第九十一話:後悔、そして合流
前回のあらすじ:ヨーダ兄さんは自分の行動が正しかったのか悩んでいるようだ。
第九十一話です。相変わらずシリアスが続きます。
俺とヨーダ兄さんの前に立つ一人の兵士。だが、その服装はヴァレンタイン領の服とは異なっている。ほんの少し訝しむが、その兵士からは敵意は感じられない。
ヨーダ兄さんは先ほどまでの地獄を見てきたようなひどい顔のまま、顔を上げて目の前の人物に目を向ける。俺にはその目に映る感情が何なのか理解できなかった。
「その……、あんたに礼を言いたくて。」
目の前の兵士はヨーダ兄さんの方を見て話し始めた。
「あれは俺達にも聞かされていなかった。上は俺たちのことを仲間とは思っていなかったらしい。上にとって俺たちはただ使い捨ての駒に過ぎないらしい。」
そこまで言われて気づく。目の前の兵士は帝国軍の兵士のようだ。その兵士がなぜ今ここにいるのか。そしてヨーダ兄さんにお礼を言いたいということは。
様々なことを察するが、俺は言葉をはさまなかった。
「俺たちは兵士だ。戦争となれば命を奪う覚悟も奪われる覚悟もできてるはずだった。だが、あんな風に駒として使い捨てられるのはごめんだ。助けてくれたあんたには感謝している。……本当にありがとう。」
兵士は深々と頭を下げた。
対照的にヨーダ兄さんは勢いよくベンチから立ち上がり勢いよくまくしたてた。
「ふざけるな!あんたらの……、帝国軍の攻撃で一体何人死んだと思っている。みんな守る家族がいたんだ。それなのに、知らなかったというだけで、あんただけ無罪になるとでも思ってるのか。俺達からすれば、あんたも同罪なんだ!」
「そうか、あんたは優しいんだな……。」
ボソッと兵士はつぶやく。
「そんな風に思っていても、あんたは俺を助けてくれた。」
兵士の言葉にヨーダ兄さんは言葉を失う。おそらくヨーダ兄さんの中では様々な感情が複雑に絡まっているのだろう。
「あんたの言う通りだ。俺は捕虜でもなんでも好きなように扱ってくれて構わない。大した情報は持っていないが、俺が持っている情報は全部話そう。」
その言葉を最後に兵士はその場を去った。ヨーダ兄さんは力が抜けたようにベンチに再び座り込んだ。
ヨーダ兄さんはだらんと腕を落とし、空を仰ぎ見て俺に話しかける。
「なあ、アインはどう思う?」
先程の兵士を助けず、殺すべきだったか?
父さんを守るために大勢の魔族と戦うべきだったか?
いや、そもそもヴァレンタイン領に戻ってくるべきだったのか?
「分からないよ。正解なんてないんだから。けど、未来ならこれからの選択次第で可能性は無限に広がっている。俺はそう思ってるよ。」
「そうか……。」
ヨーダ兄さんはそのまま何も言わなかった。俺も黙って、そのまましばらくヨーダ兄さんの隣に座ることにした。
翌朝、俺はふらふらと歩きながら、これからどうするべきかを考えていた。
一つ目の選択肢としては、学院に戻るというものだ。帝国と王国との戦争という長い目で見れば、一番役に立てそうな選択だ。学院に戻り、通信機や魔道具を各領地に配ることで国力の増強を目指す。
しかし、これは文字通り"長い目"で見た場合の話だ。先日の帝国の攻撃を考慮すると、悠長にしていると間違いなく王国領土のいくつかは壊滅してしまうだろう。
二つ目の選択肢はこのままヴァレンタイン領に残り、みんなと一緒に帝国と戦うというもの。ヴァレンタイン領の軍は先日の帝国の攻撃で壊滅的だ。それに協力するというのが一番現実的に思える。
三つめの選択肢は、逆に帝国に乗り込むというものだ。これは俺個人の怒りの感情に依るところが大きい。それに皇帝は、俺とかなり近い"異世界"の人間である可能性が高い。皇帝に対抗できる人間は数少ないだろう。だが、これはかなり博打な手段となる。
