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第22話 刹那の過ち

 

「この時代に実体剣なんて!」

 アルルは叫ぶと、《ソニックスラスト》のビームバスターブレイドを起動。鍔迫り合いの最中であろうと構わず、ビーム刃が発振する。

 そのままでは実体剣は成す術なく切断されるのみ。そんなことはフェンもよく分かっている。

「まともに打ち合うのは嫌」

 即座に鍔迫り合いを打ち切り、自身のDCDを後ろへ退く。フェンが駆るDCD──《ライナルディン》は近接戦闘が得意な機体。相対する《ソニックスラスト》の姿を見て、機体特性が似ている事を見抜いた。

 そんな思考を巡らせていると、《ソニックスラスト》が再び突進。ビームバスターブレイドの射程に入らないように一定の距離を保ち、惑わすように《ライナルディン》を左右に揺らす。

「何あれ……馬鹿にしてんの!?」

「共通通信は繋がらない、ね。というか通信自体を切ってる? じゃああの子、孤立してるって事」

 共通通信を用いて更に挑発する予定だったが、思わぬ形で彼等の穴を見つけてしまう。フェンが無邪気に微笑むと、グライへ通信を繋ぐ。

「もしもし、お楽しみのところ悪いけど良い?」

『っ、後にしろ!』

「余裕が無い男はモテないよ? グライお兄ちゃんの腕なら、デートしながら私のお願い、聞けるでしょ?」

『何なんだ今になって!』

「私が3機を抑えるから、グライは今釣ってるその子と、船の上にいるスナイパーを抑えて。殺しちゃダメだからね?」

『はぁぁぁ……!』

 深い溜息と共に通信が切れる。同時に《ガルドミナス》が《ジェネレビオ》を連れたまま飛び立っていく様子を見送った。


「彼奴、《アスカロン》を狙う気か!? ネクト、ペイル、抑えてくれ!」

『『了解!』』

  グリムは2人へ指示を与えると、アルルの援護へ向かう。通信は未だ繋がっていないが、援護の意思を見せれば何かしらの行動を示す筈だと考えた為だ。

 一方、少し離れた位置からストームは追従する。《ガルドミナス》の動き方はネクトをこちらから引き離す為のものにも見えた。だがそれでは《ライナルディン》は3機のDCDを相手しなければならない。

 つまり、それをやれるだけの性能が《ライナルディン》に、又は技量がパイロットにあるという事。

(出方を伺おう、なんて言ってもな。アルルちゃんと通信が繋がらないんじゃ伺いようがない)

 《ヴァレットボックス》のウェポンラックから長射程ライフルを取り出し、《ライナルディン》へ発射。しかし《ライナルディン》は後ろを向き、背部の大盾で弾く。その隙を見逃さずに《ソニックスラスト》が斬りかかる。


「血気盛ん過ぎない?」

 《ライナルディン》の後腰部装甲が展開。サブアームに直接接続された大型ビームブレイドが、《ソニックスラスト》のビームバスターブレイドを受け止めた。

「ビームバスターブレイドが、止められた!?」

「抑えるなんて言ったけど、これじゃ皆やっちゃうかも」

 続いて《バインドホーク》が放つビームマシンガンを実体剣で防ぎ、《ソニックスラスト》を蹴り飛ばした。

「うぐぁぁっ! こんのぉぉぉ!!」

 様々な要因で積み重なった苛立ちが遂に破裂。アルルは叫びながら再び《ライナルディン》へ斬りかかる。

「こんなふうに」

 ビームバスターブレイドにはビーム刃が発振していない部分が存在する。それは鍔にあたる部分。その僅かな実体部分へ、《ライナルディン》は実体剣を合わせ、2本のビームバスターブレイドを弾き飛ばした。

「えっ……?」

 一瞬だった。だがその虚を突かれた瞬間、振り下ろされた実体剣は《ソニックスラスト》の両肩から先を切断した。

「アルル!!」

「待てグリム! 直線で動くのはまずい!!」

 その様子を見たグリムは焦りのあまり、ビームマシンガンを放ちながら《ライナルディン》へ一気に近づく。だがグリムは失念していた。《バインドホーク》の右腕を斬り飛ばした謎の武装をまだ特定していない事を。


