼き尽くされた痛々しい姿。修理する時間がなく、損傷箇所に布を被せられた様は悲壮感が漂っていた。

(あの時、ネクトの中にいたのは誰だったんだろう……)

 その隣に立つ《ジェネレビオ》に目を向け、あの日の出来事を思い出す。純粋な様で、心を絞めあげる様なドス黒い気配。

 だがそれは間違いなく、ソーンのものとよく似たものである事に気づいていた。

(……っ?)

 考えを巡らせていると、あるものに目が行く。


 《ジェネレビオ》の隣に立つ《オルドレイザー》。その前に鎮座するユニット。

 円柱状のロケットブースター4基、中央ラックに設置された《ソニックスラスト》のビームバスターブレイドによく似た大剣。


 それに近づき、放置された設計書の名に目をやる。

(スターダストラッシュ、ユニット……?)



続く

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