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第38話 コンフュージョン・ストライク

 

『システム最終チェック段階に入ります。無線誘導兵器、ヘルメットとスーツへ同期開始』


 《ジェネレビオ》へ搭載された大型無線誘導兵器。バックパックと腰部へ2枚ずつ、計4枚搭載されている。

「この武装の最大の特徴は、パイロットの脳波を専用のヘルメットとスーツを介して送信、より精密で細かな挙動を可能とする点。良いデータが得られる事を祈っています」

 ドリアーズは《ジェネレビオ》へ、正確には中にいるネクトへ一礼する。

 そんな彼の背後へストームが立つ。

「おやおや、どうかされましたか? ストーム少佐」

「今は少佐じゃない。悪さしないか見とくだけだよ」

 ストームは《ジェネレビオ》の脇に立つ、《オルドレイザー》と《バインドホーク》を指差す。

「お前らの信用は皆無だからな」

「護衛をつけてくれるなんて何とも喜ばしい事だよ。近頃物騒だからね。私達の《ナチュラリー》とよろしく頼む」

 飄々とした様子で語るドリアーズ。ストームは睨みを効かせていたが、やがてあることに気がつく。

「……おい、あのガキはどうした」

「あぁ、サラの事かい? 彼なら私達の艦に戻っているよ」

 ストームの胸中に一抹の不安が過る。彼はまだ幼い少年である。警戒するのは些か過剰なのではないか。そう何度も自身へ言い聞かせるが。


『ヘルメット、スーツのシステム同期完了、《ジェネレビオ》、発進して下さい』


 不安を拭えないまま、格納庫からカタパルトへ移動していく《ジェネレビオ》を見ていた。



『これより、大型無線誘導兵器の実地試験を開始します。ファーストステージ、テスト用バルーン射出』

 HERIの艦、《グラム》から届く無機質な声と共に、船主側部からバルーンを射出。膨張したバルーンは小さな推進器を点火、バラバラの方向へ散っていく。

『全てのテスト用バルーンを、大型無線誘導兵器にて撃破して下さい』

「了解しました」

 《ジェネレビオ》は射程圏内に収めるべく前進。大型無線誘導兵器に搭載されたスラスターも火を吐き、その移動を補助する。瞬く間にバルーンを捉えると、ネクトは大型無線誘導兵器を展開。

(脳波でのコントロール……レーダーでロックした対象に、自分でルートを定めて……)

 事前に受けた説明通り、頭の中で導くようにルートを思い描く。それに呼応するようにヘルメットとスーツに刻まれたコードが銀色に発光。大型無線誘導兵器はバルーン達を先回りし、ビームを発射。通常のビームライフルと大差ない出力で放たれた熱線は、バルーンを跡形もなく焼き尽くした。

(いける……!)

 取り逃した他のバルーン達もすぐさまレーダーで捉え、脳内で描いたルートを送る。大型無線誘導兵器は忠実に移動、バルーン達を包囲すると、ビームを発射。逃げ場を失ったバルーン達は成す術なく蒸発した。

『テスト用バルーンの全機撃破を確認。ファーストステージ終了。セカンドステージへの移行準備を開始します』


「流石ネクトだな」

「……あぁ」

 少し離れた場所でその様子を見守っているシェイク、ソーン、グリム。安堵した様子のグリムとは対照的に、シェイクは終始暗い表情を浮かべていた。

(シェイク……やっぱりネクトの事、心配なんだ……)

 ソーンは知っている。家族を案じているシェイクが、特別ネクトのことを気にかけていることを。

(どうすればシェイクの気持ち、ネクトに……っ!?)

 その時、ソーンの胸に鋭い痛みが走る。それをシェイクは見逃さなかった。

「ソーン、どうした!?」

「分からない……でも、でもこれだけは、分かる!」

 不気味な気配が《ジェネレビオ》へ忍び寄る感覚。それをネクトは感じていた。

「ネクトが危ない!!」



 《グラム》の艦橋。今まで実地試験を見守っていたサラのヘルメットに青いラインが走る。



『セカンドステージ、開 ──』

「っ!!」

 瞬間、ヘルメットとスーツの光が銀から青へと変わる。ネクトの意識は一瞬の内に闇へと引き摺り込まれるが、閉じかけた瞼はすぐさま薄く開く。その向こう側の瞳は銀色ではなく、鮮やかな青色となっていた。


 大型無線誘導兵器が整列したかと思うと、HERIの《ナチュラリー》達目掛けて一斉にビームを放った。

「なっ!?」

 グリムが驚愕の声を上げる間に、ビームは《ナチュラリー》達の手足を溶断。まともに身動きが取れない様を確認すると、大型無線誘導兵器の狙いはコクピットへと移る。

 だがそれを妨害する様に白色のビームが飛来。大型無線誘導兵器は回避行動を取ると、一度《ジェネレビオ》へと帰還する。

「ネクト!! 聞こえてるか、ネクト!!」

「まさか、ネクトに何かあったのか!?」

 シェイクの声で我に帰ったグリムはすぐに《オルドレイザー》の後を追う。《オルドレイザー》と《バインドホーク》で挟み込む様に追い込むが、それをすり抜ける様に《ジェネレビオ》は逃走。

