第七十四話:王都戦線、そして謎の男
前回のあらすじ:王都の各地で争いが起こっている中、アインは血だまりに横たわるアイヴィの姿を発見する。
第七十四話です。第四章も終わりが近づいてきました。個人的にはもっと長くなるかと思っていたのですが、予想していたよりかははるかに短くなりそうです。
<アイン視点>
「あああああああああああ!」
俺は咆哮とともにその男に切りかかった。
男はちらりと俺の方を見る。フードをかぶっているため表情はよく分からないが、少し驚いた様子を見せる。しかし、すぐに平静を取り戻したのかまっすぐに振り下ろされる俺の剣を受け止める。
それだけで分かった。この男はかなりの剣の腕だ。
魔法で体を強化していたにも関わらず、ものすごい力で俺の剣ははじき返された。態勢を立て直すためにいったん後ろに下がる。そして俺はその男を鋭い目で睨みつけた。
男はそんな俺の様子を黙ってうかがっていたが、一つため息をついてから口を開く。
「アインシュ=ヴァレンタインか……。予定より早いが、誤差の範囲内か。」
俺が来ることを分かっていたのか?仮に分かっていたとしても、関係ない。
ギリっと歯を食いしばり、俺は殺意に満ちた目を男に向ける。そして再び切りかかろうと足に力を込めた瞬間、男は剣を持っていない方の左手を前に向ける。
「ちょっと待て。アイヴィ=ドレッドは無事だ。この状況を見て勘違いするのは分かるが、俺はお前と争うつもりはない。」
一歩踏み出したところで、俺は立ち止まる。男の言葉は俺をだますための嘘かもしれない。俺は男の言葉を受けても警戒を崩さなかった。
腰に剣を収めた男は両手を上げて後ずさる。そのまま壁に背中を付けた。
仮に俺をだましていたとしても、その態勢なら瞬時に攻撃に移ることはできない。俺はそう判断し、男への警戒を解かないままゆっくりとアイヴィに近寄った。
床に横たわるアイヴィを抱え上げ、様子を確認する。
規則的に胸が上下している。どうやら気を失っているだけのようだ、いやもしかしたら眠っているだけなのかもしれない。
体の方に目を向ける。体のあちこちに血がついているが、アイヴィ自身から出血している様子は見えない。おそらく、周囲で倒れている人の物だろう。俺はホッと安堵の息を吐く。
周囲に目を向けてようやく気付いた。倒れている人の中には魔族が二人いたことを。もう一人は魔族でなく、普通の人間だが見覚えはない。
「すでに知っていると思うが、そいつらがアイヴィ=ドレッドを誘拐した犯人だ。良かったな、俺がいなかったら間に合わなかったかもしれないぞ。」
そう言って部屋の壁のある場所に目を向ける。そこには俺が見たことない魔法陣が書いてあった。アベル先生と魔法陣の研究をしている身としては、次々と見たことない魔法陣が出てくる事実に少しショックを受ける。
「それは転移の魔法陣だ。行先は……自分で解析しろ。もし転移されていたら手遅れになっていただろう。」
転移の魔法陣?この男はそれが分かるだけじゃない、行先までも知っているという。
「あんたは何者だ?」
「いずれ知ることになるだろうさ。いや、"分かる"といった方が正しいかもしれないな。」
廊下の方からバタバタと走る音が聞こえてくる。数瞬、扉が勢いよく開かれ一人の男が入ってくる。
「ちょっと!問答無用に切りかかられましたよ!説明してやってくださいよ!」
入ってきた存在の顔を見て俺は驚愕する。魔族だ。俺はアイヴィを守るように抱えながら剣を向ける。
しかし、その魔族は全く意に介さず、俺の方を興味深げに見つめていた。
「なるほど、あなたがアインシュ=ヴァレンタインというわけですか。ふむふむ。」
「余計なことは話すなよ。」
魔族の言葉に対して、男が口をはさむ。すぐに扉を蹴り飛ばすかのように今度はヨーダ兄さんが入ってきた。
「アイン!無事か!」
「ヨーダ兄さん。大丈夫、それにアイヴィも無事だ。」
俺はアイヴィを抱えてヨーダ兄さんの隣まで下がる。ヨーダ兄さんはそんな俺の前に立って目の前の二人に対して剣を構えた。
「あの人ですよ!私が魔族だと気づいた瞬間に殺そうとしてきました!」
「当然だ。人間にとって魔族は基本的に敵だからな。」
話を聞くに男と魔族は仲間なのか。アイヴィの誘拐とは関係なく、人間と魔族が協力している勢力が存在している?
魔族がおよよと泣いたふりをしながら男に縋りつく。今まで会ったことのないタイプの魔族だ。
「えーと、これはどういうことだ?」
ヨーダ兄さんも困惑が隠せないようだ。それもそうだろう、俺も何が起こってるのか訳が分からない。
男は一つため息をついて、縋りつく魔族を無視しながらこちらに話しかける。
「この屋敷を探ればいろいろ出てくるだろう。隅々まで調べることだな、お前自身が。俺はすでに"大体のことは知っている"。」
男は魔族を引きずるようにして魔法陣の方に近づいていく。そして用意されていた転移の魔法陣が光始める。
「待て!」
アイヴィを抱えているため素早く動けない。ヨーダ兄さんが一瞬にして距離を詰め手を伸ばす。しかし、その手は何もつかむことなく二人の姿は消え去ってしまった。
役目を終えた魔法陣は光を失い、中央に置いてあった巨大な魔石が砕け散る。
その後、俺はアイヴィを対抗戦の会場まで連れ帰り、ヨーダ兄さんはそのまま屋敷の捜索を始めた。
七十四話いかがだったでしょうか。実はこの謎の男は過去に登場しています。果たしてアイヴィを狙ったのは誰なのか?そしてこの謎の男と魔族は一体どんな関係なのか。
おそらく後数話で第四章は終了します。第四章終了後、閑話を数話投稿してから第五章に入る予定です。
次回更新は3/4(金)になります。読んでいただけたら嬉しいです。




