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5.家に帰る!


部屋に戻ると、メリッサがあたふたしていた。

そして部屋に入って来た私を見ると声を上げた。


「お嬢様ああ!! 一体どちらに行っていたのですか? 部屋で寝ているようにと言いましたのに……」

「こっちだって、メリッサが帰ってくる前には戻ってるつもりだったのよッ!?」


私は思わず逆ギレして、ベッドにダイブしようとすると、ベッドにウサちゃんのぬいぐるみが置いてあるのに気が付いた。


「あ、メリッサ、ウサちゃんありがとう」

「お嬢様……、今思い出したように言いましたね?」

「そんなわけないじゃない! ああこれがなければ眠れないのよねえッ!」

そう言って私はウサちゃんを抱きしめる。

「昨日ぐっすりだったではありませんか」

メリッサが呆れた顔を向けるのだった。





その後、朝食をあれだけ食べたというのにモリモリ昼食を食べていると、包帯まみれのミイラ男がバンッと勢いよくドアを開けて部屋に飛び込んできた。


「――ヴァレンテ嬢!! 申し訳ありません!!!」


そして土下座した。

急いで来たのか、着ている白い療養服がはだけている。


「えっと……」


テーブル一杯に広がる料理の前、ようやく片手で持てるくらい大きなパンを右手に、大盛りで具だくさんのスープを左手に持ち、パンを口いっぱいに入れている……、そんな私はキョトンとした。


ちなみにこの料理は、普通だったら味気ないスープにパンを浸して食べる療養食であるが、私が駄々を捏ねた結果こうなった。


ミイラ男は言う。

「――魔力量の計測機が計測不可能になった時点で、ヴァレンテ嬢は計測不可能になるほどの途轍もない魔力量を持っているかもしれない…という考えにはさすがに至らないかもしれませんが、何かおかしいと異変を感じるべきだったのです。私は魔法が素晴らしいものである一方、危険であることも重々分かっていたはずなのに……。私がもっとしっかりしていればこんなことは起きませんでした。私は魔法使いとしても、教師としても未熟だったのです。危険に晒してしまい、これほどの大怪我を負わせてしまって本当に申し訳ありませんでした――」


私はパンをゴックンした。


あッ、先生だったのね。

長くてあまり話は聞いていなかったけれど、とにかく魔法の先生のようだった。


私は珍しく申し訳ないなんて思う。

こんなに怪我をさせてしまったなんて……。


それに精神的にかなり追い詰められているのが分かる。

私が起こした爆発によって先生が責任を問われ、何かしらの罰を与えられるかもしれないのだ。


私はシュンとする。

「先生ごめんなさい」


私の謝罪に先生は恐る恐る顔を上げた。


「先生は何も悪くないですよ? 先生が止めていたのに、私が先生の言葉を聞いていなかったのがいけなかったのです」


私がそう言うと、先生は涙ぐんで女神を見るかのように私を見た。


「両親にも他の者たちにも、先生は私を止めていたのに私が聞かなかったから爆発が起きたこと、爆発の後いち早く消火して私を治療してくれたことを、しっかりと伝えておきましょう」


