表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
24/62

第23話 同類

 

「前から不幸体質だとは思っていたが」

 こちらに迫る《オルドレイザー》の影を見たグライは歯噛みする。一目見れば分かるのだ。あの機体に乗っているパイロットの実力は、今まで戦って来た相手の中で圧倒的に上だと。

「こんな不運は人生でも片手で数える程だぞ!」

 取り押さえた《ブラストハンド》は完全に沈黙している。ならばこの場で優先すべきはこちらへ飛来する機体。

 幸い《ガルドミナス》のスラスターは死んでいない。すぐさま甲板から飛び立ち、肩の機銃を連射する。


「シェイク、撃ってきた!」

「……」

「ちょ、避けてよシェイ、くぁっ!?」

 避ける事なく真っ向から機銃の弾丸を受ける《オルドレイザー》。揺れるコクピットに振り回され、ソーンの上半身が上下左右に動き回る。

「にゃぁぁぁ!? シェイクのバカァァァ!!」

「今の《オルドレイザー》の装甲は前より厚い。問題な……」

『このバカ!! 整備仕立ての機体に早速傷つけるアホがいるかよ!!』

 ソーンとパストゥ、双方からの「バカ」に挟み撃ちされたシェイクだが、構わず《ガルドミナス》へ接近する。

「《トライファルコン》……こんな形でまた会うなんてな」

「構わず突っ込むかよ!」

 機銃の掃射を続けながら、グライは《ガルドミナス》の右腕からビームブレイドを発振。真正面から《オルドレイザー》へ斬りかかる。

 その時、《オルドレイザー》が不意に左掌をかざした。そこから飛び出したのは大量のダミーバルーン。

「何だこれ!?」

 《オルドレイザー》を極端にデフォルメしたデザインのバルーンに思わず怯んだグライは勢いを殺される。視界を埋め尽くすバルーンに惑わされ、《オルドレイザー》を見失ってしまう。

「こんなおふざけ!」

 ビームブレイドを薙ぎ払い、バルーンを斬り払った瞬間だった。

「なっ、にぃ!?」

 バルーンが突如自爆。爆風に煽られた《ガルドミナス》へ、更に背後から追い打ちが迫る。

 《オルドレイザー》が構えたマルチブラスターから弾丸が発射。弾は《ガルドミナス》に当たるより先に炸裂し、中からネットとセメント状の粘液が飛び出し、《ガルドミナス》を絡めとる。

「しまった、捕まっ……!!」

 そのまま《オルドレイザー》は《ガルドミナス》の頭を掴み、《アスカロン》側面へ押し当てる。粘液が硬化、《ガルドミナス》は一切の動きを封じられた。

「動け、ない……!」

「あとはあの機体か……」

「シェイク、気をつけて。あのDCD、《オルドレイザー》と同じ雰囲気を感じる」

「同じ、雰囲気……」

 実の所、シェイクも感じた事のある雰囲気を遠くにあるDCDに感じていた。

 アルルを捕らえた機体、《ライナルディン》に。



「ふぅん、グライをあんな簡単に……おもしろーい」

 言葉とは裏腹にフェンの顔に笑顔は浮かんでいない。それどころか疎ましい表情を浮かべている。

 相変わらずこちらへライフルを向ける《ヴァレットボックス》を一瞥する。依然人質を取ったこちらが有利だ。だが戦況が長引けば、今度はあちらがグライを人質に取る可能性もある。


 それではあまりにつまらない。


「ハロー、エースさん。お願いがあるんだけど、いい?」

『……どうして今更通信を繋いだ?』

 フェンは《オルドレイザー》、そしてM・Sの全員へ向けて通信を繋いだのだ。

「こんな状況じゃお互い、泥沼になっちゃうでしょ? だから私と貴方、一対一で戦いましょう?」


 シェイクは沈黙する。あの機体、《ライナルディン》はアルルを人質に取っている。そんな有利な状況を投げ打ってこちらに挑むという事は、そうするだけの理由と自信があるという事。

「シェイク、どうする……?」

「……受けよう。海賊は腕づくじゃなきゃ従わない」

『男前ー! 好きになっちゃいそう!』

「ナァッ!?」

 ソーンが奇妙な声を上げた刹那、


 《ライナルディン》は《ソニックスラスト》を蹴り飛ばし、一気に《オルドレイザー》へと接近した。


「だから貴方の事、回収しちゃう!」

「理解した、こいつの性能!」

 振り下ろされた《ライナルディン》の実体剣を、《オルドレイザー》は手を掴む事で受け止めた。

 《オルドレイザー》は出力や推力を抑えられたものの、それでもなお既存のDCDとは比にならないもの。だが《ライナルディン》は《オルドレイザー》を少しずつ押し返していく。

