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実験好き男子の魔法研究  作者: 日野萬田リン
第五章:戦争編
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第九十話:その頃、そして後悔

前回のあらすじ:行方不明のアインはヴァレンタイン領へ転移したのかもしれないとアイヴィ達は気づく。


第九十話です。後半はかなりシリアスです。


<三人称視点>


「アインの行き先はヴァレンタイン領(故郷)だろうね。」


ラビの言葉を受けてエスカが疑問を呈する。


「どうして分かったんでしょうか?魔法陣を読んだというわけではないですよね?」


エスカの疑問はその場にいる全員が浮かべた疑問だろう。魔法陣を専門としているアベル先生であっても、この魔法陣を見て行き先を知ることはできないだろう。それくらい、この転移魔法陣というのは従来の魔法陣とは構造が異なっているのだ。


それをいくら同室でよく見ているとはいえ、目の前の少年がやっているとはエスカも思えなかった。


「いや、転移魔法陣を読むなんてできるわけないよ。けれど、通信機の方は使い方を教えてもらったから大体分かるんだ。」


「通信機?」


アイヴィは通信機の方に近づいて、ジロジロと眺める。しかしながら、この通信機から何が分かるのかさっぱり分からなかったようでお手上げとばかりに両手を挙げる。


そんなアイヴィに対し、ラビは先ほどアインの机から取り出した数枚の紙を見せる。


「アインは大雑把な性格だけど、こと実験とか研究に関してはちゃんとまとめてあるんだよね。特に最近は通信機についてばかりいろいろやってたから、引き出しの上の方は通信機についてのまとめが置いてあったんだ。すると、前の実験とは別の通信履歴が一件。」


「それがヴァレンタイン領から?ヴァレンタイン領にはアイン君の通信機はまだ無いはずです。そもそも通信が来るはずありません。」


これもまた当然の疑問である。ただ、アインが自分の母親に渡していた魔道具の存在を知らなければ。


「アインは王都で母親にとある魔道具(・・・・・・)を渡していた。本人は未完成って言っていて効果を話すことはなかったけど、それが一種の通信機だったんじゃないかな。それが起動されるという緊急事態にアインは飛んでいったんだと思う。」


「緊急事態……、まさか……。」


エスカの顔が一気に青ざめる。ヴァレンタイン領で起こった緊急事態。今の情勢を考えれば、それが示す事象は一つしかない。


「帝国との戦争が始まったんだろうね。それもかなり激しい戦いになってるんじゃないかな。」


「……っ!」


アイヴィの顔がひどくゆがむ。その表情からは悲しみ、苦しみ、怒りなど様々な感情が含まれている。


ずっと黙っていた学院長がここでようやく口を開く。


「まだ確証は持てん。仮に始まってたとしても、わしらにできることは今は何もないの。この転移魔法陣は一つの希望じゃったが、魔石がない以上動かすこともできん。」


「ですね。」


ラビののんきな返答とは対照的に、アイヴィとエスカは唇をかみしめる。


何かできることはないだろうか、アインを助けることができないだろうか。様々な気持ちが渦巻いている二人は必死に思考を巡らす。


アイヴィとエスカは顔を見合わせる。お互いに考えることは同じ。ただ、現状を打破する方法を考える。


(魔法陣を動かすには巨大な魔石が必要。でもそんな魔石は滅多に手に入らない。だったら……。)


二人はそろって一つの考えを思いつく。うまくいくかは分からない。けれど、アインはいつだってうまくいくか分からないことをなしてきたではないかと心を奮い立たせる。


「転移魔法陣を起動させましょう。私の魔力量ならいけるかもしれません。」


アイヴィは決意を込めて宣言した。





<アイン視点>


ベンチに座ってようやく一息つく。周囲ではまだ慌ただしく兵士やその家族らしき人達が走り回っている。目をつむると周囲の声がはっきりと聞こえてくる。


他の兵士の怪我を確認する声。無事を確認して抱き合って泣いている声。


そして、何とか大事な人を探そうと名前を叫ぶ悲痛な声。


その攻撃の瞬間に俺はいなかったが、俺が想像するよりはるかに悲惨な状況だったはずだ。今ここにいる兵士は何とか生きて戻ってこられた人たちばかり。多くの兵士がその攻撃で命を落とした。