 振り返った《ライナルディン》の腹部の装甲が、まるで花弁の様に展開していた。そこから覗く砲塔には既に光が集結している。


「《バインドホーク》の腕を飛ばしたのは、あれか!!」

 急反転して躱そうとしたグリムだったが、放たれた光は寸分違わず《バインドホーク》の頭部を撃ち貫く。

『おいグリム、大丈夫か!?』

「問題ありません、でもアルルが……!」

 グリムは問題ないというが、高性能レーダーを搭載した《バインドホーク》の頭部が破壊されたのは痛手である。皆の眼を潰されたも同然なのだ。

「けどネタが割れりゃ簡単だ! 今度はこっちの……っ!」

 長射程ライフルを構えるストームだったが、視線の先にあった光景に慌ててトリガーを引き掛けた指を止めた。


 《ライナルディン》は腰部の大型ビームブレイドで《ソニックスラスト》の両脚を刺し貫き、背後から抱き締める様な形で盾にしていたのだ。


「マジかよ……」

「先に人質を取ったのはそっちだし、これでイーブンかな」

 《ソニックスラスト》に搭乗しているアルルは気づいている。《ライナルディン》は既に腹部装甲を展開している事に。エネルギーは溜めていないが、下手な動きを見せれば撃つつもりだ。

 切っていた無線に手を伸ばしかけるが、寸前で止める。勝手な行動をした手前、助けて欲しいと無線に呼びかけようとするなど厚かましい。アルルはそう感じたからだ。

「……何やってるんだろ、私」

 ヘルメットを投げ、アルルは蹲る。自分の感情を、思考を、制御出来ていなかった事に今更気づいた所で、もう遅いのだ。



『ペイルさん、予備のビームスナイパーライフル調整終わりました! 受け取って下さい!』

 甲板ハッチが開き、中から現れたビームスナイパーライフル。それを受け取った《ブラストハンド》はすぐに《アスカロン》へ迫る機影へ狙いを定める。

「カウント2の後に撃つ! ネクト、避けろよ!」

『分かった』

「1、2、ショット!」

 トリガーを引き、ビームスナイパーライフルから熱線が吐き出される。指示通りネクトが駆る《ジェネレビオ》は発射した瞬間、横へ回転して回避した。これならば確実に前の《ガルドミナス》だけを貫く。

「こんな、無茶苦茶を!」

 しかしグライは《ジェネレビオ》が回避しようとする時に見せた小さな仕草を見逃していなかった。半ば直感、半ば経験則に基づいた予測で、《ガルドミナス》を《ジェネレビオ》と全く同じ方向に回避させた。

「何っ!?」

「そう何度もやれるような人間じゃねぇんだ、俺は!!」

 グライは《ガルドミナス》のアクセルを一気に踏み込む。バーニアから紫炎が吹き荒れ、《ジェネレビオ》を刹那の内に突き放した。

「離される!? ペイル兄さん!」

「今度こそ撃ち落とす!」

 再びビームスナイパーライフルの銃口を《ガルドミナス》へ定める《ブラストハンド》。速度こそ凄まじいものの、あまりに直線的。これでは好きなところを撃てと言っている様なものだ。

(その羽根付きのブースターを片方焼けば、《アスカロン》にぶつかるのも避けられる。……お前まで、戻って来やがって)

 忘れられる筈もない。少し見た目が変わった所で、その勇ましく宇宙を舞う姿を。

 《ガルドミナス》の左部のウィングブースターユニットへ狙いを定めた。トリガーを引けば無力化できる。

(失せろ、《トライファルコン》!)


