第九十二話:合流、そして激励
前回のあらすじ:アイヴィとエスカがヴァレンタイン領にて合流した。
第九十二話です。第三章以来の久しぶりのキャラが登場します。
「アイン君、これはどこに置けば?」
「それは最後につけるものだから、そこに置いておいて大丈夫。」
口を動かしながらも作業は止めない。今俺たちがやっているのはヴァレンタイン領の前線基地にて、通信機を設置するという作業だ。
学院長からの手紙によれば、王城の一室で通信機の設置が完了したらしい。設置がうまくいっていれば、ヴァレンタイン領から王都への通信が可能になる。もちろん、王都からこちらへの通信も可能になるはずだ。
仮にうまくいっていたとしても、問題になるのは向こうが通信に気づくかどうかということだろう。
いつ通信が来るか分からないとはいえ、常時人を傍に置いておけるほど王城は暇ではないはず。
それに、向こうがきちんと操作できるかも問題だ。丁寧な仕様書を書いたつもりだが、手順のミスがあれば通信はうまくいかない。
問題点は多いが、いち早く遠距離での連絡を行うことができれば非常に強力な武器となる。
「よし、後はこれを付けて……。完成だ。」
俺は通信機の開発者だ。少なくともこちら側では不備がないはず。俺は学院長からの手紙に書かれた座標を確認する。
事前に計算して、大体王城の位置であろうというのは確認している。多分座標はあっているだろう。俺は通信機の入力を開始する。
"こちらヴァレンタイン領。王城へ。試験通信なり。座標は***、返信求む。"
出来る限り簡潔に。俺は今一度文面を確認して、送信を確定する。後はこれが無事届いて、向こうが気づいてくれるかどうか。
「さて、後は待つだけだね。」
俺はそういって振り向く。そこにはアイヴィとエスカ以外にも、母さんがいて俺はぎょっと驚く。
「母さんまでどうしたの?父さんの隣にいたんじゃないの?」
急造の治癒院で父さんは治療を受けたが、まだ意識は戻っていない。あれだけの怪我に加えて、限界を超えて無理をしていたのだ。仕方ないだろう。
そんな目を覚まさない父さんを心配して、つきっきりでいたはずの母さんが通信機の設置を見に来るとは。
「追い出されちゃったのよ。それに、アイン達が王城と通信すると聞いたから。もし国王様と通信することになったりしたら、私がいた方がやりやすいでしょ?」
化粧でうまく隠されているが、よく見ると目の下に隈ができている。あまり眠れていないのだろう。それに最初の通信から国王が出てくるとは考えづらい。そもそも返信が帰ってくるかも怪しいのだ。
「多分返信が来るまでは時間がかかるよ。少しでも休んだ方が良いんじゃない?もしそうなったら母さんを呼ぶから。」
「ふふ、アインはあの方のことを分かっていないのね。」
あの方?一体どういう意味だろうか。
疑問に思った次の瞬間、通信機に反応が起きる。そんな馬鹿な、俺は信じられないといった顔をして通信機を見る。そして、俺はそこに書かれた文を見てさらに驚愕することになる。
"余はロウ=ノーベルである。そちらの状況を報告せよ。"
あまりに早い返信。しかも、国王からの返信。俺は頭を抱える。そんな俺を見かねたのか母さんが一歩前に出てくる。
「仕方ないわね。アイン、私がやり取りするから、私の言ったことを通信してくれる?」
俺は何も言えずに頭を縦に振る。それからの俺は母さんの言う通りに通信を行う人形となった。
精神的な疲れを感じたので、俺は外を一人で散歩していた。一体誰が想像しただろうか、俺の通信機が国王の執務室に置かれていたなんて。
あまりにも早い返信、それと国王がいきなり通信してきたことに納得できたが、自分の発明品が国王の部屋に置かれていると思うととても恐縮な気持ちになる。
それにもう一つ驚いたのは、母さんが国王と意外にも親しそうだったことだ。以前王都で行われた対抗戦。その時に母さんはとある貴族に会いに行くと言っていたが、その貴族が国王だったらしい。
