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第32話 見据えた先

 《シェラートレス》の内部はその外観に反し、もう一つの世界が広がっていた。

 中心で拍動する巨大な目玉を中心に、外殻へ無数の肉柱が伸びている。中心の目玉は侵入してきた《ソニックスラスト》を見ていない。

「……違う、目玉じゃない!!」

 目玉、否、それによく似た球体の肉壁から、大量の《スコルピオーグ》の幼体が迫り出し始めた。外で暴れ回っている大群は皆、この球体から産み出されていたのだ。

 《ソニックスラスト》の腕部に格納された小型機銃で幼体を銃撃。風船の様に弾け飛ぶが、あまりにも数が多過ぎる。《ソニックスラスト》の火力では、幼体の殲滅も球体の破壊も現実的ではないだろう。

 アルルは別の手段に目を向ける。

「あの柱……もしかして」

 《スコルピオーグ》の幼体を殺された《シェラートレス》は脅威を感じたのか、肉柱の裂け目から小さなビームの弾幕を降らせる。自身の内部も傷つける事も厭わない様は、確実に追い詰めている証拠でもあった。

 人型を維持したまま弾幕の隙間を縫う様に飛行。一際細い肉柱へ接近し、ビームバスターブレイドを振り下ろした。繊維が千切れゆく生々しい様相を見せ、肉柱は切断された。

 直後、《シェラートレス》の球体がビクリと震える。そして閉ざされた外殻に、ほんの僅かな隙間が現れた。

「これで外殻を寄せて固定してるんだ!」

 理解出来ればやる事は決まっている。変わらず放たれるビームの雨を凌ぎながら、今度は一際太い肉柱を目指す。

 太さは《ソニックスラスト》の機体の高さに迫る。いくら刃渡りの長いビームブレイドでも一太刀で斬り捨てる事は不可能である。


 アルルはビームバスターブレイドを肉柱へ突き立てると、そのまま周りを駆け抜ける。円を描くように斬り裂き、離脱。

 太い肉柱はそれでも断ち切れない。だがそれに構わずアルルは次の肉柱へ向かう。

 乱れ飛ぶ弾幕を躱しながら、細い肉柱が纏った位置へ移動。再び振り下ろして切断する。

「っ、来た……!」

 本体に危機が迫った事により、入り口から《スコルピオーグ》の大群が列挙する。外から呼び戻したのだろう。

 弾幕に加え、喰らいつこうとする《スコルピオーグ》。《ソニックスラスト》は急停止、急発進、反転を繰り返し、躱しきれないものをビームバスターブレイドで叩き落とす。《ソニックスラスト》に備わった多数の小型バーニアを用いた高い運動性、そしてそれに振り回されても一切平衡感覚を失わないアルルの三半規管があって成せる技である。

 何体目かも分からない《スコルピオーグ》を叩き斬った時、ビームバスターブレイドから光刃が途切れる。

 バッテリー切れ。

「久しぶり、これ使うの!」

 空バッテリーを排出、背部のバックパックに格納して予備バッテリーへ接続すると、腰部から二振りのビームブレイドを抜く。

 《スコルピオーグ》をビームブレイドで2匹貫き、振り抜き様に背後の個体を両断。そして肉柱へ接近しようとする。

 しかし、

「……ぁっ!?」

 あまりに数が多過ぎた。《スコルピオーグ》達が《ソニックスラスト》の両足へと喰いついたのだ。鋭い牙は人類が生み出した中で最も強固な隕石複合金の装甲を容易にひしゃげさせていく。

「この!!」

 《ソニックスラスト》の両踵、その発振機からビームブレイドの光が伸びる。噛みついた《スコルピオーグ》を串刺しにする。だが足裏のバーニアは潰れてしまっていた。

「まだまだ……足りない!!」

 両手両足、4本の光の刃を放ちながら肉柱へ接近。明らかに速度が落ちているが、構う暇はない。

 目の前に現れるビームを薙ぎ払い、背後に迫る大群へビームブレイドを投擲。ブーメランの様な軌跡を描きながら《スコルピオーグ》を斬り裂き、細い肉柱を裂き、太い肉柱へ突き刺さる。

