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第18話 これからの道

 

「ったく、あいつはどんだけDCDぶっ壊せば気が済むんだよ」

 文句を垂れながら大型アームを操作するパストゥ。目に見えて破損していた装甲やフレームは勿論のこと、武装出力を制御する為の電子機器類までもが見事に破損しており、そちらに関しては別の整備員達の管轄となるらしい。

 幸い第3コロニーにある軍の整備施設を貸切に出来た為、《アスカロン》のメンバーのみでの補修が行える事は幸いだった。話を聞いたストーム曰く、あの状態の《オルドレイザー》を見た兵士達はまるで白昼夢を見ていたかのように思ったらしく、戦いを見ていなかった兵士や上官に話しても信じて貰えなかったらしい。

 どちらにせよ、M・Sにとってこの《オルドレイザー》は必要だ。あの状況、《オルドレイザー》がいなければ結果は変わっていただろう。

 だからこそ、今後二度と暴走をしないように調整しなければならない。原因は分かっていないが、暴走していた箇所は特定出来ている。

「その箇所を押さえ込めば、きっとリミッター解除なんて簡単には出来ない筈」

 暴走時に展開した箇所へ装甲板を増設し、簡単には展開させないようにする。そして排熱が追いつかない程の推力を放っていたスラスターやブースターも再調整。いくら《オルドレイザー》といえど兵器だ。プロセスを封じれば簡単には暴走しない筈である。

「ちくしょー、面倒臭い作業させやがって。……まぁ、リターンが大きいから今回は見逃してやるか」

 軍の最新設備を用いた補修と改造である。貸切の期間を存分に利用する他ない。何より今後も働いて貰う以上、簡単に暴走や破壊をされては困るのだから。



「へー。報告書を読んだけどやるじゃない。物は言いようってやつか」

 《アスカロン》にあるグリムの部屋。そこを訪れたストームは報告書の内容を読んでいた。

 あの《オルドレイザー》をどう説明したのか、そしてパイロットであるシェイクとソーンの処遇はどうするのか。迷っているようであれば相談に乗ろうと考えていたのだが、そんな心配は必要なかったようだ。

「変に偽らずに《オルドレイザー》の暴走を報告して、それを踏まえた上で《オルドレイザー》があの未知のデヴァウルを撃退した事を報告。こうすりゃ《オルドレイザー》を問答無用で処分させないような牽制になるって事か」

「何も特別な事はしていません。ほとんどハイディアルさんの返答次第だった。《オルドレイザー》とシェイク、ソーンが政府軍に接収されなかったのは、彼の懐の広さのおかげです」

「政府軍としちゃほとんど何も出来てなかったし、この危機を脱するのに一番貢献した企業からDCDを接収なんて面子が立たないからな。それに、たとえ大将から望んでない返事が来ても、それはそれで何とかしようとしたんだろ?」

「……はい」

 グリムの目には危険な光が宿っていた。半ば自棄気味に、覚悟を決めた光だ。

「もう、決めました。たとえ誰に何と言われようと、《オルドレイザー》は絶対に手放さない。あの戦いで確信したんです。俺達家族の全てを狂わせたあのデヴァウルの息の根を止められるのは……《オルドレイザー》だけだ」

 手にしていたコーヒーカップを静かに置く。だがその音は部屋いっぱいに響くほど大きく響いた。


「《オルドレイザー》を動かす為に必要なソーンも、《オルドレイザー》を操縦出来るシェイクも、絶対に」


「そうか。ま、今の俺の上司はお前だ。意向にはなるだけ従うさ」

 それだけ伝えると、ストームはグリムの部屋を後にする。先程まで彼に向けていた気の抜けた笑みは身を潜め、厳しい表情を浮かべていた。

「ちょっとお前の事、誤解してたかもな。いや、どっちつかずだった自分の意思にケリをつけたのか」

 あの時のグリムの顔は家族想いの兄のものではない。大切なものを奪われ、復讐を誓った鬼の顔だった。

 シェイクも、ソーンも、あの時のグリムはきっと道具として見ていた。まるで昔の自分を見ているようでやるせなかった。

「……良かったな、ここに仇討ちに失敗した先駆者がいて。そうならないように、やるだけやってやるからな」



「っ……っ、っ」

 シェイクがグリムから言い渡された仕事は、第3コロニーをソーンと一緒に観光する事だった。そして今、目の前で自らの顔より巨大なパンケーキを胃に収めるソーンを見つめる仕事をしている。

 《オルドレイザー》から引っ張り出され、昏睡している間に2人揃ってメディカルチェックを受けたらしいのだが、特に異常は見られなかったらしい。違和感はあったものの、そもそも《オルドレイザー》暴走の原因すら判明していない中でそれ以上の考察は出来なかった。

 シェイク自身も体に異常の様なものは感じず、ソーンも変わらず旺盛な食欲を持て余している。

『シェイクは食べないの?』

 シェイクの眼前に現れるミニマムモニターに記された言葉。とはいうものの、つい30分前にファストフード店で昼食を済ませたばかり。とても入る余地は無い。

「俺は大丈夫だ」

 そう言って一口分だけ残ったコーヒーを飲み干すと、何処からともなく現れた小型ドローンへカップを渡す。飛び去っていこうとする小型ドローンを、ソーンはパンケーキを咀嚼しながら引き止めた。

 小型パネルに打ち込まれた注文内容は、

「まだ食べ終わってないのに頼むのか。……おい待て、そのコーヒーは誰のものだ?」

 ホイップクリームとフルーツが山の様に盛られたパンケーキの隣に、クリームが螺旋を描いて山の様に盛られたウインナーコーヒーが。カップも一見すると通常の3杯分はある。

『シェイクの分だよ。私からの奢り』

 得意げにM・Sから支給されたカードを掲げるソーン。初めて貰った給料で奢ってくれる事は嬉しかったのだが、あのコーヒーが来る事を想像した瞬間、シェイクの表情が複雑なものへと変わる。

 それを見たソーンは、小さく笑って見せた。

『変な顔』

「変な顔にもなる」

『でも、普段の悲しい顔よりずっといいよ』

「悲しい顔をしてるのか?」

『うん。でも、これからはもっと楽しい顔、見せて欲しいな』


 眩しい笑みを浮かべるソーン。口元にクリームが付いたこの笑みに、これから先また救われる事になるのかもしれない。

 だからこそ、ソーンも、家族も、M・Sのみんなも、二度と失わないように自分が守ると、改めて誓った。



「……っ!」


 突如右手の甲に鋭い痛みが走った。目を向けると、血が流れていた。何処かでぶつけたのか、何かで切ったのか。ポケットに入ったハンカチで拭っていると、シェイクは気づいた。

「何だ……この傷は……?」



 1枚の花弁と、1本の荊棘が、深く刻みつけられていた。



続く

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