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第28話 痛みと誓いを胸に

 

 ペイルとアルルの血は繋がっていない。


 実の兄妹の様な関係に至るまでに、そして他の家族に出会うまでには、ちょっとした物語がある。



 14年前。ペイルが9歳になった時だった。実の両親を乗せた作業船団が事故で消息不明となる。突然この世界に1人取り残されたペイルは、絶望する間もなく保護団体の手に預けられた。

 保護団体、HERIは他にもペイルと同じ様な境遇の子供達を保護していた様で、そこで同じ様に両親を失ったアルルと出会ったのだ。

「心配しなくていいよ……怖がらなくていい」

 親を失った子供達は皆、職員の言葉に涙を浮かべながら頷いていた。ペイルもそれに頷こうとした時だった。


 首を小さく振りながら、その場から逃げ出そうとするアルルの姿が見えた。


「どこ行く気だよ」

 ペイルはアルルへと駆け寄り、小さな手を握って引き止めた。震える瞳が見えた時、アルルは小さく呟いた。

「あの人達……怖い……」

「怖い……?」

 ペイルは職員の目を見た。言葉や仕草は自分達を思いやる優しいもの。だがよく見れば、目の奥にある光は不気味なものに見えた。まるで自分達を実験動物として見定めているような。

「……」

「ぁっ」

 ペイルは彼等の視線が逸れた隙を突き、アルルの手を引いて逃げ出した。

 きっとあのままHERIの保護下に入った方が安泰の未来が待っていただろう。幼い自分達が生きていくにはそれしかなかっただろう。

 だがペイルは、出会ったばかりのアルルの言葉を信じた。自分が見た悍ましい目の光を信じた。


 何日か、何週間か、足掻く様な生き方をしていた2人は、コロニーの片隅で行き倒れていた。食べ物のほとんどをアルルへ渡していたが、気づけば彼女を守らねばならないペイルの方が先に意識を失いかけていた。

「ペイル、ペイル……死んじゃやだ……!」

「死なねぇよ……多分」

 肩を揺さぶるアルルのおかげで何とか意識を保っている。だが長くは保たないだろう。


「ねぇ、君達」


 その時、2人に手が差し伸べられる。細く白い指が、2人を誘う。

「うちに来なよ」

「「……誰?」」

「私が誰かはうちに来てから知っても遅くないよ。でも2人とも倒れてからじゃ遅いからさ」

 視線が定まらないペイルだったが、その人物を見るアルルの目を見た。

 アルルは手を差し伸べた女性を見つめる。金色のショートヘア、銀色の目、高い背丈に柔らかな笑顔。先程の大人達とは違い、瞳の奥に見えた光は優しいものだった。


 ペイルとアルルは頷き、彼女の手を取る。彼女 ── アデルは2人を抱き上げると、自身の家へと連れ帰った。



「皆、新しい家族だよ。挨拶して」

 アデルは回復した2人を連れ、自身の家族を紹介する。そこにいた4人のうち、2人の少女はアデルと同じ髪と目の色をしている。残る2人の少年は2人とは違う髪と目をしている。

