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実験好き男子の魔法研究  作者: 日野萬田リン
第五章:戦争編
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第八十九話:蹂躙、そしてその頃

前回のあらすじ:何とか間に合ったアインは新武器を携え、魔族たちを蹂躙する。


第八十九話です。魔法学院側は一体どうなっているのでしょう。


<アイン視点>


魔族たちが退いたのを確認して、俺は両親のもとに駆け寄る。


「父さん、母さん!大丈夫!?」


「夢かと思ったが、現実だったんだな。」


俺は父さんの容態を確認する。左半身の火傷がひどい。特に左腕だ。すでに感覚すらなくなっているだろう。たとえ治療したとしても、痕が残るような重い火傷に見える。それに火傷の範囲が広すぎる。一刻も早い治療をしなくては。


母さんは父さんの隣で心配そうに父さんを見ている。


「すぐに戻ろう。手を貸して。転移魔法で連れて行くから。」


複数人での転移ができることが分かったので、一刻も早く治療できる場所に連れて行くには転移を使うのが一番早いだろう。


俺は二人の手を取って意識を集中する。目に見える範囲でできる限り遠くへ転移し続ける。魔力の消費も多く、どっと疲れを感じるが何とか治癒院の出張所まで二人を連れていくことができた。


「それで、アインはどうしてここに?というかどうやって?」


父さんを治癒院へ連れて行き、ほんの少し落ち着いたタイミングで母さんが俺に話しかけてきた。同然の疑問だろう、本来ドレッド領の第二魔法学院にいるはずの俺が遠く離れたヴァレンタイン領の、それも戦場の中心に突然現れたのだから。


「遠距離転移が可能になる魔法陣を開発したんだ。まだ実験段階だったんだけど、母さんがその魔道具を発動させてたから、大急ぎで飛んできたんだ。」


「ちょっと待って、いったん整理させて。」


母さんが手のひらをこちらに向けってちょっと待ってほしいというジェスチャーをする。そして、ほんの数秒頭を抱える。


「長距離転移?それに魔道具って、アインが渡してくれたこれよね?一体何の効果なの?」


どうやら情報過多すぎて混乱しているようだ。俺は一つ一つ説明していく。転移魔法の魔法陣について、「GPS付き防犯ブザー」の役割を果たす魔道具について、そしてその魔道具を完成させることになった通信機について。特に最近開発した通信機の説明をした時には、ため息をついて再び頭を抱えてしまった。


「アインが規格外だとは思ってたけど、これほどだったなんて……。」


「それより、この状況はどういうこと?やっぱり戦争が始まっちゃったの?」


とりあえず家族を守るために戦ったが、実は俺はこの戦いがいかにして起こったのか知らない。ただがむしゃらに戦っていただけだが、落ち着いた今ならちゃんと聞くべきだろう。


母さんは真剣な顔をして重たい口を開く。その口から語られたのは、俺がやってくるより前の文字通り"惨状"の話だった。


(銃だけじゃなくて航空機まで開発しているなんて。帝国は予想よりはるかに科学を発展させているらしい。でも、時間を考えるとそんなに数は作れていないはず。だとしたら……。)


顎に手を当てて考える。想像以上に皇帝は厄介な存在だ。四の五の言ってられない。何か対策を考えなくては。


真剣に考える俺に母さんは一言。


「ところでアイン。あなたどうやって戻るつもりなの?」


「あ。」





<三人称視点>


一方その頃、魔法学院ではちょっとした騒ぎが起こっていた。


「アイン君が行方不明……?それは本当ですか?」


エスカが学院長の知らせに疑問を呈する。ここは魔法学院の訓練場。アイン君を探しに来た学院長は息を切らす。


「そうなんじゃ。寮に帰ったところまでは目撃者がおったんじゃが、そこからどこに行ったか分からん。」


「また外出したとかではなく?」


アイヴィはそこまで大ごととは思っていないようだ。アイヴィからしたら、アインが突拍子もない行動を起こすのは今に始まったことではない。どうせ今回もその妙な行動の一つだろうと考えていた。


「寮監が外に出たところは見ておらんのじゃ。部屋にはおらんかったし、少なくとも寮内にはおらんようじゃ。わしは伝え忘れたことがあって探しとるんじゃが、どこにおるのやらさっぱりじゃ。」


そこまで言われると少し心配になるのか、エスカもアイヴィもほんの少し顔をしかめる。


「寮監さんが見ていないというのは気になりますね。いくらアイン君と言えど、窓から出たりはしないはずですし。」


エスカの言葉に隣のアイヴィもうなずく。妙な信頼のされ方に学院長は苦笑いを浮かべることしかできない。


「でも一度部屋に戻ったのなら、部屋に何か手掛かりがあるかもしれませんね。行ってみませんか?」


そういって三人はアインの部屋へと向かった。


寮のアインの部屋とはすなわち、同部屋であるラビの部屋でもあるということで。


「あれ、アイヴィにエスカ?学院長まで。一体どうしたんですか?」


のんきな顔をしたラビが扉から現れた。どうやらアインの行方が分からないということは知らないようだ。学院長が代表してラビに事情を説明する。


すると、ラビは腹を抱えて笑い始める。


「何がおかしいんですか?」


「いや、だってあいつの行先なら分かりますよ?」


「え?」


三人が呆けた顔をする。ラビは部屋に入って「あれを見ろ」と言わんばかりに部屋の一角を指さす。


「あれ。転移魔法陣。朝見たときは一部抜けがあった。けど、今はその部分が埋められてご丁寧に魔石まで置かれている。どう考えても、転移魔法でどこかに行ったとしか考えられないでしょう。行先はこの魔法陣のつながる先ってことです。」


「転移魔法陣はまだ実験段階だったはずじゃ……?」


「さあね。実際にどこに行ったかは知らないけど、事実そうでしょ。」


ラビは転移魔法陣に近づき魔石を観察する。


「あら、このデカい魔石が魔力切れ起こしてる。ってことは相当遠くに転移してるのかな?」


「何じゃと!あの魔石に内包されている魔力は相当多いはずじゃ。それを使い切るとは……。」


学院長が驚愕の声を上げる。アイヴィとエスカはそれどころじゃないと急に慌て始めたようだ。


「私たちにも黙ってそんなに遠くに行くなんて、何かあったに違いありません。早く助けに行かないと。」


「そ、そうです。早く私たちも魔法陣を起動させましょう。あ、魔石がないんだった。学院長、もう一つ魔石出してください!」


この二人の慌てようを見たためか、学院長は対照的に冷静になる。


「落ち着かんかい。あの魔石は貴重なものじゃから再び仕入れるには時間がかかる。すぐには手に入れられんわい。それに、この魔法陣を見てもわしは行先が分からん。読める人はおるか?」


アイヴィにエスカは「うっ。」とうめき声をあげて黙る。転移魔法陣についてはアインが単独で研究していたので、他の誰であってもおそらく読むことはできないだろう。アベル先生もきっとできないはずだ。


ラビはのんきに周囲を見渡し、何かを思いついたように急に立ち上がった。


アイヴィとエスカがそろってラビの方を見るが、それを気にせずラビはアインの机に近づき、無造作に引き出しから数枚の紙を取り出す。


それを数秒眺めて、通信機の方を少し見た後、ラビは言葉を発する。


「アインの行き先は多分、ヴァレンタイン領(故郷)だろうね。」


八十九話いかがだったでしょうか。冷静に考えて、転移先から戻るには歩いて帰らないといけないんですよね……。


次回更新は5/9(月)になります。読んでいただけたら嬉しいです。

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