 しかしそれらすら切り抜けた個体が再び足へ噛み付く。

「そんなに足が好きなら、どう、ぞっ!!」

 アルルはここで《ソニックスラスト》の膝から下をパージ。一気に肉柱へ肉薄し、ビームバスターブレイドを抜き様に叩きつけた。

 ズブリと沈む刃。斬り裂かれた弾面が見えた瞬間、アルルは背後に気配を感じる。《スコルピオーグ》とは異なる気配を。

 振り返った《ソニックスラスト》の頭と上半身、下半身へ触手が纏わりつく。


 球体から伸びる細い管。それに繋がれていたのは、鎌の様な6本の腕、肋骨の様な胴体には肉は無く、代わりに肥大化した頭には奇妙な発光体を仄暗い穴の様な口が張り付いている。それら以外の部位は存在しない。

 《ソニックスラスト》を抱いている触手は、肋骨が変化したもの。そして通信機が捉えたのは、

『ンギィェェェッッッ!! ァェェェェェェン!!』

 泣き叫ぶ赤ん坊の声に似た、ノイズ混じりの叫び。


 手にしたビームバスターブレイドを突き刺そうとしたが、機体をひったくる様に球体へ近づける。そのせいで《ソニックスラスト》の右腕は破断、残る1本は滑り抜けてしまった。

 抗う手段を失った今、残された道は死しかない。だがアルルに焦燥も、恐怖も無かった。周りの《スコルピオーグ》が一切手を出さない状況に気づくほど、頭の中は冷静だった。

「私の事……気にいっちゃったのかなー? だからあのお魚さん達は寄りつかない、とか……」

 頭の穴が広がっていく。間違いない。《シェラートレス》は《ソニックスラスト》を捕食しようとしている。

「でもさ……」

 いざ頭から呑み込もうとした時、《シェラートレス》は気づいた。


「外の事、忘れてない?」


 これまでとは比べ物にならない振動。同時に傷ついた肉柱が全て千切れ飛ぶ。本体を守っていた要塞が崩れて行く。間もなく中身が外に晒される。


『メデオブレイクバズーカ、命中しました!』

『《シェラートレス》の外殻崩壊! アルルは無事か!?』

『問題ない、《ソニックスラスト》の機体反応は顕在だ!』


「やーい……ざまあみろ」




「無茶だ! そんな身体で ──」

「止め、ないで……下さい!」

 医師の手を払い除け、ペイルは格納庫へと踏み入る。自身の機体はまだ修復出来ていないだろう。しかし予備の《ナチュラリー》ならある。

 それを探していると、目の前に小さな影が立ちはだかった。

「怪我人は帰れ」

「パストゥさん……」

 いつになく真剣、かつ威圧する様な眼差し。ペイルはよく知っている。自分がしようとしている事は、彼女にとって最も許し難い愚行だと。

「出せる機体は……ありますか」

「……帰れ」

「お願いします」

「なんなら寝かせてやるか? 寝かしつけ方はこれしか知らねーけど」

 スパナをペイルの鼻先へ突きつける。脅しでない事は目を見れば分かる。両目の視力が釣り合わず、ボヤけて見える中でも。

「それでも俺は、行かなきゃならないんです」

「……」

 しばらく睨む様な目をしていたパストゥだったが、やがてその瞼がゆっくりと降りた。

「本当に彼奴が言った通りになったな」

「彼奴……?」

「好きにしろよ。あと、終わったら礼言っとけ」

 パストゥが退いた先にあったもの。


 それは完全に修復を終えた、《ブラストハンド》の姿。


── あ? 何で《ブラストハンド》まで修理しなきゃねぇんだよ ──


── 必要になる。絶対に。俺も手伝うから……この通りだ ──


(言う通りになったら、それはそれでムカつく……)

 あの時、頭を下げる似合わない姿を見せたシェイクを思い出し、パストゥは唇を尖らせた。



続く

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