そんな二人のやり取りを伝える役割だったので、俺は精神的に疲弊することになった。そんな俺の様子を見ていたからか、アイヴィもエスカも特に何も言わず俺を散歩に送り出してくれたのだ。
ちなみに、現状を国王に伝えたのだが、国王の決断は"応援が到着するまでは待機"だった。
帝国側の戦力もかなり削れているので攻勢に出るという選択肢もあったが、如何せんそれ以上にこちらが削られすぎた。ヴァレンタイン領の最高戦力である父さんの意識が戻らない以上どうすることもできないという判断だ。
だが、待機もあくまで"応援がくるまで"ということらしい。応援が到着すれば攻勢に出たいというのが国王の考えだ。
それもそうだろう。たった一度の攻撃でこちらは壊滅的な被害を被ったのだ。守勢に徹していてもいずれやられてしまう。そうなる前に、流れを変えるために攻勢に出た方が良いだろう。
問題があるとすれば、国王がヴァレンタイン領の兵士を壊滅に追い込んだあの攻撃の詳細を知らないことだろう。航空機を利用した空爆。その脅威を説明するには、通信機はあまりに無感情すぎた。
こちらがいくら感情を込めたとしても、向こうに送られるのは単なる文字情報。いわば対岸の火事だ。
帝国の脅威を理解できていない烏合の衆では即座にやられてしまうだろう。
国王にどうにかその脅威が伝わっていることを願おう。
「うん?もしかしてアイン君か?」
考え事をしながら歩いていると、後ろから声をかけられる。聞き覚えのある声ではあるが、思い出せない。俺は振り向いてその声の主を確認する。
声の主は以前ともに依頼をこなした冒険者パーティ『パーツェン』のリーダーのジョージだった。その近くには他のパーティの面々もいて、俺の方に気づき手を振っている。
「お久しぶりです、皆さん。こっちに来てたんですね。」
「そっちこそ、と言いたいところだが、この状況だ。君が故郷であるここに戻って来ていたとしても不思議ではないか。」
久しぶりだが、みんな変わりないようだ。一人ひとり挨拶をかわすが、そこに神官のエヴァさんがいないのに気づく。
「エヴァさんは?」
「あいつは今救護班の手伝いをしている。手が足りないから神官の助けに非常に感謝されたよ。」
そうか、こんな辺境にいる神官の数などたかが知れている。戦争で怪我人が多く出た以上、猫の手でも借りたい状況だろう。
「俺たちは別件でこっちに来てたんだがな、本格的な戦争が始まると知って手伝っていたんだよ。兵士たちの連携の邪魔になるかもしれないから、前線には出ていなかったがな。とはいえ先日の攻撃で状況も変わった。応援を要請される日も近いだろう。」
先日の攻撃で甚大な被害を被ったこちらとしては冒険者も戦力に加えたい。しかし、冒険者は決して兵士ではない。依頼を受けるも受けないも本人たちの決断次第だ。
俺はそれを分かっているからこそ、「助けてください。」とは言わない。彼らがいれば戦力が大きく向上することが分かっていたとしても、それはルール違反だからだ。
そんな俺の葛藤を察したのだろう。ジョージは俺の頭にその大きな手をのせる。
「まだ成人もしてない子供だというのに、君は本当によく分かっている。心配するな。俺たちは全面的に協力することに決めている。」
ジョージの言葉に後ろで大きな盾を背に担いだカールが無言でうなずく。そして、音もなく近づいてきたエルが背中をバシッと叩く。
「表情が暗いぜ。悩むなとは言わねえけど、下は向くな。お前はまだ若いんだし、前だけ向いてりゃいいんだよ。」
激励の言葉に俺は目頭が熱くなる。最近はいろいろなことが起きすぎて、無意識に下を向いてしまっていたようだ。俺は顔を上げてかすれた声で感謝の言葉を述べた。
九十二話いかがだったでしょうか。久しぶりの『パーツェン』でした。冷静に考えれば、アインってこの世界ではまだ未成年なんですよね。
次回更新は5/18(水)になります。読んでいただけたら嬉しいです。