私の言葉に先生は感激したように言う。

「ヴァレンテ嬢、ありがとうございます。しかし私も、自分の至らなかったところはしっかりと伝えるつもりです」


それから先生は心配そうに聞いた。

「あの、怪我の具合はどうですか?」

「大丈夫です。見た目ほど酷くはないですよ」

「それなら良かったです……」

先生は心底ホッとしてように息を吐く。

「それより先生の方こそ大丈夫なのですか?」

「はい、私も少し火傷をしたくらいです」

「見たところ少しどころではないと思うのですが…、安静にしていなければならないのではないですか?」

私が言えたことではないけれど。メリッサからの視線が痛い。

「それは……」

「私、早く魔法を使えるようになりたいですわ。だから早く部屋に戻って、しっかり寝て食べて怪我を治してください。そして治ったら私に魔法を教えてください」


そう言うと、先生はについに泣き出してしまった。

「エリザベス様ああ……!!」

()って貴方、こう見えて平民出身で唯一王宮魔法師になれた、途轍もない実力の持ち主でしょう。身分が平民のままならまだ分かるけれど、今は爵位を持っているし。

この先生、ちょっと頼りないし、ちょっと心配だわ…。





午後には王妃殿下が見舞いに来てくれた。


「わざわざお見舞いに来てくださってありがとうございます」

「怪我は大丈夫かしら? 痕は残らないのよね?」

「はい、治りも早いと言われました。痕も残りません」

「それならいいけれど。あと、それはかつら? 地毛は切ってしまったのよね?」

「はい、そうですね…」

「まあ…貴方の髪はとても美しかったのに」

「申し訳ありません…、ですが色々な髪型ができると思うと楽しみです!」

「まあ、確かにそれは楽しみね」


王妃殿下は私の優秀な頭脳よりも、美しい外見の方が重要だと考えているような人だ。

本当に、私に酷い火傷の痕が残るようだったら、ギルバート殿下との婚約を破棄されていたかもしれないと思うほどに。

お父様とお母様が大袈裟なほど私に怪我をしてはいけないと言っていた訳はコレである。


「――それでその夫人たら、惨めったらしく……、エリザベス聞いている?」

「ん? ああはい、聞いておりますよ。そうですわね、なんて滑稽なのでしょう」

「そうでしょう? アハハッ」

王妃殿下は私の答えに満足そうに高笑いしたのだった。


王妃殿下は基本的に話を合わせて頷いていれば満足してくれる。

ただ、王妃殿下は気に入らない侍従やメイドなどを、よくいたぶったり殺したりする物騒な人なので、適当に聞いていると悟られないよう注意が必要である。


それにしても、そんな残虐なことをしてよく笑っているけれど一体何が面白いのかしら。

笑いのツボは本当に人それぞれなのだと思う。





夕方にはギルバード殿下が見舞いに来てくれた。


「エリザベス、具合はどうだ? 母上に言われたのでな、見舞いに来たぞ」

「お見舞いありがとうございます。大丈夫ですわ。ご心配おかけして申し訳ありません」

「エリザベスが魔力を暴発させたと聞いて驚いた。俺もその爆発の音を聞いたんだ。よく無事だったな」

「ええ、咄嗟にバリアを張りましたのでなんとか」

「フーン?」

ギルバード殿下は適当な返事をした。


それから私は、そういえばシオン殿下はギルバード殿下とも会ったと言っていたことを思い出した。

「そういえば、スハウゼン帝国のシオン殿下がいらっしゃっているのですね。偶然お会いしましたわ」


私の言葉にギルバード殿下は思い出すように言う。

「ああ、アイツか。あまり喋らないし、表情も変わらない」

「まあ確かに」

私は頷いて、でも今日はよく笑ってくれたけれど、と思い出す。

「だろう? 俺がせっかく話し掛けてやったというのに無反応だったぞ。つまらない奴だ」

「なるほど」


王妃殿下とギルバート殿下は似ている。

うんうん頷いていれば満足してくれるし、気に入らない者をよくいたぶったり殺したりする。

話は長くて時々何を言っているのか分からないし、笑いのツボが私にはいまいちよく分からないけれど……まあ、王子でイケメンだし。


ギルバード殿下は青い髪と瞳の『ザ・王子様』という容姿だ。

ちょっとナルシスト感は漂うけれど。

この人の婚約者になった時は…


こんなイケメンの王子様なんて完璧じゃないッ!?

それに私次期王妃!! 最強!!!


