第八十一話:食事、そして帰郷
前回のあらすじ:アイヴィ、エスカと懐かしの日本食うどんを食べることに。
第八十一話です。今回は回想シーンがメインです。
「変わった食感でしたけど、美味しかったですわね。東国の料理を食べられるなんて貴重な経験ができました。」
うどんを食べ終えた俺たちはそのまま雑談をしていた。さっさと店を出た方が良いかとも思ったが、客が少ないということもあり店主がお茶を出してくれたのでそのまま話すことにしたのだ。
「他国の料理なんてなかなか食べられるものではないですからね。それも東国なんて、王国からとても遠い国の料理ですから。」
俺にとっては十数年ぶりに食べる和食ということで、非常に満足だった。個人的にでもまた来たいと思えるようなお店だ。
二人の美味しかったという感想に俺は首を縦に振る。そんな俺の様子を見てアイヴィは笑顔を見せる。
「アイン君も満足そうで良かったです。でも意外でした。アイン君は食にあまり関心がない方だと思ってたので。」
「そんなことないよ。俺は割と食には関心がある方だと思うけど。」
前世での食文化は今の世界より高水準なものだった。その記憶があるからこそ、食への関心は人一倍あるはず。
「でも、今日だって私たちが声をかけなかったらお昼ご飯抜いてたんじゃないですか?」
「あー。」
これに関してはアイヴィの言う通りだ。実験や研究に夢中になって食事を抜くことは多い。思い返してみれば、最近はそんな感じで食事や睡眠を削ることが多くなっている気がする。
「それなのに訓練は欠かさず行うし、実験もし続けるんですから。そんなんじゃいずれ倒れちゃいますよ。」
「アイヴィさんの言う通りですね。体を大事にしてください。」
エスカがキリっとした目で俺の方を見る。俺は何も言うことができず、完全にお手上げ状態だ。エスカの言葉はまだ止まらない。
「確かにアイン君の焦る気持ちだって分かります。けど、その前に倒れてしまったら元も子もないんです。時間的な余裕はないのかもしれませんが、もう少し精神的な余裕は持ってくださいね。」
アイヴィやエスカの心配する気持ちも分かる。でも。
「やっぱり家族が心配だからね。何とか間に合わせたいと思っちゃうんだよ。」
自分の故郷が戦場になる。戦争に家族が巻き込まれる。もしかしたら死んでしまうかもしれない。
そんなことを考えたら止まることはできないのだ。
今度はエスカの方がお手上げとばかりにため息をつく。
「まあ、そんなことだろうと思いましたわ。いざという時はアイヴィさんと私で全力で止めますので覚悟しておいてください。」
アイヴィはその通りといった感じで、大きくうなずく。
「お手柔らかに頼むよ。」
本当に二人がいてくれるだけで心強い。俺は改めて二人がいてくれることに感謝した。
「そういえば、お兄さんも実家に戻られたんですよね?」
唐突にアイヴィが話し始めた。もちろん"お兄さん"はアイヴィの兄デザルグの事ではない。彼女の言う"お兄さん"とは俺の兄、ヨーダ兄さんのことだ。
彼女の言葉に数か月前、王都でヨーダ兄さんと母さんの三人で話したことを思い出す。
「そういえば俺、実家に帰ることにしたから。」
ヨーダ兄さんの言葉に俺は口に含んだお茶を吹き出しそうになった。何とか飲み込んだが、機関に入ったのかゴホゴホと咳をしてしまう。
「え?ヨーダ兄さん、実家に帰るの?王都の騎士団はどうするの?」
次々と思い浮かぶ疑問を兄さんにぶつけていく。とはいっても、理由自体は想像がついている。ただ疑問を飛ばしているのは自分の混乱を少しでも落ち着けたいからである。
「もう騎士団には退職願を出したよ。時勢が時勢だからな。上司も何も言わずに受理してくれたさ。友人や仲間に会えなくなるのは少し寂しいけど、もう決めたんだ。」
「本当に……。ヨーダは私にも何も相談もなく、『母さんと一緒に実家に帰るよ』なんて言い出すものだから、私も驚いたわ。」
母さんにも相談しなかったのか。……、それがヨーダ兄さんにとっての覚悟の表れなのかもしれない。
「故郷が戦場になるかもしれないってなって、俺にできることを考えてみたんだよ。王都の騎士団に残って国を守るのも立派な仕事だと思うけど、俺は最前線で一人でも多くの人を助けたいんだ。幸い、俺はそれなりに戦えるくらいにはなったと思うしな。」
ヨーダ兄さんは騎士学校次席の実力だし、王都の騎士団に入ったことでさらに力を伸ばしているだろう。たとえ今すぐ戦場に立ったとしても、一線級の活躍をすることだろう。
「本当、こういうところはお父さんに似たのね。お父さんも一度決めたら引かずに戦い続けるような性格だもの。親子って感じがするわ。」
俺は父さんの姿を思い浮かべる。確かに兄弟で一番父さんに似ているのはヨーダ兄さんだろう。
「ラットは母さんに似てるよな。アインは……、誰に似たんだろうな?」
「ははは。」
俺は乾いた笑いを浮かべる。似てないのは仕方ないだろう。生まれたときから前世の記憶を持っていたのだから。
「あら、そんなことないわよ。アインは私にもお父さんにも似ているわ。よく考えているように見えて、どこか抜けているところがあるのは私にそっくり。時に突拍子もない行動をするけど、実はそれに意味があるようなところはお父さんにそっくりよ。」
「父さんってそんなに考えてたの!?」
ヨーダ兄さんが驚愕の声を上げる。実は俺も同じところで疑問を覚えた。父さんの突拍子のない行動に根拠があったとは。いや、その前に俺ってそんなに抜けてるところがあるのだろうか?
だが、母さんの言葉を受けた俺は非常に嬉しかった。前世の記憶を持って生まれた俺は家族から一歩離れた気持ちになってしまっていたのかもしれない。
「そうだ、母さんにこれを。」
そういって俺はネックレスを手渡す。宝石部分には魔法陣が書かれた魔石をはめ込んだオリジナルのものだ。
「これは?」
「まだ未完成なんだけど、試作の魔道具だよ。お守りだと思って持ってて。いつか役に立つかもしれないから。」
「ふふ、息子からこんなプレゼントをもらえるなんて嬉しいわ。ありがとうね、アイン。」
しばらく家族三人での団欒を楽しむことができた。そして、俺はドレッド領へ、ヨーダ兄さんと母さんはヴァレンタイン領へと出発することになったのだった。
八十一話いかがだったでしょうか。アインの渡した魔道具の効果とは……?というか、未完成のものを渡すのってどうなのでしょうか。自分でもはなはだ疑問です。
ちょっと土日に予定があるので、次回更新は4/13(水)になります。読んでいただけたら嬉しいです。




