第八十八話:数刻前、そして蹂躙
前回のあらすじ:ヴァレンタイン領で戦争が始まる頃、アインは学院で大きな魔石と特製の魔法銃を手に入れる。
第八十八話です。不穏なタイトルですが、全然そんなことはありません。
寮の部屋に戻る。ここに入学した時とは随分と部屋が様変わりしてしまった。特に目につくのはこの間の実験に使用した通信機だ。
まだ他に通信機が普及してない以上ほとんど役に立たないものだ。とはいえ、撤去するわけにもいかず、部屋に置いたままになっている。ラビにはぐちぐち言われたが。
そしてもう一つ目に引くのは壁に掛けられた大きな魔法陣。これはつい最近書いたもので、長距離転移のための魔法陣だ。
今は座標の部分だけ空白にしているため、不自然な魔法陣ではある。だが、今日学院長からいただいた巨大な魔石、それに座標部分を追加することですぐにでも動かすことができる。
ふと視界の端に何かが映る。それは通信機が何かを受信している合図だった。
送信機はこの世界に一つ、学院の実験室に置いてあるものしかないはず。俺は通信機の方を見る。そこにメッセージは届いていない。
そして、思い出した。王都で母さんに渡した、未完成の魔道具のことを。
あの魔道具は元の世界風に言えば、「GPS付き防犯ブザー」というところだろうか。
付けた機能はたったの二つ。
一つは魔道具が発動したことを周囲に知らせる"電波のようなもの"を発する。
もう一つはその魔道具自体の位置情報を、その"電波のようなもの"に乗せて伝播させる。
この魔道具は未完成品だった。なぜなら、その"電波のようなもの"を受信するための機械が母さんに渡した時点では存在していなかったからである。
それに、たとえ受信機があったとしても、その"電波のようなもの"が受信機に届かない可能性だってある。明確に目標を定めて情報を送る送信機とは違う。母さんに渡した魔道具は周囲に、無作為にその情報を発信するだけなのだから。
ちなみに、"電波のようなもの"と言っているのは、役割としては電波だが、魔力でそれを代替しているからそう言っているだけである。
魔道具の説明はこれくらいにしておこう。問題は母さんに渡した魔道具が使用された可能性があるということだ。
何もない時にそれを使うとは考えられない。となれば、何かしら問題が発生したのではないだろうか。
現在、ヴァレンタイン領は帝国との戦争に一番近い場所だ。何か問題が発生したのだとしたら、それに関係することだと推測できる。
父さんやヨーダ兄さんがいるとはいえ、戦争となれば何が起こるか分からない。母さんの命が危なくなる可能性だって全然ありうるのだ。
幸い、俺の手には転移魔法陣を起動するのに十分な大きさの魔石がある。それに、母さんに渡した魔道具によってその座標も分かる。
さらに、ルミーネさんから渡された魔法銃によって俺個人が戦うには十分すぎる準備が整っている。
今日起こった数々の偶然に感謝して、俺は大急ぎで転移魔法陣に座標を書き加える。そして、学院長からいただいた魔石をセット。そのまま転移魔法陣を起動した。
いつもの転移の感覚の後、俺は顔をしかめる。この世界に生まれてからは嗅いだことのない、火薬の臭い。
転移が成功したと確信できたのは背後に二人の気配を感じたからだった。
ちらりと見ると、ボロボロになって倒れている父さんの姿。それに寄り添うように座り込む母さんの姿。
迫りくる魔法の存在に気づいて俺は慌てて二人の方に手を伸ばす。複数人の転移は試したことないが、やらなくては二人は助からない。
……何とか転移はうまくいったようだ。改めて二人の様子を観察する。母さんはまだ怪我としては軽いが、父さんの方は違う。目につくのは左半身の大きなやけど、骨も折れているのが見て取れる。この様子ではおそらく内蔵もいくつかやられてしまっているだろう。
周囲の様子を見るに、帝国はおそらく爆弾を使ってこの惨状を起こしたのだろう。だが、目の前にいるのはそういった武器を使わないであろう魔族。
