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第24話 奪われた家

 

「まさか本当に、お前だったとはな……」

 艦橋に集った海賊達。その船長を見たダイゾウは小さく呟いた。

「どうして海賊になったんだ、レイツ……」

「紆余曲折あったんだ。今はただ、それしか言えない」

 ダイゾウからの質問に船長 ── レイツは答える。

「逆に聞きたい。何故俺達を拘束しない? お前達の船を襲撃したんだぞ」

 彼に、彼等に手錠などの拘束は一切ない。その事を訝しんだレイツはダイゾウへ尋ねた。すると小さく息を吐き、ダイゾウは彼を囲む小さな海賊達へ目を向けた。

「大人連中はともかく、その子達がごねてな。自分達にも付けろって。それはあんまりだから仕方なくだ。身体チェックで武器類は全部取り上げてるし、まぁ問題はないだろうって事で俺が許可した」

「そう取り計らった俺に感謝しろよ、レイツ」

 傍から前に出たストームが近づこうとすると、子供達が道を阻む。皆一様に幼い瞼を顰めて威嚇。思わずストームはたじろぎ、踏み出した一歩を引っ込めた。

「おいおい、いつの間に小さな兵士の育成にハマったんだ?」

「教えたつもりなんかない。勝手に見て勝手に覚えたんだ」

「DCDの操縦もか? もっとマシな嘘つけよ」

「そっちは勝手に教えた奴がいる」

 少年少女達は全員10代前半かそれにも満たない幼さ。流石にDCDの操縦は年長児がやっていたのだろうが、それでも若すぎる。

 そして皆、一様に頬や身体に傷跡がある。

「随分と荒っぽい事されたみたいだな、その深い傷」

「船長じゃない! これは ──」

「分かってるよ、お前んとこの船長はそういう事しねーってのは」

 反論しようとした少年を優しく諌めると、ストームはレイツへ視線で問う。

「……他の海賊船から拾った時にはもう。世話は他の奴等に任せてたんだが……」

「嘘つけ。その懐かれようはお前も相当世話焼いたんだろ」

「訓練生時代から何も変わってないな、お前は。余計な事と適当な事を言わせれば右に出る奴はいない」

「嘘もろくにつけないお前に言われたかない。海賊になったっていうからどれだけ凶悪な野郎になっちまったのかと思ったが……要らない心配だったな」

 ストームが沈黙したのを合図に、ダイゾウは新たな問いを投げた。

「お前が言っていた、面倒な客人ってのは何だ? 俺達に喧嘩売ってまでこの宙域の隕石を狙ったのと関係があるのか?」

「……こんな状況なら、黙っていたって仕方ないか」

 レイツは小さな端末をダイゾウへと投げ渡す。それをダイゾウが開くと同時に、レイツは語り出した。

「俺達が拠点にしていた廃棄人工衛星に、馬鹿でかいデヴァウルが住み着きやがった。俺達が留守にしていた間に、空き巣に入られたんだ」


 端末のモニターに映し出されたのは、廃棄された人工衛星から大量に這い出た触手。それも先端に爪が生えた手の様なものが存在している。

 空いた穴から、縦に裂けた瞳孔がこちらを睨んでいた。




「話ってなぁに?」

 以前ソーンが過ごした仮眠室。そこのベッドに腰掛けた少女、フェンをシェイクは訪ねた。彼の後ろには警戒態勢で身構えるソーンもいる。


 フェンの姿を見たシェイクは妙な雰囲気を感じた。赤く長い髪と、ソーンよりもやや大人びた肢体。だが彼女の齢はソーンとほぼ同じだろう。

 それに加えて一段と目を引く、不規則に回転を繰り返す瞳孔を持った薄紫の眼。


「ジロジロ見ちゃって。何、そんなに気になるならもっと近くで見せてあげようか」

 そう言うとフェンはシェイクへ顔を近づける。ソーンが口をあんぐりと開けて目を見開いているが、シェイクは構わずフェンの眼の正体を探る。

「……人工眼球、バイオアイか」

「ん〜、90点。その軍用版。慣れれば生の眼より便利なの」

 バイオアイ。有機物質を用いた義眼であり、通常であれば失明や眼球の消失により失った視力を、高精度カメラと人工視神経を脳へ繋ぐ事で取り戻す技術。しかしながら手術を行える医師はほとんどおらず、施術された例はシェイクも聞いた事がない。