俺は悩む。どうするべきだろうか。昨日、ヨーダ兄さんにえらそうなことを言っておきながらこのざまだ。
とはいえ、この選択は未来を決める非常に重要な選択になる。軽率に決められるものではない。
それにしても、まだ朝だというのに妙に騒がしい。俺は騒がしい一角に近づく。
何やら言い合いをしているようだ。そしてその姿を見て俺は驚愕した。そこでヴァレンタイン領の兵士と言い合いをしていたのは、大きな荷物を持ったアイヴィとエスカだったのだ。
「だから、私たちは王国の貴族です!私はアイヴィ=ドレッド、こちらはエスカ=ヴィレッジです!」
「どうして王国の貴族令嬢が帝国側から歩いてくるんだ。それにその大きな荷物は何だ。何が入っている。」
「ですから!」
先日の攻撃のせいで、兵士たちの警戒は非常に高まっている。そのため、スパイとでも思われてしまったのだろう。俺は言い合いしているところに走る。
俺が走ってくるのに気づいたのか、アイヴィとエスカは笑顔になる。
「アイン君!無事だったんですね、良かったです。」
「全く、あんまり心配させないでくださいまし。」
「ははは。」
俺は愛想笑いをして頭をかく。誰にも何も言わずにこちらに転移したのだ。きっと心配をかけたことだろう。想像より気づかれるのが早かったが。
「あの……、アイン様。こちらの女性たちは?」
置いてけぼりにされた兵士が話しかけてくる。ちなみに、このアイン様というのは、先日俺が魔族たちを撃退したのを見ていた兵士がいたらしく、話が大きくなってあたかも英雄かのような扱いを兵士達から受け始めている。
何度も止めてほしいといったのだが、結局そのまま英雄扱いを受けている。
「この二人の身元は大丈夫です。彼女たちが言う通り、王国の貴族です。」
「そうなんでしたか、すみません!失礼いたしました。」
兵士が深々と頭を下げる。戦争中ということで、アイヴィもエスカも納得したようだった。俺は二人の方に向き直る。
「二人は俺の部屋にある転移魔法陣でここに?」
「はい、そうです。ラビさんがいろいろ推測してくれて。」
俺は二人から事の顛末を聞く。妙にラビが詳しいうえに、勘が良いのが気になるがまあ良いだろう。
それより驚くべきはアイヴィの魔力量だろう。あの転移魔法はかなり長距離を移動するため、要求される魔力量は莫大だ。俺の魔力量でも無理だったのに、アイヴィはエスカと二人でしかも荷物を持って転移できるとは。
前までよりアイヴィの魔力量がより増えている、そんな風に俺は感じた。
こちらもヴァレンタイン領の現状を二人に説明する。進んで話したいものではないが、話しておかなくてはならないだろう。
「ところで、その荷物は?随分とたくさん持ってるけど。」
「あ、これですか?」
アイヴィは荷物を降ろして口を開ける。その中には通信機に必要な機材など魔道具を作るのに必要なものが入っていた。
「ラビさんがまとめてくれたものです。通信機を作ればこちらとも連絡が取れるだろうって。それと、これが学院長からの手紙です。」
ラビ……。あいつ実はかなり頭が良いよな。ある程度は俺の机にあったとはいえ、机の資料を読み取ってここまで準備することができるとは。
学院長からの手紙はそこまで長くはなかった。そこに書かれたのは、通信機が王都の王城につなげることがそろそろできるはず、ということだった。
つまり、ヴァレンタイン領の現状をいち早く国王に連絡することができるということなのだ。
九十一話いかがだったでしょうか。アインはこれからどんな選択をするのでしょうか。
五月病なのか何をするにもやる気が起きません。書き溜めももうありません。申し訳ありませんが、金曜の更新を休みにして次回更新は5/16(月)にしたいと思います。読んでいただけたら嬉しいです。