「グリムです、よろしく」

「……シェイク」

 グリムと名乗った少年ははっきりとした声で自己紹介したが、シェイクと名乗った少年は愛想の欠片もない物言いだった。

「ネクト、でひゅ、ぁ、です」

「……ロ、ゥ」

「メロウ、聞こえてないよ」

「め、メロウ……」

 ネクトと名乗った少女はアルルよりも幼い故か上手く舌が回らない様子だ。そしてメロウという少女に関しては声が小さい上、グリムの影に隠れている。

 上手くやっていけるか不安な表情を見せるペイルだったが、対するアルルはというと、

「みんな、よろしくー!!」

 出会った時とは真逆の、快活な声を上げながら4人の手を取り、大きく振り回していた。

「元気良い子だねー。……あの子のこと、お願いね、ペイル」

「……うん」

 アデルに小さく耳打ちされたペイルは頷いた。たとえ彼女からの頼みがなくてもそのつもりだった。



「危なっかしいからな、彼奴は」


 ベッドの上でペンダントを握り締め、かつての幼い妹の笑顔を思い出していた。


「ペイル」

「っ!」

 その時、扉の向こうから声が聞こえた。最初は聞き間違いだと思った。過去の記憶を思い出していたからだと。だがもう一度、声は扉の向こうから聞こえてきた。

「さっき連絡があったんだ。海賊達のコロニーを盗んだデヴァウルが見つかったって」

「アルル、聞いてくれ! 俺は」

「ペイルはさ、なんだかんだ優しいから、きっと最後には許してくれるって。昔から甘えてたんだよね私。ペイルに、皆に」

 何処か寂しげに、しかし固い決意が滲む言葉に、ペイルの口は塞がれる。

「私、この仕事頑張ってやり遂げる。色々ペイルと話すのはそれからにする。そうじゃないと、私が私を許せないから」

 その言葉が、まるで最期に交わされる会話の様に聞こえてしまう。

「そんなのいい、いいんだよもう! 俺は怒ってなんかない! お前を許さないわけない! アルル!」

 遠ざかっていく足音を引き止める様に叫ぶペイル。だがそれを知ってか知らずか、彼女は付け足す様に告げた。


「あ、シェイクとはちゃんと仲直りする事!」




 海賊達のアジトが近づくにつれ、宇宙を漂うデブリに変化が現れ始めた。

「DCDの残骸……」

 シェイクが見た事のないDCDの欠片。しかし僅かに《ナチュラリー》に似た部品が目に入った。

「最後まで戦ってくれたんだな。ありがとう」

 と、シェイクの背後から現れる人影。

「お前は確か……グライ、か」

「あぁ。うちの問題児共が世話になってる」

「俺は何もしてないが」

「お前は一番の問題児に付き合ってやってただろ。感謝してもしきれない」

 グライの言葉に、シェイクの脳裏に悪戯な笑みを浮かべたフェンの姿が浮かぶ。

「さっき言ったのは……そうか、このDCDはお前達の……」

「分かっていた事だ。元から彼奴らも生きて帰るつもりはなかった。……分かっていた」

 言葉とは裏腹に、グライは残骸を直視する事を避ける様に何処かを見つめていた。

「俺達も仇討ちに協力する。コロニーを占拠するサイズは見過ごす訳にはいかない」

「……助かる。でもな、俺は仇討ちのつもりで戦場には行かない」

 グライは服の袖に縫い付けられたものを握る。不細工ではあるが、何処か愛嬌のある水生生物のワッペン。

「残った奴等を守る為の戦いだ。たとえ家をぶっ壊してでも、やり遂げてみせる」

「……イルカのワッペン」

「うちの船長が言ってた。この生き物は高い知能と統率力、そして仲間同士の絆を持っている。俺達もこいつらの様に生きていこうって」

「そうか……」

 シェイクは首元を探ろうとした手を止めた。自分にはもうない。絆を結んだ証を。

「そういえば、《ガルドミナス》は元々お前の機体らしいな。どんな経緯があったのかは知らないが、この戦いが終わった後に返すか?」

「いや……7年も乗っていたならもうお前の方が付き合いは長い。《トライファルコン》……いや、《ガルドミナス》を頼む」

「分かった」

 シェイクは口にこそしなかったが、《トライファルコン》に乗るつもりは毛頭なかった。

 あれはもうシェイクにとって、呪いに等しい機体なのだから。



『総員に通達します。前方の廃棄コロニーにて巨大なデヴァウルの反応を感知しました。推定サイズは……全長2km!!』

「キロメートル、ねぇ……キロ? 200mの間違いだと思いたいが……」

 ストームは望遠カメラで前方の様子を伺う。そこに映し出されていたのは、コムニがアナウンスした通り、巨大な廃棄コロニーに纏わり付いた無数の触手の塊だった。

「ライブラリにゃ載ってねぇ。って事は新種か」

「出方を伺いながら攻略法を探るしかない……難しいな」

「海賊が同伴してるんじゃ政府に協力も頼めねえしなぁ」

 ストームは悩むグリムから、仏頂面で端末を睨むレイツへ意地の悪い視線を向ける。だが彼は眉ひとつ動かさない。

「《ヴァルチャー》は戦力にならない。無人運転で特攻させる手段もあるが、それはあくまで悪あがきだな」

「そっちから出せるのは《ガルドミナス》と《ライナルディン》だけか。まぁ仕方ねぇが……うちはどんなだ?」

「《バインドホーク》と《ソニックスラスト》は修理完了。《ジェネレビオ》はファイアスケイルをもう一度積みました。ただ《ブラストハンド》はまだ……」

「《ブラストハンド》に関しちゃ、ペイルも復帰は厳しいしな……数もそうだが、遠距離支援が俺だけなのは……」

「それに関してですが」

 グリムはそこであるものを端末に表示する。それを見たストームとレイツは驚愕に眉を顰めた。

「こいつは……え、何これ?」

「なるほど、如何にもコロニーをぶっ壊す為の装備だな」


 映し出されたものは、《オルドレイザー》の本体と、多数のビーム火器を搭載したユニット。そしてその2機が融合した、要塞の様な形態の《オルドレイザー》だった。


「サテライトブレイクユニット……そうパストゥさんが言ってました」



 廃棄コロニーの中で蠢く触手達が、来訪者達の動きを察知し、一層這い回る。

 1つはこちらへ向かってくる巨大な船。デヴァウルはそれを知っている。中から大量の餌を放ちながら逃げた獲物を更に肥大化させたようなものだ。

 そしてもう1つは、自身の上位存在。餌と棲家を提供して貰った恩に報いる為、その身体の修復と兵の生産を行っていた。

 上位存在から指示が下される。あの巨大な獲物を討てと。遠方から引き連れてきた援軍を使っても構わないと。デヴァウルが従う意を見せると、上位存在はニヤリと笑って見せた。デヴァウルにはそれがどういう行動か理解出来なかったが、そんなことを考える必要はない。

 デヴァウルは外殻に包まれたコアを浮き上がらせ、獲物を睨んだ。


 上位存在 ── 《レッドラファー》は修復した右腕の指を何度も開閉し、掌で不規則な光の輝きを放った。



続く

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