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2.大爆発ッ!!


今日から剣術の授業と魔法の実践授業が開始する。


剣術の授業の先生は、今は引退したが昔は騎士で、たくさんの功績を挙げ勲章を貰ったこともある有名な人らしい。


「――ではヴァレンテ嬢、剣を持ってみなさい」


差し出された剣は、先生の持っている剣よりも随分小さいものだ。

私は言う。

「先生、私も先生と同じ剣がいいですわ」

すると先生は笑った。

「ハハハッ、そうかそうか! だがな、これはまだ子どもには早いな」

「むう」

まあ早く剣を振りたいから、今回は素直に従うことにする。


その小さい剣を受け取って握ってみると、やはり子どもの私にはちょうど良いサイズのようだ。


――それになんだろう……、こう、力が湧き上がる感じ……

私は無意識に口角が上がっていた。


ああ、心臓がドクドクしている!


「どうした?」

先生が不思議そう私を見ていた。

私は無邪気な満面の笑みになって、先生にキラキラした瞳を向ける。

「早く! 早く剣を振ってみたいですッ!!」

先生は驚いたように目を見開いて、それから心底嬉しそうに破顔した。

「おう、今教えてやるよ!!

――ほら、まずはしっかり剣を握って、体を緊張させない程度の力で」




私は先生の言葉を無視して、全力を込めて握る。


思い切り剣を振り下ろす。



シュッ――



「って、おい勝手にやる…な……」



今度は少し身を屈めながら横に切り裂くように剣を振った。



ヒュンッ――




私は満足して思わず笑みが溢れる。

清々しく極めて爽快な気分で、とにかくスカッとした!




先生を見ると驚いたように私を見ていた。

「……お前、どこかで剣を習ったことがあるのか?」

「いいえ、初めてですわ。先生! 剣ってとっても楽しいですね!」

先生は目を丸くして、愉快そうに頷いた。

「ハハッ、そうだな」


それから、先生に剣術を教えてもらった。

「アハハッ! 私、これで最強になりますわ!!」

私が剣を振りながら笑い声を上げて言うと、先生は少し引いたように顔を引き攣らせるのだった。



しかし先生は授業の終わりに言う。

「お前は途轍もない剣の才能を持っている。だが、お前は王太子の婚約者、次期王妃だ。剣術の授業は護身術程度に教えればいいと言われている。

それより、くれぐれもお前の体に傷をつけないように、と。

だから……、ハア、厳しくお前を鍛えられないのが残念だ」

先生は悔しそうに苦笑した。


私はキョトンとする。

「え? 護身術程度?  私はもっと上手くなりたいので、ちゃんと教えてくださいね? 怪我はしませんから大丈夫ですわ」


私は今まで何でも思い通りになってきた。

だから、私の思い通りにならないことなどないとそう思っていた。


「いや、ちゃんと修練するなら怪我くらいはする」

「いえ、私だけは怪我をしませんから大丈夫ですわ」


私の物言いに先生は小さく笑った。

しかし次には真剣になって言う。


「ヴァレンテ公爵から言われていることなんだ」

「お父様に?」

「ああ」


私は気が付いた。

私が今まで何でも思い通りになってきたのはお父様の力が大きい。

お父様は今まで私の願いを全て叶えてくれた。

――もしかして、お父様がダメと言ったら、私は剣術を習えないというの?


「それなら、私からお父様にお願いしてみます」

「ああ、俺も頼んでみるよ。お前は俺よりも強くなるかもしれない。そのくらいの才能を持っている」


私は頷く。

「はい先生、私は天才なのです」

そして今回、今までで一番の才能を、本物の才能というものを感じたのであった。

「お前のその自信はすごいな」

先生は呆れたようでいて、どこか感心したようにも言った。





剣術の授業が終わると、魔法の実践授業である。

先生は王宮魔法師で、今は爵位を持っているが平民出身だ。

平民から王宮魔法師になった唯一の人で、とても実力があるらしい。


先生はまず説明を始めた。

私が魔法を使えるように、魔力を放出できるようにするという。


魔法について、成り立ちやら何やらはすでに習っているので知っている。


魔法を使えるようにするには、魔法使いの指導者によって魔力を放出できるようにしてもらう必要があるのだ。

このことについては未だよく解明されていない。

少しの電流を体全体に流すことによって、体に秘められている魔力が刺激されて放出できるようになる、と考えられている。

大体は私の歳の頃に指導者によって魔法を使えるようにしてもらう。


ただ事故や何かで体に衝撃があった人など、指導者にやってもらわなくても魔力を放出できるようになったりする人もいるようだ。



「それではいきますよ。リラックスして。痛かったら言ってくださいね」

先生は私の背中に手をあてた。


痛くはない。

ちょっとビリビリしてむず痒い。


少しすると、先生は背中から手を離した。

「はい、終わりました」

特に変わった感じはしない。

「先生、何にも変わらないように思います」

私の言葉に先生は笑った。

「ハハッ、そうですねえ。でもちゃんと魔法がつかえるようになったはずですから大丈夫ですよ」

「なるほど」

私が素直に頷くと先生は安心したようにホッと息を吐いた。


平民出身ということで先生をバカにしてくる人もいるだろうし、公爵令嬢、第1王子の婚約者、次期王妃、という高貴すぎる私が、ちゃんと言うことを聞くのか心配だったのだろうと思われる。