「アルル!!」


 通信機から流れたグリムの声、彼が読んだ名前。狙撃に集中していたペイルは、その名を無視する事など出来なかった。

 一瞬見るだけならば結果は変わらなかっただろう。だが敵に囚われた《ソニックスラスト》を映した拡大モニターに、ペイルの目もまた囚われてしまった。


「ここを越えれば!」

「っ!!」

 我に返ったペイルがトリガーを引いた瞬間、《ガルドミナス》は人型形態へ移行。ビームが焼いたのはウィングブースターではなく左腕。ほとんど速度を緩める事なく《ブラストハンド》へ突進する。

「ぁぁぁあああっっ!!」

 甲板で引きずられる《ブラストハンド》から、火花と共に装甲が弾き飛ばされていく。当然コクピットも衝撃と揺れで掻き回され、各所からエアバックが飛び出し、ペイルはそれらに打ちのめされる。緩衝材の役割を果たすとはいえ、DCDクラスの大質量の物体が高速で衝突した衝撃を受け止め切るのは難しいのだ。

「うっ、ぅぐぅぅぉぉぉっ!! こんな、無茶は、もう!」

 そしてそれはグライも同様。《ガルドミナス》には甲板との摩擦はないものの、決して万全ではない状態での突進なのだ。


「ダイゾウさん! 《ブラストハンド》と敵機、このままでは艦橋に衝突します!!」

「ぐぅ、すまんペイル、気合い入れろ!!」

 コムニからの警告を受け、ダイゾウは苦肉の策で甲板上の隔壁を起動させる。

「御免だ!!」

 残った右腕でロングライフルを投げつけ、それを肩の機関砲で破壊。《ガルドミナス》から充電された電力を炎に変え、隔壁を吹き飛ばした。

 爆風と降り注ぐ破片に押し止められ、2機は艦橋目前で止まる。《ガルドミナス》は右腕のビームブレイドユニットを《ブラストハンド》のコクピットへ、艦橋に肩の機関砲を向けた。

「……やったぞフェン。これで満足か」

『すごーい。グライお兄ちゃん、大好き』

「……」

 思わず通信機を殴りつけそうになったグライだったが、寸前でその拳を解いた。



「さて、船長さん。これで交渉再開してみたら? 間違いなくこっちが有利に進むと思う。ふふ」

『……待て。グライの方に何か反応が近づいている』

「さっきデートしてた子でしょ。あの子なら……っ」

 フェンは《ガルドミナス》へビームマシンガンを向けながら硬直する《ジェネレビオ》を注視していたが、それの事を言っている訳ではない事を察知した。

「ちょっと、もしかしてこの気配」

『どうした?』

「……もしかして」

 いつも薄ら笑いを浮かべていたフェンの唇が、初めて固く結ばれた。

「同類が来てる」



『全員に通達します! 《オルドレイザー》が合流、今より交戦するみたいです!!』

『送迎係の私もいるぞー!』



 《アスカロン》の背後から迫る機影。それは《オルドレイザー》と、それを運んで飛翔する大型輸送機だった。


 名を《ストーク》。機体側部に4つの大型コンテナ、更にその横に2つずつ小型コンテナを搭載し、機体前方にはビームガンが2つ、後部にはミサイルコンテナを搭載。推進部に大型ジェットエンジンを4つ搭載し、全長はDCDと同程度。武装輸送機としてはかなりの巨躯である。


 上部の接続ユニットに、《オルドレイザー》が両脚を嵌め込む形で接続。スラスターの出力と数を抑えられた《オルドレイザー》の新たな脚となって、この危機に駆けつけたのだった。


『シェイク、武器はどうするよ?』

『海賊の無力化なら殺傷力の高い武器以外。マルチブラスターとワイヤーライフル、ビームガンだ』

『あいよ!』

 《ストーク》のパイロットであるパストゥの声と共に上部からアームが展開。コンテナの中身を取り出すと、その場で《オルドレイザー》のプラットフォームに接続していく。


『みんなー、大丈夫ですかー!』

『悪いソーンちゃん、アルルちゃんとペイルが捕まった! アルルちゃんの方はストームお兄さんが時間稼ぐから、先にペイルの方頼む!』

『エ゛ッ!? シェイク、シェイク、急がなきゃ!!』

『武装接続なら今終わった。《オルドレイザー》、今より介入する!』



 《ストーク》の接続ユニットから解き放たれる。



 《オルドレイザー》が再び、戦場に戻った。



続く

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