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第1話後編 贈り物

 

 海、と呼ばれる場所があったらしい。


 今自身の周りを覆う暗闇と似て非なるものだと、死別した母が言っていたことを思い出す。海は青く輝き、様々な生き物が住む命の楽園だったらしい。現在彼が住む場所では、魚は巨大な生簀の中で生きている事が普通である。

 彼の周り、宇宙はどうだろう。泳ぐのは魚ではなく隕石、暗闇の中では沢山の恒星の輝きがある。確かに似ているかもしれない。


 全点周囲モニターで下を見ると、現在の生活拠点である居住衛星が通った。しばらくするとまた別の居住衛星が通り過ぎる。あれらの中で、地球を離れた約5億人が今も暮らしているのだ。


 言うなれば生簀の魚。そんな例え方をすれば、決して少なくない人達が不快な顔をするだろう。


『ポイントに到着。本艦はこれより隕石の採掘作業へ移行します。各機は誘導後、マイニングツール付近にて異常が無いか確認願います』

『了解』

『了かーい』

『了解ですよっと』

「了解」

 彼を含めた4機の飛行機が一瞬にして変形。人型となり、戦艦の周りを漂う。

 隕石は戦艦よりもかなり小さい。地球へ落ちても大気圏でかなり削られる為被害は小さいだろう。しかしこの隕石は今や人類にとって希少な資源が採れる宝なのだ。

 戦艦の側面から掘削ドリルやレーザー、爆薬などを出し、採掘していく。

『サンプル採取。隕石表面は鉄、ニッケル、金。内部にタングステン、メデオライトを確認』

『おぉっと当たり引いた!』

 渋い低音の声が通信機から伝わる。それに追従する様に、

『メデオライト!? やったぁ、今日はお祝いのXXLピザ決定!!』

 溌剌とした少女の声も重なる。あまりに興奮していた為か、直後に涎を啜る音が聞こえた。男性は更に魅惑の単語を並べる。

『ピザもいいけど、久しぶりに……ステーキとかどうよ?』

『そ、そそそ、そんな、そんな大罪犯しても良いのぉ……!?』

『あったりまえだろ! なぁ隊長さん!』

「申し訳ないが、今日もマッシュポテトと経口補水液」

『『…………何で?』』

 絶望の声が重なった。

「メデオライトの半分を売却、得た資金は艦やDCDの整備に当てる。残り半分はビーム兵器用に加工施設へ回す。これで差し引き0」


 メデオライト。今から数十年前に発見された鉱物、そして原子である。高密度で圧縮される事で高いエネルギーが発生し、尚且つ何か別の力が働かない限りそれを蓄える特異な性質を持っている。

 これを利用したものが、現在DCDが用いているビーム兵器とジェネレーター。現在数多く搭載されているジェネレーターは、このメデオライトを利用したものと従来のものを組み合わせた《ハーフアンドハーフジェネレーター》。1基でDCDを稼働させる程に強力なものが生まれたのだ。


『ピザくらい自分達で勝手に食ってれば良い話だろ』

 若い青年が刺のある言い方で非難する。それに対し通信機は口を尖らせているかの様な少女の息を拾った。

『良いじゃん別に。じゃあ仕方ないからXLで我慢する』

『そもそもピザすら頼めないって話だ。倹約しろ。腹に脂肪は貯めず金を貯めろ』

『うぐぇ、さりげなくセクハラされた』

『金はピザじゃなくてピザジェネレーターになって終わりか……悲しいなあ』

 ハーフアンドハーフジェネレーターは頭文字からHHGと呼ばれるのがほとんどだが、一部では名前の語幹からピザと呼ばれている。


 などと無駄話をしている間に、採掘作業も大掛かりになっていく。表面を剥がし、内側を掘っていく。

 この宙域は敵がほとんど出現しない安全地帯。ここから先は長い長い時間との戦いが始まる。

 早速退屈な時間に屈した男性の声が通信機から漏れ出た。

『毎度思うんだが、俺達ここでずっと見張る意味ある? 交代とかしてやれば良いんじゃねぇかな』

「安全域とは言っても、はぐれた個体などが紛れ込む場合があります。それに……」

 言いかけた時、全機体にアラームが鳴り響いた。一気に緊張が走る。

『隕石内に高エネルギー反応を検知。採掘作業を中断、全機は戦闘態勢を』

「こういう事が珍しくないからです」

『うげ、虫喰いだったか!』

『ひぇー、デヴァウル引いちゃったかー!!』

 全DCDがマイニングドリル付近へ集結。穴の中から虫が這い出てくるのを、武器を手にして待つ。

 掘削ドリルの下からそれが這い出てきた。全機が一斉に武装を構えるが、それは反撃も防御も、逃走すらする素振りを見せない。

 そもそも、動いていない。這い出た様に見えたのはドリルの溝に腕と思しき部位が巻き込まれていた為だ。

「……?」

『あれ、さ、ガラクタ?』

『いやいや、ガラクタって……』

『……DCD、に見える』

 以前通信機から微かに響く、艦の警告アラーム。未だ高エネルギー反応は消えていない証拠である。

 何よりフレームとジェネレーターしか残っていない謎の機体の目は、青い光を宿していた。


『で、どうするよ隊長さん? これ、うちらで貰っちゃう?』

『止めた方がいい兄さん。何かも分からないものを艦に持ち込むのは』

 男性と青年の意見。しかし彼は謎のDCDを見つめたまま釘付けとなっていた。

「…………《アスカロン》、発掘されたDCDを回収してくれ」

『兄さん……!』

「知らない振りをして放置する方が危険だ。居住区コロニーが近くにある以上、俺達が回収するしかない」


 この決断は彼等にとって大きな賭けであった。デヴァウルは人類を脅かし、メデオライトは人類を躍進させた。

 ならばこの謎のDCDらしき機械は何をもたらすのか。

 7年間、宿敵を追い続ける自分達に好機を与えてくれるのか。


 賭けてみる価値があると思いたかった。



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