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第30話 要塞を焼く光

 

『グリム、そっちで何かあったのか!?』

「コロニーの中からデヴァウルの群れが出ました! 進行予定のルートを一度戻っています!」

『戻るって、戻ってどうする気だよ!?』

 ストームからの問いに、グリムは背後に迫るデヴァウルを見ながら作戦を伝える。

「ストームさんから狙える位置までデヴァウルを誘導、合図と同時に《ヴァレットボックス》の火力を集中して下さい! そのまま爆破部隊はルートを交換してもう一度爆弾の設置に向かいます!」

『あっぶねぇプランだなおい! まぁもうあーだこーだ言ってる暇ねぇか、了解!』

「他のメンバーも聞いたな!? 難しいのは承知の上だが、デヴァウルを誘導しながら指定位置まで逃げてくれ!」

『『『了解!!』』』

 皆へ指示を飛ばしつつも、グリムは小さく息を飲む。このレースで最も脱落の可能性が高いのはきっと自身だ。

 速度性能に特化した《ソニックスラスト》と《ガルドミナス》、そして遊撃を担う最新鋭機である《ジェネレビオ》とは異なり、《バインドホーク》は本来後方からの指揮を担うDCD。今でもデヴァウルの群れに追いつかれない速度を出すのがやっとなのだ。

 グリムは最悪の場合を想定し、目の前を飛行する《ソニックスラスト》へと個別通信を送る。

「アルル、仮に俺が追いつかれても構わず進むんだ。分かってるな?」

『……うん』

 少し間があったものの、肯定の返事が来たことにひとまず安心する。アルルの性格を考えるに、一度言っておかなければ反射的に助けようとすると考えた為だ。

『グリム兄さん、凄く心配してくれるのは嬉しいけどさ』

「アルル?」

『私、この作戦はきっちり成功させたい。じゃないとペイルにちゃんと謝れないからさ。絶対勝手なことしないから……って、そんなの当たり前だった! えっへへ、ごめーん!』

