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第34話 いつでも

 

「随分しんみりした顔してんねぇ艦長」


 《シェラートレス》攻略戦から1週間が経った。いつも座っている艦長席を離れ、外に広がる黒い海を眺めていたダイゾウへ声を掛けた人物が1人。

「そんなに息子と別れんのが辛かったのか?」

「んなわけ、っていうのはちょっと嘘か。本音言えばもっと話したかったさ。けど俺も彼奴もそんな歳じゃねぇからな。お前こそ良かったのかストーム?」

「別に。うちは表に出てる企業だ。あんまり海賊と仲良くしてちゃマズイのはあっちも分かってる。だからさっさと帰ってったんだろ」

 そう話しながら、ストームは去り際に交わしたレイツとの話を思い出していた。



「世話になった」

「全くだ。耳揃えて負債返せ」

 全ての船員が《クロウブースター》へ乗り込んだ後、別れの挨拶を交わすストームとレイツ。冗談めかして言うストームに対し、レイツは変わらず真剣な表情のまま返した。

「《ガルドミナス》か《ライナルディン》か……」

「それはいらないから金出せ金」

「なら持ち合わせはない。ツケにしてくれ」

「うちにはそんなシステムねぇんだわ。あー、なら代わりと言っちゃなんだけど」

 ストームは小さな通信端末を手渡す。

「何か気になる情報が手に入ったら連絡してくれ。あ、これはあくまで俺個人の頼みだ。彼奴等には関係無い」

「……そうか」

「寂しくなったからって連絡するのはやめろよ?」

「生憎忙しいからな。その心配はいらん」

 そう言うとレイツは踵を返し、《クロウブースター》へ向かって歩み出す。

 別れの一言も無いのかと投げかけようとした時、レイツは小さく手を上げ、振った。そして、

「上手くやれよ」

「……こっちの台詞だ、海賊船長」

 最後に捨て台詞を交わした。




「……よし、確かに受け取った」

 グリムは端末に送られたテキストファイルを確認し、頷く。彼の前で小さくなっているペイルとアルルを叱るように溜息を吐いた。

「今回は上手くいったからこれだけにしておくが、今後は勝手な行動をしないように」

「「はい……」」

 示し合わせたわけでもなく重なった2人の返事を聞き、思わずグリムの表情も綻ぶ。


 《シェラートレス》を撃破出来たのは2人の働きも大きかった。だがアルルは作戦中の独断行動、ペイルは無断出撃と、本来ならば簡単には許されない行為。分かる形での処分が必要だった。そこでグリムが出した罰は、

「ん、きっちり全部埋めてるな。後はシャワー室の掃除1ヵ月だけだ」

「うぇぇへぇぇ……あの広いシャワー室、本当に1人でやるのぉ……」

「我慢しろ、これでも甘い方なんだ」

 反省文の提出と1ヵ月のシャワー室掃除。それが2人に課せられた禊だった。

「本当、心配かけてごめん」

「ぅ……ごめんなさい」

「これ以上はもう責めないよ。じゃ、後はよろしくな」

 グリムは2人の方に手を置くと、笑顔を向けて去っていった。

 これから2人は掃除をしなければならない。だがそれより先に行かなければならない場所があった。

「……先、行っちゃう?」

「あぁ」




「……」

「悪かったパストゥ、想像以上に放熱が間に合わなかったんだ」

「それが言い訳で良いんだなぁ?」

 格納庫では修羅場が繰り広げられていた。プラスドライバーをシェイクの鼻先に突っ込もうとするパストゥ、そしてそれをギリギリで押さえているシェイク、どうすれば良いのか分からず宙をフラフラと漂うソーン。

 彼等を見つめる様に立つ《オルドレイザー》の前には、砲身が融解したサテライトブレイクユニットが鎮座していた。

「まだ廃棄するほどの損傷じゃない、それに使い所が限られる以上直す時間は……」

「うるせぇぇぇ!!! これを直す前にお前の鼻の穴も同じようにしてやるぅぅぅ!!!」

『パストゥやめてぇ!』

 2人の取っ組み合いにソーンのミニマムモニターが参戦し混沌を呈してきた中、不意にパストゥが口を閉じ、振り上げていたプラスドライバーを下げた。

「……まぁ、お前が《ブラストハンド》直すなんて言わなきゃ、アルルを助けられなかったかもしれないしな。それで良いって事にしといてやるよ」

 パストゥは器用にプラスドライバーを指で回しながら、わざとらしく大きな声で告げた。


 シェイクの視線の先に現れた2人へ。


「ペイル……アルル……」

「あー、聞かれたくなかったのにって顔してる」

「そんな顔は」

「してるって」

 アルルはシェイクの頬を摘み、目一杯伸ばして見せる。普段無表情なシェイクの間抜けな顔に、その場にいた3人は思わず噴き出した。

「お前、これから真面目な話しようって時に……!」

「あっははははは、こっちの方がよっぽど良い顔じゃん!」

『へ、変な、顔、ひひ……!』

「っつつ……一体何を、話に……?」

 するとアルルは指を離し、ペイルの後ろへと回る。彼の顔を見たシェイクはすぐに纏う雰囲気の違いに気づく。

 今までの突き放す様な冷たいものではない。歩み寄る様な色だった。


「まずは……ありがとう、だな。それと、今まですまなかった」

「ペイル……」

 一度ソーンへ向き直り、

「ソーンも。すまなかった」

『アルルとは仲直りしたの?』

「してなきゃこうしてここにいないでしょ!」

『じゃあいいふむぐadwm』

 ソーンを抱きしめるアルル。それを見たペイルは小さく頷くと、もう一度シェイクへと向き直った。

「アルルを助けようとしたあの時」

 ペイルは自身の手を見つめる。

「アルルに銃を向けた時。助けるためだったのに、怖かった。7年前と同じだった、だからやっと分かったんだ」

 そしてシェイクの目を見つめる。


「あの時のお前は、誰よりも」



 シェイクはペイルの瞳の中に、7年前の光景が見えた。


 尊敬していた義父を、愛していた義姉を、



 自らが放った灼熱の光で消した、あの光景。



「……俺はあの日からずっと自分の事しか、いや、自分の事すら分かってなかったんだ。もっと歩み寄るべきだった。自分にも、お前にも」

 差し出されたペイルの手を見た時、シェイクは幻から引き離された。

「ペイル……」

 僅かにシェイクの指が動く。だが、それ以上、動く事はなかった。

「今の俺に……帰る資格なんかない」

「いつでも」

 ペイルは受け取られなかった手を、シェイクの肩に置いた。


「いつでもいい。それが、家なんだから」

「っ」


 ソーンは気づいていた。シェイクの目に小さな光が浮かんだ事に。

(少しずつでも……シェイクがもう一度、皆と……)


 そう思った時だった。

 頭を刺す様な鋭い痛みが走り、同時に引かれるように視線が向く。先には格納庫へ入る為の入り口があった。


── あなた、もしかして感じ取れるんじゃない? 他人の感情を ──


 別れ際、フェンに言われた事を思い出す。ならば閉じた入り口の先にいる誰かが放つこの感情は一体何なのか。一体誰のものなのか。


── 私もほんの少しは感じられるけど、きっとあなたは特別。上手く使ってあげればこの先役に立つかもね ──




続く

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