「ふふ、やっぱり君、良い顔してる。ほんとは私達の家でたっぷり可愛がりたかったけど、まぁこれはこれでいいか」

 手が頬を撫でる。シェイクとフェンの距離が、吐息を感じられるまで近づいた時だった。

「あいたっ」

 ミニマムモニターがフェンの額を小突いた。

『近づき過ぎっ!!』

 という赤文字を記しながら。フェンはわざとらしく額をさすると、再び2人へ向き直った。

「でも、聞きたいのはそんな事じゃないでしょ? あぁでも、ある意味この眼の事にも関係あるか」

「交戦している時、お前はソーンの事を″同類″って言ったな。どういう意味だ」

「言葉通りなんだけど? もっと分かりやすく言うなら……そう、私の昔の名前を言えば通じるかな?」

 フェンは小さく出した舌を唇に這わせ、怪しげな笑みを浮かべた。


「実験体No.9。これが私の昔の名前」


 それを聞いたシェイクとソーンに戦慄が走る。

「もっとも、私は完成形にちょっとだけ他より近い失敗作。それでも貴重なサンプルだったから、見えなくなった眼にこんな豪華なものを付けてもらっちゃった」

「なら、完成形っていうのは……」

「あぁそれ、私の早とちり。だってその娘、話せないんでしょ? 完成形なら身体に何かしらの欠陥は出ないらしいから」

 回転するバイオアイがソーンの喉元を注視する。そしておもむろに彼女へ近づくと、突然彼女のTシャツの襟元を引き下げた。

「ぃっ!?」

 美しい赤い荊棘が刻まれた胸元が露わになる。そしてフェンも同じ様に、服の襟元を下げる。

 そこにはソーンと同様に、荊棘の様な刻印が刻まれていた。ソーンほど広範囲ではないが、同じ様な刻印が。

「……でも、私よりは完成形に近いみたい」

「同じ、刻印が……っ!」

 と、それを見ていたシェイクにもミニマムモニターが体当たり。ソーンの顔は真っ赤に染まっていた。

『シェイクのスケベ!! 私だけじゃなくてこの人の胸も見てた!!』

「俺は荊棘の刻印をだな……」

『ふん! シャワー浴びてくる!! その人と仲良くどーぞ!!』

 モニターに赤文字が浮かび上がると、ソーンはフェンの手を振り払って去っていった。


「っふふ、やっぱり可愛い子」

「……質問の続きだ。完成形っていうのは?」

 フェンはベッドまで戻り、再び腰掛ける。

「貴方聞いたことある? HERIが強化兵の研究をしてるってこと」

「強化兵?」

「言葉通り、身体能力、思考能力、空間認識能力。人間が持つ全てを超えた、人工兵士」

 話すフェンの顔は笑っているものの、声色は笑っていなかった。

「何の為に、そんな……」

「分からない? デヴァウルを倒す為、なんて名目さえあれば簡単にそんな研究容認される。少なくともHERI内部では」

「ならソーンは……」

「あの子がどんな経緯で貴方と知り合ったのかは分からないけど、荊棘の刻印を見れば分かるでしょ?」

 シェイクはあの日、ソーンと初めて出会った日の事を思い出す。トラックに麻酔ポッドと共に運ばれていた彼女の姿を。

「ソーンはあの時、何処へ運ばれる予定だったんだ……?」

「きっと宇宙にある本部で研究されていたんでしょうね。私もそうだったから。そこをあの人達に拾われたんだけど」

「だとしたら、HERIは本当に人体実験をしているって事になる……他に知っている事はないか?」

「えぇ〜、教えてあげてもいいけど〜」

 ベッドに寝転がると、フェンはこんな事を口にした。

「……ねぇ貴方、ここではどういう立場なの?」

 フェンからの問いにシェイクは視線を向ける。彼女は足を組み、蠱惑的な笑みを浮かべていた。

「貴方のお兄さん、この艦でかなり発言力あるでしょ? で、お兄さんは貴方を信頼してる。貴方の頼みなら聞いてくれるくらいには」

「何を根拠に……?」

「私、勘はいいの。で、ここからは相談」

 フェンから持ち出された取引に、シェイクの表情が厳しいものとなった。


「HERIの情報、もっと欲しいでしょ? なら私達の家を取り返すの手伝ってよ」

「家を取り返す?」

「私達の家には今、変なデヴァウルが住み着いてる。私とグライでもどうにも出来ないくらいのね。……貴方、腕が良いみたいだし、それが出来たら私の知ってる事全部、話してあげる」


 回転する瞳がシェイクの瞳を見据える。まるで内に眠るシェイクの心を見透かそうとしている様に。


「あの子の為なら、何でも出来るでしょ? そういう目をしてる、貴方」

「……」



続く

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