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19.婚約破棄!!!


準備が整うと、私も今まで離宮の傍で警護していた革命組織の人も、ユリアナ様とアベルの傍で警護することにした。


今日、久々にユリアナ様とアベルに対面する……。

夜、いつも通り外套を羽織り、フードを深く被ってお兄様と離宮に向かった。


離宮に着くと、お兄様は玄関ではなく離宮の裏の、カーテンがひかれていて灯りもついていない一室の窓を、仲間だという合図なのだろう、少しリズミカルに叩いた。


するとカーテンと窓が開けられる。

私とお兄様は静かに中に入った。



「……ッ」


私は息を呑む。

思わず涙が出そうになるのを堪えた。


灯りは小さくかなり薄暗いが、それでも分かった。

ユリアナ様とアベルだ。

ユリアナ様は相変わらず美しく、アベルは顔つきも少し男らしくなったし、私と同じくらい背が高くなったようだ。


それからリリが私の元にすり寄ってきたので、私はかがんで撫でてあげた。


「リリ…? お知り合いでしょうか?」

ユリアナ様が小声で聞く。


「いや、猫でしょう?」

リリが神獣であるから聞いたのだろうが、猫と知り合いなんて普通は聞かない。

そして……ユリアナ様とアベルは私など知りようもない。

ギルバートに婚約破棄される私はもう関わりようもない。

だから、会えたからといってあまり親しくしない方がいい。

不自然な態度になってしまうかもしれないし、そうすると不審に思われる。


私はユリアナ様とアベルに近づく。


そして目の前まで行くと恭しく片膝を床に付け頭を下げた。

「ユリアナ様、アベル殿下、事情があり名を名乗ることはできませんが、私も警護をさせていただきます」



◇◇◇



5日後の夜、その場にはユリアナ様、アベル、お兄様、革命組織の人が3人、リリはアベルの膝の上に、私は壁に寄りかかっていた。


夜だから刺客は2階の寝室にやってくる可能性が高い。

この部屋は、1階の今まであまり使われていなかった部屋だ。

ここにいることがバレないように、灯りも最小限で暗くしている。


寝室には革命組織の王宮魔法師と、戦闘要員2人がいる。

彼らが刺客にユリアナ様とアベルを殺したと幻覚をみせ、王妃殿下の元に戻らせる。


もうそろそろ刺客がきてもいい頃だ。

今までも刺客がくるスパンは短かったから、そう待たないと思っている。



そしてその時はやってきた。


――来たわ!!


離宮の窓が割られる音が聞こえた。


「!!!」

「……ッ!!」


薄明かりの中、ユリアナ様とアベルがビクつくのが分かった。


私は2人に近づく。

声も出さす、あまり動くことのなかった私が近づいてきたことで、刺客が入って来た状況に怯えながらも、2人と革命組織の人は、何だろうとこちらを見る。


私は椅子に座る2人の元でかがむと、2人にしか聞こえないほどの小声で言う。


「貴方たちのことは私が必ず守ってあげるから大丈夫よ。心配しなくていい。今まで何人もの刺客をぶっ飛ばしてきたわ」


素の口調になってそう言うと、アベルの頭を撫でた。


「女……?」

それにアベルは驚いたように、周りに聞こえない声で小さく漏らす。

私の声は男とも女とも思える高さだから声音では分からない。

しかし今の口調ではさすがに女であると分かるだろう。


「ありがとうございます」

ユリアナ様は少し驚いたように私にそう言う。

ユリアナ様の言葉に私は頷いた。




数十分後、どうやら終わったようで、刺客が離宮から出て行く音が聞こえた。

そして寝室にいた革命組織の人たちが部屋に入ってくる。


「どうだ?」

「上手くいった」


「よし、じゃあ行くぞ……!」

皆顔を見合わせると、革命組織の1人が言った。




私たちは離宮を出た。

隠しておいて馬車に乗り、門へ向かった。


門の近くまで来ると、何だか門の方が騒がしい。

革命組織の1人が近くまで確認しに行った。

すると少し経って、焦ったように戻ってきた。


「どうした……?」

「先ほど王妃の宝石が盗まれたとかで、馬車の中も確認される」

「なッ!?」

「そんな……!」

何ですって!?

