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第21話 応戦

 

 躊躇いなく放たれた閃光。ロングライフルから走るビームの狙いは、《ヴァルチャー》を捕らえた《バインドホーク》と《ジェネレビオ》。

 示し合わせる間もなく、2機は《ヴァルチャー》の拘束を解いて回避。隙をついて《ヴァルチャー》達は脱出する。

「グライ兄貴、ありがと〜!」

「お兄ちゃん、ありがと!」

『礼なんかいいから早く行け! 俺とフェンでも追い払うのが手一杯だ!』

「フェンお姉ちゃんも来るの!?」

「やった、彼奴等なんか一瞬でバラバラにしちゃえ!」

 幼いパイロット達があげる歓喜の声に、グライと呼ばれた青年は呆れた溜息を吐く。


 燃え尽きた灰の様な色をした髪、それとは対照的に燃える炎の様な真紅の瞳。そして、顔の中心に刻まれた雷の様な傷。

 ヘルメットで隠された素顔は2機のDCDを見据える。


「大人しくバラバラにさせてくれるような連中には見えないけど」

 自身が駆るDCD、《ガルドミナス》は再びロングライフルから熱線を発射。《ヴァルチャー》を追おうとした2機を阻んだ。

「人質を取る様な企業があるか……なんて、海賊が言うのはおかしいか」

『ッフフ』

 グライの呟きを聞いたのか、通信機から少女の笑い声が漏れ出る。苦い表情と共に通信機へ呼びかけた。

「フェン、早くお前も出てくれ」

『はーい』

 わざとらしい甘い声での応答。しかし友軍を示す信号は未だレーダーには映らない。

「……これもお前にとっては遊びか!」


 《ガルドミナス》はロングライフルと同時に、肩へ内蔵された機関砲を連射。《バインドホーク》と《ジェネレビオ》を分断する為に簡易的な弾幕を展開する。

「《トライファルコン》とは武装が違う……当たり前、か」

『グリム兄さん、彼奴の相手は私に任せて欲しい』

「1人で?」

 ネクトからの申し出をグリムは疑問に思う。現在の《ジェネレビオ》はファイアスケイルが無い分、火力は乏しい。単機で抑え込むよりも連携した方が確実である。

 だが《ジェネレビオ》が単機で抑え込めれば、残った戦力を海賊戦艦の制圧に回す事が出来る。

「……危なくなったら退がる。それが守れるなら」


「了解」

 ネクトの返答と同時に《ジェネレビオ》が巡航形態へ変形。再びロングライフルを発射しようとする《ガルドミナス》との間合いを詰めた。

「1機しか釣れないか」

 グライは渋い顔をしながら照準を定める。狙うはスラスターが集中した主翼部。ロングライフルの出力ならば翼ごと溶断できる。

 引き金を引き、一瞬の充填と共に放たれる光線。だがその一瞬をネクトは狙っていた。

 スラスターを吹かしながら、巡航形態から人型形態へ移行。それにより推力の方向が一瞬狂い、《ジェネレビオ》は弧を描く様に変形しながら飛翔。ビームを飛び越える様な形で《ガルドミナス》との距離を詰めた。

「そんな回避をやる奴がいるか!」

「アルル姉さんが教えてくれた技、使う時が来るなんてね」

 シュミレーターで教えられた事を思い出しつつ、《ジェネレビオ》のビームマシンガンを連射。《ガルドミナス》は回避に徹さざるを得ない。

 ロングライフルの威力と射程はかなりのもの。だがそれ故にトリガーを引いてから一瞬の充電時間を要する。連射性、そして近距離戦においてビームマシンガンに勝てる道理はない。

 しかしビームマシンガンを掠めた《ガルドミナス》の装甲に目立った損傷は見られない。

(決して出力が低い訳ではないと思うけど)

 ネクトもグリム達から聞いており、機体の姿、そしてそのフレーム、特徴的なアイレンズを覚えている。《トライファルコン》は7年前のDCDであり、メンテナンスも海賊の元では満足に受けられない筈。ライフルより抑えられた出力のマシンガンとはいえ、傷が付かないという事があるのか。

「無力化するにはバーニアを焼くか、四肢を飛ばすしかない」

 《ジェネレビオ》のビームマシンガン下部のユニットからビーム刃を発振。接近戦へ持ち込む。相対する《ガルドミナス》は右腕装甲から露出したビームブレイドで応戦する構えをとる。


 振り上げられた閃光同士が衝突。火花をあげながら競り合う2機。機体の出力差だけではなく、ビームブレイド本体が発する電磁波の強さで勝負が決まる。ビームの出力が高い程、それを誘導、内包する役目を持つ電磁波も強力でなくてはならない為だ。ビームに実体はないが、電磁波同士は反発する。


