第八十五話:絶望、そして抵抗
前回のあらすじ:味方を巻き込むほどの空爆によって戦場は阿鼻叫喚に。
第八十五話です。今話も大分暗い話になってしまいました。
注意:戦争などの悲惨な情景の表現があります。苦手な方はご注意ください。
<ヨーダ=ヴァレンタイン視点>
焼け野原となってしまった平原を走る。いや、平原だったというべきかもしれない。多くの爆弾によって土はえぐれてしまい、かつての景色とは全く異なるものになっていた。
帝国軍、王国軍関係なく多くの人が倒れている。ピクリとも動かない。すでにこと切れているようだ。
そんな中、かすかなうめき声が聞こえて足を止める。
(どこからだ?右か?あの穴あたりか?)
かすかなうめき声を頼りにまだ息のある人を探す。ようやく見つけたのは、ヴァレンタイン領の騎士団の先輩だった。つい最近は言ってきた俺にも笑ってご飯をおごってくれた優しい先輩だ。
「大丈夫ですか!先輩!」
「うっ……。」
まだかすかに意識はあるが、次意識を失えば戻ってくることはきっとないだろう。
「先輩!しっかりしてください!」
「ヨーダ……?これを……。」
先輩はゆっくりと懐を探る。たったそれだけの動きでも、もうボロボロの体には堪えるのだろう。時折うめき声をあげながら、ようやく取り出したのは一枚の写真だった。
そこには元気に笑う先輩の姿と、並んでおしとやかに笑う女性の姿が写されていた。
「あいつに……頼む……。」
「先輩?先輩!目を開けてください!今から治癒院まで連れていきますから!」
俺に写真を渡した先輩は急に力を失ったかのように腕を地面に落とした。
先輩の渡してくれた写真を丁寧に懐に入れて、歯を食いしばる。
(どうしてこんなことに。一体あれは何だったんだ?俺はどうしたらいいんだ。)
俺はふらふらと立ち上がり、ゆっくりと歩きだす。もともとあったヴァレンタイン領ののどかな光景は見る影もない。
おぼつかない足取りで歩く俺は再びまだ息のある人間と出会った。その人間は先輩よりは軽傷なようで、這うようにして俺のもとに縋りついてきた。
「頼む……。助けてくれ……。」
すぐに助けるべきだと考えたが、その思考は結果的に鈍ることになった。なぜなら、その男は見ない顔、見ない服装をしていた。つまり帝国軍の人間だったのである。
こいつらは俺たちの故郷をめちゃくちゃにし、大勢の仲間を殺した張本人だ。すぐにでも剣を振るいたい思いが沸き上がる。
「頼む……。」
しかし、この男の痛ましい姿を見て俺は幾分か冷静になった。
なぜ帝国軍もこんな姿になっているのか。もしかしたらあの訳の分からない攻撃は前線に伝えられてなかったのではないか。そうでなければ、帝国軍が致命的に崩壊することはなかったはず。
「ちくしょう!」
俺は自分の頬をたたく。たとえ敵であったとしても、あんな攻撃の被害者であることだけは同じ。それに、俺が今助けなければ遠からずこの男も死んでしまうだろう。人が死ぬところなんて見たくない。
男に肩を貸して、担ぐようにして立ち上がらせる。
「今から治癒院に連れていく!それまで死ぬな!」
俺は覚悟を決める。
甘すぎると言われるだろうか。なぜ敵を助けたと罵られるだろうか。
それでも構わない。
俺はこれほどまでに悲惨な状況を見たことがない。俺はただ、これ以上人が死ぬのなんて見たくないだけだ。
それから数人の生存者を何とか見つけることができた。だが、それに手いっぱいだったからだろうか。一人戦場に向かって駆けていく姿に気が付かなかった。
<ジン=ヴァレンタイン視点>
向かってくる魔法を切り捨てる。そして、右足で地面を強くけり一息に近づき、切り捨てる。
「なんでこんなボロボロの奴にてこずってやがる!さっさと始末しろ!……っな!?」
大層なことを言っているそいつに近づき一閃。
背後からその鋭い爪を振るわれる。かわすことはできず、俺は背中でその爪を受ける。
「どうだ!この野郎!」
態勢が崩れ重力に従って体が倒れそうになるのを、剣を地面に突き立てることでギリギリで支える。
既に血まみれになった顔を残った魔族の方に向ける。
「ひぃ!」
魔族から悲鳴が上がる。魔族の目には俺はどのように見えているだろうか。何度やられても倒れないゾンビのように見えてるだろうか、それとも魔族を次々と斬り殺す鬼のように見えているだろうか。
「がはっ!」
口から血が吐き出される。もう体はボロボロで、限界などとうの昔に来ている。それでも、故郷のため、家族のために戦わなくてはならない理由がある。
「ひるむな、全員!一斉に放て!」
多くの魔法が迫りくる。だが、すべての魔法が同時というわけではない。そのわずかな時間の隙間を縫って魔法を切り落としていく。
「ぐっ……。」
体に激痛が走る。すでに限界を迎えた体を気力だけで動かしているのだ。わずかに動きが鈍ったところに魔法が降り注ぐ。魔法の爆風に吹き飛ばされ俺は地面を転がっていく。
何とか頭を上げて、魔族の方を睨みつける。しかし、もう体が動かない。
「手間取らせやがって。くそっ、残りこんだけしかいねえのか。」
魔族が歩み寄ってくる。残っている魔族も疲弊しているようだ。それもそうだろう。たった一人の人間にここまでやられるとは思っていなかったはずだ。
「お前の言う通りだったわ。死にかけの獣ってのは恐ろしいもんだ。だが、もう立つ気力もないんだろう。……ん?」
男が手のひらをこちらに向け、とどめの魔法を放とうとした瞬間、どこからか大きな火球が魔族へ向かって飛んできた。
だが、圧倒的に威力が足りていないのか、何事もなかったのように魔族は姿勢を崩さない。
「何者だ?お前。」
ろくに体を動かせないため、魔法を飛ばした人の姿を見ることはできない。だが、こちらに向かってくる足音は信じたくはないが聞きなれたものだった。
その足音は徐々に近づいて、倒れた俺の傍で止まる。そこまで来てようやく、姿を見ることができた。
できることなら間違っていて欲しかった。こんなところに彼女がいるはずがないと思いたかった。
俺の視線の先には愛する妻クレアが立っていたのだった。
八十五話いかがだったでしょうか。早く、早く助けを……。
次回更新は4/22(金)になります。読んでいただけたら嬉しいです。