「チッ」

私は思わず舌打ちした。


その時、リリが私の足にすり寄ってくる。


『エリス!』

私は目を見開く。

「りり……?」

頭の中でリリの声が聞こえた。

『そうよ。貴方は話さないで』

私は頷く。

『王宮から抜け出せる秘密の通路があるわ。着いて来て!』

私は驚きながらも頷いた。


そして言う。

「王宮から抜け出せる秘密の通路を知っている。着いて来て」


「は……?」

「秘密の通路だと?」

「何故お前が知っている?」


「早く!!」

私はそう言うと、アベルの手を取って駆けだした。

「うわッ」

アベルは突然のことに声を上げる。


「おい……!」

「ちょッ!!」

「ま、待て!」

ユリアナ様と革命組織の人たちは慌てたようについてきた。


『そこを右……、もうちょっと真っ直ぐよ』

一緒になって走るリリの声に従って進む。


「ちょ、速ッ……!」

アベルは必死の様相で私に引っ張られたまま走っていたが、徐々についてこれなくなってきた。

私はハッとして足を緩めた。

これではユリアナ様もついて来れないわ。


すると、少し余裕が出来たアベルは後ろから言う。

「やはり、リリと知り合いなのですね」

私はビクッとして聞く。

「何故?」

もしかしてリリの声はアベルにも聞こえているのかしら。

いや、それなら私がアベルの手を取って走り出した時に驚くハズがない。


「僕が無理矢理引っ張られて走らされているというのに、リリが何もしませんから」

「……ッ」

「何故秘密の通路など知っているのですか? 貴方は何者なんですか!?」

私は何も答えることが出来ずに、そのまま走り続けた。

リリはチラと私たちを見るも、そのまま私を誘導した。



やって来たのは、迷宮庭園であった。

女神像がある場所だ。

ユリアナ様と革命組織の人たちも追いついてきた。


『女神像の腕輪を右に回して』

私は女神像の腕輪に触れる。

本当に動くのかしら……。

私は恐る恐る腕輪を捻ると動き出した。

回ったわ……!


「お前…! 壊した……!?」

お兄様の慌てた声に、私はバッと振り向いて声を上げた。

「は? 壊すわけないでしょ!! そういう仕様だ!!」


それからリリの言う通りに従った。


『女神の指輪を左に2回まわして』

『女神の胸の宝石に魔力を込めて頭の中でこう唱えて。私は秘密の道を知る者なり』

『女神の喉元の宝石に魔力を込めて頭の中でこう唱えて。アメリアの救いの道しるべとならんことを』

『右目に火の魔力を込めて』

『左目に水の魔力を』

『女神の額の宝石に浄化の魔力を込めて』

私はソッと片手をフードに差し込んでピアスの光を付けて浄化魔法を込める。


『最後に女神の胸のブローチに魔力を流しながらこう唱えて――』


「――アメリアの星の輝きよ、導き給え」



――――ゴゴゴゴゴッドカーンッッ!!


