第八十二話:帰郷、そして息子
前回のあらすじ:ヨーダとクレアはヴァレンタイン領の実家に帰ることに。そしてアインはクレアにお守りと称したある魔道具を渡す。
第八十二話です。主人公視点はありません。
<ジン=ヴァレンタイン視点>
「食料の確保についてですが、いくつかの領からの協力が得られました。しばらくは問題ないと思われます。それより、人材不足の方が問題です。戦争が長期化すれば、帝国にとってもマイナスなことが多いと推測されるのですが……。」
俺は簡素な椅子に座り、報告を受ける。帝国とは現在冷戦状態にある。国境沿いに見張りを多く配置しているため、人材が足りなくなるのは仕方ない。他地域からの援軍が得られればもう少しましになるのだろうが、本格的な戦争に至っていない以上なかなか渋られてしまっている。
とはいえ、食料だけでも送ってもらえるのはこちらにとって非常に助かっているので文句も言いにくい。世知辛い世の中だ。
「人員の配置を見直しておく。全員が少しでも休憩できるように、というのは難しいかもしれないが、もう少しましになるように努力しよう。」
「よろしくお願いします。」
報告に来た若い兵士は一礼し、部屋を出ていく。部屋に誰もいなくなったのを確認して、背もたれに寄り掛かる。天を仰ぎ右手で顔を覆い、その後、ため息をつく。
(帝国の狙いがはっきりしない。兵を出すかと思えば、すぐさま引いていく。俺たちの疲弊を狙っているのか……。それとも時間稼ぎか?何かを待っている?)
「やっぱり俺は考えるより、前で戦ってる方が性に合うな。」
大きく息を吸って、ゆっくりと息を吐きだす。いつも行っている、俺なりの集中方法だ。そのまま目の前の書類を読み始めた。
「……っは!」
バッと飛び起きる。しまった、いつの間にか眠ってしまっていたらしい。俺は記憶をさかのぼる。
確か書類を読んで、兵士の配置を見直して、それを伝えて……。駄目だ、その辺りから記憶がない。
ふと気づく。机に突っ伏してしまっていた俺に誰かが毛布を掛けてくれたらしい。俺は肩にかかった毛布を手に取る。
誰がしてくれたか分からないが、どうせならたたき起こしてほしかった。やらなくてはならないことが多い。まだ、ゆっくり休んでいる暇はないのだ。
「あら、目が覚めた?何か飲み物でも持って来ましょうか?」
「ああ、すまない。じゃあ水を……、ってクレア!?」
その姿に俺は目を丸くする。今いるのは屋敷ではなく、国境に近い前線基地の一室だ。王都に行っていたクレアがなぜこんなところに?
確かに日程的にそろそろ帰ってくるとは思っていたが、屋敷にいるように伝えておいたはずなのだが。
「私がいなかったら無茶ばっかりするんだから。聞いたわよ。ここ数日はろくに寝てないんですってね。」
俺は目をそらす。確かに最近はしっかりと寝ていない。椅子の上でせいぜい数時間仮眠をとる程度だった。
「本当に、あなたたちはみんな無茶するんだから。」
あなたたちだって?
俺が疑問を持つとすぐに、扉から一人の男が入ってきた。成長して顔つきが随分と変わっているが、間違いない長男のヨーダだ。
「ただいま、父さん。久しぶり。」
「ヨーダ、お前どうして?王都の騎士団に入ったはずだろう?」
久しぶりに会えたのは嬉しいが、俺の頭はすっかり混乱していた。左手で頭を抱え、必死に状況を整理しようとする。
「騎士団を辞めて帰ってきたんだ。俺だって馬鹿じゃない。今のヴァレンタイン領の状況くらいは理解してるつもりだ。だから、父さんの助けになろうと思って帰ってきたんだ。」
ヨーダの言葉に俺はため息をつく。親として、こんな危険なところに愛する息子を置いておきたくない。
「あのな、今は帝国と戦争をしているんだ。命の危険だってある。それをきちんと理解しているのか?」
「もちろん。」
ヨーダの返答はたった一言。だが、彼の口調、顔つき、ふるまい、すべてが彼の覚悟を表していた。
「分かった。だったらもう何も言わない。特別扱いももちろんしないから、覚悟しておけよ。」
ヨーダはしっかりと頷く。随分と成長したものだ。立派な男になってくれて、親として嬉しい限りだ。
何も言わずにクレアがコップ一杯の水を机に置いてくれ、俺の方をちらりと見る。その目はまるで、「止められるなら私が止めてましたよ。」とでも言っているようだ。
その水を一気に呷り、俺は椅子から立ち上がる。
「それじゃ、どれだけ成長したか見せてもらおうか。表に出て、模擬戦の準備だ。」
「あなた?」
クレアの目つきが鋭いものに変わる。まずい、この目は「今日はもう休みなさい」と言っている。目は口ほどにものを言うという言葉があるが、まさにその通りだ。
「あ、明日な。今日は休んで体調を整えろ。俺も今日はもう休むから。」
ヨーダは俺とクレアの言葉少ななやり取りに、笑いをこらえているようだ。
<三人称視点>
「皇帝、準備は滞りなく進んでおります。一週間後には一斉攻撃が可能かと。」
ここは王国と帝国の国境に近い場所。帝国側の軍事基地。そこを訪れた皇帝は目の前の光景に満足していた。
そこには本来この世界に存在していなかったはずの鉄の塊が数機。
「まだ重量の問題があるが、今回の戦争なら問題ないだろう。ふふふ、その時が楽しみだ。」
皇帝は静かに笑う。
(ヴァレンタイン領には優秀な兵士が多い。しかし、これがあれば奴らは手も足も出ないだろう。過剰戦力すぎたか、まあ良いだろう。)
皇帝の笑い声は夜の闇に消えていった。
八十二話いかがだったでしょうか。次回から本格的に戦争開始です。果たしてジン達の運命やいかに。
次回更新は4/15(金)になります。読んでいただけたら嬉しいです。