だなんて思った。

それに私がギルバート殿下の婚約者に決まった時、何に笑ったかって、婚約者候補として争っていた令嬢たちの悔しそうな顔! プフッ


でも、シオン殿下と会った後にギルバード殿下と会うと、何て言うか……、何て言うかアレね、アレ……、う、うん。

この国の将来が不安になるというか……。

見た目とか気にしている場合か、と思わされるというか……。


シオン殿下は確かに私の話で腹を抱えて笑っていたけれど、いつもは落ち着いているし威厳がある。

ギルバート殿下のように顔だけではないのだ。


「――おい、ちゃんと聞いているのか?」

「はい聞いていますわ」

ギルバード殿下の言葉に私はニッコリ頷いたのだった。





その後、お母様も来て案の定叱られた。

結構遅い時間になったのは、友人とのお茶会や買い物に行っていたらしい。


お母様が帰ると、お茶会のお菓子を思い浮かべて思わず呟いた。

「私もお菓子食べたい……」


「お嬢様……」

メリッサは悲しげな顔で私を見る。

「普通お茶会や買い物よりも娘を優先なさるでしょうに……」

「そうなの?」

「い、いえ! なんでもありません!」

私が首を傾げると、メリッサは慌てたように言った。





次の日の朝、メリッサが手紙を持ってきた。


「スハウゼン帝国のシオン殿下からです。自国へお帰りになるようで、朝早くにシオン殿下の側近の方が持ってきました」

「ええ!? じゃあもう帰ってしまったの?」

「はい」

シオン殿下とは話が合ったから、もう少し話してみたかったのに……。


私は残念に思いながらもその手紙をメリッサから受け取った。



∽∽∽∽∽

ヴァレンテ令嬢へ


ヴァレンテ令嬢のおかげでアメリア王国では大変楽しい時間を過ごせました。感謝します。ピアスもありがとうございました。

PS.約束の甘いもの探しておきます。


シオンより

∽∽∽∽∽



私は手紙を読んで思わずニヤけた。

フフッ、甘いもの楽しみだわッ。


そしてそれから思う。

そういえばあのシオン殿下にあげたピアスの片方はどこへ言ったかしら。


「メリッサ、青い宝石のあのピアス知らない?」

「それですが、片方しかないのですが…」

「ええそれでいいの」

メリッサがピアスを持ってくると、私はそれを眺めて、ふと何か引っかかりを感じた。


「約束の証って…………、あれ…?」


私はハッとした。


「私はシオン殿下にピアスの片方をあげたけれど、私はシオン殿下から貰っていないわよ!? それってどうなわけ!?」


片方ずつ2人それぞれ魔力を込めて相手にあげることで、約束の証となるのではないの?


「むう」

私は思わずむくれた。


「メリッサ、レターセットを持ってきて」

「はい」



*~*~*~*~

シオン殿下へ


よくよく考えれば、私はシオン殿下にピアスの片方をあげましたが、私はシオン殿下から貰っていませんから、約束は成立していませんでしたわ。


エリザベスより

*~*~*~*~



「これをシオン殿下へ出してちょうだい」

「分かりました。仲良くなられたのですね」

メリッサはただの手紙の返事だと思ったようだった。



それからメリッサに手紙を渡してからふと思う。


私自身も、もう片方のピアスにシオン殿下が魔力を込めて私に渡すものだということを忘れていたし、シオン殿下も同じく忘れていたか、知らなかったかもしれない。

それに私は片方のピアスを渡してからすぐに走り去ってしまったから、もう片方のピアスのことを言う隙もなかった。

よくよく考えれば…、いや、()()()()()()()()考えれば、私が勝手にあげたようなものだったわね。


………………ま、いっかッ!