 《オルドレイザー》はすぐに切り返す。大型無線誘導兵器の補助推力を得た《ジェネレビオ》でも、《オルドレイザー》を振り切る事は出来ない。徐々に差を詰められていく。

 しかし腰部の大型無線誘導兵器が分離、《オルドレイザー》の進路を塞ぐ様にビームを交差上に放つ。《オルドレイザー》は急停止、僅かに後ろへ退く事で回避するが、

「やめろ、ネクト!!」

 残るバックパックの2基が《グラム》へ向かい、ビームを照射。船首と砲台を貫いた。

『《グラム》の船首、及び副砲へ被弾。隔壁作動、速やかに消火活動を開始します』


 通信機から聞こえる《グラム》の放送に、グリムはすぐさま《アスカロン》へと繋ぐ。

「ドリアーズさん、試験を中止させてくれ!!」

『大型無線誘導兵器の制御権はシステムとリンクしている彼女の《ジェネレビオ》が握っている。遠隔で《ジェネレビオ》の制御を遮断出来る装置は?』

『んなもんあるわけねぇだろうが!!』

 無線に割り込む怒声。それはパストゥのものだった。

『ならば大型無線誘導兵器を全て破壊するか、或いは……《ジェネレビオ》を破壊するしか手は』

『な、に……てめぇふざけんな!!!』

 やりとりを聞いていたグリムは操縦桿を強く握る。あの時の選択の何もかもを後悔する。

(全部……俺が……!!)

 《ジェネレビオ》へ追いつき、《バインドホーク》の両腕からワイヤーを射出する。しかしそれが捕えるより早く《ジェネレビオ》はビームマシンガン下部のユニットからビーム刃を発振、ワイヤーを斬り払った。

(この挙動、アレの不具合じゃない……? でも、それならどうしてネクトが……!?)

 グリムの中に生まれる疑念。だがその間にも大型無線誘導兵器は《グラム》へと苛烈な火線を集中していく。その中でもグリムはある事に気づいた。

(どうしてわざわざ副砲や船首……被害が少ない箇所を狙って……一体どんな目的で……)


「明らかに様子がおかしい! ネクトがこんな事をする意味も理由もない! 一体何が起きてるんだ!?」

 焦りを見せるシェイク。何とか《ジェネレビオ》の前に立ち塞がろうとするものの、《オルドレイザー》の進路を大型無線誘導兵器が阻む。メデオライフルではなく、両指のビームバルカンを掃射するが、大型無線誘導兵器はビームバリアを展開。それらを弾いてしまう。

「やめろ、やめてくれネクト……!!」

「ぅ……!」

 シェイクの叫びに、ソーンの胸が、荊棘の刻印が、絞めつける様な痛みを放つ。

 シェイクと想いは同じだ。シェイクの記憶を見た時から、彼の想いを自分も共有している。

 その強い想いが、ソーンの瞳が蒼く輝かせる。


── もうやめて、ネクト!! ──


「っ、あ……!」

「っ!」


 ネクトの中から何かが弾き出されると同時に、《グラム》の中にいたサラが小さく仰け反る。

 動きを止めた2基を抜き去り、《オルドレイザー》は《ジェネレビオ》の前に躍り出た。

「わ、たし……なんで……?」


 だが、ほんの少し、遅かった。


 銃口に光が収束し切った大型無線誘導兵器は、ネクトの意思に関わらずそれを吐き出した。射線上に《オルドレイザー》がいる事も厭わず。

「シェイク、ビームが!!」

「くぅ!!」

 ビームバリアを展開しようとする。だがそれが展開するよりも早く機体を焼き切る事は、シェイクにも、ソーンにも分かっていた。



 光が迫る中、突如《オルドレイザー》が横に突き飛ばされた。その正体を2人が見た瞬間、


 《バインドホーク》の頭部と腰部にビームが直撃。頭部を貫かれ、機体を両断され、あらゆる箇所から黒煙が噴き上がる。


「兄貴……? っ、兄貴!!」

「嘘、嘘!! グリムさん!!」

 《オルドレイザー》はすぐに《バインドホーク》へ近づく。非常用消火設備が作動しているが、煙は一向に治まらない。

「メデオライフルの冷却剤を強制排出して……おい兄貴、聞こえてるなら返事くらいしろ!!」

「グリムさん、応答して下さい、グリムさん!!」

 メデオライフルの冷却剤で消火する最中も、シェイクとソーンは叫び続ける。一切の応答がないグリムに届く様に祈りながら。



 そしてその光景も、声も、全てがネクトの目に、耳に、届いていた。

 全てが受け入れられないもの。だがそれは、自分自身が招いた事。


 叫ぶ力すらも全て身体から抜け落ち、糸が切れた操り人形の様にシートへもたれかかる。


「ぁ……ぁぁ、ぅ……ぁ、ぁ……」

 ただ、情けない嗚咽と涙を溢す事しか、今のネクトには出来なかった。



続く

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