閑話:双子の聖女の誕生
前回のあらすじ:帝国の次の狙いはヴァレンタイン領かもしれない?
閑話です。双子の聖女リンとルンのお話です。
「リンは庭の掃除、ルンは教会内の掃除。ほら、さっさと動きな。」
「……分かりました。」
不服そうな顔をしながら私はほうきをもって庭に向かう。ルンも素直に教会内の掃除を始めたようだ。
物心ついたころから教会にいた私たちは、今となっては教会の小間使いのような扱いを受けている。自分がどんな家で生まれたのか、なぜ教会にいるのかも分からない。けれど、教会で最低限の命の保証を受けられる私たちはきっと幸運なのだろう。世の中にはもっと不幸な人だっているのだから。
かといって自分の現状に不満がないわけではない。教会の仕事をしつつ、光魔法の勉強をしているのだが、教会の仕事が多すぎて勉強の方に重きをおけないのだ。
この教会の仕事のほとんどを私とルンが行っている。おかげで、今ではろうそくの火を頼りに睡眠時間を削ってルンと一緒に勉強する羽目になっている。
教会の中ではルンはそれなりの評価を得ている。というのも、ルンの治癒魔法は非常に強力で教会の治癒の仕事にも大きく貢献しているからだ。
(一方で私と言えば……。)
ほうきで地面を掃きながら、ため息をつく。
私は治癒魔法がほとんど使うことができない。攻撃魔法ならルンより得意だが、普通に教会の仕事をしていて攻撃魔法の方が輝くことなどあまりないのだ。
そんな私の存在がルンの評価を下げてしまってもいる。ルンの実力ならもっと重要な仕事を任せてもらえるはずだが、ルン自身が私と同じであることを望んだのだ。
ルンの優しさだということは理解しているが、姉の立場としてはどうしてもみじめに思えてしまう。
そんな私たちにとっての転機は突然だった。
「え?ルンを聖女候補に?」
聖女とは教会にとって最重要といっても差し支えないほどの役職だ。教会にとって実務面での最高職。それは光魔法を学ぶ女子すべてが目標としている憧れ。
「ルンが治癒魔法を使っているところを視察に来ていたお偉いさんが見たらしいわね。その人がルンを推薦するって。ルンから聞いてないの?」
初耳だ。ルンはそんな素振りを私には一切見せなかった。私はすぐさま走り始めた。
調理場でご飯の準備をしていたルンは私の慌てた様子を見て手を止める。
「どうかしたの、お姉ちゃん?」
「どうかした、じゃない!」
私はルンの肩に手をのせて詰め寄る。
「なんで言わなかったの!?自分が聖女候補に選ばれたって。」
ルンは少しぽかんとした顔を浮かべるが、すぐにそのことかと納得したような表情に変わる。
「だってその場で断ったんだもん。言う必要もないかと思って。」
断った?どうして?
聖女になるというのは非常に名誉なことだ。それなのに相談もなく断る理由なんて……。そこまで考えて一つの答えに思い至る。
(また私が……、ルンの足を引っ張ったってこと?)
断る理由など一つしかない。姉である私の存在だ。妹と違って治癒魔法も使えない、光魔法の使い手として欠陥品の私。
何も口にすることができず、一歩ずつ後ずさる。しかし、後に続くルンの言葉は私の予想から全く外れたものであった。
「だって、私が攻撃系の光魔法を苦手なことお姉ちゃんは知ってるでしょ。候補には選ばれても、どうせなれないんだから断った方が向こうのためにもなるよ。」
確かにルンは攻撃魔法が苦手だ。しかし、私たちは基本的に独学で光魔法を学んでいる。つまり、ちゃんとした教えは治癒魔法以外では受けいていないのだ。
ちゃんとした教えがあればきっとルンの攻撃魔法だって強くなるだろう。私はそう思って反論しようとするが、ルンの方が先に言葉を紡ぐ。
「お姉ちゃんって攻撃系の光魔法は簡単に使えるでしょ。それ見て思ったの。多分私は攻撃魔法はいつまでも使えるようにはならないって。お姉ちゃんが治癒魔法苦手なのだってそう。私たちはきっと二人でしか一人前になれないんだと思う。」
「……。」
そんな風に考えたことはなかった。私が治癒魔法を使えないのは私の努力が足りないだけだと、ずっとそう思っていた。
言われてみれば、私とルンの得意分野や好きなことは真反対だ。私の得意なことはルンは苦手だし、ルンの得意なことは私が苦手だ。
「それでいいんじゃないかな。得意なこと、苦手なこと。きっと二人合わされば誰にも負けないような、本当の"一人前"になれると思う。それに私はお姉ちゃんと一緒に居られて嬉しいし。」
(本当にこの子は……。)
甘すぎる。一人で何とかしないといけない場面だって必ず来る。そんなときのために私たちは例え苦手なものでも克服しようとするのだ。
そんな甘い考えの妹だから、私がしっかりして妹を助けないと。一緒にいてあげないと。
ある時、大規模な魔物討伐戦に私たちは参加することになった。ルンは主に治療、私はその他の雑用を行うため。
包帯や薬を運んでいると、救護用のテントから悲鳴が聞こえた。嫌な予感がして私は走り出す。テントの入り口付近に祈るような姿勢で座るルンの姿が見えた。そして、その前で魔物たちが見えない壁に向かって突撃しているのも。
(結界を使ってるの?でも魔物の数が多い!)
結界だって万全じゃない。いずれ破られるだろう。私はがむしゃらに光魔法を詠唱する。
「ルン!今助けるから!『光よ。一筋の線になりて敵を貫け!』」
一体の魔物に魔法が直撃し、血を吹き出して倒れる。他の魔物の注意がこっちに向いた。私の方を見て牙を見せて威嚇してきている。
ルンは大きく目を見開き、驚いたような表情でこちらを見ている。しかし、すぐに気を取り直し、一瞬の隙をついて私の隣に立った。
「ありがとう、お姉ちゃん。」
「ふん……。まだ終わってないわ。行くわよ、ルン。」
ルンが結界を張る。私はその結界に守られながら、攻撃魔法で魔物を屠っていく。長いようで、おそらく短い時間。応援が来るまで私たちは耐え抜くことができたのだった。
この時の私たちの様子を見て、教会の偉い人が私たちを推薦してくれることになった。前代未聞の二人で一人の聖女として。
それからもいろいろ大変だった。聖女候補から真に聖女と呼ばれるまで、私たちは二人で歩みを止めることはしなかった。
これからもずっと、私とルンは二人で一人。二人でお互いの得意や苦手を補い合って、一人前、いや二人前以上の働きをして見せよう。
閑話いかがだったでしょうか。双子の聖女は二人合わせて一人前。ですけど、いずれ二人で二人前以上の働きをしてくれることでしょう。
次回更新は3/16(水)になります。読んでいただけたら嬉しいです。




