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第12話 距離

 

「ちょおっと提案がありま〜す!」

 第3コロニーの宇宙港で突然声と手を挙げたのはアルルだった。《アスカロン》へ乗り込もうとしていた一同の足が止まる。

「このまま何にもしないで第3コロニーから出るのは不服でありまーす!」

「遊びに来たんじゃないんだぞお前」

「もうお仕事は終わったし、買い出しくらい行ったっていいと思いまーす!」

 ペイルの咎めも聞き入れないアルル。やがて誰も了承していないにも関わらず、話を進め出した。

「てなわけでちょっとの間、私とシェイクとソーンちゃんとで買い出し行ってきまーす!」

 指名されたシェイクは小さく首を傾げ、ソーンは僅かにシェイクの背から顔を覗かせた。

「どうして俺達なんだ?」

「そりゃソーンちゃんのお洋服買いに行きたいからだし、シェイクにはその荷物持ち兼ドライバーをお願いしたくて!」

「服なんて注文すりゃ──」

「はいペイルうるさーい!」

「俺で良ければ付き合うが……」

 強引ではあったが、アルルにも何か考えがあって提案したのだろう。シェイクは意図を汲み取り了承した。

「ソーンはどうする?」

「……」

 最初こそ困惑した様子だったソーンだったが、やがて小さく頷いてみせた。

「じゃあ決まりー! てなわけでグリム兄さん、お小遣い」

「分かってるよ」

 困った様に笑ったグリムからカードを受け取ると、意気揚々と走り出すアルル。後を追うシェイクとソーンと擦れ違うように他の面々は艦へと戻っていく。

「……」

「っ?」

 擦れ違い様、ソーンの視線がネクトへと向けられる。何を意図した視線なのかは、小さく突き出された舌を見れば一目瞭然だった。

「……子供」

 自身とそう変わらないであろう年齢からは考えられない行動。ネクトはただ呆れた溜息で返答する他なかった。



「へいタクシー、第3コロニーのファッションモールまで!」

「ファッションモールなんて出来たのか」

 車を運転するシェイクの後ろで妙にテンションが高いアルル。そして彼女から少し距離を置く様に端に座るソーンは、視線をアルルと景色で往復させている。

「そりゃあさ、ペイルの言う事も一理あるよ? でもソーンちゃんに似合う服はちゃんと試着しないと分からないじゃん。これから長い間、一緒にいる訳だしさ」

 アルルはそう言うと一気にソーンと距離を詰める。肩を震わせたソーンの口から小さく息を吸う音がした。

「てなわけで、今日はじゃんじゃん買い物しちゃうぜぇ! この魔法のカードを使って!」

「……」

「こんな病院服みたいなやつじゃなくてさ、もっともっと可愛い服買おう! シェイクもみんなもびっくりするくらいのやつ!」


 何故あれだけソーンを警戒していたアルルが、今になってこれほど積極的に関わろうとしているのか。シェイクは疑問に思いつつも、嬉しく思う気持ちもあった。

 せめてソーンだけでも、M・Sの皆に受け入れられて欲しい。どれだけ長い時間が掛かろうとも。



「さぁてソーンちゃん、まずはこいつを着てもらおうか」

「……ん」

 手渡された商品を抱え、試着室へ入って行くソーン。シェイクがそれを見送ると、隣に立っていたアルルが独り言の様に語り出した。


「しょーじきさ。私、皆が言うほどシェイクの事もソーンちゃんの事も嫌ってないんだよね」

 今度は、僅かに驚いた様子で自身を見たシェイクへ向ける様に続ける。

「確かに7年前は私も怒ったし、シェイクがした事は許せなかったけど……何にも言わないで出て行ったのかがどうしても気になっててさ」

「……」

「かと思ったら可愛い女の子連れてふらっと戻ってきて。そりゃペイルもネクトちゃんも怒るよ。でも、私としてはずっと抱えてた悩みが解決するかもーって」

 そして向き直り、シェイクの服の裾を摘んだ。思い出す。昔から溌剌として人懐っこかったアルルが、不安を抱えていた時によく自身やグリム、ペイルに見せた癖だ。


「どうして、あの時黙って出て行ったの? 誰にも、何も話さないで」


 だがその質問にだけは決して答えられない。吐き出せば楽になれる、きっと分かって貰える。ペイルもネクトも許してくれるかもしれない。そんな事は分かっている。

 シェイクが戻ってきたのは許しを得る為ではない。それを忘れてはいけない。

「……答えられないんだね」

「すまない。お前の悩みを解決する事が出来なくて」

「いいのいいの! 誰にだって言いたくない事ってあるだろうし。ほんと空気が読める妹で良かったねー! 感謝しろよ、ふへへ」

 裾から離れた手がシェイクの背中を容赦なく叩く。と、試着室のカーテンが僅かに開いた。

「お、着替え終わった?」

「……」

 見れば顔が少し紅い。顔しか出していないのを見るに恥ずかしいのだろうか。渡された服をシェイクは見ていないが、そんなに派手なのだろうか。

「よし、じゃあ男性からの意見どうぞ!」

「ぃっ!?」

 アルルの無慈悲な手によりカーテンが開けられる。後ろに跳び退くソーンの防御行動も虚しく、身に纏った衣服が露わになる。


 細く白い足を惜しげもなく晒したホットパンツ。肌とは対照的な黒いキャミソールの上から、肌と同じ様に白いTシャツを着ている。が、肩と臍を見せた大胆なものだ。


「〜っ、〜っ!」

「ありゃりゃ、Tシャツ伸ばしちゃダメだよ〜。こりゃ買うしかなくなっちった」

 臍だけでも何とか隠そうとシャツを目一杯引っ張るソーンを、アルルは羨ましそうに見つめる。

「いいなー。私さぁ、腕太いし肩幅あるしでこういうの着辛いんだよね。ソーンちゃんみたいにスタイル良いと可愛く着こなせるのに」

「これにするのか?」

「んにゃ、もう何セットか買うよ。で、シェイク的にこのファッションどうよ?」

 シェイクからの視線を感じたのか、固く結んだ唇と非難の目を向ける。言葉にされなくてもメモにされなくても分かる。「スケベ!」と訴える彼女の意思が。

「似合うと思うぞ」

「えーありきたりー。まぁ似合うのは本当だけど」


 それからもファッションショーは続く。

「ほれほれ、こちらは如何?」

「っ! んん!」

「うわぁまた伸ばしてる! ダメだってば!」

 空色のパーカーに紺色と惑星のプリントがされたシャツ。上半身は先程に比べて露出は少ない。しかし黒いミニスカートの丈は限界まで太腿を攻めている。それを隠すべく伸ばされるパーカーをアルルは何とか食い止めるが、これも購入確定である。


「んもー、じゃあこれはどうだ!」

「……」

 赤いカーディガン、黒地に赤い盾が描かれたシャツ、太腿半ばまでの丈のショートパンツに黒いタイツで細い足を覆うスタイル。これに関してはソーンのお眼鏡に叶った様で、

『これはいいよ』

 とメモ書きを渡してみせた。

「肌見せが嫌なのかな……まぁあの刺繍がコンプレックスなら仕方ないか。じゃあこれを外出用にしよう」

 頷きながら分析を進めるアルルだった。その端でカートに積み重なる衣服と、手にしたカードを交互に見つめるシェイク。

「値段次第じゃ、兄貴が卒倒するな……」


 レジに進んだ時に表示された額は、グリムが卒倒どころか即死しかねないものとなっていた。



続く

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