その日、忙しい合間を縫って宰相閣下が見舞いに来てくれて、昨日フラフラ出歩いていたこと、走って逃げたことについて説教をされた。

もううるさいなあと正直思っているが、不思議なことに私はこの人が嫌いではない。





数日経って、ようやく家に帰れることになった。

まだ王宮の医務室に通うことにはなるが。

熱はなく、火傷はまだ包帯を巻いてはいるものの痛みはほとんどない。




家に帰ると、商人を呼んで鬘を買った。

予め家に帰る日に来てくれるよう商人に言ってあったのだ。


それにしても重い……。

基本的に長い髪しかないのだ。

元々私もこれほど長かっただなんて信じられないわ。

正直もう髪を伸ばしたくはないわね。

……そうはいかないけれど。


令嬢は長い髪であることが普通だ。

短い髪は女としてあり得ないと言われている。

ただそれはアメリア王国の貴族の中の話で、そんなことはない国は多いし、アメリア王国でも平民では長い髪も短い髪もあまり関係ないようである。





夕食、お父様とお母様は言う。

「よく帰ってきたな、エリザベス」

「早めに帰ってこられて良かったわ」

ルーカスお兄様は相変わらずの暗さで、つまらなそうにスープをかき混ぜている。


そして早速お母様は食いついた。

「エリザベス、それ鬘よね?」


今の髪は、金髪でカールのかかったツインテールだ。

正直、地毛と全く違う鬘にすると違和感がすごくて、結局今日は以前の髪と同じような鬘を選んでしまった。


「はい、今日は以前の髪と同じようなものを選びましたが、髪色、髪型、様々な鬘を買いましたわ。明日から色々試してみようと思います!」

「いいわね、私も買おうかしら…」



それからしばらくお母様と盛り上がっていたが、私はそういえば話したいことがあったのだと思い出す。


「――それよりも!! 剣術の授業のことなのですが、お父様に言われて護身術程度にしか教えられないと先生が言っていました。

でも、剣術はとても楽しかったので、もっとちゃんと教えてもらいたいのです。

ねえお父様、怪我はしませんからちゃんと習わせてください」


お父様とお母様は怪訝そうな顔をした。


「エリザベス、剣術の教師もお前のことを天才だと、もっと教えたいと言っていた」

「はい、私は天才なので、教えてもらえばとても強くなりますわ!」

私がニッコリ笑う……が、お父様の次の言葉でその笑顔は崩れる。


「――だが断った」

「えッ!? 何故ですか!?」


「お前は騎士になる訳ではない、王妃となるお前には剣なんて必要のないことだ。剣術を習う必要はない」

「そうよ、貴方は女なのよ。剣で強くなるって野蛮人にでもなってしまいそうだわ。そもそも剣術の授業なんてやらさなければ良かったのよ」


「なッ!?」


そして追い打ちをかけるようにお父様は言う。

「それと、魔法の実践授業も、教師にはこれから制御を中心と教えるように言ったからな」

「そんな!」

「魔法に関しては、あんなことがあったのだから当たり前でしょう?」

お母様は呆れたように息を吐いた。


「そんなあ!! 剣も魔法もとっても楽しかったのです!

もっともっと剣も振りたいし、魔法も思いッ切り放ちたいです!

お願いしますお父様、お母様あッ!!」


私は縋るようにそう言うが、お父様もお母様も聞きやしない。


「エリザベス、何か欲しいものはないか? 何でも買ってやるから、それで我慢しなさい。ドレスもネックレスも、髪飾りも……何がいい?」

「あら良かったわね! エリザベス!」


私は怒りが込み上げて、思わず立ち上がってテーブルを両手でバンッと叩く。

バギッと叩いた部分がへこんだ。



「――いりませんッ!!! そんなものどうでもいいですわ!」



私は堪えきれない感情のままに叫ぶように怒鳴った。



「くだらないですわッ!!! 私はもう着飾ることに何の価値も見いだせません!! 私はそんなものよりもずっと楽しいことを見つけたのですから!! それなのに! それを邪魔すると言うのですか!!??」



「エリ、エリザ……」

「ヒィッ」



私がお父様とお母様を睨み付けると、2人は怯えたような声を上げた。

今まで無反応だったお兄様は食べるのを止めていて、なんだか面倒くさそうな、厄介だというような面持ちである。



――――カタカタカタカタ……



「ん?」


私は食器や家具が揺れていることに気付いて気がれる。

すると、その揺れが止まった。

お父様とお母様は助かったとでもいうようにホッとしていて、お兄様は何事もなかったかのように食事を再開させていた。


超常現象…? 

気のせい? いや、お父様とお母様がこれほど大袈裟に怖がっていたのだから気のせいではないだろう。

私が気が逸れたら、食器や家具の揺れが止まった。

もしかして私がやったの……?


「ああもうッ!!」


カタッと食器や家具が再びちょっと揺れる。

怒ると魔力が漏れてしまうのかもしれない……。


でもそんなのもうどうでもいいわッ!

腹が立って仕方がないのよ!!


私はドカッと椅子に座る。

ハア、なんだかお腹が空いたわ。

もうすぐ食べ終わるところだったけれど、おかわりしてヤケ食いした。

あまりによく食べるからそれを皆ギョッとしたように見ていたけれど、


フンッ、知ったことではないわッ!!


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