13.どうしても助けたい!!②
次の日、王妃教育が終わると、エディ先生と一緒に離宮へ行く。
オズボーン宰相閣下も呼んだが、今日は忙しいらしく来られないと言っていた。
エディ先生がいる時にはいつもいなかったリリだが、今日はアベルの膝の上にいる。
ユリアナ様は眠っていたが、少しすると目覚めた。
「あのね、話があるの」
私は微笑んで話を切り出した。
そして私とエディ先生で浄化魔法をかければ治ることについて説明した。
ただ、ユリアナ様が私とエディ先生の記憶を失うことについては言っていない。
「そんなことが……!!」
「母さん…ッ!」
ユリアナ様とアベルは泣いて喜んだ。
ユリアナ様とアベルに私は温かい瞳を向ける。
そんな私にリリが慰めるようにすり寄ってきた。
「ありがとうね」
私はそう言ってリリを撫でる。
ユリアナ様とアベルが落ち着くと、私はまた口を開いた。
「あと1つ、衝撃の真実を伝えるわ」
ユリアナ様とアベルは何だろうというように私を見る。
私はリリを抱き上げて、バーンと上に掲げた。
「ニャアア゛」
何するのよ!というようにリリは鳴く。
「実は、リリは神獣なのよ!!!」
その言葉に、ユリアナ様は目を丸くしてリリを見つめた。
「えっと、そうなのですか? リリ……?」
アベルは小さく笑って言う。
「ハハッ、リリが神獣って、そんな訳ないでしょ。ただの猫だよ」
アベルの言葉に、リリは私の腕から飛び降りると同時に獣人の姿になった。
「うわッ!!? えッ!? 誰ッ!!?」
アベルは驚いて声を上げた。
「リリ……なのでしょうか?」
ユリアナ様は恐る恐るそう問いかける。
「そうよ!! ただの猫と一緒にしないでくれる?」
リリが怒ったようにアベルにそう言った。
「しゃ、喋った!!」
アベルのそんな反応にリリは呆れたように溜め息を吐いたのだった。
「ハア、全く失礼ね!」
それからリリはユリアナ様のベッド元に行く。
「ユリアナ、大丈夫?」
「はい、大丈夫です。えっとリリ…様?」
ユリアナ様は神獣という尊い存在であるから様を付けたようだが、リリは言う。
「今まで通りリリでいいわよ」
「そう、ですか?」
「ええ」
「まさかリリが神獣だったなんて、驚きました」
「フフッ」
ユリアナ様とアベルはそりゃ戸惑っているけれど、そのうち慣れると思う。
◇◇◇
魔法の実践授業で、先生は言う。
「ユリアナ様に浄化魔法をかけるにあたって万全を期すために、エリス様は浄化魔法の特訓をしましょう。
エリス様に1番やってもらいたい練習は、浄化魔法を『全力』でかけることです。
エリス様は今まで制御の訓練ばかりしてきて、いつも制御の指輪もしています、
魔力を出すのを常に制限し、全力というのを出し慣れていません。
ユリアナ様を治すためには、本当に途轍もない魔力が必要です。
エリス様はそんな途轍もない魔力を持っているのですが、エリス様が全力を出さなければユリアナ様は治りません」
確かに、私は10歳の魔力の開放で魔力を爆発させた時以来、全力を出したことはない。その爆発をさせた時も、正直全力だったのかは分からないし……。
また、ユリアナ様に浄化魔法と治癒魔法を全力でかけていたが、先生の言うとおり制限するのに慣れてしまって恐らく全力になりきれていなかったと思う。
私の全力はもっと遙かにすごいものだろう。
ユリアナ様を治したい気持ちは強かったけれど、ユリアナ様に全力の魔法を使うのはさすがに怖くて躊躇する。
「それと、私にとってはたった1人の魔力に完璧に合わせ、コントロールをするというのは簡単ですが、魔道具で計測できないほどに途轍もなく膨大な魔力量で、魔力濃度も極めて高い……そんな魔力を持つ方はエリス様が初めてで、そんな魔力に合わせ、コントロールしたことは私もありません。エリス様の全力を把握しておかなければなりません」
「魔力濃度に関しては先生の方がよっぽどすごいらしいけれど」
「い、いやまあ……それは」
魔力濃度とは、魔法の威力の大きさである。
同じ魔力量において、人によって魔法の威力が違う。
例えば同じ大きさの火の玉を放った時に、威力に差がある。
先生の魔力濃度は、私の途轍もないと言われている魔力量と同じくらい途轍もないものである。
また先生は魔力コントロールなど魔法の技術に関しても本当に神がかっていて、強さに関して今の私は先生の足下にも及ばない。
ただ私の戦闘センスの潜在能力は凄まじいものであると自覚しているから、魔法や剣術を本気で修行したら分からないけれど。
昔は、私は子どもだし先生は王宮魔法師だし、敵うわけがないのは当たり前だと思っていたが、それは違う。
私は強い。その強さは、ほとんど生まれ持った魔力の凄さだけのものであるが。
魔法の使いづらい近距離や複数人相手など状況次第では、戦闘の訓練をしていない私はそこまでの自信はない。