ということは、帝国は人間の兵士を使った普通の攻撃と爆弾を使ったこの世界ではありえない攻撃、それの後にこの魔族たちを向かわせたということだろう。
ふつふつと怒りが沸き上がってきた。
俺には前世の記憶がある。もちろん前世の父や母だって覚えているし、大事な存在だった。けれど、だからと言ってこの世界の父さんと母さんが大事でないわけがない。
前世の記憶を持った俺の幼少期は妙に覚えが良かったり変なものに興味を持ったりと、自分で言うのも何だが変な子供だっただろう。
そんな俺でも父さんと母さんは愛を持って育ててくれた。俺の未来を憂いて、自分の身を守るための術を教えてくれた。
右手に剣を、左手に魔法銃を持つ。後ろにいる両親を守るため、俺は戦う決意をした。
「てめえ、いつの間に……。いや、そもそもお前何者だ?」
魔族はどうやら俺が転移魔法を使ったということに気づいていないようだ。いや、転移魔法を使えるとは思っていないのだろう。つまり、人間をなめているのだ。
だが、やるなら油断している今だ。
俺はその魔族の背後に転移して一刀両断。他の魔族が慌てた様子で叫ぶ。
「こいつ、転移魔法を使うぞ!全員気をつけろ!」
すぐさま対応してくる。複数人でお互いの背後を警戒しあうつもりのようだ。確かに、転移魔法を使う際の攻撃は背後からの攻撃がほとんどになるため、その対策は正解だろう。
だが、俺の攻撃手段は転移魔法だけではない。
今度は左手に持つ魔法銃を構える。中に描かれている魔法陣も俺特製のものだ。
魔力を込めると魔法銃が反応し、一瞬の光の後目の前の魔族が倒れる。他の魔族は何が起こったのか分かっていないようだ。
その混乱を逃すわけがなく、俺は別の魔族へ銃口を向ける。再び一瞬の光。ただそれだけで、魔族は倒れた。
俺が使っているのは、火魔法を応用した高エネルギーレーザーだ。炎を起こすということは極論を言えば、高いエネルギーを発生させるということ。俺はそのエネルギーをさらに増幅させることで、前世でも使われていたレーザー兵器を開発したのだ。
あまりに殺傷能力が高く危険なので、こんなものは開発したくなかったのだが、戦争となれば仕方あるまい。それに、ほとんどの人にはこの魔法陣は理解できる代物ではない。俺が積極的に拡散しない限りは、世界のバランスを崩しはしないだろう。
ちなみに万が一敵に使われることになっても、弱点は多いので対応は可能である。
「ちっ、おい!全員でかかれ!」
魔族が一斉に俺に向かってとびかかってくる。それを見て、俺は魔法銃の魔法陣を切り替えて前に銃を突き出す。
先程は単体に対して強力な魔法だったが、今度は集団戦で強力な魔法だ。強力な風の刃が多数発生し、俺を中心に周囲に広がっていく。
とびかかって来ていた魔族に襲い掛かり、吹き飛ばしながらいくつもの切り傷を作る。
「ぐはっ!」
命を奪い取るまでは至らないが、ひるませるには十分。俺は魔族へ一息で近づき、剣を横なぎに振るった。
魔族たちの陣形は崩れている。俺は再び魔族の一人の背後に転移し、剣を突き刺す。
俺はまだ残っている魔族たちに見せつけるように、思い切り剣を抜く。勢いよく血しぶきが吹き出し、力なくその魔族は倒れた。
そのまま俺は残り少なくなってきた魔族たちを黙ったまま睨みつける。
「ひ、ひぃ!」
弱腰になった魔族は背を向けて逃げ出す。一人逃げ出せば、蜘蛛の子を散らすように次々と逃げ始める。
俺はそれを追いかけることはしない。ほんの少し待った後、俺は父さんと母さんに走り寄った。
八十八話いかがだったでしょうか。ようやく戦争も終わりが見えてきました。レーザー兵器ってずっとSFのロマン武器だと思っていたのですが、現実でもすでに実用化されているらしいです。
以前から伝えていた通り、GW中は帰省等の予定がありますので次回の更新は少し遅くなります。次回更新は来週5/6(金)の予定です。読んでいただけたら嬉しいです。