地面が勢いよく動き出した。


「うわ!」

「な、なんだ!?」


地下に続く階段が現われた。


『魔力込めすぎよ』

あまりの勢いの良さにリリは言う。



『ここを進めば、森の奥に繋がっているわ』

あの森の……。

私は頷く。

「ここを進めば森に繋がっている」


私の言葉に皆驚きの表情を浮かべる。


「何故そんなことを知っているんだ?」

「いや、今はいい。とりあえず進もう」

「しかし安全なのか? 本当に外に繋がっているのか?」


「――大丈夫だと思います。行きましょう」

皆がざわざわしていると、アベルがそう言って中に入っていった。


「アベル殿下!!」

「殿下!!」

「危険です! 我々が先に進みますから!」


全員中に入ると、リリの言う通りに中にあったボタンを押して扉を閉じた。




それから中を進んで、森に出る。

そして出た先に、同じ女神像があった。

この森のこの場所には来たことなかったから、女神像があったことは知らなかった。

こんな所に王宮へと続く通路があるなんて……。


「おお!!」

「本当に、森だ……!!」

「やった!!」


「皆様、本当にありがどうございました」

ユリアナ様は安心したようにホッと息を吐いた。

「ありがとうございました」

アベルはそう言って緊張を解いたようだった。



「――では、馬車を呼びます。少々お待ち下さい」



革命組織の呼んだ馬車が来ると、ユリアナ様とアベルとリリはそれに乗って、安全だという場所に連れて行かれた。

そこは秘密の場所なのだろう、私には教えてくれなかった。


「大丈夫だ。安心しろ」

お兄様の言葉に私は頷く。





その日の夜、眠れないでいると窓を叩く音が聞こえた。

カーテンを開けると黒猫がいたので、急いで窓を開けた。

「リリ……!」

「ニャア」


リリは中に入ると、人の姿になる。


「ユリアナ様とアベルは?」

「大丈夫よ」

「そう……」

私はホッと一息ついた。


「秘密の通路を教えてくれて助かったわ」

「ええ」

「でも何故私に? アベルではなくて」


「アベルに教えたら、革命組織の人間はその通路について、アベルに聞いてくるでしょう。

そうすると面倒だわ。

正体不明のアンタが知っていた方がいいでしょう」

「なるほど」


しかしあの通路の存在、扉の出し方を誰かに知られることは途轍もなく危険だ。


革命組織の人たちは私が扉を出すまでの過程を見ていたとしても、扉を出すことはできないだろう。

最後の呪文以外は口に出さなかったし。

魔法を込めた際は表に魔法が出ることがなかったから、何の魔法を込めたのか分からないだろうし。


「誰にも教えないから安心して」

「当たり前よ。ただ、あの兄は聞いてくるでしょうね」

「ああ」

「そして革命組織の人間から、アンタから聞けと言われているでしょうね」

「そうね」

お兄様も大変ねえ。



それから案の定、お兄様は聞いてきたが教えなかった。

やはりお兄様は革命組織から何としてでも聞くよう言われているらしいが、それなのに案外すぐに諦めたのだった。


「お前は言わないと言ったら言わないから時間の無駄だ」

とのことだった。




――――その後、ユリアナ様とアベルが不慮の事故で亡くなったと小さく発表された。




◇◇◇



今日はアメリア王国の建国記念パーティーだ。


今日、私は婚約破棄される。


私は綺麗な赤いドレスを着て、右の耳には相変わらずシオン殿下のピアスが輝いている。

大きなダイヤのネックレスをして、真っ赤な口紅をした。

17歳の私はかなりの美女であった。


「お嬢様、とても美しいです。本当に……!」

メリッサは感嘆する。


私はそんなメリッサを鏡越しに見て言う。

「メリッサ、私は今日婚約破棄されるわ」

「はい……」

私が今日婚約破棄されることは周知の事実である。


「そうしたら、私はオズボーン宰相閣下の元に行く」

「はい」

「一緒について来てくれる?」

私は振り返ってメリッサを見た。


メリッサは喜びに満ちた笑顔を浮かべる。

「はい! もちろんです」

「ありがとう」



それから私は悪戯に笑った。

「彼とは上手くいってる?」

「ええ? えっと、はい」

