第八十話:通信機、そして食事
前回のあらすじ:通信機の実験は成功に終わるが、アイヴィとエスカに無理矢理外に連れ出されてしまった。
第八十話です。皆さんは好きな食べ物って何ですか?
<アイン視点>
通信機のテストが終わり、俺はアイヴィ、エスカと一緒に街に出かけることにした。というより、二人に無理矢理連れ出されたといった方が正しいだろうか。
きちんと食事はとっているし、睡眠だって最低限はとっている。とはいえ、目に隈ができていることに自分で気づけないようでは、やはり疲れがたまっているのかもしれない。
「アイン君はお昼まだ食べてないんですよね。近くに新しく料理屋さんが出来たんです!興味ありますし、そこに行ってみませんか?」
「ああ、噂になってるあのお店ですね。私も気になりますわ。友人の話だと、見たことない珍しい不思議な料理を出すとか。」
そういえば昼食をまだ食べていなかったことを思い出す。意識すると急激に空腹感が襲ってきた。その新しく出来た料理屋とやらに行ってみよう。……、少しメニューの感想を聞いて恐ろしく感じるが。
他愛もない話をしながら、二人と並んで道を歩く。確かに最近は実験や訓練、そして戦争の事ばかり考えていてこういう息抜きらしい息抜きはしていなかった。
二人の会話に相槌を打つ。そして、気が付いたら二人はちょっとしたことでお互いに喧嘩腰になって口論を始める。俺は苦笑いをしながら二人の口論に耳を傾ける。
少し前だったら何も感じなかったこの日常も、戦争が近くなってくると非常にありがたく感じる。まだ戦争が始まってすらいないのにこれでは、本格的に戦争がはじまるとおそらく余裕はなくなってしまうだろう。やはり戦争なんてない方が良いと改めて思った。
一時間程度だろうか。ゆっくり話しながら歩いてようやく料理屋にたどり着いた。昼のピークを過ぎているからか、店の周りは閑散としているようだった。
「ここですわ。お腹も空きましたし、早く入りましょう。」
俺たちは扉を開ける。内装を見て俺は驚くことになった。外観は普通だったが、内装は前世でいう"和風"をそこはかとなく感じたからだ。
「へー、珍しい内装ですね。この国では見ない感じですね?」
「ですわね。店主がこの国の人間ではないとは聞きましたが……。」
俺が内装に驚きを隠せないでいると、のれんが垂れた奥の部屋から店主らしき人が出てきた。
「いらっしゃい。三人ですね、お好きな席をどうぞ。」
俺たちは外の景色が見える窓の傍に座る。すぐに、店主らしき人が一枚の紙を渡してくる。どうやらメニュー表のようだ。
「うーん、聞いたことないものばかりですね。一応説明がありますけど、想像しにくいですね……。」
「これなんかは分かります!スープパスタみたいなものってことですよね?ただ、パスタが太いって言うのが気になります。マカロニみたいな感じでしょうか?」
説明書きを見て確信する。これは明らかに"うどん"だ。名前はまるで違うものだが、前世の日本食の代表格の一つ"うどん"で間違いないだろう。
俺はメニューを食い入るように見る。名前は分からないものばかりだが、説明文を見るに漬物や味噌汁だったりと和食らしいメニューが並んでいる。
「うーん、分からないです。すみません、おすすめは何かありますか?」
アイヴィが店のおすすめを聞いている。メニューの一番上にあるうどんがおすすめらしい。アイヴィとエスカはおすすめに従って、肉うどんを頼むようだ。俺は油揚げの入ったうどん、すなわちきつねうどんを頼むことにした。
「メニューをじっと見てましたけど、アイン君はこれらの料理を知ってるんですか?」
「いや、珍しい料理ばかりだったからね。説明書きを集中して読んでただけだよ。」
見たことあるとは言えないので、そんな風に言ってごまかす。
「読んでも私は全然想像できなかったです……。」
「異国の料理なんてそんなものでしょう。私も全然でした。来た時のお楽しみとしましょう。」
待つこと数分、店主がお盆に三枚の丼をのせてやってきた。うどんの入った丼を一つずつ丁寧にテーブルにのせる。
「お待ちどう!麺が伸びる前に早めにお食べください。」
「あの、この二本の棒は何ですか?」
アイヴィは置かれている日本の棒を指さす。元日本人の俺は"箸"だと分かるが、知らなければ疑問に思うのも仕方ないだろう。
エスカも同じように疑問に思ったのか一本ずつ両手に持ってどうしたら良いのかと困惑している。
「それは自分の故郷でフォークやナイフみたいな扱いをするものなんです。片手で二本とももって、つまむようにして使うんです。慣れてないでしょうからフォークの方が食べやすいかもしれません。」
「あの、失礼ですが出身は……?」
「ああ、私は東国の出身なんです。ここの料理は全部そっちのものです。」
その言葉に俺たちは全員驚きの声を上げる。王国や帝国よりはるか東。魔物はびこる未開拓領をはさんだ国の出身とは。北の海を通る海路か、南を大きく回って帝国を通るしかここまで来ることはできない。
そして俺は東の大国が前世の日本と同じような文化をしていることにも驚いた。いつになるか分からないが、言ってみたいという気持ちが湧いてきた。
「さ、どうぞお食べください。こっちだと手に入らない材料があるのでかなりアレンジしています。一応、こっちの人の好みに合うようにしてますので気に入ってもらえると嬉しいです。」
「ありがとうございます、いただきます。」
俺は目の前のうどんに手を付ける。まずは少し皿の部分が深いスプーンでスープを飲む。出汁の味は前世の記憶のものと全然違う。この出汁はどちらかというとラーメンのスープに近い。昆布や鰹節は王都だと手に入れるのが困難だろうから、別のもので代用しているのだろう。
そして、俺は麺を静かにすする。麺はかなりコシがある本格的なものだ。前世で食べた記憶がよみがえり、懐かしい気持ちになる。
「お兄さんは箸の扱いが上手ですね。もしかして使ったことがありましたか?」
「え?」
しまった、無意識で箸を使ってしまっていた。この世界に生を受けて十年と少し経つが、前世の記憶に引きずられてしまっていた。
アイヴィとエスカも俺の方をじっと見ている。
「そうですね。妙に食べるのにも慣れていそうな手つき……。知らないとか言ってたのに、もしかしてもうここに来たことあったんですか!?」
「いえ、それにしては箸とやらの扱いが上手すぎる気が。これは一度や二度ではない……?」
二人はフォークで食べるのにも苦戦していたようだ。確かにこの麺はフォークで食べるにはツルツルしすぎている。俺の見よう見まねで箸を扱おうともするが、それも上手くいかないようだ。店主は二人の様子を見てほほえましい笑顔を見せていた。
八十話いかがだったでしょうか。今回はまだまだほのぼのって感じでした。ちなみにこんなにうどんが登場してるのは、自分の好きな食べ物がうどんだからです。和食の代表ってなんなんでしょう……?
次回更新は4/8(金)になります。読んでいただけたら嬉しいです。