一つの足音が聞こえてくる。その足音はゆっくり近づいてきて俺の前で止まった。


目を開けなくてもその気配だけで誰か分かる。


「母さんからアインが来てると聞いて半信半疑だったけど、本当にいるんだなアイン。」


「ヨーダ兄さん……。」


目を開けて兄さんの顔を見る。そのひどい顔に俺は言葉を失ってしまった。


前にあった時のはつらつとした顔は見る影もなく、文字通り地獄を見てきたような表情をしている。ヨーダ兄さんはこの戦争でどれほどの経験をしてきたのだろうか。


俺としてはヨーダ兄さんがほとんど怪我もなく無事でいてくれてとても嬉しい。だが、ヨーダ兄さんはこの戦争を無事に生き残れたというのに、ちっとも嬉しそうではない。


そんなヨーダ兄さんに俺が書けるべき言葉は何だろうか。


考えるが言葉が出てこない。


ヨーダ兄さんは表情を変えず、俺の隣に座った。ほんの数秒の沈黙の後、口を開く。


「何も言わないで良いから聞いてくれ、アイン。」


「……。」


俺は何も言えない。言わないのではなく、何も言えなかったのだ。


「俺はさ、父さんを置いて逃げ出しちゃったんだよ。父さんは俺をかばってボロボロになってたってのに。あの場で戦えたのは俺だけだったのに。」


ヨーダ兄さんは両手で顔を覆う。その表情は分からなくなる。


「母さんが戦場の方に走っていったって聞いたときは俺は気を失いそうになったよ。父さんと母さん、大事な人を二人も失ってしまうのかと。結果として、お前が駆け付けたから二人とも生きて帰ってくることはできた。でも、だからこそ俺は自分の無力さを痛感したんだ。俺はお前と違って何もできず、逃げ帰ることしかできなかった。」


ヨーダ兄さんの表情は分からない。だが、その声が少し震えているのが分かった。


「こっちに戻ってくるまではそこまで思わなかったんだ。けど落ち着いてくると、どっと後悔が押し寄せてきた。俺にもっとできたことがあるんじゃないかって。俺はもっと戦うべきだったって。たとえ、死ぬことになっていたとしても。」


そこで初めて俺は声を上げようとする。まずは生きていることを喜ぶべきだ。死ぬなんて思うことじゃない。そう思っていたのだが。


「俺の目の前で、先輩騎士が命を落とした。その先輩から託された写真を、奥さんに渡したんだ。その人は耐えきれず、泣き崩れてしまった。俺は何の言葉もかけられなかったんだ。それなのに、俺は敵兵の命を助けてしまったんだ。仲間の命も助けられない奴が敵の命を助けるなんて滑稽だろう。」


俺が言葉をはさむより早く、ヨーダ兄さんは言葉を続ける。その言葉を受けて、俺はかけようとしていた言葉を飲み込んだ。


「俺はどうしたら良かったんだろうな。父さんを守るため戦うべきだったのか。仲間の先輩騎士を連れ帰るべきだったのか。敵兵の命を奪うべきだったのか。そんな選択が頭の中でぐるぐるしてるんだ。」


ヨーダ兄さんは戦争であまりに多くの選択を迫られていたらしい。どこかの選択が変わっていれば、未来は変わっていただろう。だが、それが今以上の結果につながるかどうかなんて誰にも分からない。……これは湯川()の経験だ。


俺は言葉を紡ごうとする。だが、その前に一人の見慣れぬ服装の兵士が俺たちの前に立った。


九十話いかがだったでしょうか。未来には無限の可能性がありますが、過去は今まで選択してきた道の一本しかないというのが自分の持論です。異論はいくらでも認めますが、本作ではその持論で話を展開していきますのでご了承ください。


次回更新は5/11(水)になります。読んでいただけたら嬉しいです。



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