しかし逆に状況によっては、全力で魔法を放てば王宮魔法師でさえ敵わないだろう、……先生以外。
10歳の時、先生に魔力開放をしてもらって魔力を爆発させてしまったが、あれはきっとエディ先生でなければ、もっと大きな事故になっていた。
それに咄嗟に自分でバリアを張ったとはいえ、爆発を起こしていながら傷跡が残らなかったのも先生が即座に全力で治癒魔法をかけてくれたからだと思う。
すぐに火傷が治ったのも。
……いや、それだけは私の驚異的な自然治癒力なのかもしれないわね。
とりあえず、お父様とお母様に言われて授業では制御の訓練をしているので全力を出す練習はできない。
ただ、全力を出すつもりはないが制御の指輪は外した。
今までは基本的にずっと指輪をつけていたが、これから全力で魔法を使う時には外すことになる。
魔法を使う時に指輪を付けているのと付けていないので、無意識に魔力を使う程度を変えてしまい、魔力コントロールが上手くいかなくなるかもしれないから、ひとまずユリアナ様を治すまでは、魔法を使う時に指輪をするのをやめることにしたのだ。
それから私はピアスの聖なる光を付ける。
シオン殿下から貰った、光を付けると心を落ち着かせることができるピアスだ。
浄化魔法と治癒魔法においては、普通の魔法とは少し感覚が違う。
何ていうか、静かで、優しく穏やかで…そんな気持ちにならなくてはならない。
心が乱れていると、浄化魔法は発動しないのだ。
気性の荒い私は、浄化魔法と治癒魔法においてこのピアスが必須である。
「それ、良いものに巡り会いましたね」
先生はピアスを指して言う。
先生はこのピアスがどんなものなのか分かっているようだ。
「ええ、ある人と約束をしたのですけれど――」
私は経緯を話す。
すると、先生は顎に手を当てて考えだした。
「もしよろしければ、エリス様があげた吸収石のピアスの残った片方、いただけませんか? もちろん、代わりに何かお返しはします」
「お返しはいいわよ。あげるわ」
「ありがとうございます」
相性のいい私にとっては途轍もない価値がある吸収石だが、先生にとってはそれほどの価値はないものだ。
でも先生が欲しいというのだから、何かあるのだろうと思う。
授業の終わり際、私は聞いた。
「先生…………」
「どうしました?」
「ねえ…、ユリアナ様は、私だけではなくて先生のことも忘れてしまうわよね?」
昨日話している時、ユリアナ様が私を忘れてしまうということが衝撃的すぎて、気付くことができなかったが、エディ先生の魔力も使うわけだから、ユリアナ様は先生のことも忘れてしまうだろうと思う。
きっとリリは分かっていただろうけれど、先生のことなんてどうでもいいと思っていそうだから言わなかったのだろう。
「そうですねえ」
「先生はいいの……?」
「いいです。私は離宮で皆さん……エリス様、ユリアナ様、アベル様、宰相閣下と過ごす時間がとても心地良いです」
先生はそう言ってから「あッ、リリ様とはその…、離宮で会ったことがありませんし、というかこの前とても久々に会いましたし……」と慌てて言葉を付け足した。
そして話を続ける。
「私には妹がいますが、妹の待つ家以外で、私に安らぐ場所ができるなんて思いませんでした。
私は皆さんの幸せを願っています。
私もユリアナ様には治って欲しいですから」
「そうね…!」
「はい!」
私はエディ先生の言葉に安心した。
リリは先生を残酷だの残忍だのと言うし、実際に先生と一緒にいると、寒気がしたり、血のにおいがしたりする時がある。
でも、やっぱり……
「先生は優しいわ」
「フッ、そんなことないのですよ?」
先生はそう言って静かに微笑んだ。
私はその日家に帰ってから、何とかその吸収石のピアスを見つけ出した。
捨ててなかった……! フゥ……。
もしかしたら捨てていたかもしれないと思っていたから、私はホッと息を吐いたのだった。
そして次の日、先生にそれを渡した。
また、オズボーン宰相閣下に、ユリアナ様に浄化魔法をかければ治ることを説明し、ユリアナ様が私とエディ先生の記憶を失うことも伝えた。
閣下は難しい顔をしたが、止めることはしなかった。
◇◇◇
それから浄化魔法の特訓は続いた。
でも、先生との予定が中々合わない。
危険だからと、私が全力で魔法を出す練習は先生がいない時にはできないのに。
私はこれでも結構忙しい。
平日は王妃教育に行っているし、私が王妃教育から終わってからは、王妃殿下からお茶を誘われたり、習い事がある日もある。
休日はお茶会や、何かしらのイベントに行かなければならないこともある。
エディ先生もやっぱり王宮魔法師なので、離宮でゆっくりしていることもあるが、仕事がある時はある。
今まで離宮でゆっくりしていた時間は、特訓に当ててくれているが。
妹さんとの予定もあったりするし、先生がそちらを優先するのに、私は口出しすることはない。
ただ…………
だけどさあ!!