「《オルドレイザー》が、押し返される……!」

「へぇ、その子そんな名前なんだ。回収したらパイロットくんと一緒に沢山可愛がってあげる!」

「ダメダメダメダメー!! シェイクも《オルドレイザー》もあげないからー!!」

 何故か騒ぎ出したソーンに一瞬気を取られたが、シェイクは《オルドレイザー》を一度離脱させ、《ライナルディン》から距離を取ろうとする。

「なぁに、同類ちゃんも乗ってたんだ? 男盗られないように必死なお子様っぽい声〜」

「ウガァァァ!! なんかこのパイロットきらいぃぃぃ!!」

 最早レーダーの確認、ナビゲーションの仕事を忘れているソーンだが、シェイクは一向に《ライナルディン》との距離を離せない事に意識が向いていた。

(ここまで距離を離せないとなると……)

 シェイクはワイヤーガンを発射。先端に4本の鉤爪が備わったワイヤーが《ライナルディン》へ迫る。

 しかしこれを《ライナルディン》は実体剣を振るい弾き飛ばした。再びウェポンラックへ格納、巻き取っている合間に右掌からダミーバルーンを放出する。


「なぁにこれ? 可愛い〜」

 ダミーバルーンは本来、人型に過敏に反応し襲い掛かるデヴァウルを誘導、撃破する為の武装。しかし視界を大量に埋め尽くし、バルーンにコーティングされた特殊金属粉によるレーダー障害の誘発を引き起こす性質上、対DCD戦においても厄介な撹乱能力を持っている。

 当然だが《ライナルディン》のレーダーも不規則に障害が起こり、視界は珍妙な風船に埋め尽くされている。紛れ込んだ《オルドレイザー》を見失っている状態だ。


 しかしシェイクは動かない。今、仕掛ければ返り討ちにされる。それを緊張した面持ちのソーンから感じ取った為だ。

 何故か動かない《ライナルディン》に悟られない様、バルーンの影に隠れながら隙を窺う。

「シェイク、どうする?」

 この状況に感化されたのか小声で尋ねるソーンへ、シェイクは行動で答えた。


 ビームガンを放ち、ダミーバルーンの1つを狙撃。それにより炸裂したバルーンは次々と誘爆、爆発の嵐が《ライナルディン》を呑み込む。

 フェンの視界を光と煙が覆ったその刹那、《オルドレイザー》が爆炎を突き破り、至近距離からマルチブラスターを放とうとする。

 しかし、《ライナルディン》の腰部から飛び出したサブアームのビームブレイドがマルチブラスターを貫いた。

「読まれたっ!?」

「危ないシェイク!」

「悪戯みたいな手なんてお見通し!!」

 マルチブラスターの爆発に隠れ、実体剣が《オルドレイザー》の首を狙う。

 シェイクは咄嗟に《オルドレイザー》の両手のビームクローを発振。実体剣目掛けて振るい、半ばから溶断した。

「反応速度が早い!?」

 フェンは実体剣を投げ捨て、サブアームのビームブレイドを薙ぎ払う。だがそれもビームクローで迎え撃ち、弾いた隙を突いて基部を切断。

「じゃんけんで私に勝つとか、生意気なんだけど!!」

 《ライナルディン》は最後の手段に出る。抱きつく様に組み付き、腹部の装甲を展開。エネルギーを収束する。

『っ、おいフェン、よせ……!』

「この距離じゃ共倒れだけど、それも乙でしょうパイロットくん!!」

 グライの制止を無視し、フェンは《ライナルディン》の腹部ビームキャノンを発射しようとした。


「シェイク!!」

「《オルドレイザー》、一瞬だけだ!!」


 シェイクはソーンの声に頷き、セーフティロックを解除。モニターに映し出される《オルドレイザー》の出力が、設定値を遥かに突破する。

 アイレンズが強い燐光を放つと、《オルドレイザー》は《ライナルディン》を振り払った。

「何、この力、ひゃあっ!?」

 更に《オルドレイザー》は《ライナルディン》の腹部へ蹴りを放つ。砲口が潰れ、収束出来ないままにエネルギーが散る。直上に位置するコクピットにも凄まじい衝撃が伝播し、身を守る為のベルトが身体を痛めつける様に圧迫する。

「んぐっ、かはっ!? は、はぁ、はぁ……!!」

 身体中から空気が押し出され、視界がブラックアウト。フェンの肺が懸命に伸縮を繰り返して空気を取り入れる。


「何よ……これが、完成形・・・の力だって言うの……?」

 ようやく視界が少し明るくなる。だがモニターに映し出された光景に、フェンは思わず吹き出した。

「あーあ! 負けよ負け、私の負け!」

 ヘルメットを投げ捨て、フェンは笑う。


 ワイヤーガンに絡め取られ、ビームガンを頭部に突きつけられた無様な《ライナルディン》の姿を見せられては、負けを認めざるを得なかった。



続く

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