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第37話 誘いのままに

 

「この度はどうも、私達の実地試験のご協力感謝致します」


 隕石は時と共に流れ着く場所が変わることがある。そうなればその一帯の採掘権の価値は暴落する事になり、ひいてはそれらを管理しているコロニーに損害が生じることに繋がる。

 その為、再び隕石の流れが来るまでは企業のDCD試験場として開放され、実地試験の場として利用されている。


 M・Sは予定通り、政府直属の部隊と合流。試験の準備を終えた後、グリムは依頼者となる人物と改めて顔合わせを行なっていた。その場にはシェイクと、政府関係者であるストームも同席していた。

 相手は2人。1人は長いブロンドの髪をまとめ、やや痩せ気味の身体に鋭い目つきをした男性。しかし男性より、軍服とも、白衣とも取れる制服の左胸にあるマークにシェイクとグリムは目がいっていた。


 碧い蝶と、それを取り巻くアステロイドベルト。


「それで、HERIがどうして俺達に実地試験を申し出たんだ?」

 シェイクの棘を含んだ物言いに、グリムは諌めるように視線を向ける。

 だがそれを聞いた男性は気にする様子は見せず、不気味な笑みを浮かべる。

「ストラングス・フレームの開発、《ナチュラリー》Ⅲ型開発の技術供与。政府へ多大な貢献を成した貴方達ならばと考えた次第です」

「ご期待いただき感謝します」

「えぇ。7年前の事があってなお、ここまで再建を果たす企業ならば」

 この言葉を聞いた瞬間、シェイクが俯いた。構わず男性は続ける。

「貴方達の協力があれば、必ずあの兵装を完成に ──」

「まずは改めて自己紹介ぐらいしたらどうなんだ」

 壁を背に身を預けていたストームが口を開いた。今まで聞いたことがない程にドスの効いた声色にシェイクとグリムが思わず目を向ける。

 それを聞いた男性は言葉を止め、胸ポケットから名札を取り出し、3人へと見せた。

「ドリアーズ・ギルアム。第5コロニー所属特別医療研究機関……HERIの研究開発部責任者です。あぁ、お二人は存じ上げないでしょうが、そちらのストーム少佐とは学校時代の同期でして」

「で、そこのずっと黙り込んでるガキは?」

「彼はね」


 ドリアーズの隣で座っているのは、異様な仮面を被った少年だった。まるでDCDの頭部に似たフルフェイスタイプに、スリット型のレンズが小さく発光している。身体のサイズと合っていない白衣から覗く手は小さく、ドリアーズと同じ制服のズボンから伸びる足も細い。

「私の助手だよ。とても優秀な」

 ドリアーズが彼の名札を取り出す。そこには《サラ》という名前が刻まれていた。


「さて、自己紹介も終えたことですし、本題を続けても?」

「あぁ、話の腰折って悪かった」

「先程少しお話し致しましたが、私達は政府軍より依頼されたある兵装の研究開発を行っている最中でしてね」

 端末を操作すると、ドリアーズはグリムの前へとそれを差し出した。

 そこには流麗なヒレを思わせる武装が映し出されていた。記載されている仮称は、大型無線誘導兵器。詳細な情報の羅列を目で追っていたグリムは息を呑む。

「これは……ファイアスケイルと同じ……!?」

「設計思想としてはあなた方の物と同様です。こちらはより継戦能力と火力に重きを置いたものだそうですが」

 グリムはストームへ振り返る。その視線には政府軍に所属している彼への問いが含まれていた。

 ファイアスケイルは武装企画書として政府軍へ提出したが、汎用性とコストの問題で採用を見送られた武装。何故それが政府軍の依頼でHERIの手によって開発されているのか。グリムには理解出来なかったのだ。

「おい、これは何処の部門から依頼されたやつだ? 一度蹴った武装計画書のネタを勝手に採用した挙句にテストしろなんざ、相当面の皮が厚い部門なんだろうな」

「それに関しては守秘義務があるようですので、こちらからは何とも。大方、第3コロニーでの戦いを見て上層部も考えを改めたのでは? あの戦いぶりは良い意味で話題になっていましたから」

