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第27話 隔たりを超えて

 

「こりゃまた、厄介なもん拾っちまったな」

 駆けつけたダイゾウが溜息をつくと、それを隣で見ていたレイツは小さく呟く。

「その厄介なもんが必要なんだ。《ライナルディン》を完全な姿にする為に」

「完全な姿だぁ?」

「俺達がHERIからフェンを助け出した時、同時に《ライナルディン》も回収した。その時はフレームとちっこいジェネレーターだけで、何とかここまで修復したんだが」

「おいちょっと待て、お前HERIからこれパクってきたってのか!?」

「あぁ、彼奴等からなら良心の呵責なく盗める。散々他人から奪ってきた奴等からなら」

 レイツは淡々と語っているが、その声色は空気が凍るほど冷たかった。それを聞いたダイゾウの表情も暗くなる。

「HERIに関しちゃ……俺も彼奴等も良い思い出はない。きっとお前達の境遇を話せば喜んで協力するだろうな」


「だからこそだ。あんまり肩入れさせんなよ」


 と、背後からストームが現れる。いつになく真剣な表情を浮かべながら。

「……ふん、政府関係者の前で話す事じゃなかったな」

「事情なんて人によって違う。でも世間じゃHERIはなくちゃならない存在なんだ。世捨て人なお前達が、真っ当な世界で生きようとしてる奴等を巻き込む真似だけはするな」

「まともなこと言うじゃないか、お前らしくない」

「若い奴等が道を踏み外さないようにするのが大人の仕事だぞ」

 そこまで話すと、ストームは再び採掘された《ライナルディン》のバックパックへ目を向ける。


 《オルドレイザー》のものとは異なり、3対のスラスターが棘のように連なり、中心には円状のモールドが刻まれている。採掘するにあたり隕石金属や石がこびりついていたが、全て除去された状態では問題なく《ライナルディン》と接続する事が出来た。


「背負ってたクソデカシールドはどうすんだ?」

「元々手持ち用で設計していたものだ。丁度お前のところの坊主が剣をぶち壊したところだし、空きはある。あとは……」

 レイツが目を向けた先には、彼らの母艦である《クロウブースター》の艦首が顔を覗かせている。元々は軍艦用の補助ブースターと小型輸送艦を組み合わせた改造艦。小さな輸送艦部分を無理矢理格納庫へ押し込み、ブースター部分を接続する事で搬送している。《アスカロン》の尻に《クロウブースター》が頭を突っ込んだ間抜けな格好だが、補助推力として働いて貰っている形だ。

「予備パーツを引っ張り出して代わりの武器を造るか……」

「なんなら俺らの整備班が仕上げるぞ?」

「いらん」

 ダイゾウの提案を一蹴。《クロウブースター》の方へ歩いていくレイツを、ダイゾウは苦笑いを浮かべて見送る。

「ま、息子に優しくしたい気持ちは分かるけどよ。爺さんも肩入れしすぎんな」

「そんなわけじゃねぇ……って言いてえが。ガキの頃から誰にも頼りたがらねえ奴なのは変わってなくてよ。だから勝手に手ぇ貸しちまうんだろうな」

「……みんな口を揃えて言うから、きっとその通りだ」


 しかしそんなレイツの前に、小さな影が立ち塞がる。

「おぉい、海賊の船長さんよ」

「……ガキが何の用だ」

「ガッ!? てめえ、私は26だっつの!! てかそうじゃねぇよ!」

 パストゥは目を見開いて怒るが、すぐに本来の用事を思い出して表情を作り直す。

「もしかしなくてもあんた、整備の経験あるだろ」

「よく分かったな」

「認めんの早っ! ……ガキンチョ共に整備教えてやってたら気づいてよ。とてもじゃねぇけどあれじゃトラ……《ガルドミナス》も《ライナルディン》も面倒みれたもんじゃない。精々鳥擬きがやっとって所だ。で、試しに出来そうな奴に当たってみたら……」

