第七十三話:容疑者、そして王都戦線
前回のあらすじ:アインはヨーダやデザルグの協力を受け、アイヴィの捜索を開始する。一方、王都では様々な場所で戦いが始まっていた。
第七十三話です。すでに投稿していた分で発生していたミスは名前被りでした。何で今まで気が付かなかったか分かりませんが、"双子の聖女"の姉の名前を変更いたしました。
<レオ第二王子視点>
突然の魔族の襲撃。僕は騎士団と協力して魔族の討伐に参加していた。とはいっても、僕の仕事は魔族に直接攻撃することではなく、近くにいた観客たちの避難の護衛だ。
僕たちがいたのは貴族用の来賓席である。それはつまり、今僕の後ろにいる人たちはこの国にとっての重要人物である。だから、誰一人として被害を出すわけにはいかない。
一番の重要人物である父上は観客席に残ったままだ。父上は自分が一緒に避難してしまえば、魔族の攻撃がそちらに集中してしまう可能性を危惧したのだ。
しかし、父上の傍には王都最強の騎士ケイトが残っている。剣の腕はこの国最強クラスの彼がいれば、きっと父上は大丈夫だろう。
僕たちの行く手を塞ぐように魔族が数体降り立つ。ともに観客たちの護衛についていた騎士が前に出て勢いよく切りかかる。
魔族はそれを両手の爪で受け止める。傍らの魔族がその騎士に爪を突き立てる。他の騎士もそれを止めようとするが、ほんの少し間に合わず騎士は鋭い爪によって貫かれ赤い飛沫を上げる。
騎士たちはそれでも動揺することはない。落ち着いて魔族と戦うための態勢を整える。しかし、僕の後ろにいた貴族たちはそうはいかなかった。
大きな叫び声が上がる。僕は落ち着けようと声を上げるも、大きな声は逆効果。すでにパニックになってしまい、収集がつかなくなってしまった。
騎士たちの攻撃を潜り抜けた魔族が一体こちらに迫ってくる。
(魔法を……。いや、間に合わない。何とか受けるしかない。)
腰の剣を抜いて構える。剣の訓練はそれなりに受けているものの、騎士たちの実力には遠く及ばない。
さっきは何とか防ぐことができたが、まともに切り結べばすぐにやられてしまう。そうは言っても策なんてすぐには思いつかない。
俺が心を決めたその瞬間、こちらに向かってきていたはずの魔族が突風とともに吹き飛ばされる。
「力のない方を狙う。戦いの定石ではあるけど、狙われた側としては文句くらいは言ってもいいわよね?」
何が起きたのか分からなかった。この女性が魔法を発動させたのか?いや詠唱の声は聞こえなかった。もしかして……。
「無詠唱魔法?」
「あら、呆けてるほどの余裕はないわ。さっきの試合で見せた魔法なら魔族だって倒せるでしょう?ほら、早く。」
そう言って両手を前に広げる。すると突風の魔法が発動し、僕の方に向かってきていた魔族が再度吹き飛ばされる。
そうだ、呆けている場合ではない。僕は先ほどの試合で見せた炎の竜の魔法を発動させるため、詠唱を始めた。
避難を終えた後、この女性があのアインシュ=ヴァレンタインの母親だと知った。どうやらヴァレンタイン家というのは誰もかれもが一癖二癖もある人間のようだ。
<三人称視点>
王都の門の前には大勢の冒険者と騎士たちが集まっていた。それは現状王都で用意できるほぼ最高の戦力と言っても良いだろう。
集まった人々の前で立つ二人。一人がコホンと席をして大声で話し始める。
「諸君、この緊急事態を前によく集まってくれた!今、王都に多数の魔物が迫ってきている。冒険者と騎士、ともに協力して王都の危機を乗り越えようぞ!」
この男は王都の冒険者協会の会長だ。かつて冒険者として相当な実力を持っていた彼はすでにおいてしまっているものの、この王都の危機のために再び戦うことを決意したのだ。
彼の掛け声に冒険者たちは雄たけびを上げる。一線から退いていた会長が王都の危機に立ち上がったのだ。現役である彼らが逃げる理由などないのだ。
冒険者協会の会長の隣に立っていた男が一歩前に立つ。
「騎士たちよ!知っての通り、団長は王の護衛から離れられぬ。だが、団長がいない間に王都が落とされてみよ!我々は末代まで笑われることになる!絶対に魔物たちをせん滅して見せよ!」
この男は騎士団の団長代理。ケイト=ハインリヒ騎士団長から団長代理を任された彼は絶対に下手なことはできないと考えていた。彼にとってはこの戦いはまさに背水の陣。だからこそ、彼はいつも以上の実力を発揮することになる。
迫りくる魔物の影が見えてくる。冒険者にとっても、騎士にとってもこれほどの魔物の波は見たことがない。
しかし、誰一人としてひるんでいる人はいなかった。
「総員!かかれ!」
号令とともに全員が魔物の群れに向かって走り出す。王都戦力と魔物たちの戦いが火ぶたを切って落とされた。
<アイン視点>
俺は屋敷の扉に手をかける。
門の前で少し待ったのだが、一切反応がなかったのだ。本来ならば、門の前で待っていると使用人が出てきて用件をうかがうはずだが、誰一人出てこない。
それだけでなく、屋敷の方から人の気配が感じられなかったのだ。今の時間帯であれば少なくとも誰かは屋敷で働いているはず。人の気配が感じられないと言うのは奇妙だと思い、俺とヨーダ兄さんは鍵のかかっていない門を開けて入ったのだ。
屋敷の扉にも鍵はかかっていない。妙に静まり返った屋敷に足を踏み入れる。
「アイン、お前なら大丈夫だろうから二手に分かれるぞ。何かあったら大声を出せ。すぐに駆け付ける。」
「分かったよ、ヨーダ兄さん。兄さんこそ気を付けてね。」
ヨーダ兄さんは片手をあげて応え、俺とは反対方向に歩き始めた。俺も捜索を始める。
そして、俺はある一つの部屋にたどり着いた。廊下を歩いていて、強烈な血の匂いを感じたのだ。その匂いのもとをたどってたどり着いた部屋だ。
最悪な光景が想像されてしまう。以前アイヴィが狙われたときは、問答無用に命を狙っていた。それはつまり、今そうなっていたとしてもおかしくないのだ。
敵の目的は分からない。だからこそ、嫌な予感がぬぐえない。もし、敵の目的が明確に分かっていて、命の保証ができているのならもう少し余裕があっただろう。
ゆっくりと扉を開ける。扉によってさえぎられていた濃密な血の匂いがより明確に感じられた。思わず顔をしかめるが、すぐに気を取り直し部屋の中の様子を確認する。
部屋の中に立つ一人の、おそらく男。床には血だまりが広がっている。その男の周りには何人か倒れているのが見える。そして、俺は見た。その中の一人がアイヴィだったことに。頭が真っ白になる。
「あああああああああああ!」
俺は咆哮とともにその男に切りかかった。
七十三話いかがだったでしょうか。果たしてアイヴィは無事なのでしょうか?
先週は更新を休んでしまい、申し訳ありません。次回更新は3/2(水)になります。読んでいただけたら嬉しいです。