 ドリアーズの弁明を聞いて尚、ストームは険しい表情を崩さない。

「……あくまで、あくまで俺個人の考えだが」

 ストームはグリムの肩へ手を置く。

「あまり信用出来ない案件だ。一度突き返して精査した方が良いと思う」

「……」

「まぁ無理もないでしょう。私自身、これではあまりに誠意に欠けると感じています。ですので」

 2人の様子を見たドリアーズは端末の画面をスライドする。そこに記されていたのは、今回の依頼で用意している謝礼だった。

「我々に出来る限りのものをご用意致しました。加えて大型無線誘導兵器も提供しましょう。データさえ頂ければ問題ありませんので」

「論外だ、守秘義務と盗用疑惑の件が何も解決してねぇ。物で釣る様な真似するな」

「決めるのは君じゃない。……もちろん、一考したいと言うのであれば構いませんが」


「……研究データ」


 グリムは固く閉ざしていた口を開いた。

「こちらが要求した内容のデータを渡して欲しい。内容は試験終了後にお伝えします。それが出来ないなら、申し訳ありませんが今回の依頼は受けられません」

「ほう、データですか」

 グリムからの提案に、ドリアーズは考え込むように指を顎に添える。

(流石にデータを渡せ、なんて吹っ掛けられたら諦めるか。上手いなグリム)


「良いでしょう。ご要望のデータがあるかどうかは分かりませんが、それでもよろしければ」


 だがストームの思惑を裏切るような返答をドリアーズは口にした。そして、


「……契約成立、ですね」


 止める間もなく、グリムは端末のボタンに触れた。




「兄貴、本当に良かったのか」

 顔合わせを終えた後、グリムはストームの助言を受けなかった事を詫びた。ストームは、


── お前が決めた事なら俺は従う。気にするな ──


 と言っていた。しかしシェイクはどうしても納得がいかなかった。

「リスクが高いのは分かってる」

 グリムはシェイクと向き合う。

「だが接触してきたなら情報を得るチャンスだ」

「俺達だけで探るならいい。だがあの無線誘導兵器を使うのは」

「ネクトしか、いないだろうな」

「……《オルドレイザー》に搭載する様、パストゥに言う」

 有無を言わさずシェイクはその場を去ろうとする。だがグリムが止めるより早く、シェイクの歩みは止まった。

「ネクト……」

「……グリム兄さん、格納庫に搬入されてたやつ、《ジェネレビオ》に積むんでしょ?」

 立ち尽くすシェイクには構わず、ネクトはグリムへ問う。

「あぁ。アレを扱うならネクトと《ジェネレビオ》が一番信用できる」

「分かった。期待通りの結果が出せる様に頑張るから」

 笑顔を送り、ネクトはそのまま行こうとする。その手をシェイクは思わず掴んでいた。

「待てネクト、あの武装は俺とソーンで ──」

 しかしそこから先の言葉は、振り払われた手と、敵意が宿った眼差しで遮られた。

 そのまま行ってしまった彼女を追うことが出来ないでいると、グリムがシェイクの肩を叩いた。

「ネクトを信じてくれ。きっとやり遂げてくれる」


 ネクトの眼、そしてグリムの眼。それらを見た時、シェイクの心臓を何かが縛り付ける様な痛みが走っていた。



「ほぇ〜、この《ナチュラリー》ちょっと変わってるね〜」

 HERIから提供された大型無線誘導兵器の取り付け作業の手伝いをしていたアルルだったが、《アスカロン》へ搬入されていた《ナチュラリー》の姿に釘付けとなる。

 全体的な形状は政府軍にのみ配備されているⅣ型だが、頭部には深いモールドと長いロッドアンテナが追加され、サイドスカートは通常より長く、小型スラスターを内包。代わりにバックパックのブースターは小型化されている。

「基本的にHERIの艦を護衛するのが役割だから、小回りが効く様になってるらしい」

「へ〜」

 横から同じく手伝いをしているペイルが説明し、アルルは納得した様に頷いた。

「うちも予備の《ナチュラリー》カスタムしない?」

「そんな金も時間もないだろ。俺達の機体を整備するだけで手一杯……」

「お前らサボるなぁ!!!」

「ひぃん!?」

 2人の会話を打ち切るパストゥの怒号。思わず持っていた道具を放り出したアルルだったが、それをペイルがキャッチする。

 大型無線誘導兵器の最終確認をしているパストゥを見たペイルは、物憂げに呟いた。

「パストゥさん、いつにも増してカリカリしてるな……」



続く

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