それから先生は持ってきた魔力量を測る魔道具を手に取った。

見た目的にはただのガラス板のようだ。


「ここに手を入れてください」

「はい」

その板に触れると、チャポンと水に入るように手が入った。

ガラス板に数値が現われる。

これが私の魔力量ね。


数値が上がっていくと先生は言う。

「お、ヴァレンテ嬢は魔力量が多いですねえ」

「そうなのですか?」

私は嬉しくて声を弾ませた。


しかし、数値が上がっていくと、先生は首を傾げる。

「ん?」


そして計測不能となった。

「うーん……、どうやら故障していたようですね、申し訳ありません。

仕方ありませんから、計測は次回にしましょうか」

「ええぇ……」


私が不満そうな顔をすると先生は苦笑して言う。

「そうですねえ、ではファイアボールを出してみましょうか。ファイアボールの大きさで大体の魔力量は分かりますよ。一番最初に教えようと思っていた魔法でもあります」


そう言って、先生は簡単に手の平に直径20センチほどの火の玉、ファイアボールを浮かべた。

「まあ、平均的な魔力量は……、このくらいですね」

「おお!」

私が小さく歓声を上げると、先生は微笑ましそうに私を見た。


「ちなみに私の魔力量は……、この大きさですね」

先生は両手を掲げて、直径1メートルほどのファイアボールを浮かべる。

「すごーい!」

「このくらいあれば宮廷魔法師になれますよ」

先生は悪戯に笑った。


「――ではやってみましょうね。

まず、手のひらに意識を集中させて、火を出すのだとイメージしてください。

魔法というものはイメージが大事なのです」


私は手のひらに意識を集中させた。

すると、ポンッ、と小さく火が出た。

「で、出たッ!!」


先生は感心したように言う。

「普通、こんなに早くはできないものですよ!」

「そうなのですか?」

「そうですよ。――それでは大きくしてみてください」

「はい!」


私はファイアボールに魔力を注いだ。

すると先生が平均といったファイアボールの大きさを超える。


「おお、すごいですね! あ、気を付けてください。

これ以上大きくなるようなら、手を上に掲げてファイアボールを上に出してください。服に火が移ったら大変ですから」


私は先生の言った通りに両手を上に掲げてファイアボールを上に出す。

ファイアボールに魔力を注いでいくと、どんどん大きくなっていった。

私の体よりも大きくなり、ついに先生の魔力量の大きさを超える。


「こ、これは……すごい魔力量だ……。ヴァレンテ嬢、これ以上は危険ですから――」


私は興奮した。

「すごい! すごいわッ……!!」


私はさらに魔力を注いだ。

というか、勢いのままに勝手に注がれていったという感じだった。


「ヴァレ――ちょッ――――……」


まるで限界を感じなかった。


「――すごーい!! アハハッ!! 面白い! 面白いわ!!!! ハハッ!! 先生! すごいでしょ――」


自慢しようと先生を見ると、ファイアボールが大きくなるにつれて発する熱風で吹き飛ばされそうだった。そして何かを叫んでいる。


「グワァッ……!? ヴァレンテ嬢ォォオ!!」


こ、興奮して気付かなかったわ……。


「徐々に魔力を弱めてッ!! せ、制御するのですッ!」

「せ、先生ッ! わ、分かりましたわ!!」



そして先生の言う通り魔力を弱めようとした時だった。



――あれ、大きくし過ぎた。



大きく広がった火が迫ってくる。


咄嗟にバリアを張った。


バリアなんて習っていない、無意識だった。





ゴゴゴゴゴゴゴゴ――――




――――ボオオオオオオオ!!!!!