妹と買い物をするのだとかいうのは、さすがに、そんなことでッ!!??と思ったりする。
1度や2度なら、仕方ないと思うわよ。
でも、せっかくたくさん練習できるであろう休日はほとんど毎回……。
エディ先生はかなりのシスコンらしかった。
仕方ないので、エディ先生がいなくてもできる浄化魔法の練習はよくしているけれど。
今日もエディ先生は妹との予定があると言う。
「もおおッ!!! またなの!?」
「姉さん、落ち着いて」
私は離宮にて、アベルに宥められている。
ユリアナ様は先ほどまでは起きていたのだが、話していたら眠ってしまっていた。
今はユリアナ様のいる部屋の向かいの部屋で、アベルとお菓子を食べていた。
「僕も何かできることがあれば…」
アベルが俯いてボソッ呟くのが聞こえた。
私は苦笑して、アベルの頭を撫でた。
「別に大丈夫だから、アベルは姉さんに任せておけばいいの」
アベルは顔を上げて、安心したように小さい笑みを見せた。
まあ、妹(弟)を大切に思う気持ちは分かるけれど!
◇◇◇
ようやく先生と私の予定が合った。
今日は休日で、王都の近くにある森の中の、拓けた場所で特訓を行うことになった。
「それでは、この場所一帯を全力で浄化魔法で浄化してみてください。
何かあったら私が止めますから。
ただ、ゆっくり徐々に、魔法を使ってくださいね」
「分かったわ」
私は制御の指輪を外し、ピアスの聖なる光を付ける。
先生は私の後ろに立って、私の肩に手を乗せた。
私は1つ息を吐いて、意識を集中させる。
そして手を前に掲げて浄化のイメージを広げた。
私を中心にして浄化されていく。
徐々に、徐々に範囲を広げていく。
全力を出していいけれど、ゆっくりというのは結構難しい。
ドカッて出してしまいたくなる。
けれど我慢……!
ゆっくり、ゆっくり………………
「――――え…と、エリス様?」
「何?」
「あと、どれくらいで終わりますか?」
浄化魔法を始めてから、どのくらいの時間が過ぎたのか、私はゆっくり魔力を出すことに集中していて時間のことなど忘れていたが、ふと、後ろから先生が問いかけてきた。
「え? 知らないわよ」
私は答える。
その時である。
「ああッッ!!」
魔力が霧散してしまった。
「せっかく上手くいっていたのに!
ちょっと先生、話し掛けないでくれる?」
「ご、ごめんなさい……。
でもその、このままじゃ、森を抜けて王都にまで浄化魔法が広がってしまうところなので。さすがにそこまですると、何事かと大騒ぎになってしまいます」
「そ、そうなの…?」
私は冷や汗をかく。
というか、そんなに広げられていたのね。
私ってすごい。
周りを見渡すと、空気が澄んで木々がとても美しい緑になっていた。
この森は、森だというのに、どこか空気が淀んでいたような感じだったから良かった。
「浄化…されましたね…………」
先生のとてもとても小さい声が聞こえた。
「?」
私が首を傾げると先生は言う。
「この森は私が汚してしまったのですよ。
だからなのか、私の浄化魔法では浄化しきれない。
だからエリス様、ありがとうございます。
あ、そのためにここで特訓をしようと騙したわけではないのですよ。
この森は特訓するのにちょうどいい場所でしたし。
まさか森全部を浄化してもらえるなんて思ってもみませんでしたから、フフッ」
「別に騙したとか思ってないわ。
でも、なんだかよく分からないけれど良かったわね」
「はい」
先生は改めるように言う。
「正直、エリス様の魔力量は予想以上でした。
うーん、今回私がエリス様に言う『全力』というのは、ただ制御しないで限界まで魔力を使ってもらうことです。
だから、限界まで魔力を出してこの森に浄化魔法をかけ、全力を出す練習をしようと思ったのですが……、限界まで出し切れませんでしたね。
しかし練習をする場所でこの森以上に、広くて人気もない、最適な場所はありませんし……」
「でも、先生が予想以上というのだから、ユリアナ様を治す魔力量に達しているのではないの?