「人が少ないんだ。艦長席で踏ん反り返ってるわけにもいかない」

「けどあんた一人でやるにゃ荷が重いだろ。一体どうやって……」

 瞬間、レイツの眼が鋭く潜められる。思わずパストゥが怯む程に。


「何人かいたよ、一緒にDCDの面倒を見る奴等が。俺達を逃す為に、家に残ったがな」

「……それって」

「反応がロストしたのは見届けた。心残りはない」


 それが真っ赤な嘘だという事は、誰の目にも明らかだった。




 医務室の前で深呼吸を繰り返す。何度目かは覚えていない。彼女に頼まれたわけでも、他の誰に頼まれたわけでもない。これは自分の意思だ。

 ソーンは意を決し、ドアを開けた。

「……っ、お前は」

『ペイル、話をしてもいい?』

 ペイルはソーンを見ると驚いたような表情を浮かべていた。無理もない。お互い、ろくに顔を合わせることもなかったのだから。

 当然、ソーンを見るペイルの目は冷たかった。

「お前と何を話せって言うんだ」

『アルルと仲直りして欲しい』

 ミニマムモニターに表示された文字を見た時、ペイルの左目がソーンを睨んだ。同時に口が硬く結ばれる。

「……そうか。あいつ、仲良しなお前に頼んで」

『違う』

「じゃあシェイクか? 余計な世話が得意だからな」

『違う。私がそうして欲しいから言ってる』


「尚更訳分かんねぇんだよ!! 何でお前がそんなこと頼む!? これは俺達家族の問題だ!! 部外者は首を突っ込むな!!」


 怒声が降りかかる。思わず後退りそうになる。胸が熱く、張り裂けそうになるほど痛む。

 だがこれは、ソーンの痛みではない。それは彼女自身が一番理解していた。これはきっと。

『私は、部外者だよ。でも、でも私にだって分かることがある!』

「何……!?」

『本当はペイルだって辛いんでしょ!? だってアルルの事、誰よりも……』

「何なんだお前……勝手に俺の事を分かった気になるな!! 出て行け!!」

 ほとんど衝動的な行動だったのだろう。ペイルは近場にあったものを投げつけた。それが何なのかを認識していない上、ほぼ出鱈目に投げたのだから。

 それが先程までペイルが使っていたマグカップだと気づいた時には、既にソーンの顔を打ちのめそうとする距離だった。


 鈍い音が病室に響き、次いでマグカップが割れる音が響く。しかしマグカップを受け止めたのはソーンではなかった。


『シェイク……!?』

「お、前……」

 ソーンを庇い、マグカップで割れた額から血を流すシェイクが立っていた。その目は真っ直ぐ、ペイルを見つめている。

『シェイク、シェイク、血が……!!』

「ソーン、これはペイルとアルルの問題だ。それ以上は言うな」

 慌てふためくソーンを落ち着かせるように肩を叩くと、シェイクは自らの背に彼女を下げる。

「……」

「ペイル、お前ならもう分かってると思うが」

 目を合わせないペイルに構わずシェイクは語る。

「アルルは誰よりも家族の事が愛してる。だから誰よりも家族が仲良くあって欲しいと思ってるし、誰よりも家族に気を遣ってる。そんなあいつが本心をぶつけられる相手は、ペイル、お前だけだ」

 シェイクは踵を返し、静かにソーンの背を押しながら医務室を去る。


「アルルのこと、頼むぞ」

「っ!」


 ペイルは顔を上げるが、既にシェイク達の姿は無かった。

「……はぁ」

 本当は理解している。ソーンの言葉が正しい事を。自分が一番理解していなければならないアルルを突き放した事を。

 アルルとの口論で言われた事を。

「分かってるんだ……全部、俺が何も出来ない所為だって……」



『シェイク……』

 医務室を出てしばらく進むと、ミニマムモニターがシェイクの眼前に現れる。何か言葉を掛けようとして、その言葉が見つからないように見えた。

 そんなソーンの頭を、シェイクは優しく撫でる。

「ありがとう、ソーン」

『?』

「ペイルは優しい奴だ。素直じゃないだけで、お前の言葉も届いている。きっとすぐに仲直りするよ」

『うん……ペイルとは、あんまり話した事なかったけど……アルルと一番仲良しなのは、分かってたから』

「放って置けなかった。……アルルが懐く訳だ」

 小さく笑ったシェイクに引かれ、ソーンもまた小さく笑った。


「あ、シェイクとソーンちゃん。今日も仲良さ……あぁ!? ちょ、シェイク、血が出てる!」

「メロウ姉さん?」


 その時、丁度通りかかったメロウと出会う。彼女の慌て様でシェイクは額の傷を思い出した。

「これは別に……」

「別にじゃないでしょ! 救急箱、誰か救急箱ー!」

 小さな身体で跳ね回る様に通路を引き返していくメロウ。普段はあまり表情を変えないシェイクが困惑する様を見て、ソーンもまた目を丸くするのだった。



続く

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