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第31話 もしも、帰って来れたなら

 

 ぶつかり合う2つの光柱。《ライナルディン》と《レッドラファー》のビームブレイドが閃光を散らし、互いに一歩も引かず鍔迫り合いを繰り広げる。

(彼の話じゃ、こんな正々堂々と戦うような奴じゃないらしいけど……?)

 フェンは鍔迫り合いを押し切って制し、ライフルブレードの鋒からビームを発射。通常よりも細く速い、針のような光が《レッドラファー》へ飛翔する。

 これを《レッドラファー》は揺らめくような動きで回避すると、左掌から伸ばしていたビームブレイドを綻ばせる。そしてそれを、《ライナルディン》ではなく、《オルドレイザー》目掛けて発射。

「っ、ちょっと」

 すぐさまその軌道に割って入り、大盾で弾き飛ばす。瞬間、《レッドラファー》は《ライナルディン》の横を通り抜けようと一気に加速。

「どうしても、《オルドレイザー》に行きたいってわけ!」


 大盾の中心部がスライド、展開。中から姿を現した砲口から、幾つものビームが不規則にばら撒かれる。

 さしもの《レッドラファー》も直進しながらこの密度のビーム群を躱す事は出来ず、後退しながら回避する事を強いられる。


 その隙に《ライナルディン》はライフルブレードを構えながら前進。大盾を引き、ライフルブレードからビームを放つ。

 《レッドラファー》は後ろへ下がる事を止め、左掌から再び揺らめく光弾を発射。針のように細い《ライナルディン》のビームをまるで捻じ曲げるように湾曲させ、打ち消した。

「何、あれ……?」

 ビームの原理を知らないフェンではない。だがメデオライトから生まれるビームがあのような挙動をする理由を考察する事は出来なかった。

 と、光弾に目を奪われていたフェンの元へ、《レッドラファー》が一気に距離を詰める。

「あぁもう、何考えてるかほんと分からない!」

 《ライナルディン》のサブアームを展開、2本のビームブレイドを交差するように構え、《レッドラファー》のビームブレイドを防ぐ。

 そのまま《ライナルディン》はライフルブレードを至近距離から浴びせようとする。しかし《レッドラファー》はライフルブレードの銃口へ右掌をかざした。

 その行為が理解出来なかったフェンだったが、その掌に見えた揺めきを目にした瞬間、嫌な予感が過ぎる。しかしトリガーは既に引かれている。

 放たれたビームは揺めきに取り込まれ、拳を握った瞬間掻き消される。そして再び開かれた右掌から、ビームブレイドが発振。《ライナルディン》のアンテナを掠める。

「この揺めき、そうか!!」

 フェンは咄嗟に《ライナルディン》を後退させる。瞬間鍔迫り合いの均衡が崩れ、振るわれたビームブレイドが《ライナルディン》のサブアームを斬り飛ばす。

「あんな小さい範囲にビームバリアなんて、器用な奴!」

 歯噛みするフェンに対し、《レッドラファー》は両腕から揺めき、ビームバリアを見せつけ、再び口を開いた。嘲笑う様に。



 一方、《シェラートレス》と《スコルピオーグ》を相手するシェイク達も激戦を繰り広げていた。

 《シェラートレス》は無尽蔵に《スコルピオーグ》を生み出しつつ、外殻から弾幕の様にビームを放ち続ける。それらに気を取られれば、今度は《スコルピオーグ》がまるで誘導弾の様に食らいつこうと迫る。

「各機、散開……っ、しても、意味がないか!」

 指揮を取るグリムだが、あまりの密度で襲いくるが故に最善策を立てられない。襲い掛かる個体を対処するので精一杯だ。

 幸い《オルドレイザー》と《ヴァレットボックス》の支援砲撃のおかげで被弾した機体は今のところいないが、時間の問題だろう。

『兄貴、大元を絶たない事には《シェラートレス》に砲撃が出来ない。何か策はあるか?』

 シェイクからの問いに何とかして答えたいものの、出来ない。

「大元……《シェラートレス》本体を叩く為に、《シェラートレス》に近づかなきゃならない、って事か。分かってる、分かってるが……っ!?」

 思考を巡らせようとした瞬間、《スコルピオーグ》達が《バインドホーク》へ牙を突き立てようと迫る。ビームマシンガンですぐに撃墜、背後へ迫る個体を振り向き様にビームブレイドで叩き斬る。