大爆発であった。




う、うそでしょおおおお…………――



灼熱の空気の中、私はあまりに驚いて呆然と立ち尽くした。


煙で視界が悪く、周りがどうなってしまったのか見えない。

しかしすぐに、水気のある冷風か…、何らかの魔法によって、空気が冷やされ煙がなくなると、周りが焼け野原になっているのが分かった。



「――ヴァレンテ嬢オオオォォオオ!!!!!!!」



先生が魔法を使いながらも必死の様相で走ってくる。


「!」


私は我に返ると、抑えきれない高ぶりをわめき立てた。


「すごい! すごいわ!! 見たッ!? すごかったでしょ!!?? すごかったわア、うんすごかった!!!!」


先生はそんな私の言葉を聞きもせずに、私の体をペタペタ触る。

「ヴァレンテ嬢、お怪我は……、お怪我……」

「大丈夫です先生、どこも痛くないですよ?」

「いえ、ここも、ああここも、火傷を……、ああ、なんてことを…………」

先生は顔を真っ青にして絶望していた。

「そう言われるとちょっと痛いかもしれません」

興奮しすぎて痛みを感じていなかったようだ。

先生は全身全霊で私に治癒魔法を施す。


「それよりも先生! フフッ! アハハッ!! 先生の頭、アフロになっていますよ!! ププッ!」

先生の服はところどころ焼けてボロボロで、頭は焦げてアフロになっている。


先生は少しは冷静を取り戻してくれたらしく言う。

「ヴァレンテ嬢……、貴方だって同じですよ」


私は先生の言葉に、ふと自分の頭に手を伸ばすとチリチリしていた。

「アハハ! おもしろーいッ、ハハハッ、フフッ、ハハハ!!」


私は今までにないほど腹を抱えて笑ったのだった。



その後、私の保護と事後処理に魔法使いや医者などがやって来た。

そして野次馬たちも。


あら、シオン殿下とクルス様だわ。


私は大丈夫だと言うようにニッコリ笑った。

すると、何故だかシオン殿下がうずくまる。そして震えている。

お腹でも痛くなったのかしら。

クルス様はシオン殿下が体調を崩されたというのに何だか爆笑している。

いや助けてあげなさいよ。





私はすぐに治療を受けた。

至る所にできた火傷は、これから何度か治療していかなければならないが痕は残らないらしい。

それほど火傷は酷くなく、あれほどの爆発なのにと皆不思議がっていたので、咄嗟に無意識でバリアを張ったのだと言うと皆納得していた。

今更ながら、バリアを張っていなかったら死んでいたかもしれないと思う。


体中に薬草の染みた包帯が巻かれて、それは冷たくて気持ちよかったが、何だか重症患者のように見える。


治療が終わって始めに駆け込んできたのは私付きメイドのメリッサだった。

「お嬢様……! な、なんてことに……」

「メリッサ……」

泣くメリッサにようやく事態の重大さに気付き、とんでもないことをしたのだと私はようやく理解した。


髪はチリチリで、仕方がなく坊主にした。

そうすると泣いていたメリッサがようやく笑ったので私は安心した。



少しするとお父様とお母様がやって来て、私は体を強張らせる。

ヤ、ヤバい……。

これは非常にヤバいわ……。


そして案の定ヤバかった。

お母様は私を見ると失神した。

お父様は私を責め立てる。

「エリザベス! ああ、こんな姿になって……! これでギルバード殿下から婚約破棄されたらどうするんだ!!!」

これほど怒られたのは初めてだった。

「ごめんなさい、痕は残らないようですから」

そう言うと、多少落ち着いてくれた。



説教が終わってお父様が部屋を出て行くと、私は思わず息を吐いた。

「フゥ、ようやく解放されたわ」

先ほどまでのシュンとした態度から打って変わった私に、メリッサは呆れたような顔を向ける。



夕方になって、意外なこどにルーカスお兄様が見舞いにやって来た。


お兄様は私を見ると唖然としたように言う。

「エ、エリザベス……か?」


「はいルーカスお兄様、お見舞いに来て下さってありがとうございます」

一応、来てくれたのだからお礼を言う。

「い、いや……、えっと」

「?」

「な、何て言うか……、クッ、ククッ、ダ、ダメだ堪えられない……、ククッ」

恐らくこの坊主に笑っているのだろう。

「むう」

吹き出すお兄様に私はむくれた。

しかしお兄様が笑うなんて中々にレアである。

私は物珍しげにお兄様を見た。

いつもの陰険くささがない。


お兄様は一通り笑うと聞く。

「大丈夫か?」

「大丈夫です」

「お前は途轍もない魔力を持っているんだな」

「ええ、自分でも驚きました」

「こんなになるなんて、怖かっただろ」

心配してくれたので少し私は驚いた。

そういえばお父様にはこんなこと言われなかったと思う。


「怖くありませんでしたわ。楽しかったです」

私の言葉にお兄様は怪訝そうに聞く。

「楽しかった?」

「はい、次の魔法の実践授業が楽しみですわ!」

そう言うと、お兄様は「何言ってんだコイツ」というような顔をした。



私は王宮の最高峰の治療を受けるため、しばらく王宮に滞在することになった。

私はギルバード殿下の婚約者だから王妃殿下が心配してくださったようで、そうすることを勧めてくれたのだ。

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