だったらここで、今くらいの浄化魔法を練習すればいいのではない?」
「そうですね、確かに今のでユリアナ様を治す魔力量には達しています。
しかし、私はエリス様ほどの魔力と合わせてコントロールしたことがありませんから、エリス様の全力を知っておかなければなりません。
また、この森の範囲内で収まるくらいの魔力で練習というのも、結局は制御をした練習で、心の中で『抑える』という意識は変わりません。
浄化魔法とはいえ、ユリアナ様に膨大な魔力を使って魔法をかけるのは少なからず躊躇いがあると思います。
ですからユリアナ様に浄化魔法をかける時、ユリアナ様を治すに至らないほどに魔力を抑えてしまうかもしれません。
それに今まで制御していた時よりは多く、けれどこの森の範囲内で収まるほど、という中途半端は全力の練習よりも難しいですよ」
私は納得して頷く。
「――じゃあどうする?」
私が聞くと先生は言う。
「魔力濃度を高める練習をしましょう。
魔力濃度に関しては私が補えばいいですから、別に大丈夫だと思っていたのですが……」
「魔力濃度を高める練習?」
「はい、元々の魔力濃度を高めることは出来ませんが、魔力を使って魔力濃度を高めることは出来るのです。
魔力濃度は高めるほどに魔力が必要です。
魔力濃度を高めて浄化魔法をかけるのは、普通に浄化魔法をかけるよりも、ずっと魔力を使います。
かなり魔力濃度を高めれば、何倍も魔力を使うことになるでしょう。
ですから、魔力濃度を限界まで高めてこの森に浄化魔法をかけたら、エリス様の魔力量でもさすがに、この森の範囲内で限界を迎えると思うのです」
「分かったわ」
それから私は聞いた。
「思ったのだけれど、浄化魔法が強すぎて、ユリアナ様が私たちを忘れる以外のことは起きない?」
「大丈夫です。それはありません。何度も失敗はしましたが、最高25人の魔法使いで体内魔力に浄化魔法をかけることに成功しています。その際にも記憶障害以外はありませんでしたから」
「それならいいわ」
……いや25人って、一体どうなってるのよ。
その後特訓が再開した。
「それでは、ファイアボールを出してください」
私は先生の言う通り、手の平にファイアボールを出した。
「では、大きさは変えないで、その火の魔力を濃く、深くするというようなイメージをつくってください。いきなりではなくゆっくりとですよ」
私は火に意識を集中させる。
濃く、深く…………。
ゆっくり……。
すると、ファイアボールは徐々に大きくなる。
あれ……?
む、難しいわね。
先生は顎に手を当てる。
「今まで魔力濃度を高める練習はしたことありませんでしたからね。
――えと、こういう感じです」
先生は掌に赤黒いファイアボールを出す。
――ゾワッ……
私は鳥肌が立った。
この火はヤバい……
「分かりますか? これは魔力濃度を高くしています」
「いや、分かるけれど……」
ええ、分かるけれど……
「魔法というのは結局、感覚ですからね。
エリス様は感覚が鋭いですから、これを見ただけでもなんとなく掴めるものがあるのではないでしょうか」
確かに私は、見たらできてしまった、ということはよくある。
剣術の大会を見た時は、会場の人気がない場所でこっそり、そこら辺にあった剣を取って試合の剣士の真似をしてみたことがあったが、恐らくできていたと思うし、むしろ私の方が威力があったと思う。
そういえば、ふと通りすがった男がそんな私を見て固まっていたわね。
私はもう一度ファイアボールに集中する。
すると、なんだか湯気が出て、沸騰し始めた。
「ア、アハハ……」
「で、でも、そんな感じですよ、エリス様!」
「そ、そう?」
「はい!」
それから3時頃まで特訓すると、私はさすがに少し疲れて、地面に座った。
「フゥ……」
疲れたというか、お腹が空いた。
お昼を食べてから、休まずにずっと特訓していたのだ。
――――ぐううぅ
「お腹が空いたわ……」
でも、まだまだ特訓しなければ。
「よし、やるわ!」
そう言って私は立ち上がった。
先生は言う。
「大丈夫ですか? すみません、休憩をいれるのを忘れていました…ッ」
「大丈夫よ」
――ぐううぅうう
「だ、大丈夫ですか…?」
「大丈夫だけれど!」
それからエディ先生は恐る恐るというように言った。
「良かったら、私の家が近いので何か食べに来ま――」
「――行くわ」
私は思わず食べ物につられた。
「妹も、家にいますが。
ヘレナ…妹が作った料理はとっても美味しくて!
