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実験好き男子の魔法研究  作者: 日野萬田リン
第五章:戦争編
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第八十七話:奇跡、そして数刻前

前回のあらすじ:ジンのもとに駆け付けたクレアだったが、なす術なく窮地に。覚悟を決めた二人の前に現れたのは……。


第八十七話です。久しぶりのアイン視点です。


<アイン視点>


「ありがとうございます、学院長。こんな大きな魔石をいただけるなんて。」


「ほっほっほ。君の研究は今や国にとっての重大事といっても過言ではないからの。これくらいお安い御用じゃ。」


学院長から受け取ったのは手のひら大の魔石。これは非常に貴重なものだ。というのも、一般的な魔道具に用いられている魔石は小粒で小指の先程の大きさしかない。

大型の魔物の討伐が行われない限り手に入らないもので、そのような魔物はそうそう出現しないので、滅多にお目にかかれないのだ。


そんな魔石が手に入ったのは、その"たまたま"が起こったからだ。


大型の魔物が出現し、冒険者達でそれの討伐を行った。それによって入手した魔石を学院長は購入してくれたらしい。


これほどの魔石があれば、遠距離へ転移するための魔法陣だって動かすことが可能かもしれない。


現在、俺は転移魔法陣についての研究に従事していた。王都で解析した魔法陣を元に、すでにかなり形にはなっているがまだまだやることは山積みだ。


一つは安全面。今まで何度も転移魔法を使ってきた身としては今更ではあるが、改めて考えるとよくこんな危険な魔法を使っていたものである。例えば転移先に何か物体があった場合。いろいろ実験してみた結果、転移先の物体を押し込むようにして転移してしまうのだ。

つまり、転移先の座標を間違えて地面の中に転移してしまおうものなら、そのまま生き埋めにされてしまうということだ。ちなみに人や動物などと転移の座標が重なっている場合については実験していない。今までの実験からするに悲惨なことになる可能性が高いからだ。


二つ目は容量。どの程度の大きさまで転移できるのか。あるいは複数人で転移することはできるのか。これらについては簡単で、容量に応じて必要魔力量が増えるが転移はできるという結論に至った。

しかし、実験できたのは近距離転移ばかりで、遠距離になった時どの程度必要魔力が増えるかはいまだ分かっていない。


他にもいろいろ課題があるが、とりあえずはこんなところだろう。特に遠距離転移については、要求される魔力量が莫大であること、そして一度転移した後に戻ってくるまで時間がかかるなどの理由で実験が滞っていた。


このサイズの魔石は非常に貴重なので、できる実験は限られているがどうしたものか。


「そういえば、『魔道具店ルネ』の店主が君を呼んでおったぞ。」


「分かりました。今から向かいます。」


俺と学院長はそのまま別れ、魔道具店ルネを目指した。





「やあ少年。待っていたよ。」


魔道具店ルネを訪れるとすぐに、工房の方からルミーネさんが生き生きとした顔をしてやってきた。


「こんにちは、ルミーネさん。今日はどれ(・・)の話でしょうか?」


俺とルミーネさんが共同で進めている研究は多い。それゆえに、こうやって話をするにもどの研究の話なのか確認しないといけないのだ。

以前その確認を怠ったために、きれいな話のすれ違いが起きたことを思い出す。しかも、その時は二人とも睡眠不足だったためそのまま話を進めてしまい、後日混乱することになった。なかなかに苦い思い出だ。


「今日は進捗の報告がメインだな。君があれやこれやと魔道具のアイデアを出すから、工場の空きがあまりなくなっていたのは覚えているだろう?」


通信機に魔法銃、その他諸々の魔道具。アイデアや試作品を多く出した結果、魔道具を製作する手が足りなくなってしまい、魔道具工場に委託することになったのだ。

だが、それでも足りない。魔道具工場だって、従来の生産ラインというものがあるのだ。よほど余裕のある工場でなければ、追加で俺たちが提案した魔道具を生産などしてくれないはずだった。


