第七十八話:世界、そして同じ
前回のあらすじ:魔法の世界であり得ない"科学"の存在。帝国は転移、もしくは転生者がいるのではないかと思われる。
第七十八話です。キリが良いので、本話を第四章最終話といたします。
<ジン=ヴァレンタイン視点>
「領主様、本当にありがとうございます!」
領民の声に片手をあげて応える。額の汗をぬぐい、大きく息を吐く。
現在俺は国境沿いに現れた魔物の討伐のために、騎士たちを率いてやって来ていた。本来魔物の討伐は騎士たちにすべて任せているのだが、今回登場した魔物は非常に強力で数も多かったため俺にまで協力要請がやってきたのだ。
実際、このヴァレンタイン領において最も強いのは俺だ。だからこそ、非常事態には俺が進んで戦闘に参加するのだ。
近くにある手ごろな石に腰かける。それにしても今回の魔物は非常に強力だった。俺がいなかったら、騎士にも領民にも多大な被害をもたらしていた可能性がある。
「お疲れ様です、ジン様。水をどうぞ。」
「ああ、ありがとう。」
騎士が持ってきた水を受け取り、グイと一気にコップの水をあおる。生ぬるい水がのどを通り抜け、体に水分がいきわたる。
「それにしても、最近は魔物の襲撃が多いですね。特に国境側からの魔物の襲撃が後を絶ちません。帝国で何かあったんでしょうか?」
国境側からの魔物の襲撃が多いのは報告ですでに受けていた。最近はその激しさがどんどん増してきている、とも。
「魔物の襲撃が帝国の指金なのかは分からないが、国境沿いの警戒は怠るな。いつこちらに攻め込んできてもおかしくないからな。」
「分かってます。我々にお任せください。」
ヴァレンタイン領の騎士の質は王国内でもかなり高い方だ。というのも、時間があるときは俺が直々に訓練することもあるからだ。他のどの騎士団よりも厳しい訓練を積んでいるといっても良いはず。
ただ、戦術面においては不安が残る。俺は戦略については疎く、戦略に関しては国側から派遣されてきた軍師の方に任せている。もちろん、その人の実力を疑っているわけではないが、帝国側が全力で侵攻してきたら止めるのは難しいと言わざるを得ない。
俺は何かの気配を感じて空を見上げる。はるか上空、俺は目を凝らしてじっと見つめる。鳥のようだが、異質な気配を放つ何かが空を飛んでいる。
それは俺に見られていることに気づいたのか、帝国領の方へ飛んでいった。
俺は真剣な顔をして騎士たちの方に向き直る。
「とりあえず魔物討伐は完了だ。戻るぞ。今日のところは休んでも良いが、明日からはまた俺が直々に鍛えてやるから覚悟しろ。」
戻ると聞いて一瞬嬉しそうな顔をするが、訓練の話を聞いて騎士たちの笑顔が固まる。
「やっぱり奥方がいないからか?最近の領主様は止まらないというか、止められないというか……。」
「だよな。クレア様がいらっしゃれば、ジン様の暴走も止めてくれるんだが。」
騎士たちが身を寄せ合ってこそこそと話をする。そんな話を俺の目の前でするとは良い度胸だ。
「明日の訓練はいつもより厳しくいくからな、分かったか。」
「えー。」という騎士たちの不満の声が聞こえるが、誰一人として本当に嫌がっているわけではないのは分かっている。これはこれで騎士たちの俺へのコミュニケーションだ。きっと、多分。
俺は待機させておいた馬に乗る。今日は疲れた。屋敷でゆっくり休むとしよう。
<三人称視点>
「そうか、誘拐は失敗したか。」
帝国の中心部、豪華な部屋の一室。豪華な椅子に座るその男の前には魔族が数人立っていた。
「本当情けないですわね。あれだけの戦力を投入したのだから、王の首をとって来てもおかしくないというのに。」
「だな。王国の騎士は実力者が多いとは聞いているが、にしてもこの結果は悲惨すぎるだろ。」
任務を遂行できなかった仲間に対して、魔族たちは口々に非難を吐き捨てる。
豪華な椅子に座っている男は一人の魔族に目を向ける。その視線を向けられて、メガネをかけて知的そうな魔族が手元の紙をめくりながら話し始めた。
「あちら側で何があったのかは不明。しかし、こちら側に何者かが転移してきてその場にいた回収係は皆殺しにされていました。王国側の何者かが帝国に入り込んできているでしょう。」
「国境側はどうだ?」
報告を受けた男は特に何か言うこともなく、次へと話を進める。そんな男の態度を気にすることなく、メガネをかけた魔族は紙をめくり別のページを読み上げる。
「定期的に魔物を放って王国ヴァレンタイン領の戦力を把握しました。現時点ではまだ攻め落とすのは難しいでしょう。ですが、帝都から戦力をいくらか送れば大きなダメージを与えられることでしょう。」
「魔物だけでは足りないか。ふん、良いじゃないか。」
今度は男はにやりと悪い笑みを浮かべる。すぐに男は笑みを消して、その場にいる全員にゆっくりと視線を回した。
「予定を少し変更する。先にヴァレンタイン領を落とす。」
男の言葉に魔族たちはほとんどが、笑顔を浮かべる。争いを楽しみにする、まるで肉食獣のようなの目をしている。
「ヴァレンタイン領の騎士たちは強力だが、お前らの力があれば勝てるだろう。だが、ギリギリの勝利では今後に影響が出る。圧倒的な勝利を手に入れるために、あれを出すぞ。」
「おいおい、俺たちのことを信頼してないのか?」
男の言葉に魔族たちは不満を口にする。しかし、その不満を涼しげな顔で男は流す。
「俺はお前らを過大評価も過小評価もしない。ヴァレンタイン領の戦力も同様だ。公平に判断して圧倒的な勝利を得るための戦略を立てたに過ぎない。ジン=ヴァレンタインを甘く見るな。ただの人間とはいえ、この場であの男に勝てる奴の方が少ないことくらいは分かれ。もう行っていいぞ。」
男は手をひらひらと振る。魔族は舌打ちをしつつも言葉に従って、部屋から出て行った。しかし、魔族の中で一人、部屋から出て行かないものがいた。その男はかつて王国で活動していた、エスカ=ヴィレッジを利用した実験を行っていた魔族だ。
「どうかしたか?」
「いや、こうやって直接話を聞ける機会ってあんまりねえからな。どうしてもあんたに聞いてみたいことがあったんだ。」
男はにやりと笑う。その顔は「言ってみろ」とでも言わんような顔だ。
「あんたはアイツ……、アインシュ=ヴァレンタインのことをどう思ってるんだ?」
男はゆっくりと立ち上がり、魔族の男に近寄る。肩に手をのせて、耳元で質問の答えを口にした。
「アインシュ=ヴァレンタインは俺と同じだよ。間違いなくな。」
そう言って男は部屋から出て行った。魔族の男はその言葉の真意を聞くこともなく、ただ呆然と立ち尽くすだけだった。
七十八話いかがだったでしょうか。帝国の次の標的はヴァレンタイン領。果たしてヴァレンタイン領はこの危機を無事切り抜けることができるのか。
第四章:学院対抗戦編はこれにて終了になります。次章に入る前に、閑話を二話ほど投稿する予定です。閑話を投稿しきったら、少し長めの休みを取ります。
次回更新は3/14(月)になります。読んでいただけたら嬉しいです。