ぜひ、食べてみてください!」
「フーン、それじゃあ遠慮なくいただくわ」
「はい!」
先生は満面の笑みで頷く。
あまりにも嬉しそうなので、なんだか私は訝しげに先生を見た。
妹の料理を食べさせたいだけでなのでは?
そして美味しいと言って欲しいだけなのでは?
あわよくば、なんて可愛らしい妹さんなの、とか良いお嫁さんになるわね、とか言って欲しいのでは?
◇
エディ先生の家は極普通の平民の家だった。
エディ先生は元々平民とはいえ、今は爵位を与えられている。
屋敷に住んで、使用人も雇っているのが普通だと思うが。
まあ、これはこれで先生らしいかもしれない。
外で選択物を干している少女がいた。
その少女は先生と私に気が付くとこちらに駆け寄って来る。
先生は嬉しそうに言う。
「これが妹のヘレナです」
その少女ヘレナは不思議そうに先生を見た。
「えっと……?」
それに応えるように先生は口を開いた。
「こちらはエリス様だよ」
「エリス様……?」
私と同じくらいの歳かしら。
それかほんの1,2歳年下。
先生と似ている優しい顔だ。
肌が白く、笑顔が可愛い。
「様、なんて付けなくていいのよ。先生が勝手に付けているだけだから」
「先生……? あッ、お兄ちゃんか。なんだか変なの、フフッ」
ヘレナは思わずと言ったように笑った。
そしてその笑顔のままに、私に言う。
「じゃあ、エリスちゃんでいい?」
「いいわ。よろしくヘレナ」
「うん!」
それから、魔法の授業をしていて、私がお腹が空いたと言うから家に連れてきたのだと先生が説明をした。
「そんな良いものは出せないけどいいのかな……?」
ヘレナは困ったように言う。
軽装で来てはいるが、先生の教え子というから貴族だと分かったのだろう。
王宮魔法師が平民の学校の教師をするはずはない。
それに私から高貴なオーラが溢れ出てしまっているだろうし。
「別に何でも食べるわよ。
お腹が空いて仕方がないから、早くしてもらえると助かるわ」
私の言葉にヘレナはクスッと笑って頷いた。
そして台所に行くヘレナの背中に先生は言う。
「ヘレナ、たくさん作ってきて欲しい。エリス様は食いしん坊だから」
「そうね」
私は頷くが、ヘレナは振り返って先生にビシッと指を差して言う。
「ちょっとお兄ちゃん、女の子に向かって食いしん坊とか言っちゃダメ!!」
「へ? ああ……」
先生は冷や汗をかいて私を見る。
私は食いしん坊という先生に頷いておいてなんだが、ヘレナに同意する。
「確かにとっても失礼ね」
私は気にしないけれど、他の女の子だったら気にしていただろう。
ヘレナによって料理が運ばれてくると、私はそれをモリモリ食べた。
「これが家庭料理というものなのねえ~!!」
私は至福の表情で、頬に手を当てた。
ユリアナ様の作ったお菓子と、どこか似ている温かい味である。
私が食べるのを、エディ先生とヘレナは微笑ましそうに見ていた。
食べ終わると私は言う。
「とっても美味しかったわ!! ありがとう!!
ヘレナは良いお嫁さんになるわねッ!」
それを私は言ってからハッとして先生を見た。
そうでしょ?そうでしょ? と言うような嬉々とした顔である。
ぐッ、これだけは言うまいと思っていたのに…!!
その後、特訓をしてからお腹が空くと、エディ先生とヘレナの家によく行くようになった。
先生とヘレナは2人暮らしのようだが、とても仲が良い。
幸せな家庭というのは、こういう感じなのだろうかと思った。




