第七十七話:転移先、そして世界
前回のあらすじ:転移先は帝国と判明。もしかしたら戦争になるかも。
第七十七話です。いろんなことが起きすぎて忘れてしまっていたかもしれませんが、もう一つ解かなければならない謎があります。
その場にいた全員が難しい顔をして黙り込む。
帝国の真の狙いは分からないが、王都侵攻や国王襲撃、そして王国貴族であるアイヴィの誘拐、どれもが王国への攻撃に他ならない。それはつまり、帝国はすでに王国へ戦争を仕掛けているということだ。
――戦争か。
前世でも今世でも、歴史的に見れば数多くの戦争があった。幸運なことに自身が戦争を経験したことはない。しかし、戦争が起こった際の悲惨さというものは長く語り継がれ、誰もがそれを忘れないようにと心がけていた。
だが、他国で戦争があったとしても、当事者でない限りやはりどこか対岸の火事のように感じてしまうところがあった。いざ自分が戦争の当事者になってしまったと考えるといろいろと思うところがある。
「騎士団は帝国の可能性が高いとは思っていた。おそらくほとんど処分されていたのだろうが、ゾイ=フーシェ自身が一枚の手紙を所持していた。王国を裏切るように指示した旨の手紙を、な。」
重たい空気の中、ヨーダ兄さんが言葉を発する。
「作戦終了後、転移の魔法で王国から逃げるつもりだったようだ。亡命先はさすがに書かれていなかったが、王国の貴族をわざわざ狙うなら帝国だろうという推測だ。」
「どうしてゾイさんは帝国に協力を?」
動機。それが気になる。ゾイ=フーシェは王国貴族だ。最低限貴族の生活が保障されているのに、帝国に協力する理由が分からない。
「フーシェ家はもともと、魔法研究で大きな成果を上げて貴族になったんだ。だからこそ、ゾイ=フーシェはその魔法研究において大きな矜持を持っていた。だが、ゾイ=フーシェ自身は大した結果を残しておらず、王国では評価されていない。それが許せなかったんだろうな。帝国へ勧誘する話も手紙に書かれていたよ。」
人間は他人からの評価を気にする生き物だ。評価されれば嬉しいし、評価されなければ傷つく。感じ方は人によって違うが、多かれ少なかれ誰もがそう感じるだろう。
俺自身、前世では評価されない時期があったから分かる。人から評価されず、傷つけられ続ければいずれ限界が来る。
ゾイ=フーシェが帝国へ行って評価されたかは結局のところ分からない。帝国は耳障りのいい言葉で彼の弱みに付け込んで、売国へと誘導したのかもしれない。
「さて、魔法陣が帝国につながってるってのが分かったのは大きな収穫だ。この魔法陣を起動させるにはかなりの大きさの魔石が必要で、実際に試すこともできないからな。」
ヨーダ兄さんの言葉を最後に俺たちは帰る準備を始めた。
今日の一番の目的は達成できた。一日で終わらない可能性すら考えていたが、想定より早く終わってよかった。
そんな帰り準備をしていると、急にエスカの顔が曇ったのが分かった。エスカの視線の先にはゾイ=フーシェの机の上に何かがおいてあるのが見えた。
ヨーダ兄さんが机に近づき、それを拾い上げる。
「これはゾイが持ってたものだな。騎士団で軽く調べてみたが、何なのかさっぱり分かんなくて放置されたやつだ。何なんだろうな、これ?」
エスカは嫌そうな顔をしながら、ヨーダ兄さんが持っているそれを指さす。
「私にとっては見たくもないものですわ。それはおそらく魔道具。私はそれを向けられた次の瞬間にはお腹を貫かれてました。」
「これ魔道具なのか?魔法陣も魔石もついていないように見えるが……。内蔵式なのか?どう思う、アイン?」
この時の俺はどんな顔をしていただろうか。それこそ幽霊でも見たような、存在するはずのないものを見たような顔をしていただろう。
俺はそれに見覚えがある。けど、それは俺であって、俺ではない。
この世界の文明水準を考えたら絶対に存在しないはずのもの。
ヨーダ兄さんが持っているのは、前世で銃と呼ばれているものだった。
「兄さん、ちょっとそれ貸して。」
震えた声でヨーダ兄さんに近づき、銃と思われるものを借り受ける。そして、俺は丁寧に扱いながら、それの観察を始めた。
前世でも実物を見たわけではない。俺が知っているものは歴史の教科書に載っていたり、物語に描かれているものだが、形状は間違いなく銃だ。
近代的な銃ではない。撃鉄があり、どうやら銃口から弾丸を込めるタイプのようだ。先込め式と言っただろうか?あまり銃について詳しいわけではないが、確か19世紀頃に使われていたものだった気がする。
この世界の科学技術の発展はかなり遅れている。建築技術などはそれなりにあるが、教科書にのるような科学に関しては中世よりはるかに遅れているといっても過言ではない。それなのに銃のような複雑な構造のものを作るなんてありえない。
魔道具なら可能性として考えられた。魔法陣と魔石を内蔵して魔法を飛ばすような銃なら、実は俺も考えたことはある。しかし、単に魔法を飛ばすだけならわざわざ銃の形にする必要がないと判断して、開発は断念したのだ。
この銃に関しては違う。魔法的な要素を全く持たない、完全に科学によるものだ。それがこの世界に存在することはあり得ない。少なくとも、この世界の人間が自然に開発する可能性は限りなくゼロに近いはずだ。
だったら、なぜ銃がこの場に存在しているのか。可能性は一つしかない。
(俺と同じ転生者、あるいは転移者が帝国に存在している?)
そのように考えればいくつかの疑問が氷解されていく。
転移の魔法陣など、明らかに時代の水準を超えた魔法。そして、銃という、明らかに時代の水準を超えた科学。
おそらくその転生、あるいは転移者は魔法・科学ともにこの世界より発展している世界から来たのだろう。少なくとも俺がもともと生きていた世界ではない。あの世界では魔法は発展していなかったのだから。
前世の研究結果で、俺は異世界が存在することを知った。しかし、異世界が一つしかないとは言い切れない。
今いる世界、湯川が生きた世界、そして帝国にいる何者かがいた世界。
魔法の世界。発展が停滞してしまっていて、まだまだ発展の余地が多い。アインシュ=ヴァレンタインが生きている世界。
科学の世界。魔法は存在せず、存在しないからこそ人々は科学を追求することで発展させてきた。湯川伸弥が生きていた世界。
そしてもう一つの世界。帝国にいる何某かが生きた、おそらく魔法と科学両方が発展していた世界。
この世界にやってきたそいつは一体どんな人間なのか。
魔族と協力し、王都への侵攻にアイヴィの誘拐もそいつの指金の可能性があり、もしそうだとしたらろくな奴ではない可能性は高いだろう。
これから起こる帝国との戦争。間違いなくそれにも関わってくるはずだ。
そういう人間がいるということに気づいているのは王国では俺だけだろう。もしかしたらそいつを止めることができる人間は俺しかいないかもしれない。
戦争に向けて俺も準備を整える必要がある、俺はそう決意した。
七十七話いかがだったでしょうか。アイン以外の異世界人、果たしてどんな人物なのでしょうか。後1~2話で後日談のようなものを書いて、閑話を数話投稿後、第四章は終了です。第五章からは帝国との戦争をテーマに書いていきます。ご時世的に戦争がテーマになるのは良くないかなとも思いましたが、フィクションだし良いですよね。
次回更新は3/11(金)になります。読んでいただけたら嬉しいです。




