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実験好き男子の魔法研究  作者: 日野萬田リン
第五章:戦争編
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第八十四話:開戦、そして絶望

前回のあらすじ:ついに戦争が始まる。ジン達に魔の手が迫る。


第八十四話です。戦場に出てる人の心情をうまく表現することができなかったので、三人称視点です。


注意:戦争などの悲惨な情景の表現があります。苦手な方はご注意ください。


それ(・・)にいち早く気が付いたのはジン=ヴァレンタインだった。他にその場の誰も気が付いていない。彼は思わず一歩引いて、剣を振るう手を止めてしまう。


「あれは……なんだ……?」


空を飛んでこちらに向かってくる何か。それが近づいてくるにつれて、ちらほらと気づく人が出てくる。

ここは戦場のはずなのに、それに目が奪われ戦いの音が止まる。


対照的に、それが放つ大きな音だけが周囲に響き始める。


正体不明のそれから何かが落ちる。パラパラと落ちてくるそれを誰もが眺めていた。


彼も例外ではない。しかし、今までの戦いの経験、戦場における不測の事態に対する警戒心が彼を突き動かした。


「全員、あれから離れろ!走れ!」


彼の言葉にハッと正気に戻った兵士たちは慌てて走り出した。兵士たちも彼自身も何が起こるのか予想できていない。何なら帝国軍の兵士や魔族すら呆けてしまっている。


それが地面に落ちた瞬間、空を飛んでいる何かが放つ音とは比べ物にならないくらいの轟音が響き渡る。大きな爆発が次々と起こり、地面をえぐる。

それだけなら良かったのだが、その牙は少し逃げ遅れた者たちに容赦なく剝かれていく。


王国軍も帝国軍も関係ない。その場にいるすべての人、魔族を巻き込んだその攻撃はあまりに苛烈なものだった。


爆発音はまだ鳴りやまない。戦場に響き渡る悲痛な叫びでさえ、かき消されてしまう。





時間にすればほんの一瞬、しかしその場にいるすべての人にとって永遠と思えた時間。ようやく、爆音が鳴りやみ静寂が訪れる。


しかし、それは完全な静寂ではない。先ほどまで轟音が響いていたためにそう思われるだけ。今その戦場に残るかすかな音は、兵士たちのかすかなうめき声と悲痛な叫び声ばかりだった。


「父さん!大丈夫!?父さん!」


そんな焦土と化した戦場の一角、一人の青年の叫びが響き渡る。ヨーダ=ヴァレンタインだ。彼の傍では、倒れこむジン=ヴァレンタインの姿があった。


ジンは目を覚まし、苦しそうなうめき声をあげながらゆっくりと立ち上がろうとする。何とか自身の剣を支えにして、ようやく立ち上がることができた。


「ヨーダか……。無事か?」


「俺は大丈夫だけど……、父さんは……。」


ヨーダの言葉が詰まる。見ればわかるほどにジンは重症だったからだ。左半身に大きなやけどを負っているのが明らかだった。


ジン一人であればこれほどまでの重傷を負うことはなかっただろう。ジンが傷を負った理由は一つ。息子であるヨーダを爆発からかばったからだ。


それほどまでの怪我にも関わらず、ジンはヨーダに向かってほほ笑む。顔の左側にも大きなやけどを負っていたため、きれいな笑顔とは言えないが、その笑顔はとてもやさしいものだった。


「はっ、特別扱いはしないつもりだったのにな。思わず体が動いちまった。」


「父さん!一回引いて治療を受けよう!」


ヨーダはジンの体を支え、下がろうとする。しかし、現実は非情であった。


「うひゃー、これはひでえな。それに、ジン=ヴァレンタインもボロボロじゃねえか。ようやく強いやつと戦えると思ったのによ。」


一人の魔族の男が立っていた。それに気づいたヨーダは父であるジンをかばうように前に立ち、剣を構える。


焦土と化した戦場には、先ほどまでの戦いに参加していなかった魔族たちが皇帝の命令でこちら側に攻め込んできていた。





「あの男は本当にえげつないことを考えるよな。敵味方関係なくぶっ放すとか、俺達魔族でもためらうぞ。」


魔族の男は余裕の笑みを浮かべる。それに対してヨーダはごくりと息をのむ。目の前の魔族が先ほどまで戦っていた帝国軍の兵士や魔族とは比べ物にならないと気づいたからである。


そんな実力の魔族が複数人。はっきり言って絶望的だ。もうすでにここにいる人たちは、先ほどの爆撃により戦意がそがれてしまっている。まともに戦える人間は両軍にもういないだろう。


……ただ一人を除いて。


ヨーダの肩に大きな手が載せられる。慌ててヨーダは振り向く。そこにはジンが、鬼のような形相で笑っていた。


ヨーダは信じられなかった。彼は一歩間違えれば死んでいてもおかしくないほどの怪我をしている。にもかかわらず彼から感じるその闘志は先ほどまでと変わらない、いやより一層増したものになっていた。


「ヨーダ、お前は無事な兵士たちを連れて下がっていろ。こいつら以外に戦える奴は帝国側にもいないようだ。」


「でも……、父さん……。」


ヨーダを自陣に追い戻すように、肩を押す。その勢いのままジンはふらつきながら前に出た。


「よお、魔族の糞野郎ども。強いやつと戦いたいとかぬかしてたな。お望み通り、俺が相手してやるよ。」


ジンの言葉に目の前の魔族の男は笑う。


「ははは。死にぞこないが何をほざいてやがる。今のお前なんざ相手にならねえよ。」


「知ってるか?」


ジンは笑いながら、魔族の男を睨みつける。ジンから放たれる並々ならぬ殺気に思わず魔族の男は一歩たじろいた。


「死にかけの獣ほど恐ろしいものはない。」


ジンは剣を右手で持ち、まっすぐと魔族の男に剣先を向ける。すでに左腕は動かすことはできないし、足も引きずるほどには重症。にもかかわらず、魔族たちはジンから目が離せなかった。まるで、目を離したらやられてしまうと感じているかのようだ。


「ヨーダ、行け。」


「でも……。」


「行け!」


ヨーダは歯を食いしばり、自陣の方へ走り出した。


八十四話いかがだったでしょうか。私は戦争や空爆の経験などもちろんなく、資料とかでしか知らないのできちんと表現できているか分かりませんが、書いていて胸が締め付けられる思いでした。やはり戦争なんて嫌なものです。


次回更新は4/20(水)になります。読んでいただけたら嬉しいです。

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