「……悪かった。いつも通りのお前で大丈夫だよ」

『うんうん! ……ぁ、グリム兄さん、合流地点近いよ!』

 アルルの言葉で、グリムは綻んだ表情を再び引き締める。

「ネクト、グライ、そっちは!?」

『問題ない!』

『合流地点通過まで予定通り。グリム兄さん、カウントお願い!』

「分かった! 5、4、3、2、1」


 正面向かい合った4機が交差する。


「0!!」


 すれ違った刹那、4機を追うデヴァウルの群れ目掛けて大量の対艦ミサイルが降り注ぐ。デヴァウルの群れは巨大な火球へと身を投じ、残らず焼き尽くされ、灰燼と化していく。

『尻焼かれた奴はいないな!?』

「……問題ありません! 各機、このままルートに入って爆弾の設置に向かってくれ!」

 当初のルートを交換した4機が、再びコロニーを破壊すべく飛翔する。



『フェン、状況はどうだ?』

「変わらない。本当に来るのかちょっと疑わしくなってきた」

 退屈そうに宙を漂う《ライナルディン》の中で、フェンは口を尖らせながら呟く。

「《オルドレイザー》のパイロットくん、本当にそのレッドなんたらは来るの?」

『来る! 絶対来る!』

「同類ちゃんには聞いてないんだけどなー」

 突然反応したソーンへ、フェンは溜息を重ねる。

「同類ちゃんの勘を当てにしてるの、結構無理があると思うなー私」

『う……で、でも本当だよ! 胸の辺りが、その、チクチクするから!』

「ちっちゃなお胸がチクチクー、ね。あはは」

『が……!? ち、ちっちゃな、ぁ……!!?』

 絶句するソーンに構わず、シェイクへと改めて問いを投げた。

「で? 可愛い女の子の勘を信じちゃった訳なの?」

『ソーンの勘が外れたなら少しは疑うが……外れてないからな』

「ふーん……是非とも当たって欲しいものだけど。あぁ、でもこの場合、外れた方が良いのかな?」

 小さく笑うと、コクピットのホルダーに取り付けたガムを口に含んだ。


「……あぁは言ったが、ここまで気配がないと気になる。ソーン、反応はどうだ?」

「小さくない、小さくない、小さくない」

「ソーン?」

「はぎゃっ!? な、何っ!?」

 自らの胸に手を当てながらぶつぶつ呟いていたソーンは、シェイクの声に驚き、半ば怒ったような返事をする。

「《レッドラファー》の気配は……」

「シェイクまで疑ってるの!?」

「いや」

「ちょっと可愛くてスケベだからってあの子の味方するんだ!」

「なにを言ってるんだ」

 眉間に皺を寄せるソーンを、怪訝な表情で見つめるシェイク。

「近いか遠いかだとどっちだって聞くつもりだったんだが」

「……遠い。凄く遠い場所でじっとしてる。でもこっちを見てるの」

「こっち? ……《オルドレイザー》を、か。奴もこっちの気配に勘付いているのか」

「どーせ信じてくれないだろうけど」

 小さく頬を膨らませると、ホルダーに束ねられたエナジーバーを頬張り始める。完全にいじけてしまった様だ。

「信じてる。じゃなければナビを任せたりしない」

「……ほんと?」

「本当だ」

「ちっちゃくても?」

「ちっちゃ……? よく分からないが」

 そんな会話をしていると、通信機から声が響く。


『爆弾、全箇所に設置完了!』

『了解、全機離脱後に起爆信号を発信する! 急いで離脱しろ!』

「パストゥ、《オルドレイザー》は ──」

『あと5分待て!!』

 通信機から響く苛立った声に、シェイクは思わず目を伏せた。


『全機離脱、確認しました!』

『よし、起爆信号、入力!!』

 コムニの合図と共に、ダイゾウが起爆信号を発信。《アスカロン》から放たれた信号は、グリム達が設置した小型爆弾へ伝わる。

 刹那、小さな爆発が宇宙に輝く。廃棄コロニーを連結していた支柱が破壊され、バラバラに離れていく。

『コロニーの分裂を確認、中のデヴァウルは!?』

「……あれは」

 壊れた外壁にしがみつく無数の触手。離れていくそれらを手繰り寄せ、再び自身の身を隠そうとしている。

「まずい、篭られたらもうあの手は使えない!」


『おっしゃ終わったぁ!! 行ってこい!!』

『了解、《オルドレイザー》、出撃する!!』

『シェイクとソーンで、行きます!!』


 甲板のハッチが開き、電磁カタパルトのレールに乗った巨影が姿を現した。


 両肩の増加装甲と一体化したビームキャノンの砲身、腰部の増加装甲に備わった細い逆関節のサブレッグ。これだけでも《オルドレイザー》の姿を大きく変貌させているが、中でも特段目を引くのが後ろに大きく迫り出したバックパックだった。

 折り畳まれた長い砲身、武装コンテナ、そして大量の冷却剤を充填したクーラーシェルを6つ、無駄なく敷き詰められているにも関わらず、一つ一つが巨大な故に威圧感を放っている。両腕には一回り小型化したメデオライフルを固定し、火力に振り切った兵装。


対超大型デヴァウル用重火力装備、《サテライトブレイクユニット》である。


「隙間が閉じる前に撃ち込む!」

 《オルドレイザー》の腰部からサブレッグが展開、甲板へ爪を突き立て、機体を支える。両肩の砲身が前方へ向き、そこへバックパックから展開した砲身が接続。更に大きく伸長したその全長は《オルドレイザー》を悠に超え、固定大型火器に匹敵するものとなる。