しかし、今までの活躍を国王が評価してくれたようで、いくつかの工場の生産ラインを貸していただけることになったのだ。

それでも数が足りないのは事実なので、生産する魔道具に優先順位をつける。


その詳しい話し合いをしようというのだ。


「まあ、通信機は最優先ですよね。」


「だな。」


情勢を鑑みると、王国中に最優先に普及すべき魔道具は通信機だろう。戦争が近い今、情報を瞬時に伝達することができる通信機は何よりも大事だ。もしかしたら情報がまだ来ていないだけで、すでに戦争は始まっているのかもしれないのだから。


「通信機の生産ロットはある程度確保しているが、送信機に受信機など用いる魔法陣は結構複雑なのが問題だ。通信機を設置する座標を固定するという案で簡略化したとはいえ、生産スピードはかなりゆっくりになるだろう。」


「南側に重点的に手配するとして、足りますかね?」


「ギリギリ足りるかどうかというところか。それと設置場所の連絡を各領主に送っておこう。」


南側とはもちろん帝国と接しているあたりを差す。具体的には俺の故郷、ヴァレンタイン領のことだ。もちろん南側にはヴァレンタイン領だけではないので、多くの領地に配る必要がある。領主に無断でそのような事は出来ないので、連絡は必須だ。

俺が持っているコネは自分で言うのも何だがかなり特殊なので、何気に顔が広いルミーネさんは本当に頼りになる。


「それと、上からの命令で魔法銃を主にして生産してほしいとのことだ。上からしても新しい武器が欲しいってことだな。」


これも想定内。同じく戦争においては魔法銃は非常に強力な切り札となりうるからだ。俺は何も言わずうなずく。


「他の魔道具に関しては基本的には保留だとさ。全部が全部うまくいくわけではないな。」


「仕方ありませんよ。事情が事情ですし。」


他にもいくつか魔道具を提案したが、戦争に直結するようなものではないためこの結論も致し方ない。戦争が全部終わってからゆっくりと広げていけば良い。


そこで一度話が止まる。俺は首をかしげる。


この内容だったら人伝でも、手紙でも問題ないはずだ。わざわざ呼んだということは別に用があるはず。


「あの、他に何かあるんじゃないんですか?」


「ん?ああ、そうだった。忘れていた。」


ルミーネさんはいったん店の奥に入っていき、すぐにこちらに戻ってくる。


「これを渡しておきたくてな。以前作った試作品の改良版だ。とはいっても、魔力が扱える人用に小型化したものだから誰にでも使えるものではないがな。」


ルミーネさんが俺に手渡したのは試作品より小型化された魔法銃だ。


俺は手に取って少し魔法銃をいじくる。どうやら要望通りに作ってもらえたようだ。俺は確認して笑みを浮かべる。


魔法銃は言ってしまえば、「シリンダーに魔石をはめて魔法を放つ銃」だ。シリンダー式にすることで魔石の換装を簡単にして武器としての価値を高めた。


だが、俺のような魔力を扱える人間にとってはその仕組み自体が不要。だから、俺は別方向の改造を提案した。それは複数の魔法を扱えるよう、魔法陣を"物理的に"切り替える魔法銃だ。現代の銃でいう安全装置の部分で、魔法陣を切り替えて複数の魔法をより簡単に発動できるようにしたのだ。


ちなみにこの両方の構造を取り入れた魔法銃はまだ完成していない。いずれは作りたいとは思っているのだが。


「良い感じです。これはいただいていきますね。ありがとうございます。」


「ああ。少年といると脳が刺激される感覚がするよ。今なら次々と魔道具のアイデアが浮かんできそうだ。」


話はそこまでにして俺は魔道具店ルネを出る。さて、次はどうしたものか。一通りの用事も終わったし、部屋に戻るとしようか。




八十七話いかがだったでしょうか。ほんとはもう少し書きたかったのですが、想像以上に長くなってしまっていたので泣く泣くここまでです。


次回更新は4/29(金)になります。読んでいただけたら嬉しいです。


お知らせ:GW中は帰省する予定なので、更新が滞ると思われます。細かい予定についてはまたお知らせします。

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