メリッサは気まずそうに頷いた。

メリッサは現在結婚を前提に付き合っている男がいる。


「メリッサ、貴方は絶対に幸せに結婚しなさいね!」

「は、はい」

「なんだかんだ言って、やっぱり結婚は好きな人は1番良いと思うわ」

「そ、そうですね」


私は恋愛論について語り、メリッサは始終気まずそうにしていたのだった。





その後、部屋のドアがノックされ、セバスチャンが入って来た。


「エリザベスお嬢様、もうそろそろ出発のお時間です」

「分かったわ」


私は立ち上がる。

そしてセバスチャンに言う。


「貴方にも世話になったわね」

「いえ」

「でももう、貴方の小言も聞かなくて済むわ」

「はい。私ももうお嬢様の我が儘を聞かなくて済むのです」

「…ッ、全くもう!」


セバスチャンは最後に言う。

「お嬢様、お元気で……」

私は頷く。

「貴方もね」

「まあ、荷造りのためにまた戻って来るでしょうけど」

「そうねえッ!!!」

私はムカッとしながら部屋を出たのだった。




玄関に行くと、お兄様が待っていた。

「エスコートしてやるよ」

お兄様はそう言ってニヒルに笑う。


「フフッ、ありがとう」

婚約破棄されに1人で行く私に気を遣ってくれたのだろう。

お兄様のその心遣いは正直意外であったが、とても嬉しかった。


私は恐らく初めて妹らしく、お兄様の元に小さく駆けて行くとギュッとお兄様の腕を掴んだ。





お兄様にエスコートされながらパーティー会場に入った。



その後は知り合いの令嬢たちと少し話をすると、いつものように甘いものが並んでいるテーブルに行き、さりげなく上品に甘いものをパクパクと食べていた。


ギルバートとのことがあって遠巻きにされてはいるが、男たちからの視線は熱い。


「こちらのショコラもいかがですか?」

1人のウェイターが何やらお勧めしてきたのでそれもいただく。

「ん?」

お勧めされた割には微妙であった。

ちょっと苦い……?


そうしているとカテリーナがやって来て、一緒に甘いものをつまみながら、いつものように私に何やらギャーギャー言ってくる。





そして、発表があるとギルバートが言う。


ついにきたわ……。


ギルバートとマリーが私の元にやって来ると、ギルバートは隣にいたマリーを抱き寄せる。



「――俺はエリザベス・ヴァレンテとの婚約を破棄し、このマリー・フェレイラと婚約する!!!」



そうギルバートは宣言し、ギルバートとマリーは微笑み合った。



周りからパチパチと拍手が上がった。

私も素直にギルバートとマリーの婚約を祝福して拍手した。


私とマリーが親しくしていたのは皆知っている。

ギルバートとマリーの婚約に対して祝福している私を不審に思う者はいなかった。



私は徐々に、王妃になるという責任からようやく解放されたのだと思って、清々しい気持ちが湧いてきた。

つきものが取れたかのようだった。

体が、心が軽い。

今までとても重いものを背負っていたのだなと実感する。



これからどうなるか分からない。

でも、ひとまずはユリアナ様とアベルは安全だし。


宰相閣下も、腰が痛い何だと言う度に私が治癒魔法をかけてあげていたら今ではとても健康だし。

ルーカスお兄様は閣下を高齢だと言うけれど、まだまだイケるわよ。


また革命組織の方でも、革命以外でもこの国が良くなる方法を考えを出しているようだし。

革命組織を完全に信用している訳ではないけれど、このアメリア王国を良くしようとしてくれているのは確かだわ。


それに、ギルバートが国王になって何かやらかしたら私が説教してあげる。



そんな清々しい気持ちになっていた時だった。

ギルバートは更に一歩私に近づくと、再び口を開いた。





「――――そして、マリーから暗殺者を差し向けられたなどという虚偽の訴えをおこし、マリーを貶めようとした罪は重い! エリザベス・ヴァレンテを国外追放の刑に処す!!!」




「は?」





私はあまりのことに、呆然と立ち尽くした。

ただ、ギルバートの後ろで、マリーがほくそ笑んでいるのが見えた。



はああああああああ!!!???



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