「そんな小さいユニットじゃあ」

「押し負ける、だから!」

 振り抜かれた《ガルドミナス》のビームブレイドを、《ジェネレビオ》はバックで避ける。同時にビームマシンガンを連射、《ガルドミナス》へ浴びせかける。

 避けようともしない《ガルドミナス》を不審に思いながらも、《ジェネレビオ》は本命のビームブレイドを腰部から抜剣。再び振り下ろした。同じように《ガルドミナス》は受け止めたが、

「っ、出力が、さっきとはまるで違う!」

 少しずつ押し込まれていく。決してビームブレイドの出力が負けている訳ではない。

 僅かに露出した《ガルドミナス》の右腕から、小さな火花が散っていた。

「ガタが、来始めてる……!」

「7年の技術差は技量じゃ埋められない!」

「《ガルドミナス》、休憩はまだ少し先だ! 堪えろ!」

 ここでグライは《ガルドミナス》を後方宙返りの要領で回転させる。《ジェネレビオ》の腕を蹴り飛ばすと、そのまま巡航形態へ移行して飛び去る。無論、逃げる訳ではない。

「ここで逃したら面倒になる!」

 同様に《ジェネレビオ》を巡航形態へ変形させたネクトも後を追い、ドッグファイトが始まる。


「フェン、遊んでる暇があるなら残りの相手をしろ!」

『はーい、フフフ』

「っ、船長の判断とはいえ、文句の一つでも言っておくべきだったな!」

 《ジェネレビオ》のビームマシンガンを回避しつつ、《ガルドミナス》は自分達の船を狙う《バインドホーク》に目をつける。

「そんな作戦だろうとは思った!」

 ロングライフルを巡航形態のまま発射。道を阻まれた《バインドホーク》は進行を止め、人型へ一度変形する。

「1機でよくやる。ペイル、予備のライフルの準備はいつになる?」

『もうしばらく待ってくれ! 後はエネルギーパックを装填すれば届くから!』

「分かった」

『こりゃ、海賊船の制圧は俺らでやるしかないな』

 ここでストームが駆る《ヴァレットボックス》が合流する。機体の仕様上変形が出来ない為か、少し遅れたようだ。

「はい。それに彼方の動きも奇妙ですし」

『奇妙だよなぁ。頑なに1機だけで時間を稼いでいるの』

「1機しか戦闘用DCDを保有していないのか、それとも別の理由があるのか。とにかく今は──」

 グリムが最後まで言い切る前に、


 《バインドホーク》の右腕を熱線が貫いた。


「何、うぐぁぁっ!?」

『はぁっ!? おいグリム大丈夫か!?』

「問題、ありません! けど何処から……!?」

 破損し、炎を上げる腕をパージしつつ、レーダーを再び確認する。だが何も感知していない。《バインドホーク》が捉えられない範囲からの攻撃なのか。そう思った時だった。

 《バインドホーク》の背後、何もない空間に突然電流が走る。やがて電流はノイズの様な歪みに変わり、《バインドホーク》の腕を吹き飛ばした者の正体を表した。


「あら、かくれんぼはもう終わりみたい」


 亀の甲羅に似た大盾を背負い、両手に実体剣を握った異形のDCDだった。甲虫を思わせる節を持った深紅の装甲と、4つの碧色のアイレンズが怪しげな光を放つ。実体剣を持つ腕にも甲虫を想起させる爪を持ち、頭部から突き出たアンテナはカブトムシの角に類似している。


「どうやって隠れてたかは知らないが、今はどうでもいい!」

 ストームは咄嗟にウェポンラックからハンドバズーカ2丁を引き抜き、発射。大盾に直撃するも、焼け跡すら刻まれていない。

 しかし《バインドホーク》が避ける隙は作れた様で、振り下ろされた実体剣から距離を取った。

 だが《バインドホーク》の右腕を破壊した武装らしき物は見当たらない。

「何なんだ、こいつ……」

 謎のDCDが再び実体剣を振り上げようとした瞬間だった。


 何かに気がついた謎のDCDが振り向いた刹那、凄まじい速度で飛来した《ソニックスラスト》に拐われた。

「アルル!?」

 ビーム刃を発振させていない状態のビームバスターブレイド2本と、実体剣2本が衝突し合い、《ソニックスラスト》と謎のDCDが睨み合う。


「絶対、やらせない!」

「可愛い、まっすぐ向かってきて」


 謎のDCDに乗った少女、フェンが微笑む。赤く長い髪と薄紫色の瞳は、乗機と同じ様に輝いていた。



続く

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