 ビームマシンガンは連射性を落とした代わりに、一発の出力を向上させている。《スコルピオーグ》を少ない弾数で墜とす事が可能。

「この数で……! シェイク、メデオブレイクバズーカを本体がいる隙間に撃ち込めないか!?」

『生憎だが……自信がない。この距離からの狙撃を確実にやれるのはペイルしか……やれと言われたら、やる』


 照準を合わせるのはソーン。彼女なら確実に中心を捉え、合わせる事が出来るだろう。だがそこへ的確に撃ち込むためのトリガーを引き、ビームを制御するのはシェイクだ。

 DCD1機入るのがやっとな隙間へ撃ち込む技術が足りていない事は、シェイク本人が誰よりも知っている。


『やってくれとしか、俺には言えない。頼む!』

「了解、メデオブレイクバズーカ、発射態勢に……」

 そこまで言いかけた時、照準を定めようとしていたソーンが突如照準器を外した。

「待ってアルル! 何処に行くの!?」

「何っ!?」

 シェイクはすぐにレーダーを見る。《ソニックスラスト》の反応が離れていく。そしてすぐにそれは皆にも伝わる。

『アルル! 勝手に戦線から……』


「私が中に行く。皆、あそこまで私が行ける様に援護して」

『無茶だ!! 中がどうなってるかも分からないんだぞ!』

「でも行けるの、私しかいないよ。だって……こういうチキンレースみたいなの、一番度胸ある人の仕事だもーん!!」

 そう話す間にも、《ソニックスラスト》は巡航形態のまま弾幕と《スコルピオーグ》の群体を躱しながら《シェラートレス》へと向かっていく。だが接近すればする程、その密度は濃くなっていく。

『アルル、戻って ──』

「帰って来るから」

 グリムの言葉を遮るアルル。


「必ず帰って来るから……その時は私の事、叱ってね!!」


「……」

 俯いていたシェイクは静かに顔を上げる。

「……了解。《オルドレイザー》、これより《ソニックスラスト》の援護に回る」

 その一言を聞いた誰もが沈黙する。そして、

「帰って来たら覚悟しろよ、アルル」


「……うん!!」


 続く言葉に、皆は覚悟を決めて頷いた。


「ソーン、メデオブレイクバズーカの発射用意! アルルの進行ルートを開く!」

「分かった! 皆に射線データを送信、アルル、当たらないで!!」

『むしろ当てられるなら当ててみなよ!』

 メデオブレイクバズーカの発射態勢に入る《オルドレイザー》。それを横目に見たストームは笑みを浮かべた。

「いいねぇ、こういうノリで行かなきゃ! おっしゃ行くぞ《ヴァレットボックス》……あ」

 トリガーを引いて気づく。既に《ヴァレットボックス》のプラットフォームの武装は空っぽだった事に。

「空気読めよ、おい!!」

 その時、《ヴァレットボックス》へ食いつこうと《スコルピオーグ》達が飛来する。

 《ヴァレットボックス》は即座にバックパックとプラットフォームを切り離し、ビームブレイドを2本発振。目の前の敵を斬り伏せ、背後の個体を振り返らずに背面突き。

「もっと持ってくりゃ良かった……」



「うぅ……!」

 宇宙を翔ける《ソニックスラスト》。僅かな隙間を縫う様に進む中、上下左右に激しく揺さぶられる。

 《ソニックスラスト》の武装は本体のエネルギーを使わないものが多い。速度を出しながらも長い時間動く事が出来る。しかしそれも無限ではない。

 ビーム弾と《スコルピオーグ》がまるで網の目の様に群れる中、強引に突破しようとした時だった。


 無数の光と、細長い光が目の前の網を焼き払った。

「行ける……!」

 一瞬空いた隙間をすぐさま抜ける。《シェラートレス》は目前まで迫っていた。


「アルル姉さん……」

 ファイアスケイルの射程も、もう届かない。炎の尾を引く《ソニックスラスト》を見送りながら、ネクトは唇を固く結んだ。


「あそこまで行く度胸は無いな……」

 同じくグライも《ソニックスラスト》を見送る。すると、逸れたと思しき《スコルピオーグ》が《ガルドミナス》へ噛みつこうとする。

 だがその口を、《ガルドミナス》はマニピュレーターで無理矢理押さえつけ、肩の機銃を目玉から叩き込んだ。

「俺達の家を頼む。後腐れがないくらいにぶっ壊せ」


「ここ、まで、来れば、あとは!!」

 前進、旋回、急停止、急発進。およそ身体が砕けんばかりの操縦を、自らと《ソニックスラスト》に課すアルル。その視線の先には大きく空いた《シェラートレス》の穴。

「そこに、行くだけ!!」

 両翼に噛みつこうとする《スコルピオーグ》をバレルロールで回避、目の前を塞ぐ《スコルピオーグ》を急停止からの直上、飛び越える。

 しかし最後の関門、穴の前に大量の《スコルピオーグ》達が、大口を開けて待ち構える。あれだけ盛んに噛みつこうとしていた群体が整列して微動だにしない様は不気味さすら感じられる。


 だがそれももう、クリアしている。


『メデオブレイクバズーカ、発射!!』


 ソーンの声が聞こえた瞬間、《ソニックスラスト》は急反転。後方から襲来するエネルギーは《シェラートレス》の外殻へ直撃し、その余波は隊列を組んだ《スコルピオーグ》達を薙ぎ払い、吹き飛ばした。

「うぁぁぁっ!!!」

 荒れ狂う熱波の中を、《ソニックスラスト》は全てのブースターを点火して突き抜ける。

 《シェラートレス》の穴へ侵入し、減速と同時に人型へ変形。機体を回転させ、反動を抑えた。


「はぁ、はぁ、はぁ……ここ、が……!?」


 穴の中に広がる光景を見たアルルは、息を呑んだ。



続く

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