「急速充電開始、ソーン、今のうちに照準を定めろ!」

「うん! え、と、砲撃箇所に照準よし! 射線データを各機に送信します! 全員退避して下さい!」

 《オルドレイザー》の頭部に被さった照準器を通し、ソーンは標的をロック。砲口から電光が散り始め、充填量を示す砲身のエネルギーラインが点灯していく。

「っ、時間がない! 《オルドレイザー》の本体ジェネレーターのエネルギーも追加で充填する!」

『バッ、砲身が焼けるだろ!!』

「焼けたらまた戻る!」

『また整備しろってかぁ!? いい加減にしろよ!!』

 パストゥからの通信を一度ミュートにし、シェイクは半ばまで迸るエネルギーを解き放つ引き金に指をかける。

「充填終了!」

「射線クリア! シェイク、発射良いよ!!」


「メデオブレイクバズーカ、撃つ!!!」


 引き金を絞った瞬間、白色の光条が宇宙を裂く。


 閉じかけた外壁同士の隙間から覗く僅かな触手の密集地へ、寸分違わず命中した。

 瞬時に蒸発した触手達に構わず、《オルドレイザー》はビームを逆袈裟に薙ぎ払う。爆発で脆くなった外壁を焼き切りながら、内部のデヴァウルを斬り裂くように。

「砲身温度が上がってる……いや、押し切る!」

 警報には敢えて耳を貸さず、シェイクはトリガーを引く指に一層力を込める。照準器を通し、ソーンはデヴァウルの姿を見る。

「効いてるように、見えない」

「何だって?」

「ニュルニュルはもう全部無くなってるけど……中身は、全然平気そう」

「……照射中止」

 シェイクはすぐさま考えを変え、トリガーから指を離した。エネルギーを吐き終え、赤熱した砲身から余剰分がスパークする。

「冷却シェルを装填、砲身の急速冷却開始」

「……あのデヴァウル」

 ソーンが震える声で呟く。シェイクも砲身の冷却シークエンスを進めながら、その真の姿を見据えていた。


 外壁を掴んでいた触手は《オルドレイザー》のメデオブレイクバズーカによる熱で全て融解、脱落。その中にある巻貝の様な外殻を露わにしていた。その僅かな隙間、全長2kmの巨体に対し、DCD1機が入れるかどうか程の隙間から、縦に裂けた黒い瞳孔を持った金色の眼玉がこちらを見ていた。


 赤熱した外殻が黒ずんでいく中、デヴァウルの隙間から小さな反応が飛び出す。

『さっきの小さなデヴァウルの群れが!?』

『そろそろ識別コードでも決めるか! あのクソデカ巻貝は《シェラートレス》、ちっこい魚は《スコルピオーグ》だ!』

『了解! 《オルドレイザー》! 《スコルピオーグ》はこっちで何とかする! そっちは《シェラートレス》を!』

「了解……とは言いたいが」

 シェイクは唇を硬く結ぶ。メデオブレイクバズーカですら赤熱させる程度のダメージ。《アスカロン》の艦砲射撃と合わせてどれほど傷つけることが出来るか。

「シェイク! 《レッドラファー》がこっちに来る!!」

「っ、こんな時に!!」

 ソーンの叫び。考えさせる間もないらしい。



 《レッドラファー》は笑う様に口を開き、手にしたライフルを《オルドレイザー》へ向ける。異様な姿にこそ変わっているが、機動力が死んでいる事だけは確実だ。回避は出来ないだろう。

 しかし彼が意図しない横槍が入る。

「ほんとに来ちゃったんだ〜」

 振り下ろされる実体を持った刃。咄嗟にライフル本体で防ぐが、一撃で銃身が歪む。

 《レッドラファー》は微弱ながら感じ取っていた。《ライナルディン》から放たれる、《オルドレイザー》と同質の気配を。


 こいつは本命の前の前菜。


 鍔迫り合いを拒否する様に回避し、ライフルを自らの手でへし折って放棄。数秒の間を置いて爆発したライフルには目もくれず、左掌からビームブレイドを発振する。


「お手並み拝見」


 サブアームをも展開。パイロットの笑みを感じ取った《ライナルディン》は、笑みの代わりにアイレンズの発光を強めた。



続く

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